今年の京フェスは25周年とか(1982年が第一回のはず)。水鏡子/鳥居定夫は皆勤賞だそうな。大森望はこの前病欠したので、残念。ぼくも(あんまり覚えていないが)何回か抜けたような気がする。
今年はまた10月開催で、10月6日と7日、本会が先で、後合宿の形式。本会の会場は京都教育文化センターだが、会場はいつもより少し狭いように感じた。10月初めの京都はまだ寒くない。糺ノ森では狸たちが忘年会の心配もせず、楽しく暮らしていることだろう。
11時から菊池誠による円城塔へのインタビュー。著者による30ページに及ぶ解説パワーポイントが作られていて、それを見ながらのインタビューというか、突っ込みにボケで返す、鋭いような緩いようなセッションが繰り広げられた。ペンネームは金子邦彦「カオスの紡ぐ夢の中で (小学館文庫) 」の中に出てくる小説「進物史観」の登場プログラム(小説を書くプログラム)の中から、一番まともそうな名前を選んだとのこと。「SRE」は何故黄色なのかという問いには、「編集が黄色にしましたと言ったから」。タイトルが何故英語なのかという問いには、「ファイル名は英語でつけるものと思いこんでいるから」、といった感じで、いくぶん脱力系に話が進む。
面白かったのは、(作者の)小説というものはある高次空間の中のダイナミクスで記述され、その各座標を結ぶ軌道をたどっているが、より高次から見たらそれも単なる1点となる、という小説の力学系の話。認識過程を通ったものはみんな「メタ」になるとか、今のデータベース化は実寸代の地図を作っているみたいで気持ちよくない、チューリングマシンブック、あるいは機能する小説といったものに興味がある、という話も面白かった。今後の展望は成り行き次第、恋愛小説を出そうとしているが「文学界」では「色恋は向かない」と言われたので、いっそプロレタリア文学を目指そうか、とか。すごく面白かったけれど難しいなあ。
質疑応答の時間に、ぼくには言葉で数学的な構造を作り出していくという話が興味深かったので、言葉で小説を書くことの意味とか、いっそ不自由な自然言語でなくプログラム言語でコンピュータやロボットを楽しませるような小説を書くのはどうか、と質問したのだが、「自分には映像や踊りで表現する能力が無いので、とりあえずは言葉で書くしかない」、「プログラム言語で遊ぶには、けっこうすごい人がいて、自分にもそれだけのスキルがあればぜひやりたい」とのことだった。
昼1番の企画は大森望の東浩紀インタビュー。SFファンダムの一員となりつつある東浩紀にとって、SFとは何か――というのではなく、SFにとって東浩紀とは何か、がテーマだそうな。
〈動物化〉の話はジャンル論とは別の話で、小説の内容については触れず、形式や構造を論じたものだ、という発言に、大森から「エロゲーをやっているオレがかっこよく見えるように、エロゲーを論じる」というのが実態じゃないのか、と突っ込まれ、「違う!」と反論はしたが、「だんだんそんな気もしてきた」とトーンダウン。批評的に評価されていない弱者へも形式を持ち込んで批評の平準化を図るという意図があったかも知れない、というところに落ち着く。
オタクか脱オタクか、という点については、オタクの脱社会性を擁護したい、との発言。
それからゲーム的リアリズムとリセット・ループの話が盛り上がる。大森が「スクールデイズ」のアニメの最終回の話題を出し、エロゲーとしてのバッド・エンドの後に、一番最後にゲームのリセットを思わすシーンがあり、普通であれば単なる回想シーンと思われるところだが、ゲーム的想像力からはこれはリセットだと了解されるのでは、と指摘。実はアニメもゲームもしていなかった東は、それでもリピートの想像力という側面からその話を評価。アニメもゲームもしていない点ではぼくも同じなので、ここは水鏡子の感想を聞きたかったなあ。
話は変わって、東はスタートレックが、それもボイジャーが好き、だからこそ、ジャンル性の剥奪はジャンルにとって有害だということはちゃんとわかっているもんね、とのこと。そこでうかつにも「タイムトリップSF」と口にしたため、大森から「普通はタイムトラベルSFあるいはタイムスリップSF」と突っ込まれ、お里が知れましたね、とからかわれる。それにも負けず、シンギュラリティものも好きで、特に『コラプシウム』が、と言っちゃったものだから、「それはスキを見せて親近感をあおる作戦ですか」、と返される。本当に大森望はワルモノですね。
ぼくは今の文壇の話には興味なかったので、他には、「普通にSF評論を書きたい、特に未来社会とイーガンをからめたものを書きたい」(ぜひ書いて欲しい!)、「ライトノベルというのはジャンルではない、だからSFとライトノベルは対立するものではない」、「作家が制御できなくなったものがキャラクター。キャラクターとは、虚構の人物が実在性を持つことである」、などといった発言が面白かった。
その次が岡本俊弥、大野万紀、鳥居定夫、米村秀雄の「ティプトリー再考」パネル。岡本がパワーポイントを持ち込んで、今年のヒューゴー賞を受賞したジュリー・フィリップスのティプトリー評伝を元に作成した年譜から、ひたすらその路線で話を進めたため、ある意味まとまりは良かったが、他の3人の出番が少なく、これは合宿で再考の再考が必要ということになった。まあ、それでも年譜を説明したり、WEBで評伝の登場人物たちのサイトを紹介したりと、ティプトリー没後20周年の企画としては、よろしかったんじゃないだろうか。
