科学するこころ

第3回 『あたしはまだここにいる』

木口まこと


 ほぼ一年間のご無沙汰でした。一年は早い。待望久しくついに福島で開かれたSF大会のこととか、書こうと思ってたんですけど、書けずに終わりました。

 あと、岡本俊弥さんが書いてくださったように、星新一賞に応募しまして、第五席に当たる優秀賞(図書カード賞)というのをいただきました。小説を書いて賞を貰ったのは初めてなので(そもそも小説を書いてませんでしたが)、五席でもうれしい。全受賞作はhontoで電子書籍として無料配布されています。個人的な話を入れ込んだ「異色作」です。ぜひお読みくださいませ。

 さて、今年も創元SF短編賞に応募していました。結果は前回同様に一次選考通過で、最終選考に残らず。それだけだと前と同じなんですが、書き手の手ごたえとしては前回よりも全然いいできだったと思ってるんですよ。編集者の評価が分からないので、自己評価ですけど。

 で、その作品について。pixivという投稿サイトで日本SF作家クラブ主催の「第二回小さな小説コンテスト」(さなコン2)というのが開かれました。1万字以内の短い作品を募集して、しかも指定された課題文を書き出しまたは終わりにつけるという制約の大きなコンテストですが、書いてみたら書けてしまったので、三作も応募しました。
 そのうちの一作が最終選考に残ったのですけど、今回創元に出したのはそれではなく、最終選考に残らなかった一作でした。自分ではこっちのほうがSF的にもテクニカルにも上だと考えてるんですよ。人の意見は素直に聞いて最終に残ったほうを出せばよかったんじゃないかという気もしますけど、自分の判断を優先したい。もっとも、それがよくないのかもですね。
 応募バージョンは2万字ちょっと、原稿用紙にして60枚で、さなコン2バージョンのちょうど倍くらいです。短編SFとしてはいい長さじゃないかと思います。さなコン2の課題文は使ってないので、さなコン2とはもはや関係ないっちゃ関係ありません。そうは言ってもインスピレーションは得ているので、さなコン2がなければ書いてなかった話なのか、あるいはいずれにしろ書いていたのか、どうでしょうね。ちなみに、最終候補に残った木下充矢さんの作品も同じさなコン2応募作だと思います。

 今回の僕の作品はガチガチのハードSFです。僕自身は読者としてはハードSFが特に好きというわけではないのですけど、書くとなるとアイデアが出やすいのはハードSFです。で、今回のテーマは物理じゃなくて生物学。いわゆる複雑系的な内容というべきでしょうか。自分では「複雑系生物学SF」と呼んでいて、こういう傾向のSFはあんまりないのかなという気がします。複雑系ネタのSFでちゃんとしたのって、あんまり思いつかないよね。円城塔くらい?前回同様に自分の研究領域の近くでネタを拾ってるので、調べものはあんまりしてません。もちろんSFだから内容は大嘘なんだけど、嘘の周りをあらぬ理屈で固めることはできたのではないかと思います。自分としては、結構自信のある作品です。
 とはいえ、もちろん問題点があるから最終に残れなかったわけです。問題点は自分ではなかなか分からないものですけど、あとからつらつら考えるに、ひとつには、とにかくただひたすら閉じていくだけの作品だから、めっちゃ地味だってことでしょうか。それから、ある意味では直線的に進み過ぎかな。もっと周辺事情を書くべきだった気はします。具体的には社会の変容がほとんど書けてない。あと、クライマックスには大ネタを仕込んではあるんですが、それも地味っちゃ地味ですね。そこらへんはぜひ読んで確認してください。創元はエンタメとして面白いものを求めているのに、今回もエンタメ度が足りなかった気はします。

 次回の募集も既に始まっているので、次回こそ、最終候補に残れるように頑張ります。がんばってエンタメにしよう。  というわけで、落選作品の『あたしはまだここにいる』全文掲載です。SFとしてはかなり特色があると思いますので、ぜひお読みくださいませ。ご感想・ご批評をお待ちしています。


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