京都SFフェスティバル1999
11月20日、京都SFフェスティバル99は昨年と同じ、芝蘭会館にて無事に開催された。別にカムナビや天変地異も起きなかったし、牛人間や携帯電話を頭につけた男が襲いに来ることもなかった。
ぼくは今年も11時の開始に間に合うよう起きたつもりだったのだが、なぜか会場に着いたのは最初の企画、山岸真の語る「新世紀の巨匠 グレッグ・イーガン」が始まって半分ほど過ぎた後だった。やはりオートヴァースの影響がこの世界にも及んでいるのだろうか。
「イーガンは小説は下手だが、超ハードSFだ」というのが結論だったみたい。イーガンの実物とは会った人がいないだの、謎の作家という面が強調されていたが、そりゃあ、きっと人工知能に違いないというのが会場の声。それならさきほどの結論も納得できるというもの。
印刷と出版の未来(志村、大森、中西、小浜の各氏) |
ヤングアダルト総括(仲澤、喜多、三村の各氏) |
クイズ年の差なんて(司会は大森、三村氏) |
ハードSFの面からイーガンについて語る部屋 |
むかしばなしの部屋(熱弁する武田氏) |
午後の講演の最初は、京大SF研OB4人による「活字消失〜印刷と出版の未来」。出演の中西秀彦氏は第3期京大SF研の創始者で、中西印刷の取締役。他は同じく印刷会社に勤める志村氏、編集者の小浜氏、翻訳家の大森氏という面々。内容は印刷と出版の未来について。専門的な話だったが、これは面白かった。ダウンロードして読む専用ビューアにはみな批判的。それは実際に会場に回されたハードを見てもわかるが、それよりも、コピーガードの融通のなさが使いたい意欲を激しく減退させる。それから、オン・デマンド出版の話。製本のできる印刷機というのがポイントで、これが安くなって家庭に入ったり、そこまでいかなくてもコンビニに置いたりできるようになれば、少部数の本や絶版本がサーバからダウンロードし、本の形で入手できるようになるという。これは現実的でとても面白いと思った。企業内部のマニュアル作成などではすでに実現しているそうだ。このプリンタが個人でも買えるようになったら、同人出版の夢みたいなものだな。それからオンライン・ジャーナル。学術論文の世界ではもはや当たり前になっているらしい。今後はどこに欲しい情報があるか、ちゃんと評価し、整理してある検索サイトの役割がさらに重要となるのだろう。出版の未来について、大森氏はぼくにも同意できる普通の意見だったが、小浜氏が意外と保守的だったのでびっくり。
次は喜多哲士氏、三村美衣氏のヤングアダルト話「ヤングアダルト総括」。司会の京大SF研・仲澤氏が鋭い発言を飛ばし、すごく面白い。いいキャラクターだ。でも話の内容はもうひとつ。というのも、ヤングアダルトの歴史といっても、言葉の定義自体が恣意的で、その上で語っているためにわかりにくいのだ。もちろんヤングアダルトという言葉で、書店の特定の棚を占めるXX文庫というレーベルのもつ「中学生高校生向きの小説」という意味合いとは別に、オタク文化を背景にした、読者と作者の同時代的共同体意識の中で描かれる小説群という定義をおこない、そこで読者層の「持ち上がり」ということを重視する三村美衣らの(そして大学生読者たちの)立場はよくわかる気がするが、それを強調すると早晩「今の若い子らにヤングアダルトがわかってたまるか」ということになってしまうだろう。オタク文化の中で語られるべき「ヤングアダルト」というものは、たまたま現在「中学高校生向きの小説」のレーベルと重なっているのだろうが、そろそろ別のカテゴリーを立てた方が混乱しないと思う。これ、中学生の子供をもつお父さんとしてのぼくの意見です。
講演の最後は笹本祐一氏、野尻抱介氏による「H2ロケットレポート」。H2−8号機の打ち上げのビデオを流しながらのレポートだが、いやあ実際の映像は迫力ある。カウントダウンにはわくわくした。失敗は残念だったが、これは「事故」じゃなくて「打ち上げ失敗」というべきなのだという話など、大変興味深かった。
