みだれめも 第104回

水鏡子


 ここしばらく、アリス・ソフトのギャルゲーをちょっと古めのところを含めていくつか遊んだ。遊び心があってゲーム性という点では、非常に好ましいものが多いのだけど。ゲーム・バランスやシナリオ展開がわりと大雑把というか平板なところがあって、少しばかりもどかしい。『鬼畜王ランス』『アリスの館4・5・6』『戦巫女』『かえるによ・ぱにょーん』とここしばらくの作品は、Hゲームと思えない健全路線の連続で、平板ななりにあったかみがあって気にいっている。

 こうした路線の極めつけが『王道勇者』。主人公が不幸な境遇の女の子たちを助けようとするうちに世界を支配しようとする魔王と戦うことになるという、英雄ファンタジイのまさに王道をいく正統派RPGソフトである。オリジナリテイという意味ではほんとうに目新しさがないのだけれど、盛り込まれた女の子たちのエピソードのひとつひとつが泣かせのきいたできのいい話に仕上がっていて、定番の物語が決まった時の予定調和の快感を十二分に味合わせてくれる。クライマックスの、心が合わさるシーンでは、お約束だよなと思いつつも、感涙にむせいでしまった。

 たとえば、エルフの『ドラゴンランス4』をスーファミ版でやってみて、つくづく感じたのは、エルフのSF性の高いすぐれたシナリオが、最終的にHシーンに収束する構成で仕上げられているせいで、そこを抜いてしまうとゲーム自体がピントのぼけた出来栄えに終わってしまうという残念な結果だった。ここしばらくのアリスの作品は、Hシーンがむしろゲームの軸から脇に移されている感じがある。ある意味で、子供が遊ぶことを前提にしていないことにより、かえってFFやドラクエ以上にストレートに〈王道勇者〉物語をゲーム化できたといっていいかもしれない。

 SFマガジン3月号で投票する年間ベストは、11月から翌年の10月までの1年間を対象としている。だから4月の終わりというのはちょうど半年経過した、折り返し点にあたるのだ。なんか感覚的にピンとこない。

 今年は日本、英米ともに粒が揃った豊作年の気配である。あいかわらずゲームで時間を潰しているのに少々うしろめたさがある。

 じつはまだ読み終えていないものもあるのだけれど(どれのことかは、みなさまおわかりのとおり、もちろんアレです)、当面の翻訳ベスト5は順不同で以下のもの。

 他の人が選んでいそうなもので、はやばやと選外に落としたものにはブルース・スターリング『ホーリー・ファイヤー』、オースン・スコット・カード『消えた少年たち』(早川書房)がある。贅沢な選択である。

 『タイム・シップ』は一人称も味方して、バクスターの本のなかではこれまでになく読みやすいけど、ドラマトゥルギーのわるさはあいかわらず。SF最前線を渉猟し開陳する博識もテーマが羅列に終始して、平板さを脱せない。主人公とネボジプフェルがもう少し魅力的なら迷わず今年のトップに推す。序文を集めただけの話のはずの『虚数』で、収録作品相互の関係だけで物語性を浮かびあがらす離れ業を見せつけられた直後なだけに、評価がすこし辛口になる。ただし本書の場合、問題点は「欠陥」というより「欠点」のレベルまで改善されているともいえるし、なにより羅列されるヴィジョンのすばらしさは「欠点」を補ってあまりある。時間ものとして期待すると目新しさにかけるけど、巨視的視野で繰り広げられ視覚化されるいくつもの人類文明の荘厳さは、いわば「太陽系最後の日」のグレードアップ・ヴァージョンだ。それが、なんで、もっさりとして、アーサー・C・クラークの感動に結びつかないのだろうか。苛立つ。ともあれSFのエッセンスを網羅した入門書として最適の本。

 『スペアーズ』は話の破綻や御都合主義を、作者/主人公のテンションの高さで掩い隠し、気分よく結末へと導いてくれる。

 『スロウ・リバー』もすべての事件が安直に一本の線に収束するお話作りにちょっと興ざめするけれど、設定される近未来社会と交差する人間ドラマのひとつひとつは楽しめるもの。質の高い少女マンガを連想する。

 ピーター・ディキンスン『毒の神託』(原書房)はあいかわらずの、ディキンスン節。異質な小集団を非西欧文明論的に対比させ、解剖学的に描き出していく手続きが、SFみたいで、出ると必ず読んでいる。ぼくのなかではスティーブン・キングよりSFに近しい作品世界の建設者である。大きな世界から孤立し、滅びゆくさだめにある人々への共感と、かれらが滅びゆくことへの諦観の、湿気の多い色調は、じつは主人公自身を滅びゆくものとする規定があって、そんな心情を投影できる集団を見いだすことの喜びでもあるのだろう。そして明日への希望としての子供たち。こういうのを文学的香気と思っていたこともあるのだけれど、これはこれでしたたかな、定型エンターテインメントである。


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