みだれめも 第248回

水鏡子


○近況(4月・5月・6月・7月)

 HEROWARSの区切りがつかない。5月末でチームレベルを130にして一応のけりをつける予定がいまだにレベル125に留まる。熱意が醒めた分、かかる時間はだらだら増加し、9か月目を迎える現在トータル4,000時間に到達している。あおりを食って、不完全リストはもちろん、3月に終わるはずだった書庫の移動作業も遅々として進んでいない状況にある。ごめんなさい。

 6月末で期限が切れるホテルの株主優待券が余りまくっていたので4月29日から5月1日まで、大阪で2泊3日し大阪四天王寺と京都みやこめっせの古本市を回る。また6月にも平安神宮の古本市に1泊分を使用する。

4月

 214冊、33,500円。クーポン使用4,000円。新刊5,000円。なろう58冊。
 コミック11冊。買い直しとエラーのダブり本34冊。遠出をするとどうしてもエラーが増える。山田風太郎の異装本などをつい買ってしまう。ちなみに、『戦中派不戦日記』『警視庁草紙』とわりと変わったところが講談社から漫画化されている。買い直した主なところは、単行本にないボーナストラックのついた吉村萬壱文庫版『ハリガネムシ』、増補版いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』、矢作俊彦加筆修正角川版単行本『あじゃぱん』、『果しなき流れの果に』初版本など。持っていないつもりで買ったハヤカワ文庫版ウルフガイ5冊が帰って見るとすべて持っていたのには、わりとショック。
 硬めの本の主なところでは、叢書類で『雄松堂異国叢書』第一期復刻版から6冊。15冊拾った第二期にあたる『新異国叢書』より、ケンペルやシーボルトなど有名どころが並ぶ。小学館『日本民俗文化体系 全13巻』から『太陽と月』『技術と民族 上下』など5冊。なお講談社からも同じ『日本民俗文化体系』という表題の叢書が出ており、こちらは民俗学者人類学者の学者別総覧となっている。現在3冊拾っているが、端切れで手にしたこのての叢書はいずれ背表紙を揃えたくなっていく。
 その他、亀井俊介本間長世編『アメリカの大衆文化』、M・フィッシュウィック『現代アメリカのポップヒーロー』、ハンス・ゼターバーグ『社会学的思考法』、アンソニー・ギデンス『社会学』、ベネディクト『文化の型』、高橋康也『ウロボロス』、松田修『日本の異端文学』、朝日新聞学芸部編『一冊の本』、「芸術新調」(特集北斎を2冊、橋本治ひらがな日本美術史連載百回記念号)など。

5月

 317冊、42,000円。クーポン使用16,000円。今年初めての300冊越え、現金40,000円越えだがクーポンを合わせると60,000円近い大盤振る舞いである。みやこめっせの古本市で珍しいものを(ぼくとしては)かなりの高値で買ったことが大きい。
 いちばんの買い物はDVD『隠密剣士』全話揃い8,000円。DVD枚数では29枚だが箱は三つにわかれているので個数は3でカウントしている。
 幼少期のTVドラマや時代劇はノスタルジーの対象なのだが、なにぶんDVD発売当初は定価がバカ高かった。この『隠密剣士』にしても定価は70,000円強になる。ほかにもワンコイン定価になってから買った『まぼろし探偵』(12巻)とか『快傑ハリマオ』(4巻だけ)などが家にはある。「新諸国物語」や「ナショナルキッド」の入った『東映TV主題歌大全集①』はかなり気にいっているものだが、内容の三分の二は「仮面ライダー」などわりと歳を食ってからのもので物足りない。ぼくの強烈なノスタルジーの対象はアニメ放送開始以前、小学生時代のTVドラマのあたりにとどまるようだ。そういえば、『スーパージャイアンツ』全巻揃いというものを知り合いに貸したまま回収不能になってしまったりしている。シリーズ後半の作品は新東宝十八番の化猫騒動話のパッチものの怪作だったりして入手当時はひでえ!と怒ったけれど、ある意味貴重な作品だった。
 その他の高値の購入本は、『白井喬二傑作選』(全5巻2500円)、『山村暮鳥全集』(全4巻2000円)、『近藤出版社日本史小百科』(内10巻)など。山村暮鳥は子供のころ児童文学全集に入っていた当時の印象として無茶苦茶長い童話に強烈な印象を受けた記憶があって購入した。タイトルも何も覚えていなかったが、どうやら代表作である「鉄の靴」であったようである。最後のものは以前に触れたことがある叢書で、100円でぽちぽち拾っていたものが全巻一律300円で並んでいたので少し迷ってとりあえず10冊拾った。テーマ別の事典なのだが、最初の方のテーマに『神社』『荘園』『暦』『書道』といった何故?の書題が並ぶところに業界の奥深さを感じ入っている。全29巻残り10巻。所持リストの消し忘れがあって1冊ダブった。
 317冊の内訳は、なろうが123冊と今年初の100冊越え。コミック56冊。エラーのダブり本31冊。この月は買い直しがないので少し問題のある数字。コミックのうち33冊は川原正敏『海皇紀』。5冊100円のサービス本を25冊買った後、残りをぽつぽつ拾っている。
 その他の硬めの雑本は、エスクアィア『アメリカの歴史を変えた50人 上』、トマス・A・バス『ヒトの再発見』、児玉清『あの作家に会いたい』、日本近代演劇史研究会編『20世紀の戯曲』、天野仁『忍者のラビリンス』など。再刊のためスルーしていたレム『天の声・枯草熱』を500円で拾う。