さて、THATTAの連中と近所のレストランで夕食をとり、いつもの合宿所さわやへ。まずは寝部屋を確保。それから大広間へと移動。やあ人数の多いこと。恒例となっている小浜くんの伝統芸、有名人紹介。それから大森望と三村美衣の両氏によるSFクイズ。今回は「クイズ年の差なんて」ということで、水鏡子、喜多哲士、牧野修、志村弘之の各氏という年寄り組と、野田玲子さんをリーダーに東洋大、名大、京大の若い女性会員(名大、京大は19歳)による若者組との対決。結果は年寄り組が健闘。水鏡子は宇多田ヒカルのデビュー曲の正確なタイトルなんてのもちゃんとあてていた。若組はかなり悲惨。ヒューゴー賞のヒューゴーさんのフル・ネームを答えて、という問いで答えられなかったのはいいとして、その後、じゃあネビュラさんのフルネームは何ですか?と大まじめに聞いて、これは会場でバカ受けだった。
合宿企画ではまず「ハードSFの面からイーガンを語る部屋」へ。菊池さんと志村さんに色々聞こうという感じの企画だったが、話題は『順列都市』の「塵理論」に集中。まあ、一見バカに見えても、とてもまじめに良く考えられているという結論だ。いろんな疑問も一応ちゃんと説明できてしまうところがすごい。『宇宙消失』では例の多世界解釈にいかない、ローカルな収束のあたり。拡散している方が本来の自然だというのが強烈だよねえ。
それから「むかしばなしの部屋」をちょっとのぞく。小浜氏と武田氏がダイコンのころの話をしていた。けっこうぼくも知らない珍しい話があったようだ。
そのあとどこへ行こうかと思ったが、古沢くんが、ケダちゃんや女性翻訳家たちを引き連れて来ているというので、おかだんなといっしょになだれ込む。いやー、これはハーレム状態というやつですな。SFMに翻訳が載った磯谷彩子さんにも紹介される。そこへ水鏡子と三村美衣がやってきて、京フェス合宿恒例の水鏡子VS三村美衣対決が始まる。例によってヤングアダルトの話やら、カムナビの批評について、それからティプトリー論なんかもありました。菊池さんやおかだんなも加わって、深夜のSF論はなかなか面白かった。でも細かい話は忘れてしまったなあ。3時くらいまで続いたのだろうか。水鏡子はオークションに行き、女性翻訳家たちは「まんがカルテット」を聞きに行き、ぼくはもう限界で寝部屋でお休み。
朝は8時ごろ起き、大広間でエンディング。そしてからふね屋でモーニングというこれまた恒例の黄金パターン。からふね屋ではみらい子らと同席。ゼロコンで「20世紀のSF」というのをやろうと、寝ぼけ頭で何かいっていたような気がする。今日は夕方から京大SF研20周年記念パーティがあるので、いったん家に帰る。
偉大なるマンネリが持ち味だった京フェスだが、新しい人たちがどんどん増えてきて、少しずつ変わってきているようにも感じた。でもそれは良い方向への変化だろう。次の実行委員長も決まったみたいだし、2000年も、2001年も、きっと楽しい会ができることだろう。ともあれ、スタッフのみなさんには、どうもごくろうさまでした。
(大野万紀)
京大SF研20周年&KSFA25周年記念パーティ
KSFA創始者の一人、桐山芳男氏の挨拶 | 歴代京フェス<終身>実行委員長の面々 |
夕方5時より、烏丸の中華レストランで京大SF研(第3期)の20周年を祝うパーティが盛大におこなわれた。今年はついでに海外SF研究会(KSFA)の25周年にもあたるので、京大SF研に相乗りする形でKSFAの25周年もお祝いした。京大SF研とKSFAはもともと深い関係にあり、大森望氏など、両方に入っている人もいる。KSFAからは創始者の一人、桐山芳男氏が挨拶をおこなった。京大SF研では各年代ごとの部員紹介があり、岸場くんをはじめとする歴代「終身」京フェス実行委員長も勢揃いして面白かった。年寄り連中は色々と昔話に花が咲き、ここには書けないあんな話やこんな話も飛び交っていた。7時にはパーティも終わり、疲れた年寄りはコンベンション・ハイな水鏡子を残してさっさと家路についたのでした。
(大野万紀)