SFファン交流会レポート

2024年6月 『〈幻想と怪奇〉とショートショートの魅力』

大野万紀


 6月のSFファン交流会は6月22日(土)に、「〈幻想と怪奇〉とショートショートの魅力」と題して開催されました。
 出演は、牧原勝志さん(〈幻想と怪奇〉編集室長、翻訳者)、井上雅彦さん(小説家、アンソロジスト)、北原尚彦さん(作家、翻訳家)、石原三日月さん(コンテスト入選者)、中川マルカさん(コンテスト入選者)
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、井上さん、牧原さん、石原さん、みいめさん(SFファン交流会)、中川さん、北原さんです。

主催者による内容紹介:

コロナに、戦争に、天災に……。こんな時代にこそ自由な想像力が必要と、日本初の幻想文学専門誌〈幻想と怪奇〉が、2020年、休刊から45年を経て新たに復活しました。
6月例会では、そんな伝説の雑誌復活への思いと、第二次〈幻想と怪奇〉の魅力について、編集人牧原勝志さんにお話をうかがいます。
また、コンテスト入選者の石原三日月さんと中川マルカさんにもお越しいただき、昨年に続き開催され、最新号にて受賞作の発表となる「幻想と怪奇ショートショート・コンテスト」の受賞作品と、多彩な書き下ろしショートショート作品の魅力をゲストの方々とともに楽しみたいと思います。

 以下の記録は必ずしも発言通りではなく、チャットも含め当日のメモを元に記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