6月

 平安神宮の古本市は、有名どころの古本市がコロナですべて中止が続いた昨年に、業を煮やした一部の古書店が音頭をとって開催したものの第2回だが、有名どころが復活した今年は大きく規模を縮小していた。『飛雲城伝説』3冊、『アメリカの壁』とかの単行本版、『陳淑芬自選画集』など合わせて千円に満たない収穫。京都まで足を伸ばして時間がなくてタクシーを使ったりの交通費を鑑みれば大赤字である。
 6月合計208冊、24,000円。クーポン使用5,500円。なろう82冊、コミック53冊。うち46冊は『弱虫ペダル』。新刊なし。ダブり本は買い直しを含めて18冊。新刊本や硬めの雑本はほとんどなし。我孫子武丸『かまいたちの夜』(セガミステリー文庫)、デュマレスト・ゲームブック『巨大コンピュータの謎』なんて変なのを拾ったりはしている。

7月

 猛暑が続く。昨年もそうだったが、暑すぎて、蚊が出ない、蝉の声がしない。書庫に籠り続けてゲームとなろうで一日が終わるので、8月支払いの電気代はたぶん3万円の大台を覚悟している。
 飯田一史『WEB小説30年史』は名著である。『ライトノベルクロニクル』など過去の著作も買い集めたので、次回まとめて整理して紹介できたらと思う。
 そんな事情もあって、7月は122冊、33,000円、クーポン使用5,000円だが、内13,000円が新刊書である。クーポン分はすべてなろう。なろう本は64冊だが、購入本の半数を越えたのは今年初めて。コミックは『ちはやぶる』最新刊1冊のみ。文庫版『都市と星』や山田風太郎など買い直しを含めたダブり本は12冊。
 古本市はいくつかあったが収穫は少なかった。SF周辺本としてウィリー・レイ『動物奇譚』、筒井康隆編『現代世界への問い』を買う。
 その他の硬めの単行本:古茂田信男他『昭和流行歌史 戦後編』、岡地嶺『イギリスロマン主義と啓蒙思早稲田文学 女性号想』、橋本治『草薙の剣』『結婚』、奥泉光『東京自叙伝』、川上未映子編『早稲田文学 女性号』など。『草薙の剣』は500円で買ったその日に帯がついてて買ったものより美本なものが400円で見つかってかなり悔しがった。新書本文庫本でもわりと気になるタイトルのものがこのところ目につき、『読まずに死ねない哲学名著』『日本人の宗教感覚』『心理学の名著50』『建築の歴史』『シンエヴァンゲリオン論』などを拾う。ちなみに6月は『虹の西洋美術史』『愛について愛のパンセ』『三四郎はそれから門を出た』『作家の放課後』『オタクの息子に悩んでます』、4月5月には『人はアンドロイドとなるために』『科学の危機』『錯覚の科学』『ヨーロッパ文化と日本文化』『ハーバード日本史教室』『南極新聞 上中下』『武器の世界地図』『科学史年表』などを拾っている。興味の方向性としてはある程度の偏りが確認できるものの、なにぶんその大半がタイトルと目次しか目を通していないのでねえ。

