みだれめも 第218回

水鏡子


〇近況(5月)

 5月に拾った本は久しぶりに300冊越えの344冊。年初からのトータルで1,287冊になった。このうち137冊がなろう系。

 月初はSFセミナーで東京に行き、八王子の古本市や、ブックオフを4店、秋葉原のまんだらけで株主優待券を一枚消化した。
 八王子古本市は、基本300円縛りの身には全般に割高だった。それでも探していた雑誌「東京人・山田風太郎特集」を縛り超えの400円で、西村寿行『咆哮は消えた』(帯付初版本)、多岐川恭『五右衛門処刑』(箱入)などを3冊100円で拾う。3冊100円コーナーには、ほかに比較的美本のハロルド・シェイがあったのでこれも3冊買い直す。量は少なかったけどそこそこ満足。
 まんだらけの株主優待券は釣銭の出ない2万円券。高額商品を想定したものだろうけど、いつものとおりの安物買い。ブックオフでは200円になるまで我慢するなろう系だけど、ここでは基本600円、安いものでも450円する。ただし、ブックオフ等の定価1200円のなろう系新作に800〜1,000円の値付けをするのに対して、人気作以外は半額基準に収めているので、新作主体に買い込む。八王子古本市、町田ブックオフでの入手本合わせて50冊を託送する。届いた託送本を見ると購入した本が5冊づつくらいで小分けに梱包された丁寧な処理。これには感心したけれど、梱包をはがすのがちょっとめんどくさかった。
 株主優待では5月末で期限が切れるビックカメラの優待券の処理も緊急で、系列のソフマップにあるラノベのみの書籍コーナーで新刊なろう本を7,500円分買い込む。
 下旬には株主総会に二つ行き、西宮と江坂の古本屋を巡る。江坂では駅から南北都合7キロくらい歩く。天牛書店の本店に初めて行ったが、ここの廉価本は予想以上に凄かった。
 まず本が綺麗。しみのほとんどない白背の創元SFを100円でいくつか買い直す。雑誌「現代思想」が一律100円で200冊近くある。迷って3冊購入する。6月も株主総会で江坂に行く予定なので、そのときもあるようなら、持っていない号をまとめて買おう。絶対読まないと思うけど、せめて目次はパラパラめくろう。

 その他の5月の収穫。
 ・冴木忍の富士見ファンタジア他53冊。30円に落ちたのでまとめ買い。ここまで1冊も買ってないので気持ちよく買える。
 ・中央公論社『日本絵巻大成G鳥獣人物戯画』460円 など。

 書庫の引っ越しに徐々にとりかかる。

 以前にぼやいたように棚板が2ミリ強厚みを増して、文庫本をきっちり並べることに若干の不都合が生じている。
 そこで第一書庫の棚板と新書庫の棚板を取り換え、第一書庫の方は、新書本の入る幅に一穴広げて文庫本を置くことにする。
 いろいろ悩んだのだけれど、結局なろう本を移動させることにした。増加速度が速すぎて、しかも半分以上が単行本サイズなので、相当量のスペースを確保しても一年後には再度の組み直しが発生する可能性が高いと判断したためである。
 現在のところ第一書庫の三分の一くらいを占めており、残りの空間に何を置くかは保留中。関連性からすればライトノベルを全部移すのが理想だけれど、たぶん容量オーバーしそうなので。
 それに合わせて、現在、作家あいうえお順に並べている日本作家の文庫棚をレーベル別作家あいうえお順に組み直すことにした。
 作家の名前が覚えられなくなり、やたらと購入本のダブリが増えてきたので、古本屋の棚と同じ並べ方にした方が、俯瞰して記憶しやすいと考えた。
 ただし、複数のレーベルで活動している作家についてはどこかひとつのレーベルにまとめて並べることにする。代表作のレーベルか、本をたくさん出しているレーベルか、はたまた現在中心的に活動しているレーベルか、意外と悩ましいところがある。とくに角川系で出世作代表作を発表して、今は別のレーベルで活動している作家がここ数年で結構いる。逆のケースもあるが八二くらいの割合か。
 ライトノベル以外の作家は一括しての作家あいうえお順で問題ないのだが、空間ができたところで、エッセイと小説の両方大量にある人をまとめようかと検討している。

