みだれめも 第244回
水鏡子
読解力の劣化が甚だしい。
コロナ引き籠り生活で、なろう本を3,4冊、web更新分まで含めると、5,6冊分を毎日のように読んでいて、力はむしろ上がっていると思っていたら間違いだった。
年末のベストアンケート投票に向けて注目作を読み始めたら、集中力が続かない。アンソロジー中の1作をこなすごとに一息つく必要が生じて、なかなか前に進めない。中身が薄い本であるなら、いちゃらぶや食事部分は読み飛ばしても大略は把握できるのだけど、現時点での一位候補の本などは、自分なりの評価を固めるために、派生的に『唐宋伝奇集』とか開いてみたりとかもあって、一週間まるまるかかった。なろう系は若干見下し気味で読めていたのが多読のこつということだったのか。悪貨読み易く、良薬口に苦しと言ったところか。
基本的になにもない9月。10月は、大きな古本市が3つあり、例会が復活、読まないといけないショートショートや本が山積みのけっこう修羅場になる予定。『デスマーチから始まる異世界協奏曲』20冊とか『ゲート第1部外伝第2部』15冊とかの読み返しを含めた全巻読破といった爛れた生活をしている余力はなくなるだろう。とにかく続刊を買っても、読んだ内容を完璧に忘れ去っていて、初巻から読み返す羽目になるのが、なろう系ではあたりまえになってきている。そんな中で普通に、出た新刊を遡らずに読めている『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す』第4巻の上下巻で「帝都篇」の完結と見積り、今年のベスト選びに含めたいなろう系最有力候補に見繕っていたのだが、なんと加筆の嵐でやや間延びのうえ、「帝都篇」が終わっていない。次巻はやや落穂拾い気味になりそうなので来年のベストに選びづらいなあなどと思い嘆息する。分量だけなら千冊規模になるというのに、今年もなろうからは選べないようだ。WEB版完結の隠し玉はひとつなくもないがのだが。
「小説家になろう」がありがちな話に人気がシフトしている感があるのに比べ、「カクヨム」はこじれた著者が目立つ気がする。今、こまめに更新分を読んでいるのは5つほどあるが、お勧めは以前にも紹介したことのあるじゃがバター『異世界に転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました』と、大邦将人『転生したけどチート能力を使わないで生きてみる』でいずれもツギクルブックスから出ている。
『山の中』は順調に巻を重ねているが、後者については、著者の性格が悪く、とくに1巻目が小説としても読みづらく続刊できるかどうかやや疑問。チート能力者が定期的に出現し、宗教文化として定着している異世界で、表題通りの生き方を貫いて神と対立する主人公の建国記である。癖のある人生論、社会制度や政治論を書き連ねた作品で、ぼくの好みだけれど小説としてはやや難がある。
まあ、そんな感じでだらだらなろうを読んだ9月だが、大阪行きは3回。うち1回は18きっぷの消化のため。古書会館の月例会がこの月は不作で、つまりは託送が使えないので、合わせて30㎏弱しか持ち帰れなかった。
購入冊数177冊、金額24,000円、クーポン使用13,000円である。なろうは61冊と今年最小になった。古本屋に並んでいないわけでなく、そのほとんどをすでにもっているか、人気があって220円に落ちないためである。コミックは34冊、内半分は米原秀幸、あと『りゅうおうのおしごと』コミック版、『将棋の渡辺君』など。ダブり・買い直しは18冊である。
硬め雑学系は、樺島忠夫他編『国語図説』、バリー・サンダース『本が死ぬところ暴力が生まれる』、小山昌宏『戦後日本マンガ論争史』、陳舜臣『中国ライブラリー㉔』など。
リストはこちら。 (※リンク先はOne Drive(Excel Online)です)
評価A | ||
なし | ||
評価B | ||
林亮介 | 『迷宮街クロニクル』(完結) | |
平鳥コウ | 『JKハルは異世界で娼婦になった』(完結) | |
藤原ゴンザレス | 『ドラゴンは寂しいと死んじゃいます』(完結) | |
評価C | ||
馬場翁 | 『蜘蛛ですが、なにか?』(完結) | |
日暮眠都 | 『モンスターのご主人様』(完結) | |
樋辻臥命 | 『異世界魔法は遅れてる!』 | |
ひまり | 『一般人な僕は、冒険者な親友について行く』 | |
ひるのあかり | 『異世界英雄譚』(完結) | |
二ツ樹五輪 | 『その無限の先へ』 | |
ぷぺんぱぷ | 『そのエルフさんは世界樹に呪われています。』 | |
保利亮太 | 『ウォルテニア戦記』 |
は行は、評価Aこそつけなかったが安定して好感度の高い作品が多い。評価B・C・Dはたぶん気分次第で変動する。設定に凝った樋辻臥命、うさぎづくしのひるのあかり、王道戦記の保利亮太はBに入れるかどうか迷った。二ツ樹五輪はSF味が増す書籍版終了後が面白い。
Dの評価の中では、昼熊『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』のトンデモ設定を小説に落とし込む手際に感心したが、他の作品が物足りなかった。『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』『フェアリーテイル・クロニクル』『詰みかけ転生領主の改革』『人狼への転生、魔王の副官』『魔導師は平凡を望む』『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが』『転生したらスライムだった件』『異世界転生に感謝を』『ネトオク男の楽しい異世界貿易』などしっかりした設定で長尺を不満なく読ませるものが少なくなかった。
2018年10月開始の講談社レジェンドノベルス、リアルっぽい表紙に女の子を配したカラー挿絵なしというなろうのテンプレを排し、内容的にも硬派な方向を打ち出し、個人的には高く評価していたのだが、衆寡敵せずというか、昨年末で出版が止まってしまった。残念である。同じ講談社で正直評価しづらいKラノベブックスも今年の5月刊行が最終予告になっている。
レジェンドノベルスと比較的近い時期19年2月刊行開始のKADOKAWAドラゴンノベルの方は順調に巻を重ねていて、こちらの方もわりと癖のある作品が過半を占めている。どちらも多い巻数で4巻どまりと作者にとって好ましくない結果に終わっているが、とりあえずそれぞれのお勧め5点を挙げておく。
レジェンドノベルスの5作
○ | 止流 うず | 『ソシャゲダンジョン』 |
○ | のらふくろう | 『予言の経済学』 |
○ | 雪野宮竜胆 | 『普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ』 |
○ | のか | 『ニンジャと司教の再出発!』 |
○ | 丁々発止 | 『幼女とスコップと魔眼王』 |
ドラゴンノベルの5作
○ | 麻美ヒナギ | 『異邦人、ダンジョンに潜る。』 |
○ | 富士田けやき | 『カルマの塔 七王国戦記』 |
○ | 猪口 | 『田中家、転生する。』 |
○ | ひるのあかり | 『異世界英雄譚 魔物の技と二つの命で最凶世界を勝ち残る』 |
○ | いつきみずほ | 『異世界転移、地雷付き。』 |
一人を除いて、全員デビュー作のはず。どちらのレーベルも短い年数の間で頑張れば、10点近くお勧め作を選べると思う。
※ 凡例、表の説明などはこちらにあります。追加・修正についてはこちら。