 この4か月いくつかの事件があった。

○カード入れ紛失事件

 JRに乗るために改札口に行くと、ICOCAの入ったカード入れがない。慌てて普段持ち歩いている背負い袋や家の中を探すが見つからない。ICOCAや阪急電車優待券などの交通系、ブックオフやジュンク堂など本屋関係のポイントカード、株主優待でもらった数万円分のQUOカードの入ったものだ。最後にポケットから取り出した記憶は明石のブックオフで、そのあと喫茶店や食品スーパー、レストランなど回っていたので、何かの拍子に取り出して椅子や机に置き忘れたかもと片っ端から電話を入れる。どこにも届けられていない。残る可能性は、自転車を漕いでいて、ズボンポケットの中身がずり上がり落ちてしまったことぐらい。レシートなどのぺらぺらしたものならともかく50グラムくらいの重さがあるので、そう簡単にずりあがりはしないだろうし、それで落ちたらさすがに気づく重さであると思うのだが、気休めにJRと交番にも届出をする。
 金額に換算するとかなりの出費になるが、とりあえず口座に紐づけされたものはないのでしかたがないとあきらめた。
 驚いたのはブックオフでカードの再発行を依頼すると、アプリ移行によってもうカードの新規発行はしていないとのこと。古本市場もカードのポイントが低くなっており、スマホを持たない人間にはどんどん住みにくい世の中になりつつあることを実感する。
 1週間が経過したころ、紛失したカード入れにヤフーのカードを入れていたことを思い出し、真っ青になる。クレジットカードじゃん。ヤフオク用に一度作ったものの、結局競り負けて一度も使わず、Tポイントカードとしてしか利用していなかったので、クレジットカードであることを完全に失念していた。1週間の空白は致命的だ。カード会社に電話する。調査の結果、誰にも使われていないということで安堵する。とりあえずカードを破棄して再発行してもらうと、なんとヤフーカードはPAYPAYカードに変わってしまってTポイントもPAYPAYポイントに変わってしまった。なんかよくわからない。
 そこからさらに1週間。
 大雨に見舞われ、バックパックの濡れた中身をすべて取り出す。するとカバンの底板の下になんか見覚えのある色のものがある。失くしたはずのカード入れである。最初にちゃんと調べたはずであったのがその時は、底板の下に完璧に隠れていたようである。ずいぶんいろいろ空回りだったが、ブックオフの件をはじめ新事実をいくつか知った。ブックオフ以外の古本屋のカードもほとんど再発行したので、予備ができたとまあいいようにとっておくことにする。めでたしめでたし。

〇電車事故

 大阪近くで人身事故があって、普段50分で行けるJRが一時間半かかった。途中神戸で下車して何件か古本屋を回る予定が潰れる。意外にも午後9時の帰り時間になっても、まだダイヤは乱れ続けている。とにかく猛暑日で、並ぶだけでも汗だくになる。大幅遅延の新快速を待つよりも冷房の効いた普通車で涼みながら帰ろうとしたのが大失敗。5つくらい前の普通車で病人が出たとかで、そのあとの電車がすべて団子状態。さらには乗った電車でも病人が出る。どうやら長時間乗車による熱射病が続発しているらしい。大阪駅から乗れてたはずの快速、新快速がどんどん通過していって、結局帰りつくまで二時間半かかった。
 次の週にも踏切事故で遅延する。飛び込み事故は年末、年度末に集中していた印象があり、この時期というのはなんなんだろう。