根本(SFファン交流会):
まずは牧原さん、井上さん、北原さんに、そもそもの〈幻想と怪奇〉との出会いについてお話を伺いたいと思います。
牧原:
〈幻想と怪奇〉のオリジナルは紀田順一郎さんと荒俣宏さんにより73年に始まり74年まで続きました。今の新紀元社の〈幻想と怪奇〉はそのコンセプトを引き継ぎつつアンソロジーとして発行しています。
自分は高校生のころSRの会に参加して初めて〈幻想と怪奇〉の2号を見ました。タイトルの文字や表紙絵が怪奇小説らしくないスマートな感じでした。
北原:
高校のころ幻想文学まで趣味が広がってクトゥルー神話を知りました。当時あまり本が無く〈幻想と怪奇〉という雑誌に特集があると知って古本屋を探し、高校生には高かったのですがクトゥルー特集はがんばって買いました。
安田均さんが翻訳していたり鏡明さんが参加していたりしてSFとは近い感じがしました。
牧原:
オリジナルの〈幻想と怪奇〉は74年に休刊。オイルショックで紙の値上がりがひどくそれが主な理由でした。
私は創元で帆船マークを編集したりしていたのですが独立後、新紀元社の人と飲み会の中で〈幻想と怪奇〉を復活させるという話が出ました。雑誌っぽい作りの定期刊行のアンソロジーを出すという話になって、2019年に創刊したのですが、「週刊朝日」で亀和田武さんに「45年ぶりの復活!」と紹介していただきました。そんな風に好きな人がすごく多いということがわかったんです。荒俣さんには読者は2千人くらいだよと言われていたのですが東京の書店で売上げベスト10に入ったこともあります。
雑誌っぽい形にすることで何が出てくるかわからない怪しげなものにすることができました。表紙はオリジナルの原田さんに近いイメージの人を探して、東京創元社でアガサ・クリスティの絵を描いていたひらいたかこさんに頼みました。
井上:
私は73年のころは仮面ライダーV3に盛り上がっていたころで、そのころ学校で流行っていたのが春陽文庫の江戸川乱歩。それが仮面ライダーの怪奇な雰囲気とつながっていました。
75年ごろにハヤカワで幻想と怪奇という文庫シリーズが出て、また矢野浩三郎さん編の怪奇と幻想アンソロジーもあり、幻想と怪奇という言葉に惹かれていました。
今の牧原さんの〈幻想と怪奇〉も昔のアンソロジーへのオマージュというだけではなく、新しい世界の幻想文学の流れを示すものとなることを目指しているように思えます。
幻想と怪奇という二つの言葉を並べたジャンルというのが面白い。SFマガジンが増刊号で「幻想と恐怖」という特集をしていましたが、福島正実はこう言う分野はいずれ衰退してSFになると書いていました。
みいめ(SFファン交流会):
井上さんの作品はホラーの怖さというより星新一のようなクールさが残っていて、恐怖小説というよりは幻想と怪奇というのが相応しく思えます。
井上:
自分の好きなものを書いているだけですけどね。
「異形コレクション」はある意味インフラだと思っています。「異形」という言葉も自分で出した言葉ではないが、異色作家短篇集にもつながる含みがあります。幻想と怪奇とその並びにあるものが大好きで、乱歩も仮面ライダーもその同じ流れにあるのです。
北原:
新〈幻想と怪奇〉の1号がビクトリアン特集で、喜んで書いたのですが、翻訳ばかりでなく小説も載っているとわかって、これは小説も書きたいなと思いました。
井上:
「ショートショートカーニバル」というショートショートランド以来のショートショートの本を出すまでになったわけですね。
根本:
先ほどらっぱ亭さんからお土産の翻訳をいただきました。アヴラム・デイヴィッドスンの怪奇幻想短編「ダゴン」の翻訳です。チャット欄からダウンロードできます。
後半はショートショートコンテストに入賞された中川さん石原さんにも加わっていただきお話を。
牧原:
怪奇幻想小説の新人賞ができればいいなという話があって、お金もないしどうやればいいかと考えた中で自分たちで審査もするということにして12巻で公募したんですが、2百編くらいだろうと思っていたら4百編も集まりました。とても13巻での発表には間に合わない。そこで別の企画としてあった「ショートショート・カーニヴァル」に載せることになったんです。
それがかなり売れたので次も出せることになったんですが、今度は7百編の応募がありました。三次選考7編が入選となり、16巻で紹介の予定です。
今回のSFファン交流会のゲストにはコンテスト入賞者にも参加いただいたのですが、石原さんは坊っちゃん文学賞でも本が出ているし、カモガワ文学賞受賞者でもあります。中川さんは8巻にも投稿されている。その8巻には伴名練さんも投稿されていてびっくりしました。
石原:
第1回のコンテストで「せせらぎの顔」が優秀賞をいただきました。
10代のころから演劇の脚本、それもコメディを書いていたんですが、コロナで演劇活動ができなくなり何か書くことができないかと小説を書き始めました。最初は長編は無理なので短いものを書き始め、坊っちゃん文学書が4千字以下ということで書いたら佳作をいただきました。〈幻想と怪奇〉の投稿作もその前にWEBのホラーコンテスト用に試しに書いたものです。ホラーじゃないと思ったので出さずにおいてあったんですが〈幻想と怪奇〉の応募要項を知り、「幻想と怪奇」の意味は作者の解釈によるとあって、それならいいなと投稿しました。入選してやはり自分の解釈でよかったんだと感激しました。
牧原:
選考はすべて編集側でやったのですが、出版社から作家の人の後押しがほしいというので井上さんにもお願いしました。
井上:
今は複数のコンテストで入賞する人が普通にいる時代。
石原:
井上先生のコメントには勇気づけられました。それぞれの幻想と怪奇があるということばに感激です。
井上:
ぼくらのころは何文字じゃなく原稿用紙何枚というものだった。星新一賞が20枚8千字です。
牧原:
幻想と怪奇のコンテストも(プロへの依頼も)8千字。改行によっては20枚以上になる人も、それ以下になる人もいます。
井上:
今はワープロがあるけれど、自分のころはペンで清書して初めて正確な枚数がわかった。
中川:
もともと本が好きでした。今やっているカフェも装丁家の人のアトリエだったところで、モノを作る人の雰囲気があります。
幻想と怪奇については「幻想」という言葉が魅力的でその名前をもつ雑誌に自分の書いたものが載るのがすばらしい。
牧原:
怪奇幻想とは自由なもので作者の解釈によるとしたわけですが、コンテストに応募されたたくさんの作品がみんな想像力の自由なバラエティに満ちていました。コンテストだから試合であって順位をつけて選ばないといけないのだけれど、それぞれ個性が目立っていました。今回いわゆる幻想・怪奇ではない題材を扱う作品が多かったと思います。家庭の問題とか都市開発とか現実の題材から幻想や怪奇へと拡がっていく作品が目立ちました。
北原:
「ショートショート・カーニヴァル」に自分の名前が載っているのは嬉しいのだけれど、この名前のならびはどのように選んだのですか。
牧原:
誰にお声がけすればいいかということでこれまで〈幻想と怪奇〉に書いていただいた方にまずお願いしました。またそこからお声がけすればいい方をご紹介いただいて、そうやって増やしていき、自分として誰の作品が読みたいかを考えてお願いしました。
「ショートショート・カーニヴァル」の第2巻が6月に出ました。ぜひ手に取って見てください。

 7月のSFファン交流会は7月13日(土)に「きのこ! 脂肪! そして叙情!?」と題して、池澤春菜さん、大森望さんをゲストに開催されるとのことです。


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