科学するこころ

第4回 『君がいる世界』

木口まこと


 またしても一年間のご無沙汰でした。僕もついに定年を迎えまして、最終講義なんてのをやりました。その準備をしながら、最近は研究とSFとの境が曖昧になりつつあるなあなんてことを思いました。SFファンは最後にはSFに戻るのかも。そうそう、定年後はなんの予定もありません。何か書きものでもできるといいなあと漠然と考えています。面白いことがあったら誘ってください。暇だからTHATTAにも書こうとは考えています。

 で、書きものといえば、またしても創元SF短編賞発表の季節がやってきました。僕は一作応募して、例によって一次選考通過、二次選考落選でした。二次選考の壁は厚いですね。今回の応募作は前回よりはエンタメ度の高いSFになっていると思うのですが。

 今回も「日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」応募作を改稿したものです。一万字制限で書いたものを徹底的に書き直して、原稿用紙で70枚強程度にしました。創元は百枚制限だから、まあまあいい感じの長さかと思います。もともとはたしか「『チャンスはあと三回です』どこか楽しげに声は告げた。」だったか、そんな感じの文章から始めなさいというお題でした。そのお題から着想を得たものですが、もちろん創元応募版にはお題は影も形もありません。

 前回ガチガチのハードSFで応募したのに対して、今回のは並行世界ものの普通のSFです。量子なんとかとか頻繁に出てきますけど、「魔法のような技術」という程度の意味しかありません。それはいいんです、SFだから。『高い城の男』じゃんと言われればその通りです。でもオリジナリティは結構高いんじゃないかな。

 で、これがどうして最終選考に残れなかったのか、ですよね。それを考えないと次に進めないのですが、なにせ僕は自分が書いたものは全部傑作だと思う(ことにしている)ので、なかなか冷静に判断できません。まあ例によって地味ですね。めっちゃ地味。あと、いろいろ解決しない。ていうより、ほとんど解決しない。でも、解決させるのがカタルシスだとは思ってないんですよ。解決しない物語が好き。
 三分の二くらいから全然違う物語になって、残りの三分の一は長くて静かなエピローグという感じですが、これは狙って書きました。というか、これを書きたくてそれまでの三分の二を書いたといっても過言ではありません。なんかね、静かな長いエピローグのある物語が好きなんですよ。しかし、ここは全くエンタメじゃないから、減点かなあ。

 前回も書いた気がしますが、やっぱり創元は鮮烈なイメージのエンタメが強い。そう考えるとまったく逆の行き方なので、創元には向いてないんだけど、でも書きたいものしか書きたくないしなあ。次回も頑張ります。
 そんなわけで、創元SF短編賞一次選考通過作『君がいる世界』です。僕はとても気に入っている作品です。読んでね。ご感想お待ちしています。


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