パネルで使ったパワーポイントと、関連リンクは前号の岡本俊弥のページにあるので、興味のある方はそちらをご覧ください。
ただ、やっぱり評伝を元にしたティプトリーの経歴にまつわる作家論としての話題と、『輝くもの天より墜ち』の出版を機会に、ティプトリーの作品を考える作品論としての話題、そしてこの4人というロートルメンバーだからこそできる、日本でのティプトリーの発見と受容の歴史という、SFシーンに関する話題、これらはもう少し分けて議論した方がわかりやすかったのではないかな、と反省しています。
本会の最後は三村美衣が司会で、菅浩江、秋山完をゲストにした「さよならソノラマ文庫」。まあ実際はちょうど菊地秀行の「D」の新刊が出たばかりで、ちっとも「さよなら」じゃないのだけれど。
秋山さんは「さよならXXX」というのはよろしくない、「さらばXXX」というのがよろしいと主張し、大受けだった。
お二人のソノラマでのデビューしたころの話や、色々な裏話。
ソノラマ文庫のイメージは、とにかくアニメ的で、SFあり伝奇あり、菊地、獏、高千穂が看板で、海外SFも出している、主な読者層は何と30代、とにかくファンレターが来ない、反響がないのが特徴だったとのこと。
良い意味で細かなこだわりがなく、鷹揚でのんびりしたところだったようだ。やはり、ある時期のSFシーンを支えた思い出深い出版社だったということだろう。
本会の後は、三村美衣、水鏡子、みいめらといつもの十両でいつものメバルの煮付け。色々と話がはずんだが、忘れてしまった。三村美衣と水鏡子がライトノベルの話をしていたような気がする。さわやに移って、大広間。今年は若い人やとても若い人(はっきりいって幼児)が多い。小浜くんによる紹介タイムの後はゲームやクイズもなく、そのまま円城塔や菅浩江、後から来た伊藤計劃らのサイン会が始まる。
企画部屋に空きコマがあったので、合宿企画として、お昼の「ティプトリー再考」の続きをやることにした。けっこう大勢の人に集まっていただいた。うだうだとまったりと、思いつくままにティプトリーの話をしていたのだが、ティプトリーは手塚治虫だという結論を出したような出さなかったような。
ぼくはその後ワールドコンの部屋を見たり、翻訳講座の部屋を見たりしてから、SF賞を語る部屋へ。
この企画は、大森望や山岸真と、世の中にあるいろんなSF賞について語る――というか、ほとんど山岸くんの詳しい解説を拝聴していた。ヒューゴー賞には空白の年の受賞作を後から決める、レトロヒューゴー賞というのがあるという話から、70年から始まった星雲賞にもレトロ星雲賞を作って、69年の星雲賞を決めたりしたら面白いという話が盛り上がった。
その後も大広間でしばらくうだうだしたが、3時半過ぎにはゲスト部屋に戻って寝る。
朝は8時ごろに起き、クロージングで来年は今の2回生が京フェスの実行委員長をやることに決まったとの報告を聞く。京フェスの存続は安泰のようだ。
オープニング | サイン会 |
ティプトリー再考を再考する | ワールドコンの部屋 |
翻訳講座 | SF賞について語る |
*敬称略
THATTAのこれまでの京フェスレポート
京都SFフェスティバル2007レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェス2006篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2005(合宿)レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル2005篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2004レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル2004篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2003レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyofes2003篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2002レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェスから交流会まで篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2001レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェス2001篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2000レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyo-Fes篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル1999レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル篇) (岡本俊弥)