〇なろう系・内政チート

 現代人が過去の世界に転移して社会を変える先駆けは、『アーサー王宮廷のヤンキー』ということになるが、この作品は徹底したアンチ・ファンタジイの内政チート小説である。魔法などありえないと19世紀アメリカから転移した合理主義者の主人公が、アーサー王宮廷に隠然たる権力を奮う魔術師マーリンを詐欺師と決めつけ丁々発止と渡り合う物語である。クライマックスでは騎士団3万人を、50人の少年兵が機関銃と地雷原で殲滅する。
 日本SFにおいても、現代人が過去の世界に行く話は『夕映え作戦』や『退魔戦記』のように60年代からいくつも書かれているけれど、意外と徹底した内政チートの物語は少ない。『戦国自衛隊』にしてもメインはバトル・チートであり、歴史を変えないことがじつは大ネタだったりする。タイムパトロール的倫理が強く意識された時代だった。
 歴史が変わることへの禁忌が払底されたのは、ほとんど読んでいないがSFプロパーの関与が少ない架空戦記の流れ以降ではないか。なにぶん××の戦いが逆の結果になっていたら歴史はどう変わったかが興味の対象だから、禁忌が生まれるわけがない。そもそも現代人が登場しないし、登場しても歴史的知識を伝えて戦局をいじることしかしておらず内政チートは発動しない。

 さて、そんな前振りでのなろう系である。
 戦国時代というか織田信長の時代に転移した現代人の話はそれなりにあり、それなりに面白い。歴史知識に基づいた世界構築はができる分そして、共通するのは内政チートがそれなりの比重を占めている。
 ちなみになろう以外のここ10年くらいの信長がらみの有名どころの転移作品も紹介すると、ライトノベルでは、高校生が戦国武将が軒並み美少女である世界に転移する春日みかげ『織田信奈の野望』、若き織田信長が人類に滅ぼされかけている魔女の国に転移する舞阪洸『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』、コミックでは戦国時代に転移した料理人が信長に拾われる梶川卓郎『信長のシェフ』、信長と同じ顔の高校生が転移して信長の身代わりになる石井あゆみ『信長協奏曲』などがある。

