みだれめも 第240回

水鏡子


○近況(4月)

  さすがに大阪の感染者数が東京よりも多くなると、大阪に行きづらくなる。過飽和反復吸引しない限りは重症化に至らないと信じているけど、無症状でも持って帰ると社会生活上まずくなる。四天王寺の古本市も昨年同様中止になって、大阪行きは三度になった。例会は一度だけ。それでも三度行ったのは、青春18きっぷ、JR回数券、阪急電車優待券が4月、5月に期限を迎えてしまうから。余らせることへの無念がコロナの不安を上回る。
 そんな事情もあって、4月の購入額は32,000円、クーポン使用なし、197冊とひさしぶりに200冊を下回る。
 新刊本は茅田砂胡『天使たちの課外授業⑦⑧』の2冊だけ。刊行速度が急激にダウンして不安を感じていたのだが、どうやらこの上下巻がオンライン新聞連載作品だった為らしく、ほっとする。今後は従来の刊行ペースに復帰することを期待する。
 ぽつぽつ拾っていた岩波『叢書・文化の現在』が300円でずらり並んでいたので、未所有6冊をまとめ買い。ここ数年よく見かけるのは団塊の前の世代の放出本の気がするが、80年代90年代の岩波講座本というのは20世紀の思想的総括を目指した気配があって、並んだ背表紙を眺めるだけで心地いい。せめて目次までは目を通したい。
 なろう本87冊、コミック23冊、西村寿行ハードカバー7冊、山田風太郎の組み直し文庫本短編集3冊などを含めた買い直し本、ダブり本は17冊。エラーのダブり本がひさしぶりに一桁にとどまった。最近真剣に悩み始めたのが、山田風太郎や西村寿行といったハードカバーと文庫本のダブリ購入をしている作家の解説違いの文庫本に手を伸ばすべきかどうかということ。表紙絵の違いについてはいまのところまだそれほどでもない。早川SFや創元SFの改装当初はかなり気にしていたのだが、改装が当たり前になるにつれてあきらめた。ぼくは渡辺秀樹でも日下三蔵でもないのである。面白いことに基本的に全冊揃いを目指している著者たち、SF作家や橋本治、西尾維新、京極夏彦その他については、そもそもハードカバーと文庫本の二重買いをしようとすら考えていない。媒体ごとにページの字数調整をしている京極本ですら内容が変わっているわけではないしと割り切っている。『窯変源氏』とか『パンセ』とか、単行本と文庫本が混在したシリーズものはどちらかを揃えたい気は少しある。あとハヤカワSFシリーズや日本SFシリーズみたいな叢書への憧れがあるものは別である。
 その他の拾い物。赤木かん子『ミニミニ子どもの本案内』『ミニミニヤングアダルト入門』、リチャード・H・ブラウン『テクストとしての社会』、高山しのぶ『あまつき絵巻』、穂積文雄『ユートピア 西と東』など。

みだれめも(241)へ続く

● WEB小説作家別一覧(不完全)リスト 第5回

○ 「た行」の作家

 リストはこちら。 (※リンク先はOne Drive(Excel Online)です)

※最近書庫に設置したパソコンを使って作業をしているのだが、こちらの表計算ソフトはじつはエクセルもどきである。前回まで気づかなかったのだが、こちらで作成したものをエクセルで開くとセルの幅に若干の違いがでてくる。特にせっかく作った内容紹介欄が読めない。
 そのことがわかったので、今回から一度エクセルで読み直して調整することにした。どうもごめんなさい。

評価A
橙乃ままれ 『ログ・ホライズン』
評価B
谷舞司(まふまふ)  『陶都物語』
評価C
棚架ユウ 『出遅れテイマーのその日暮らし』
棚花尋平 『用務員さんは勇者じゃありませんので』
中文字 『テグスの迷宮探訪録』
宙乃塵屑 『成人すると塩になる世界で生き残る話』
常磐くじら 『エリスの聖杯』

 評価Aの橙乃ままれは吉野匠『レイン』と並ぶWEB小説ムーブの発火点となった存在である。魔王と勇者が力を合わせ、世界の平和のために尽力する『魔王勇者(まおゆう)』の方が内容、完成度共に上位に来るが、なにぶんTRPGリプレイ形式に則った戯曲風表現は慣れないものには敷居が高い。脱税騒ぎ後、頓挫気味の『ログ・ホライズン』を代表作に推す所以である。デスゲーム化したVRMMO世界でNPCと手を取りあって新生活を拓いていく物語で、早い時期に陳腐化した設定であるが、要はどれだけ設定と人物造型をきちんとできているかということである。

 『陶都物語』についてはBにするかCにするかかなり迷った。幕末期の田舎(ふるさと)に転生した郷土史に通じた青年が、九谷焼や瀬戸物の後塵を拝した美濃焼を現代知識を駆使して復権を目指し、その過程で江戸幕府の命運を左右していく物語。ご都合主義で大雑把すぎるきらいはあるが、幕末通商事情に傾斜していく後半(WEB版のみ)は門外漢への知識小説としての読み応えが充分にある。

