京都SFフェスティバル2000レポート

大野万紀


11月11日(土) ロバート・ソウヤー夫妻との昼食会

ロバート&キャロリン・ソウヤー夫妻 今年の京フェスは、ロバート・ソウヤー夫妻がゲスト参加である。いつもの合宿の前に、関西在住の作家、翻訳家、レビュアーを中心に、京都は鴨川べりの中華料理屋でソウヤー夫妻を囲む昼食会が開かれた。
 喜田哲士氏を幹事に、集まったのは我孫子武丸氏、五代ゆう氏、冬樹蛉氏、野尻抱介氏、小林泰三氏、林譲治氏、菅浩江氏、大森望・さいとうよしこ夫妻、京フェスの加藤倫太郎氏、大野万紀といった面々。話には聞いていたが、ソウヤー氏はとても気さくでフレンドリー、感じのいい人であった。とてもわかりやすい英語を話す。はじめ緊張していたわれわれも、すぐにうち解けて、SFファンの雑談モードに突入。
 高校のSF研で知り合ったという眼鏡っ子の奥さん、キャロリンさんは、俳句や短歌をものする人らしい。カエルの得意な冬樹蛉が、「古池やかわず飛び込む水の音」という句は、日本ではカエル1匹と思われているが、海外では複数のカエルがぞろぞろと飛び込む情景と考えられていると聞く。あなたはどう思うか、と質問。奥さんの答えは、「そりゃ1匹でしょう」とのことだった。お二人ともコーラが大好き(というか、本当はカナダのジンジャーエールが欲しかったらしい)。中華料理は、食材が何かを気にしながら、おそるおそる口にしている。くらげの酢の物をジェリーフィッシュですよ、というと、ベリー・チューイング、といいながら挑戦していたのが印象的だった。
 ソウヤー氏は二つのテーブルを行ったり来たりしながら話を盛り上げる。こっちの席ではサンダーバードの着メロや、カナダでも「あなたは神を信じますか〜」をやっているのかとか、そんな話題で盛り上がっていたのだが、さすがにSF作家連中が中心のテーブルでは、ジュラシック・パークをあなたが書くとすれば、どんな作品になるか、という話をしていたらしい。一人一人が違った切り口でアイデアを出し、これは面白いテーマ・アンソロジイができそうな雰囲気だったとか。例えば、復活させた恐竜が一般に考えられていたイメージとだいぶ違うものだったらというような。大森望みたいにカラフルな頭をしていたら、そりゃ恐竜らしくないわなあ。

11月11日(土) 京フェス合宿(さわや)

 昼食会の後、喫茶店で時間をつぶしてから、さわやへ。今年は前合宿なので、いつもより早めに始めて、夜はゆっくり寝ようという趣旨らしい。寝る人は寝るだろうが、そうじゃない人は結局同じ事だと思う。いつもの小浜ではなく、大森望によるオープニングがあって、例年のように京フェスはだらだらと幕を開ける。さっそく食事に行く人、車座になってだべる人、本を売る人、ゲームをする人。

ソウヤー氏挨拶 ソウヤー氏の挨拶も終わり、東洋大SF研の田中さんが水鏡子と渡辺秀樹にSF研についてインタビューするという企画につきあう。水鏡子は「れべる烏賊」とか、古いファンジンをいっぱい持ってきていた。しかし、SF研では何もしなかった水鏡子にSF研のことを聞くのは、相手を間違っているとしかいえないなあ。実際、SF研の話というよりは、その昔の関西ファンダムの歴史みたいな話になっていた。一体どうまとまるのだろう。

 その流れで(というわけでもないが)、今度は小浜くんの企画で昔話の部屋に。これに岡本俊弥とぼくが呼ばれて行く。SF大会でぼくが、岡本のファンジン大賞受賞作「夏をめぐるSFの物語」について、少しいいたいことがあるといったのを耳にしていたのだ。もちろん嘘が書かれているというわけじゃない。力作ではあるが、無条件に事実と受け取られても困るということだ。岡本は当時の資料や色んな文書を持参して来た。「神戸っ子」とか、懐かしいなあ。その場の話題としては、神大SF研、シンコン、ノヴァ・エクスプレスあたりの話が色々と出た。ただ、そろそろ記憶が怪しくなってきているのだなあ。途中、武田さんも入ってきて、関西学生SF研連盟の話や、セトコンの話なども。どうやらセトコンというのが、このあたりのみんなが集まっていた、ジャンクションみたいなものだったのだなあ。そこにはKSFAのぼくらもいた。〈関西芸人〉もいた。大森望もいた。そして、そこには山尾悠子がいたのだ。

