京都SFフェスティバル2005(合宿)レポート

大野万紀


 京都SFフェスティバル2005は、例年のように11月ではなく、10月8日と9日、京大会館と、いつものさわや旅館で開催された。京フェスというと紅葉の京都というイメージが刷り込まれていたので、10月初めの京都はちょっと季節感が違う感じ。また今年は仕事の都合で、本会は参加できず、合宿からの参加となった。森見登美彦さんのインタビューとか、大森望さんが突然の入院で欠席となったため、岡本俊弥・水鏡子に、急遽、牧眞司さんや喜多哲士さんが入って行われた書評パネル(仕事がなければぼくも参加予定だった)など、聞きたい企画があったのだが。書評パネルでは牧くんや水鏡子が暴走気味だったと聞いたのだが、果たしてどうだったのか。このメンバーなら暴走するのは岡本と決まっていたのだが、最近は大人しくなったのか。

 さて雨上がりの京都へ。京阪丸太町の駅で菊池誠一家と出会う。雨降りだったから菊池家も合宿のみの参加だそうな。そろそろ本会が終わった時間で、さわやへ人が帰ってくる。夕食は菊池家といつもの十両へ。ここの和食はけっこう有名で、週刊文春にも載ったということだ。確かに値段の割においしい。
 さわやでは野田令子さんがメイドのコスプレをしていてびっくり。マッドサイエンティスト・ビヤホールのメイドロボットなんだって。オープニングの後は本会ゲストの作家(桜坂洋さん、新城カズマさん、桜庭一樹さん)のサイン会が行われていた。ぼくは最初の合宿企画へ。

 参加した最初の合宿企画は、SFファン交流会主催の「初心者向けSF用語集作成」。SF図書解説総目録などから抜き出した「SF用語」のうち、今でも特に初心者ファンが知っておいた方がいい言葉を選ぼうというもの。事前に配られたリストを「あ」から順番にこれはいらない、これは必要とやっていくのだが、ぼくなんかはもう今さらと思って「いらない」を連発した。でも牧眞司くんが入ってくると、なぜか残る言葉が増えたような気がする。今さら知っておいても特に意味のない「トリビアの泉」ネタみたいな言葉も、やはり語り出すと長くなって(またみんな語りたがるのだ)、「タイムスリップ」あたりで時間切れ。

 それから「ディアスポラの部屋」へ。メインは志村くんと細井くんだったが、他にも大勢の人が参加して(酔っぱらった米村秀雄もいた)、なかなかの盛況に。実はぼくと菊池さんは『ディアスポラ』に関しては事前に合意に達していたのである。ポイントは3つ。その1「ディアスポラはダイアスパーである」。ヤチマはアルヴィンだし、ポリスはダイアスパーでアトランタはリスだろう。2つめは「ディアスポラはガリバー旅行記である」。これは後半の諸国漫遊記を表すが、それは始まりの惑星がスウィフトと名付けられていることからも明かだ。まあここはビーグル号でもスタートレックでもオロモルフ号でも何でもいいんだけどね。菊池さんによれば「ワンの絨毯」は馬の国じゃないのかということだ。それに、グレイズナーは菊池さんはラピュタ(これはアニメの方ね)のロボットの姿でしか想像できないという。3つ目はネタバレになるけれど「ディアスポラはタイタンの妖女である」。これはあの笑うっきゃない膨大な数の次元を越える旅の果てにあったのが、何とあんな情報だったという脱力の、アイロニカルな結末を指している。志村くんは、なぜヤチマたちは下のレベルにいる自分たちにメッセージを送り返さないのか、そうしていればもっと気持ちのいい物語になったのに、と惜しむ。そこはぼくも同意。でもその理由は最初のプロローグでヤチマ自身がもう書いている。あえて置き去りにして進むのだと。また、志村くんによれば、この茫漠とした猛スピードのエスカレーション物語を読んで笑っちゃう人がごく少数、あきれる人が少数、感動する人がそれよりは多く、でも実はわけがわからない人が圧倒的多数なのだとか。第一章が難しいというが、むしろある種の読者にはわかりやすく感動的なのである(ぼくも同意)。SFは絵だという言葉に真っ向から反対しているのが本書だ(誰が5次元をイメージできるのだ)とか、様々な話題があって面白かった。ただ、本書の大きなテーマとなっている(らしい)意識の不変量についてはやっぱりよくわからない。菊池さんは多数の人格を積分で統合しようとしているが、それはむしろ繰り込みが必要じゃないのか、といい、それに対して志村くんは、いやこの積分は数学的には正しい意味の積分だとか(リーマン積分とルベーグ積分のことらしい)、このあたりになるとさすがにぼくにはついていけません。またこの世界に無限は存在するのか(デジタルじゃないのか)とか、そんな疑問も出ていた。まあ、わかった気分になれたから、それでOKなのだ。