〇病状と老後について

 糖尿が一段階進んだ。実際には冬場から始まっていたようなのだが、風呂につかると爪先が軽く痛むようになった。しもやけか靴擦れのたぐいと思い込んでいたのだが、風呂以外の日常でも痛みが続くようになった。メンソレ類を買ってきて塗ったりしたが効果が薄い。それに爪が変色している。老化かなんかなんだろうかとググってみる。これがなんと糖尿病の症状だった。このところ血糖値が高止まりしていて、医者からも運動と食事に気をつけるよう再三注意を受けてはいたのだが、本音として飲む薬の量を増やせばいいじゃんと軽く考えていただけに外的なかたちで症状が現れるとさすがに危機感が生まれる。しかもしびれが常態化していく。一応新しく薬を処方してもらったが、末梢神経障害は末梢とはいえ、神経組織が壊れたので完治は難しいとのこと。末梢神経ということになるとさすがに怖いのが糖尿病性網膜症ということで、慌てて眼科に行く。こちらの方は一応大丈夫ということで一安心する。
 暴飲はしないが暴食については自覚がある。運動量もコロナ以降特段に減少している。さらにHEROWARSによるパソコンへの貼り付きも状況の悪化に拍車を掛けているのだろう。糖尿病が体質ではなく生活習慣病であることは、退職するまで血糖値が正常値内でずっと推移していたことからもあきらかである。
 とりあえず、外食店での大盛おかわり無料サービスを断念することから始めようか。
 それにしても、同世代の顔ぶれと比較すると、ぼくの老化の進み具合は若干激しい気がする。もしかしたらこれも糖尿病のひとつのあらわれであるのかもしれない。締め切りから逆算して原稿を書くように、寿命から逆算して人生を過ごすことこそ60以降の生活指針であるのだが、もしかして100歳まで生き延びることはできないのではないか。TVで流れる有名人の訃報も大体が80代後半であり、安全マージンをとっても寿命95歳に前倒しして生活設計を見直すべきか、つまりは資産の消化を5年分前倒しにすべきでないかなどと思うようになった今日このごろである。

〇読んだ本から

 HEROWARSのオートバトルの合間を縫ってなろう本やWEBに読みに行く毎日が続いている。SFは読めない。オートバトル中のぶつ切り読書に耐えられないのは小説密度の差であるのか、あるいはなろうの連載小説的骨法によるものなのか。
 WEB小説というのは、週刊少年漫画誌のコンポジションを活用した小説形態といえる。比して過去のエンタメ小説は月刊漫画誌の枠組みのままで推移しているのではないか。少年漫画誌も初期のころは月刊漫画誌の作法に則っていた。たとえば少年サンデーで当初毎年連載していた手塚治虫の長編はすべて一年間で完結するよう周到に組み立てられていた。長い分量で初めて可能になるタイムパラドックスを駆使した大河冒険活劇はあのころの手塚漫画の特徴ともいえた。新聞連載小説も同様で、1年で完結することが求められており、かつ書籍化されることが前提に物語構成がなされていた。
 もちろん先行するものはある。結末を意識しないで延々と書き連ねられたもの。茅田砂胡や藤川桂介、平井和正、架空戦記といったいわゆるノベルズ本である。「伝奇小説っていうのは終わらないんだよ。終わらないように終わらないように書いていくものなんだよ」と言った半村良の意識的挑戦作『太陽の世界』(たぶん。じつは読んでいない)、栗本薫<グイン・サーガ>、五味康祐『柳生武芸帳』などなど。そもそも『源氏物語』も『平家物語』もある意味そういう作りではなかったか。紙媒体と筆記具で制限され商業的流通物として発達した小説作法から、先祖返りした物語本来の在り方なのかもしれない。
 別に称揚しているわけではない。在り方として評価できるかもしれないが、ランキング評価に頼る編集者の眼力不足か、愚作駄作が山積みなのもこれまた事実であるのだから。
 ただ、言った端からひっくり返すのもなんなんだけど、このところいい意味で癖のある作品が比率的に増えている気もする。ランキングに参加する読者の年数と経験値がそれなりに上がってきていたりするということなのかもしれない。