 VRMMO系『出遅れテイマーのその日暮らし』は単体評価ではD評価。ただDの中では相当上位であるうえ、同じ作者による異世界に剣として転生する『転生したら剣でした』、カードゲームの異能を持って邪神討伐のため召喚される『デッキひとつで異世界探訪』とそれぞれ違うタイプの物語を同様のレベルで安定して作成している。合わせ技で評価Cとした。
 『用務員さんは勇者じゃありませんので』『テグスの迷宮探訪録』は過去にも触れたことがある。ただ中文字の作品は、『テグスの迷宮探訪録』以外は少し評価が下がる。 
 ここまでの作品はすべてweb最終更新まで読んでいる。
 宙乃塵屑『成人すると塩になる世界で生き残る話』ノクターン系の中では珍しくしっかり話が出来ている現代破滅テーマの作品。
 常磐くじら 『エリスの聖杯』は悪役令嬢の霊の取りつかれた少女が、彼女の無実を証明し、国の危機を救う、きちんとした構想をちゃんと仕上げた物語。

 その他、評価Dとしたものも大半はお勧め作。なかでも気に入っているものを軽く挙げていくと、『どうしても破滅したくない悪役令嬢が現代兵器を手にした結果がこれです』、『異世界転生騒動記』『ジェノサイド・オンライン 極悪令嬢のプレイ日記』『幼女とスコップと魔眼王』『田中家、転生する。』『うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない』『サトコのパン屋、異世界へ行く』『空手バカ異世界』『勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした』といったところ。

 前回オーバーラップの既読ベストをやったので、これも恒例化して、今回は橙乃ままれに合わせて、エンターブレイン10作、ファミ通文庫5作の既読ベスト5作を並べる。なお、『幼女戦記』、『異世界のんびり農家』など、気にしつつ未読のものが何作かある。

エンターブレインの10作

橙乃ままれ 『魔王勇者(まおゆう)』
橙乃ままれ 『ログ・ホライズン』
青井硝子 『異自然世界の非常食』
羽二重銀太郎  『ラピスの心臓』
小鳥屋エム 『魔法使いで引きこもり?』
百黒雅 『エステルドバロニア』
三丘洋 『勇者のお師匠様』
紫はなな 『かまどの嫁』
北下路来名 『破滅の魔導王とゴーレムの蛮妃』
古川正次 『異世界転生に感謝を』

ファミ通文庫の5作

中文字 『テグスの迷宮探訪録
くま太郎 『嫌われ者始めました』
いぬぶくろ  『竜騎士から始める国造り』
mino 『奪う者 奪われる者』
雪月花 『異世界ですが魔物栽培しています

 エンターブレインというのは、背表紙にebのロゴが入った作品群。
 KADOKAWAの社内統合で、奥付からは消えてしまって、編集もホビー事業部からファミ通編集部に変わってしまった。そんなわけで、文庫版はファミ通文庫としたわけだが、じつはわりと違和感がある。単行本はなろう本の老舗としての貫禄があるのだが、文庫は同じ角川系でもスニーカーやファンタジア文庫より物足りない印象がある。ここで選んだ作品でも5点中3点が3冊目までで打ち切られているし。数はそれなりに出しているのだが。ノクターンが混ざったり、出版物としてブラッシュアップに欠けるものもあったり、いろいろ不満があるものが多い。

 小鳥屋エム『魔法使いで引きこもり?』は寿命を全うした爺さんが、チート満載で転生したものの、チートを使わずのほほんとして生きる様に神様が業を煮やして・・・という話。WEB版はそれなりに長い第一部が終わって、現在第二部に入っている。寿命まっとう系異世界転生ものには『異世界転生に感謝を』などいくつかあるが元老人という設定を生かし切れないものが多い。というか、年寄りから見える風景を想像できない著者が多すぎる。まあ、おっさん系ですら経験不足が散見する著者が多い年齢層だし、しかたがないかも。

 『エステルドバロニア』は『オーバーロード』に代表される、ゲームを極めて自分の作った魔物軍団ごと異世界に飛ばされ、世界を蹂躙する物語で、結構好き。異世界構築、キャラ設定、バランスと整合性とか、力量を要求されるところが多いせいか意外と数が少ない。すぐ思いつくのは Guilty 『その冒険者、取り扱い注意。 正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王』、井上みつる『最強ギルドマスターの一週間建国記』くらいか。もう少し読んでいるはずなのだが。


○WEB小説作家別一覧(不完全)リスト (※リンク先はOne Drive(Excel Online)です)

 ※ 凡例、表の説明などはこちらにあります。追加・修正についてはこちら


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