 ここまで読んだなろう本を気に入った順に紹介する。

@ 夾竹桃『戦国小町苦労譚』(アーススターノベルズ 現在8巻)
 戦国時代に飛ばされた農業高校女子高生が信長に拾われ、現代知識を駆使して尾張の富国強兵を成し遂げる。第一巻のあとがきの「史実をベースに、ご都合主義を織り込んだ、“さまざまな技術を楽しく学ぼう”がコンセプトで、戦国時代をベースとしているため、女性の地位が著しく低く、ラブコメ要素がほぼございません」との言は見事に作品内容を言い表している。内政チートを武器に、国を富ませ人脈を広げていく様は蘊蓄と書き込みで絵空事に奥行きを与える。読みごたえがある「SF」である。
A ツマビラカズジ『信長の弟』(GCノベルス 全2巻)
 織田信長への謀反の件で、清州城に呼び出され、詰腹切らされた弟織田信行。
 その清州行きの道中の信行に憑依系転移した現代人の主人公。絶体絶命のピンチの中で生き延びるため、現代知識を駆使し、信長に尽くし、必死になって尾張を富ませる。けれども内政チートが成功しすぎ、信長をもしのぐ内政基盤を得てしまったため、ついに信長と雌雄を決する羽目になる。
 社会人知識と「信長の野望」のやりこみ知識を駆使して天下統一をめざす織田信行の人生。
 売れなかったみたいで2巻で終了。書籍化部分は2016年4月から同年7月までの部分で、そのあと2年分がネットで続く。現在も連載中。
 南蛮人対策がかなりの比重を占めるのだが、なろう系戦国もので驚くほど頻出する題材がポルトガルの奴隷交易。ぼくらの学生時代の知識は日本と中国の金銀交換比率の格差を利した商売と、キリスト教化による植民政策といったものだったが、交易やキリシタンへの帰依に積極的な諸勢力による日本人奴隷の輸出といった話は、正直知らなかった。
B 三田弾正『三田一族の意地を見よ』(MFブックス 現在5巻)
 現代人の意識を持ったまま、北條家の傘下にある弱小三田一族(ご先祖様)に転生した主人公。ぼろぼろになる結果を知っているところから、なんとか生き延びようと足掻いていたら北條氏康の娘婿に収まることに。
 最初のうちは内政チートで成り上がるけど、その後は歴史オタクの知識を駆使して、戦国時代の勇将知将とその一族を片っ端から青田買いする展開に。ハーレム・パターンもそこそこあるし、なろうっぽいともいえるかも。
 面白いのは、北條家ベースの展開のため、公家も大名も、信長中心の物語と悪役が見事にひっくり返る。@の『戦国小町苦労譚』と合わせて読むと、反転するキャラの個性に感動する。
 あと、この小説もそうなのだけど、井伊直虎がクローズアップされた話がけっこうある。
 数年前まで誰も知らなかった気がするのにね。
C 青山有『竹中半兵衛の生存戦略』(レッドライジングブックス 全1巻)
 『救わなきゃいけないですか、異世界』が評判のいい(そのせいで108円で1冊目しか入手できず、まだ未読)。突然竹中半兵衛に憑依系転移した主人公。直後私室に出現したPCに接続すると、茶室と呼ばれるチャットルームに入室できる。そこには同時召喚された、彼を含めて8人の微妙なポジションの武将がいた。月に一度接続できる茶室で情報を交換しながら、内政チートと人材発掘を進めつつ、かれらは協同しての生存戦略を練る。竹中半兵衛当面の課題は隣国尾張で発生する桶狭間の戦い。
 一見斬新。実はなろう的にはわりとよく見る展開で、ただそれを戦国ものに突っ込んだのはぼくには初めて。出版元のなろう撤退とかで、1巻だけで出版打ち切りとあいなる。まだ桶狭間直前である。ネット版はあと3冊分強残っていていまも継続中である。
D 吉本洋城『腕白関白』、『狸と瓢箪』(フリーダムノベルズ)
 悲惨な死に様を知っている、豊臣秀次、豊臣秀頼にそれぞれ転生した現代人が生き延びようと必死に足掻く、一冊本二篇。内政チートはあまりなく知っている人間関係をいろいろ操作する。どちらもまとまりのある作品。
E Y・A『銭の力で戦国の世を駆け抜ける』(MFブックス 全5巻)
 『八男ってそれはないでしょう!』の著者による戦国もの。零細商社の銀河系交易船が宇宙気流に巻き込まれ戦国時代にタイムスリップ。宇宙船を潜水艦代わりに沈没船からサルベージした財宝を尾張の市で広げたことから、織田信長の知己を得る。現代人と比較にならない圧倒的な技術力工業力で戦国を蹂躙していくストレスフリーなゆるふわ展開。
F 津田彷徨『転生太閤記』(カドカワブックス 現在2巻)
 戦国時代に転生した男。黒田官兵衛の幼馴染として生まれ、堺、京と居場所を移し、どんどん人脈を増やしていく。戦乱ではない個人でのバトル・シーンが強く、そのあたりのバランスに不満が残る。『やる気なし英雄譚』の著者。
G 森田季節『織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので王国を作ることにしました』(GAノベル 現在2巻)
 健と魔法の異世界で、定番である神殿での職業スキル獲得で「オダノブナガ」というだれもわからない職業スキルを貰う男の話。
H 井の中の井守『信長の妹が俺の嫁』(ノクスノベルス 3巻)
 1巻目しか読んでないので、3巻で完結しているのかどうかよくわからない。なろうの18禁サイトノクターンノベルの書籍化で、浅井長政に憑依転移してお市とぱふぱふする話。1巻目を読んだ限りでは魔物があたりまえにいたり、エロシーンにページを取られるし、戦国ものとしては興覚めする。

(未読)
 ・シムCM『加賀百万石に仕えることになった』(カドカワブックス)
 ・スコッティ『平手久秀の戦国日記』(ホビイジャパン)

 未読のものはたぶん他にもあるのだろうけど、今のところはこんなもの。@〜Cの話については、読み比べると相乗効果もあって楽しい。


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