みだれめも 第262回

水鏡子


○近況(7月)

 7月の購入数100冊。購入金額13,514円。クーポン使用4,000円。
 7月はSF大会も不参加で引き籠り生活。拾った本も100冊ぽっきり。使った額も微々たるもの。
 なろう本55冊。コミック6冊、だぶりエラーと買い直し9冊と、いずれも一桁。新刊本はブルータス夏のSF特集号と、『甘い生活second⑱』の2冊。『甘い生活second』はsecondになってから今ひとつ盛り上がりに欠け惰性で読んでいる状態だったが、次巻完結ということもあってか一気にのりが良くなった。この作者の本はこまめに集め続けており、残るは『うっふんレポート』『まじだよ』『お仕事40周年版』の三冊になった。すべて刊行直後の新刊とブックオフ系での購入だが、時代的にブックオフで見つけることは不可能になっており、まんだらけとか通販で探すしかないのかなあと悩んでいる。『お仕事40周年版』は別にしてなんか四桁の値付けで買うのって違う気がするのですね。
 その他の拾ったものとしては馬伯傭『両京十五日上』(1,080円)予想以上にメリハリがあって面白い。基本は手に汗握る臨場感あふれる冒険小説だが、ミステリ仕立ての伏線が丁寧に明示され過ぎているきらいがある。下巻も並んでいたのだけれど1,700円の値付けに購入するか悩んでいる。なろう本を読みまくったせいか、最後まで読み切ることへのこだわりが減じているようだ。
 あと茅田砂胡CD本『シェラと西離宮の日々』(220円)、竹宮恵子内田樹『マンガ文化論』(110円)、『文蔵21年10月号 冲方丁特集』(72円)など。

 林トモアキ『秘密結社デスクロイツ』が半額でまとめて並んでいたので購入する。SNSの発達で秘密基地が次々と民間人に通報され、滅亡の危機に直面している老舗の悪の秘密結社の数々。悪の結社が次々消滅していき、存在意義を失い予算削減を余儀なくされている美少女戦士たち。そんな時勢の中で、とある地方都市を舞台に、誠実悪役主人公と残念正義ヒロインズとのバトルラブコメが展開される。
 のりと勢いはあるけれど、はっちゃけすぎで、評価としては可もあり不可もありというところ。お約束に則った型通りの物語は連作短編の仕様もあって読み疲れた。
 『メルヘンザッパーデストロイヤー』が気に入って、去年のベストSFに選んだりした直後の『デスクロイツ』の入手ということもあり、とりあえず作者の本、全冊揃ったということで、未読ものの一気読みした。
 もともと『ミスマルカ』の何冊かをまとめ読みしたところから始まって、『マスラヲ』『おりがみ』と遡り、そのまま新刊買いに突入した作家であったのだが、ギャグ系作家にわりと見られる倫理的な煮詰まり具合の迷走気配に、『ヒマワリ』の2巻目くらいで読むのが頓挫していた。数年ぶりに読んだつもりの『メルヘンザッパーデストロイヤー』だったが、じつは7年ぶりだったようである。
 『デスクロイツ』もぼくにとってはそうした低迷期に思える時期の作品で、頓挫した『ヒマワリ』の始めのころと重なって、煮詰まりのピークの前後だったような気がする。今回読んでみて『ヒマワリ』の続行過程で煮詰まりが解きほぐれていったように思える。『メルヘンザッパーデストロイヤー』はそんな煮詰まりを経て見事に昇華された秀作で、ある意味この作家の単発ものとしてはめずらしいほど完成度の高い煮詰まり感のないバランスのとれた作品である。
 ああ、やっぱり好きな作家である。完成度とか文章面とかバランスとかいろいろ不満はあるが、生真面目真摯でメタなギャグラノベ、いい意味でも悪い意味でも「よいラノベ」である。好きなラノベのベスト10に入れるかどうか迷うが、好きなラノベ作家のベスト10には入るかな。

