みだれめも 第263回

水鏡子


○近況(8月)

 8月の購入数234冊。購入金額34,151円。クーポン使用4,100円。
 なろう本74冊。コミック86冊、だぶりエラーと買い直し28冊。新刊本は「SFマガジン10月号」「昭和39年の俺たち9月号」『サイボーグ009トリビュート』『第四大戦⓶』『鬼神幻燈抄』3冊の計7冊、8,539円。『鬼神幻燈抄』については残り4冊も9月1日に新刊購入して一気読みしたので後述で。なろう本で新刊を含めて書籍版コンプリートしたのはひさしぶりである。
 あと、カドカワ、アルファポリス、まんだらけの株主優待本が11冊ある。京極夏彦『えほん遠野物語』2冊などが主な収穫。

 今月のダブり本28冊は筒井康隆小松左京などの単行本買い直しがあるとはいえ購入冊数の1割越えである。持っている本の掌握力に陰りが出ているせいなのだが、あるいは老いによる記憶力気力の劣化が起きているということかもしれない。学生のころ金がなくて日本作家の本は文庫本になるまで買えなかったので、書庫に余裕ができたこともありこつこつと買い集めている。筒井康隆については全集本を拾っているので、文庫本単行本との三つ揃えである。
 下鴨神社の古本市で、宅配便で送る段ボールを満杯にできなかった。託送料がもったいないのでがんばって興味を惹く本を集めて満杯にするか、託送をあきらめるかの二択だったので、今回はこれも随分と久しぶりのケースだった。
 まずあきらめて持って帰るというのは、『リラダン全集』(全5巻5000円)を買った時点でなくなった。その後、筒井康隆野坂昭如倉橋由美子などの単行本を集めるが、熱暑と先ほど言った気力の劣化に早々に断念した。

 その他の今月の主な収穫。
 ジェラール・ブランシャール『劇画の歴史』(600円)、藤野幸雄監訳『世界作家事典①ミステリ冒険スパイ篇』、ちくま哲学の森『⑥詩と真実』『⑦驚くこころ』、ジョン・ノーブル・ウイルフィールド『地図を作った人びと』、尾崎秀樹『文壇うちそと』、長谷部文親『日本ミステリー進化論』、日本民俗文化体系『⑩西田直二郎西村眞次』、風間賢二編『コンプリート・ディーン・クーンツ』など各3冊500円。
 『劇画の歴史』は表題とは異なり、ラスコーの壁画から解き明かされるバンド・デシネの紹介本である。『コンプリート・ディーン・クーンツ』は持っていた気がすると思いつつ、もしなかったら京都まで来て後悔するなと持ち帰った。きっちりダブった。
 8月は夏休みセールということで、近場の「お宝一番館」が2割引きセール。椎名高志、川原正敏、米原秀幸、加藤和恵、渡辺航などを大量購入。ほぼコンプリートに近づいた(残り2冊)『海皇紀』をまとめて読み返す。

 前回思うままにライトノベルのベスト10を作ってみたけど、よく見ると大半が90年代後半から0年代前半の作品である。いろんなものが激変した時代だったように思える。
 「エヴァンゲリオン」がある。角川お家騒動があって電撃文庫が創刊される。Windows95と携帯電話が発売され、知的エリートたち少数者のものであったパソコン通信から大衆化されたインターネットへと転換する。物語性とゲーム性を追求したエロゲーが黄金期を迎える。児童を対象とする商業倫理に拘束された一面のあったラノベから制限を逸脱できるものが増えてきた時代だった。
 そうした時代の息吹のなかでの成長期を経て、一定の社会経験を踏まえ、ネット環境のなか、自らを培ってきた文化を年齢を重ねた同好の士の間で再現し回覧するというのが当初のweb小説の在り方だったのではないかと思う。「アルカディア」といったサイトに集っていたのはそういう作者読者だったのではないかと思う。その後のヒーロー文庫を始めとしたレーベルのヒットにより新人賞以外での作家になれる道であるとの認知と若年層の大量流入で大きく変質していくことになるのだが、当初の事情はたぶんそういう二次創作とシリアスが重なり合ったファンジン気質の集まりだったと思うのだが、じつは「アルカディア」についてネットを見ても詳しいところがもひとつよくわからない。なんとなく「宇宙塵」のイメージを重ね合わせているのだが。

中西モトオ『鬼人幻燈抄』(双葉社)
 ということで『鬼人幻燈抄』である。「小説家になろう」に読みに行くことができるのだけど、wikiによると、当初「アルカディア」で掲載したものを削除、改訂版を再掲載。さらに「小説家になろう」に再改訂版を掲載しているとのことで、ならば性格的に書籍版でも手直しがあるのだろうと、古本屋で買った4巻目まで読んだ後、残り10巻を新刊で揃える。
 西欧文明の流入であやかしたちの衰退していく日本。はるかな未来、彼らを復権させる鬼神を降臨させるため、未来視のできる鬼の策謀により、鬼であった妹の手で恋人を殺された甚太は自らも寿命千年の鬼となり、江戸、明治、大正、昭和、平成と、鬼に関わる事件と向かい合いながら齢を重ねていく。平成の世に妹と再び対決をするために。全体に因果を重ね合わせ過ぎて物語としては若干不自然になっているが個々のエピソードが重厚で入れ子細工の抒情味のある伝奇ホラーになっている。なにより個々のキャラクターへの著者の入れ込み、思い入れがすばらしい。初巻葛野編は舞台設定が目的でやや平板。最終話の平成編は予定調和の物語だが、そこに至る平成の時代風景が、各時代の物語に挿入されているところが、だらだら続くのが特徴のなろう系らしからぬ構成を生んでいる。個人的には、江戸、明治と連なってきた因果のかなりが解消され、新たな因果が紡がれるとともに、最終対決の構図に乱入するイレギュラーキャラ吉隠が初お目見えする大正編がいちばんいい。今年で書籍版完結なのだが、残念なことにこれまで読んだなろう本のなかでいちばんSF味に欠けていて、今年のSFベストに選べない。

 ほのぼのる500『異世界に落とされた…』(TOブックス)
 『最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。』が面白かったので、著者のもう一つの書籍化作品を読む。神の見習いによる異世界召喚(失敗)に巻き込まれ、勇者5人分の魂の力を貰って彼らが秘密裏に想像した異世界に落とされた男の話。能力のインフレーションがすさまじく、あっというまに神や魔神を凌駕する力を身に着け神獣たちと森で暮らしていく。

七篠康晴『ダンジョンシーカーズ』(サーガフォレスト)
 現代ダンジョンもの。現代社会と重なり合う異世界があり、そちらからの進出の拠点となるダンジョンを古来から潰してきた集団が先細りとなるなか、VRMMOを用いて新たな戦力を生み出そうとするグループと保守派の争いに巻き込まれ、人外の力を得てしまう青年の話。魅力的な部分が多々あるのだが、文章の稚拙さや世界構築の甘さにはかなり疲れる。それが我慢できるようなら一読はお勧めできる。


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