彼方には輝く星々

第1回 モダン金星SFの可能性について

木下充矢


 初めまして。木下充矢と申します。1984年から1988年にかけて神戸大学SF研究会に在籍し、在学中は主にテーブルトークRPGと少しだけSF創作、卒業した後に翻訳SF同人誌『Vitamin SF』2~4の編集・発行を担当しました。88年から関西圏で弱電エンジニアとして勤務し、今に至ります。谷甲州ファンクラブ・青年人外協力隊隊員。2013年から創作サポートセンター・エンターテインメントノベル講座在籍中。好きな惑星探査機は「あかつき」

 ページタイトルの「彼方には輝く星々」は、ナンシー・クレスの、とってもグルーミーなETIとのコンタクトもの短編のタイトルから拝借しました。妙に記憶に食い込んでいる話です。この題名を借りて、ぬけぬけとポジティブに振り切れた小説を書いてみたいものだ、と画策しています。

 長いこと読ませていただく一方だったのが、大野万紀さんに声をかけていただき、光栄にも拙作を掲載していただけることになりました。さなコン2(第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト)で、課題文1文字脱字で最終候補後失格になった作品の増量改稿版です。第14回創元SF短編賞最終候補、残念ながら入選はならず。悔しいは悔しいのですが、阿部登竜さんが受賞されたのはちょっと嬉しいです。たまたまカクヨムで、SF魂にブッ刺さるラストが鮮烈な「乗用竜の前十字靱帯断裂症の治療法としての脛骨高平部水平化骨切り術の開発と検討」(創元SF短編賞12回1次通過の本格竜医学SF) を読んでいたので。木下も、もっと精進しないとなあ……。

 金星大気から生命指標物質ホスフィンが検出された、というニュースは、記憶に新しいところです。誤報だった、という報道も出ましたが、違います。まだ決着はついていません。気温・気圧がほぼ地球海面に近い金星高層大気にもしも生命活動が存在するなら、多くの謎が解けるかも知れない、と考える研究者は少なくないようです。

 早ければ来月(!)、MITのサラ・シーガー教授と民間企業ロケットラボ社が組んだ、生命活動探査に目的を絞った超小型金星探査機が打ち上げられる計画があったのですが、残念ながら2025年に延期になったようです。まあ、じっくり待ちたいと思います。どのみち2030年にはNASAとESAが相次いで金星探査機を投入するんだし。

 ともあれ、数々の名作SFに恵まれている火星に比べると、金星は、近年のエキサイティングな新展開の割に、あまりにもSFで取り上げられることが少ないように思うのです。『金星応答なし』も『創星記』も、ジェフリー・ランディスの「雲海のスルタン」(この人はもともとNASAの「中の人」だっただけに、巨大飛行船を使った金星植民構想の論文を書いています。かなわんなあ)も好きなんですが、最近は現実の方が、かなり凄いことになってきています。

 というわけで。すでに提唱されている仮説をもとに、関係妄想的に風呂敷を広げた話がこちらになります。タイトルはシェフィールドの同題短編から拝借。内容に直接の関わりはないのですが、はるかな未来に希望を託す、という点では、一脈通ずるものがあるかも知れない、と思っています。独自アイデアをあまり入れられなかったので、木口まことさんの奇想とヴィヴィッドな抒情が素晴らしい「春分の月」「あたしはまだここにいる」のようなハードSFとはとてもじゃないが言えないのですが、お楽しみいただければ幸いです。それにしても、もっとモダンな金星SFが読みたいなあ。

……と、思っていたら。創元改稿の締め切り前日に、ふと虫の知らせで谷甲州の『星を創る者たち』を 開くと、目に入ったのが第5話「灼熱のヴィーナス」。2012年初出だから、JAXAの「あかつき」探査機がまだ金星に到達していない頃。いち早く最新の知見を取り入れて、とっくにモダン金星SFは書かれていたのでした。なんで忘れていたのか。ここにはまだ誰も来てないはず、と思っていたら、「キルロイは ここに来た」と書き残されていた、みたいな。

 たぶん、「灼熱のヴィーナス」が記憶の奥に引っ掛かっていたのだと思います。あと、「軍用機」も。「限界のヤヌス」も。言わずと知れた『星を継ぐもの』も。もう、これからは、新機軸を追い求める(むろん、微力を振り絞って追い求めるつもりではいますが)よりも、開き直って「推しを称える」ことに力を注いでいきたいと思います!


第14回創元SF短編賞最終候補作品

『遙かなる賭け』  木下充矢

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