 今回の京フェスは事前申込者以外は寝部屋が指定されておらず、企画部屋が空いてからそこで寝る形。ぼくは何とか3時頃には寝ることが出来たが、水鏡子などはどうも徹夜だったようだ。いつものコンベンション・ハイというやつですね。

11月12日(日) 本会(京大会館)

磯谷彩子氏、加藤逸人氏冬樹蛉氏寺下千佳氏、深山めい氏

 朝は8時半くらいには起きだし、いつものようにからふね屋でモーニング。京大会館での本会は、最初が冬樹蛉氏らの原書読みパネル。パネラーは(上の写真左から)磯谷彩子、加藤逸人、冬樹蛉、寺尾千佳、深山めいの各氏。今回のハイライトは、まったく何でも(原書を)読んでいるエイリアン、加藤逸人さんの登場だろう。とにかく読んでいる量が違う、スピードが違う。パネルの内容そのものは、どのように原書を読み始めたかとか、短編より長編を読むのがお勧めとか、わからなくてもとにかくどんどん読むとか。お金がないので安い原書で読むのだとか。まあそんなもんだろう。原書を読むのに興味をもっている人には参考になったに違いない。もっとも長編をがんがん読むというのも結構体力のいるものだから(長編をゆっくりゆっくり読むというのは、初心者にはあまりお勧めできない。勢いで読んでしまう方がいい)、疲れないくらいの長さの中編をごりごりと読むというのもアリでしょう(ぼくはそうでした)。

大森望氏、塩澤快浩氏坂口哲也氏、大野修一氏

 昼飯をはさんで、次は編集者パネル。大森望の司会で、SFマガジン塩澤さん、SFオンラインの坂口さん、そして徳間からSFジャパンの大野さん。大野さんはSFアドベンチャーの編集がやりたくて明治大学SF研から徳間に入社したが、SFファンがSF誌を編集してはいけないとかで、マンガ雑誌の編集に回され、12年間そっちをやってたという人。SFジャパンやデュアル文庫に関して、色々と面白い話が聞けた。デュアル文庫があの妙な版形となったのは、銀英伝を出すためだったとか(すでに新書でも文庫でも出ているから)。SFマガジンの塩澤さんも10年目、書籍の方も兼務になったので、色々と新しい企画をやりたいとか。やっぱりライバル誌のある方が面白いでしょう。坂口さんはオンライン出版の今後について語っていた。

ロバート・ソウヤー、野田令子宮城博異星人Hissstのデザイン

 さて、最後は本命のソーヤーパネル。野田令子さんがインタビュアーで宮城博が通訳を担当。とても面白いパネルだったのだが、メモをとらなかったので細かい内容を書けないよ。野田さんの詳細なレポートがここここにあるので、参照してください(あ、でもこのURLはいずれ変わってしまうのだなあ。その時はここを見てください。今の時点ではまだないのだけれど)。ソウヤー氏の作品の話から、好きなSF(クラーク『楽園の泉』『幼年期の終わり』やポールの『ゲイトウェイ』『マン・プラス』、ニーヴンやホーガンと、いかにもな作品が並んだ)、自分の作品で好きなのは『さよならダイノサウルス』だとか、カナダではイギリスの影響が強く、サンダーバードやモンティパイソンも大好きとか、2分間だけ意識を未来に飛ばす新作の話、妊娠中絶や社会的な問題のこと、中年夫婦の危機のこと、科学の話題のこと、そして異星人をいかに作るかについて……。これが圧巻で、会場のホワイトボードを使って、進化の過程から説明してみせてくれた(右端の写真)。わかりやすく、人柄が現れていて、本当に楽しいパネルだった。

 今年の京フェスはソウヤー旋風が吹き抜けた感じだったが、いつも以上にさわやかで楽しいコンベンションだった。スタッフのみなさんには心からごくろうさまでしたといいたい。また来年もね。


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