 ディアスポラの部屋の後は大広間へ行ってみる。メイド喫茶じゃなかった、マッドサイエンティスト・ビアホールをやっている前では、SF作家大喜利が開かれていた。ハインラインが好きなアダルトビデオは?というお題に「月は無慈悲な夜の女王様」とこれは会場から。といった感じで、なかなか面白かった。
 それから向井くんの「デカルトの密室を読む」部屋に行ったが、時間が悪かったのか、参加者が5人ほどで、おまけに最後まで読んでいるのは2人くらいというので、まああらすじと読みどころ、疑問点などをざっと流したところでお終い。向井くんによれば、来年はあの2001年のSFセミナーから5年たつので、「これはSFじゃない」という言葉が解禁される。そうなったら改めて主張したいのだそうな。
 「デカルトの密室を読む」が予定より早く終わったため、たむろしていたSF老人たちが部屋を占拠して、「年寄りの密室」になってしまった。で、何をやっていたかというと、ローカスに載った海外作家の顔写真を絵札に、作品名を読み札にしたかるた。これが難しい。まあ誰でもわかるものは先に抜いてからやったのだけど、プロの翻訳家や書評家がそろっているというのに、なかなか当たらない。でもなあ、若い頃と全然イメージが変わっている作家もいれば(ヴァーリイとか)、この顔がシェフィールドだなんて許し難いとか、そういう状態だったのでね。シェフィールドなんて、お前、こんなナルシストな顔してハードSF書くなよ、という感じ。ま、そのあたりで3時半ごろになったので、おじさんは寝る。
 朝は8時からクロージング。来年の京フェス実行委員長とSF研会長が今年の1回生からその場の勢いで決まったのは喜ばしい。実行委員長は船戸くん、会長は福永くんだそうです。がんばって下さいね。

SF大喜利とメイドロボ 海外SF作家かるた 来年の実行委員長とSF研会長

 さて、今年は京フェス24周年(25周年のつもりだったが、1年間違えていたそうな)の記念昼食会があるというので、水鏡子や小浜夫妻、岡本や津田くんらとからふね屋へ。ところが人多すぎでドリンクのみだって。モーニングが食べられないので店を出る人多数。津田くんは大学生の息子さんといっしょに来ていたが、彼も相当なオタクだと判明。水鏡子とライトノベル話をちゃんとできるなんてすごい。『ディアスポラ』も今読んでいて、1章が素晴らしいという。今実際に研究室のコンピュータでこれに近いことをやっているのだそうだ。
 昼食会は、さわやの通りをまっすぐ東に抜けて、聖護院の御殿荘。何か格式高そうで、ちょっと窮屈かと思ったが、入ってみるとただの観光旅館っぽい。修学旅行にも使われているようだ。でも庭はきれいだし、足湯があって、これがほっこりと気持ちいい。食事も土瓶蒸しに、そこそこちゃんとした料理が出た。40人くらいが集まって、ほぼ京大SF研の同窓会。プラス、京フェスの古手(ぼくらのことだ)というあたり。なかなか楽しく、まったりとした昼食会でした。懐かしい人にも会えたしね。

御殿荘の庭 足湯でのんびり

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