今年の京フェスは10月11日と12日。いつもの京都教育文化センターで本会、さわや旅館で合宿のパターン。しかし、京阪電車の駅名がいつの間にか変わっていたのにはびっくり。丸太町が神宮丸太町とか。なじまないなあ。
11日の土曜日は秋晴れのいい天気。京都教育文化センターへ着いたのは開始30分ほど前。最初は自分が出席する「ベイリー追悼」だ。事前に連絡していなかったので、大急ぎで作ったパワーポイントが使えるかどうかスタッフに確認。用意してもらったパソコンでプロジェクターに映せるかテストしているうちに1コマ目の時間が来てしまう(最初のPCにはパワーポイントがインストールされていなかったので、急遽別のPCを用意してもらったり、スタッフにはお世話になりました)。そういうわけで事前の打ち合わせの時間もとれず、本番に突入。大森望さん、山本弘さんとのパネルだ。とりあえず、用意したパワーポイントでベイリーの経歴などを表示しつつ、3人で語る(大して内容はありませんが、そのパワーポイントをGoogle
Documentに置いてあります。左の画像をクリックすれば、別ウィンドウで開くはず)。山本さんは、ぼろぼろになるまで読み込んだ「SF兵器カタログ」(昭和53年)をもってきて、そこに載った安田均さんのベイリー紹介が印象的だったと語る。「十分に発達したSFはギャグと区別がつかない」のだ。大森さんはベイリーの短編集を出そうとしているのだが、今版権を誰がもっているのかわからないとのこと。でもできれば来年くらいには出したいのだそうだ。ぼくはワイドスクリーン・バロックの面白さやベイリーのトンデモさんと紙一重な思弁の真剣さについて語った。打ち合わせができなかったわりには、まあ何とか話したいことは話せたのではないだろうか。
昼食をはさんで、2時限目は、「物語と工学」新城カズマさんと、円城塔さんの、これもパワポを使っての対談である。これはtwitterやネット上で様々な形で展開している二人の企画(「新城+円城のこれ、どうしよう」)の一環ということで、二人の対比表があったり、南方熊楠の曼荼羅のような図表があったり、新城さんの新作「15X24」の話があったり。新城さんは子供の頃アメリカで育ったとか、キャラクター主導かエピソード主導かとか、EXCELで時間表を作ってストーリーを(ある時点まで)考えたとか、作者が何を意図しているかは自分が一番よくわかっているので、読むと泣けるとか、円城塔は音楽が苦手で、どうも時間が苦手らしいとか、なぜかトールキンのエルフ語の歌があったり、頭のいい人同士の絶妙なタイミングでの受け答えが何ともいえない刺激的な雰囲気をかもし出している。もっとも、内容的にはちょっとついて行けないというか、よくわからないとしか言いようがないのだけれど。話題の幅はとても広く、しかも結構深い。ちゃんと予習しておかなくちゃ、だめですね。
3コマ目は、国書刊行会の樽本さんによる岸本佐知子さんのインタビュー。SFが怖くてアウェー感が強いという岸本さんだが、中学生のころに筒井康隆にはまって、友達を洗脳したとか、でも「人間以上」を読もうとしてたった2ページで挫折、ところがその解説を見ると、大傑作だと絶賛しているので、すっかりトラウマになってしまったとか(その解説を書いたというのが、誰あろう水鏡子だ!)。変な小説の翻訳の話、奇想小説を追いかけていると、SFと知らずにSFに近づいてしまう(ケリー・リンクとか、キャロル・エムシュウィラーとか)。淡々と語られる話題が、みんな面白い。エッセイと同じ味わいがある。それからなぜか国書の編集者の列伝となったり、とても面白い対談だった。最後に樽本さんは、ぜひラファティを読むようにと、岸本さんに勧めていた。
4限目は「想像力の文学とは何か――リアル・フィクション再び」と題して、早川書房の塩澤さんが登場し、『ネル』の遠藤徹さん、『全世界のデボラ』の平山瑞穂さんを紹介しつつ「想像力の文学」を考えるというパネル。二人ともずいぶん真面目で誠実な人柄に思えた。どちらも純文学を志向しながら、ホラーやファンタジーといったエンターテインメント作品にも、自分たちの独自のものを書き続けている。本屋の棚で、自分たちの本はどこか収まりが悪く、居心地が悪いとのこと。それが「想像力の文学」というものに合うのではないか。塩澤さんはやっぱり結論を出さず、「何でしょうね?」と韜晦して、早川の近刊紹介で今回も終わり。しかし、塩澤さんの前にずらりと並んだ叢書のラインナップは、さすがに存在感があるなあ。
夕食は恒例となった十両でのハモ鍋宴会。今年もずいぶんな人数となって貸し切りに。大変おいしゅうございました。何故か三村美衣や水鏡子と、日本のSFファンダムにおけるジャンルファンタジーの歴史的な意味づけについて、延々と話し込んでいたように思う。内容はほとんど忘れてしまったけれど。
喜多哲士の名盤アワー | 狂乱西葛西日記20世紀remix | 新城+円城の「これ、どうしよう」 |
合宿企画は、しばらく大広間でごろごろしていたが、まずは「喜多哲士の名盤アワー」で八代亜紀の「リバーサイドホテル」やパフィーの「天使のウインク」や金沢明子の「イエローサブマリン音頭」などを楽しむ(しかしYouTubeには何でもあるねえ。リンクはいつまで有効かわからないけど)。それから「大森望の狂乱西葛西日記の部屋」で、大森ページの1995年のあたりを解説付きでずっと見る。懐かしいというか、すごい昔のようなつい最近のような、変な感じだ。それだけ、ネットやPCの進化が激しいということか。最後は「円城+新城のこれ、どうしよう」京フェス合宿版。USTで中継していたり、Google問題とかけっこう先端的で面白い話題が多かった。3時前くらいまでずっと聞いていたが、ゲスト部屋へ戻ってふとんをひいて寝る。12日は8時前に起床。大広間でクロージングの後、からふね屋でいつものようにまったりと過ごす。
今年もいつもながらの楽しい京フェスを満喫しました。実行委員長の渡辺くんをはじめ、スタッフのみんな、ありがとうございました。また来年もよろしくね。
さて、今年は京大SF研(第3期)30周年の記念昼食会があり、聖護院の御殿荘へ。足湯につかり、庭をながめ、大森家のキリカちゃん(5歳)の女子力に目を見張り、古い友人たちと昔話に盛り上がって、のんびりと過ごす。天気も良く、大変なごやかで楽しい会でした。
御殿荘の食事 | 足湯でのんびり |
THATTAのこれまでの京フェスレポート
京都SFフェスティバル2008レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(眉村卓インタビュー) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2007レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(ティプトリー再考) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2006レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェス2006篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2005(合宿)レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル2005篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2004レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル2004篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2003レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyofes2003篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2002レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェスから交流会まで篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2001レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェス2001篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2000レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyo-Fes篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル1999レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル篇) (岡本俊弥)