 とりあえず、最近読んで、そのままWEB最終更新まで読み切った作品をいくつか紹介する。

横蛍『戦国時代に宇宙要塞でやってきました』(新紀元社モーニングスターブックス)
 「VRMMOの世界から、目覚めると戦国時代の日本。信長の家臣となった一馬は、激動の歴史を体験する」(帯の紹介)
 VRMMOからそのアバターやスキルごと異世界に転移する話は枚挙にいとまがないが、VRMMO世界で作り上げた強力な軍団を引き連れて転移する話となると意外と少ない。思い浮かぶとことろでは『オーバーロード』『エステルドバロニア』『異世界国家アルキマイラ』『その冒険者、取扱注意』『最強ギルドマスターの一週間建国記』くらいしかない。総じて質が高い。
 基本的に建国物語であり、軍団の大量のメンバーや組織の内実を活写する必要や、近隣諸国との戦争を含めた外交関係その他、しっかり書き込むべきことがそれなりにあり、初期値のハードルが高いことが数の少ない、そして質の確かさが保証される一因の気がする。
 さて、そんな初期設定で、クリエイトした120人の美女軍団と共に戦国時代に転移した主人公は小笠原諸島に拠点を作り、観光がてらに尾張に赴いたところで信長と知り合い、家臣に請われる。未だ桶狭間以前、父親である織田信秀存命の時代であり、主人公たちによって史実と異なり生きながらえた織田信秀を中心に、圧倒的な軍事力と民を飢えさせないことを第一義とする施策を推し進め、武士の制度を破壊し、経済力で制覇していくユートピア小説の趣を呈する。建国物語はたくさんあるけど、ユートピアっぽいしちめんどくさい骨子の作品は希少である。文章的にはよく言えば平易、悪く言えば平板で間延びするが、欧州帝国主義すら破壊したと思しきもう一つの現在から見たこの時代の歴史分析を随所に挟む、硬骨な主義主張が心地いい。6巻まで刊行されていて、40話が凡そ1巻分の分量で現在1,600話、奥州進攻と公家社会の改革に今後の的が絞られつつある現況から少なくともあと500話は続くものと思われる。
 戦国時代ものというのも比較的質の高いものが多い。その理由には軍団異世界転移ものと恐ろしく似通った部分がある。
 「基本的に建国物語であり、軍団の大量のメンバーや組織の内実を活写する必要や、近隣諸国との戦争を含めた外交関係その他、しっかり書き込むべきことがそれなりにあり、初期値のハードルが高いことが数の少ない、そして質の確かさが保証される一因の気がする」というわけである。
 史実というものが存在することで作品世界が肉付けされ、作者読者双方の間に、異世界物の約束事とはレベルの異なる知識了解が成立する。

 膨大な歴史小説が存在し、加えて架空戦記ブームの後期に出現した戦国時代IF小説群は百点以上千冊を越えており、テキスト類に事欠かないということも質を確保する上で大きな助けであると思われる。このあたりの作品群については榎本秋『架空戦国記を読む』(三才ブックス)がまとめられているが、編集方針として作品本位に徹し、著者の紹介が切り捨てられている。知る限り類書が存在しないだけに残念である。
 戦国時代を舞台にした建国記は4年前にも一度まとめて紹介したことがあるが、その後も出来のいいものをいくつか読み終えたので、再度気に入ったものを並べておく。順不同である。

 他にも10点ほど拾っているが、とりあえずWEBの最終更新まで読んでいるのはこんなところ。ちなみに軍団転移ものとして掲げた作品も一応WEB最終更新まで楽しんでいる。

