日本全集SF・総解説
Notes on the collected works

フヂモト・ナオキ


第二回配本 『高村光太郎全集』

『高村光太郎全集』といいつつ、ほとんど高村はパス状態だが、

『高村光太郎全集』1〜21+別巻、筑摩書房、1994(増補版)〜1998年。

 読めば、ホコリも立つんだろうが、ぱらぱらめくるだけで、なるたけ手を抜くというコンセプトなので、とりたてて物珍しいネタには行き当たらない。ただ、21巻に多田不二(1893〜1968)宛の書簡が数通収められていて、そこに気になる一節が。

「ウエルスの御訳も読みました 名状しがたい感動をうけました 初めて読むものでした 御健康をいのりながら」(大正6年6月6日)

 ううむ、これって「ハード・ゲイ、ハード・ゲイ」と小学校で囃し立てられてイジめられていたH.G.ウエルズ君かなあ(←いや、そーゆーイジメはなかったと思うぞ)。
 <常盤木>という雑誌に載ってたものらしいが、同名の雑誌は幾つかあるが該当するものは高村全集の編纂者も見つけられなかった模様。
 で、多田不二全集と銘打たれていても不思議はない二巻本の『多田不二著作集』潮流社、1997〜1998年の方に目を移すわけだが、こっちの書誌にも残念ながら当該誌は捕捉されてません。
 多田不二といって、ああ、と思う人も少ないと思いますが、室生犀星のお友達の詩人だった人で、時事新報を経て東京放送(日本放送協会)に入局して、後半生は放送人として活躍した人で、甥に免疫学で有名な多田富雄がいる。
 多田富雄は『多田不二著作集』「児童文学・評論篇」に「大叔父多田不二のこと」という随想を寄せていますけど、若い頃は文学者志望だったんだねえ。いや、文名は高いけど全然読んでないんで、江藤淳と同人誌をやって話とか初めて知ったよ。叔父の紹介で詩人の笹沢美明の所へ出かけてカレーをご馳走になった時、さっと二階へ上がってった人物がいたが、後になってそれが息子の笹沢左保だとわかったとか。無知なので笹沢左保のお父さんが詩人だった話とかも初耳だよ。はっはっはっ。

 この「児童文学・評論篇」には大正時代の<少年>に連載された島津少年記者探偵録という少年探偵モノ「支那街の事件」「南洋曲馬団」「無音の飛行機」が収録されている。いや、そこまで気合を入れなくても、とは思うが、ミステリー・マニアでまだお買い求めでない方。アマゾン等で注文できるようですぜ。
 ま、「無音の飛行機」と<少女>連載の「霧の夜の怪」あたりは多少SF的なガジェットが出てくるけど、SFマニアの人も注文しますか。そうですか。
 なんか最近のピアソンに出てたオースチン・フリーマンのThe Apparition of Burling Courtが云々とか書いていたり、「私の霊怪異説考証は吾れながら少し凝り過ぎてゐるやうに思ふ」などと述懐してたりするので、怪談とか探偵小説も結構好んでいた模様。掘ればいろいろと出てくる人なのかも。


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