 ということで、思いつくまま唐突に、ラノベオールタイムベスト10を並べてみる。すべて10冊以上のシリーズである。

長谷敏司 『円環少女』 スニーカー 完結
冲方丁 <シュピーゲル>シリーズ スニーカー・ファンタジア  完結
浅井ラボ 『されど罪人は竜と踊る』 スニーカー→ガガガ 未完
成田良悟 『バッカーノ!』 電撃 未完
うえお久光 『悪魔のミカタ』 電撃 未完
十文字青 『薔薇のマリア』 スニーカー 完結
上遠野浩平 <ブギーポップ>シリーズ 電撃 未完
雨木シュウスケ  『鋼殻のレギオス』 ファンタジア 完結
鎌池和馬 『とある魔術の禁書目録』  電撃 未完
白鳥士郎 『りゅうおうのおしごと』 GA文庫 未完

 意外とスニーカーが多いのが自分でも驚き。林トモアキもそうだし。ちなみにソノラマはラノベレーベルには含めていない。気にしている未読どころには、『トリニティ・ブラッド』『ウィザーズ・ブレイン』『三千世界の鴉を殺し』『川上稔都市シリーズ』などがある。

 ついでだから外しているなろう系の方もベスト10を作ってみた。10冊以上文庫サイズオリジナルに限定。ラノベ10との作風比較も一興かと。

Schuld 『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 』 オーバーラップ 未完
五示正司 『ひとりぼっちの異世界攻略』 オーバーラップ 未完
大森藤ノ 『ダンジョンで出会いを求めるのは間違っているだろうか』  GA文庫 未完
蝸牛くも 『ゴブリンスレイヤー』 GA文庫 未完
佐島勤 『魔法科高校の劣等生』 電撃 未完※続篇継続中
長月達平 『RE:ゼロから始める異世界生活』 MF文庫 未完
日暮眠都 『モンスターのご主人様』 モンスター文庫  完結
アロハ座長  『Only Sense Online 』 ファンタジア 未完
海道左近 『インフィニット・デンドログラム』 HJ文庫 未完
川原礫 『ソードアートオンライン』 電撃 未完?

 『ソードアートオンライン』については実質1冊目で一度完結しているようなものなので、未完?とした。

 うーむ。高年齢層向けであるはずのなろう本の方が、ラノベのベストよりエンターテインメント性が高いような気がする。あくまで上位部分を並べただけでの話であってジャンル全体としては中高生を視野に収める必要と、専業作家となって生活のために安定した中の下作品の量産を必要の生じるラノベ業界の方が読み甲斐のない作品の比率が高い。実際なろう系の出身作家も量産に合わせて期待外れの作品が増えていくことが少なくない。

 web最終更新まで新たに読んだなろう本。

〇 ほのぼのる500『最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。』(TOブックス)
 スキルの確認で忌み子の最弱テイマーと判断され、5歳で村からも家族からも見捨てられ、森の中で生き延びた少女が、同じく最弱とされる崩れスライムをティムし、やがて進化した仲間たちとともに、強力邪悪な教会や貴族たちを圧倒していく物語。作者名やタイトルから予想されるものよりはるかに力強い。本来の統治機構より、冒険者ギルドや自警団の方が強い権力機構になっているところとか、世界構築にやや疑問は残るが、しっかりした物語である。

 常陸之介寛浩 『本能寺から始める信長との天下統一』(オーバーラップ文庫)
 修学旅行先の京都でタイムスリップに遭い、本能寺に飛ばされた陰陽師教育を受けていた高校生が織田信長を救い出し、新たな歴史を生み出していく物語。現代の知識を駆使し、天下を統一し、更には、オーストリアを傘下に納め、イスパニアと矛を交え、アメリカ大陸から駆逐し、遂には欧州全域を支配する。萌えとハーレム、茨城県愛全開で、小説としては不出来の部類に入るが、野放図な願望充足ファンタジーとしてはまあこういうのもありと楽しんでもいいかなと思う。


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