神通力『萌え豚転生 ~悪徳商人だけど勇者を差し置いて異世界無双してみた~』(ツギクルブックス)
 第9回ネット小説大賞 受賞作。
 「女は面倒。男同士でつるんでる方が楽。そんな女嫌いの30代サラリーマンが車に撥ねられ、異世界へ。しかも、ホーク・ゴルドなる大商家の子供、それも甘やかされて育ったがために、モラルもへったくれもない女好きの萌え豚に転生してしまう。いきなり始まった第二の人生では、金や権力に群がる女たちを遠ざけ、ついでに美女メイドや美幼女妹、美少女婚約者たちからなんとか距離を置こうと足掻き始める。しかし、彼は知らなかった。この世界がギャルゲー『エレメンツイレブン』の世界であり、ホーク・ゴルドはそのお邪魔キャラであることを。」
 昔は無理にでも自分の文章に作り変えねばと思っていたけど、粗筋紹介をWEBから引っ張ってくるのもありかと。もともとが紹介記事ならとりあえず「」でくくれば引用扱いで大丈夫かなと思い、今後多用していくことにする。出典は基本的に楽天ブックスの内容紹介。「不完全リスト」でお世話になっているもの」
 「乙女ゲーム悪役令嬢もの」は実に多くの作品を輩出しているが、同工異曲というべき「エロゲー悪役キャラもの」もサブサブジャンルといえる数がものされていて、本書もその最新のひとつ。「悪役令嬢」同様、ラストでの破滅を知る転生した主人公が破滅回避に邁進するというのが定番だが、本書の場合、そんな未来を知らずに単に現世での「女嫌い」がエロ餓鬼に転生したという設定。「女嫌い」というよりも「恋愛脳至上主義の物語」への唾棄が中心となった展開で、極悪非道な悪徳商人である父親との親子愛家族愛が大きな比重を占めていく。当然ながらなろうに横溢するハーレム物語への毒のあるアンチテーゼで、一部で熱狂的な支持を集めてネット小説大賞を受賞したと思われるが、続刊はどこまで可能であるのか。先のエピソードには出来不出来にばらつきがあり、とっちらかる部分が多々ある。
 ある時期まで、出版社が書籍化したものを1冊2冊でけじめをつけずに放り出すことに怒っていたのだが、最近の氾濫ぶりのなかだと、WEBにこういう話があるのだと教えてくれるもの、ショーケースとして役立つものだから1冊ぽっきりでもいいのではないかと思うようになってきた。もちろん書籍化に喜んだ著者が続刊打ち切りで心折れて更新を途絶することも多々あるけれど。
 さらにショーケースと割り切ると、ブックオフとかで入手できたものも必ずしも第1巻から読まなくてもいい。途中巻でも面白ければ1巻目部分をWEBに読みにいけるわけだし。
 ツギクルブックスはアルファポリス似の装幀でアルファポリスより少しスマートなこじんまりした平凡気味の作品を提供するレーベルといった印象が強かったのだが、最近は癖の強い、続刊の難しそうな、読者を選ぶ作品が目立つ。

 本書もそんな作品だが、とりあえずWEB最終更新まで追いかけているもの中心にお勧めを5つ紹介しておく。

 ◎ 大邦将人 『転生したけどチート能力を使わないで生きてみる』(1巻)
 ◎ じゃがバター 『異世界に転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。』(9巻)
 〇 小倉 ひろあき 『リオンクール戦記』(2巻 第6回ネット小説大賞受賞作 web完結済)
 〇 マイクハマー 『コンプ厨、ファンタジー化した現代を行く。』(1巻)
 〇 仏ょも 『普通職の異世界スローライフ ~チート(があるくせに小者)な薬剤師の無双(しない)物語~』(2巻)

 その他『ミリモス・サーガ』『妹ちゃん、俺リストラされちゃった』『ブラック会社のタブレットを持った私が異世界に転移したら』『その冒険者、取扱い注意』『召喚術師ですが、勇者パーティを追い出されました』などもそれなりに。

巴里の黒猫『お茶屋さんは賢者見習い』(MFブックス)
「お茶を仕入れ、販売していた楢橋鈴(リン)は、ある日買い付けの旅の帰りに異世界へと転移してしまう。転移した先は、精霊の加護のある世界で、聖域に転移してしまったリンは、自覚が無いままに水・風・火・土の四大精霊から加護を受ける。四大精霊すべての加護を持つ者はごくわずか。精霊術師の中では『賢者』と呼ばれる存在であった。
 賢者であるライアンに保護されることとなったリンは、精霊の力と現代知識を使い、様々な精霊道具やアイテムを生み出していく。そんな彼女の発想や活躍ぶりは、ライアンたちをたびたび驚かせ、次第にリンは『賢者見習い』として認知されていきーー。
 「全く、精霊は君に甘い」「私、賢者見習いじゃなくてお茶屋さんなんですけど……」
 いつか再びお茶屋さんをはじめるその日を夢見てーー精霊に愛された賢者見習いの、心豊かな異世界暮らし、はじまります。」
 異世界お仕事小説+貴種恋愛譚というのは女性向けの定番で、最初期のもの書き割りの舞台にお仕事部分は添え物程度のふわふわした安っぽい恋愛話で100円でも買う気が起きない話が多かったが、じっくりしっとり書き込まれると、作品の性格上、物語性や文章の運びはチートハーレム系のものよりランクの高いものがいくつもみつかる。同じMFブックスの『魔導具師ダリヤはうつむかない』などその最たるものと言っていい。

 その他の最近になってwebに続きを読みに行っている作品には

などがある。


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