内輪 第92回 (96年2月)

大野万紀


 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。 去年からMDが欲しいといっていたんですが、結局それは買わずに、エプソンのカラースキャナーを買ってしまいました。GT−5000WINSというやつ。ケーブルとかつけて4万弱でした。うちのPCは拡張ボードが埋まっているので、SCSIでつながるのを買ったんですが、実は買ったものだけでは動かない。事前にNIFTYでフリーのドライバーソフトが必要とか聞いていたので、ダウンロードしてちゃんと動かせたのですが、店員も知らなかったようだし(これだけで大丈夫です、と保証されてしまった)、普通の人は困るんじゃないだろうか。それはともかく、さっそく年賀状の作成に利用しました。というわけで、杏子のネズミの年賀状が行った方、久美子のスラムダンクの年賀状が行った方、これがカラリオの成果です。
 年末の青心社&THATTAの忘年会にも今回は家族で参加できました。ここでも佐脇家の赤ちゃんが大人気。ビンゴでも競馬ゲームでも悠輔がまぐれの大穴で、嬉しいお年玉でした。

 それでは、最近読んだ本から。


『遠き神々の炎』 ヴァーナー・ヴィンジ
 岡だんなは、五〇ページ目かそこらで「カマキリ」というコトバが出てきたのにびっくりして読む気が失せたといい、訳者の奥さんは何でこんなに長くて面白くないものを訳すのといったとか。でも、カマキリうんぬんは、この手のSFだと、翻訳上の問題(あ、英語からじゃなくて、異星人の思考からのね)だと考えることにしているから、そんなに気にならない。初めの内は、いやー、なかなか派手なスペオペでいいんじゃないかと、ずいぶん好意的に読んでいたのです。オオカミ族も、集団精神というのがちょっとわかりにくいんだけど、なかなか可愛いし。これは好きだな、と。でも、銀河のネットニュースというのが、本当のネットニュースに負けないくらいのゴミだめで、作者はインターネットでこんなのばっかり読んでるんだろうか、と思ってしまったあたりからケチが付き出す。こんなマヌケなネットニュースをコミュニケーションの基盤においてる文明社会というのが、もうそれだけでイヤな感じだ。だからそんな文明がいくつ崩壊しようが、何百億人が死のうが、レンズマンの惑星破壊ほどにも痛みを感じないし、寄生体もご老体もどーでもいいわなあという感じ。何とか圏というのもS F的な理屈にもなっていなくて、だからどーなの、といいたい。それでも上巻は何とか面白がって読めたのだが、下巻になるともう飽きてきた。特に結末にかけては実にいいかげんなストーリー展開で、惰性で読むしかない。まあ、まるっきりの駄作というわけでもないんだが、期待は裏切られたというところでしょう。

『無限アセンブラ』 ケヴィン・アンダースン&ダグ・ビースン
 ナノテクSF。月に飛来した異星のナノテク。それを調査する月基地の人々と、始めはぐいぐい引きつけるものがある。スリリングだし、けっこうハードSFっぽいし、異星のナノテクが意志疎通不能で、一体何をやっているのかさっぱりわからないというのもいい。登場人物の造形も悪くない。でも、半ばを越えたあたりから少し収拾がつかなくなり、最後は何だこりゃの世界。南極のエピソードはどうでもよくなり、ストーリーは中途半端で続編でもなければ解決しない。ちゃんと考えたのかといいたくなる。これって合作の失敗ではないんだろうか。

『荒れ狂う深淵』 グレゴリイ・ベンフォード
 ベンフォードのこのシリーズも、ビショップ族の話になってからは、ハードSFというよりもワイドスクリーンな感じが大となり、面白く読めるようになってきたと思う。それでも、まだ不必要にわかりにくい部分が多い。登場人物たちの行動も行き当たりばったりに見えるし、例えばトビーのシボに対する扱いも首尾一貫していない。だけど、こういう壮大な話はやはりSFの大道だなあと思う。銀河にあまねく人類が広がった後の、たそがれの遠未来というのは、いつでも心をひかれる嬉しいテーマですね。

『二重螺旋の悪魔』 梅原克文
 読み終わるのに結構時間がかかってしまった。始めは快調なホラーという感じなのだが、途中からかなりだれる。やっぱり『ソリトン』の方が読ませる。ストーリーテリングは平井和正か山田正紀か、といった感じで悪くはないと思うが、とにかく科学的にむちゃくちゃなことを断定的に書かれると、おいおいと思うし、戦争物になってからがこれまたワンパターンで単調だし、長すぎる。上巻だけで十分だったんじゃないのかな。『ソリトン』ではそう気にならなかったのにな。それだけうまくなったということか。

『悪魔の挑発』 ピアズ・アンソニイ
 ザンスの新シリーズだ。水鏡子が、小ネタがいっぱい、といったようなことをいっていたが、短いステージがいっぱいあるゲームみたいな小説だ。で、けっこうそのショートストーリイに力が入っていて、面白い。水鏡子がいう「艶笑譚」というのはそぐわないと思うが、ほのぼのと思春期っぽいエッチ感覚がほんわかと漂って微笑ましい。でも、ショートストーリイはいいのだが、全体のストーリイの方がちょっとねえ。行き当たりばったりな感じ。この結末の付け方は(いくら続編があるとはいっても)良くないと思う。

『時間泥棒』 ジェイムズ・P・ホーガン
 薄い! 長編と言うより中編だ。話は、五〇年代のユーモアSF作家が書けば傑作だったといえるような、面白いといえば面白いんだけど、しょうもないといえばしょうもない話。あんまりハードじゃない。まあどうでもいいや。『創世記機械』や『未来の二つの顔』の重戦車のようなホーガンはどこへ行ったの。こんなに薄くちゃホーガン投げもできないよ。

『攻撃衛星エル・ファラド』 谷甲州
 軌道傭兵シリーズの続編、というか、同じ時間線の話だ。月と火星が舞台で、土木作業現場が出てきて、地味だけど熾烈な戦闘が描かれる。いいよねえ、こういうのって。好きです。大仕掛けなSFもいいが、こういう地味でリアルでシリアスな、細部の積み重ねがいかにもっていうのが、ファンにはこたえられない。もっとも、これだけリアルだと、背景の政治的な状況が(きっと考えてあるに違いないのに)ほとんど描かれないのが不満になってくる。この当時の国際状況ってどうなっているんだろう。上巻の、月面上の話がいい。月面での戦車戦というのが、イメージ強烈。

『神の鉄槌』 アーサー・C・クラーク
 まるで短編のようにアッという間に読めてしまった。クラークらしいクラークだ。地球に衝突する小惑星という話なのだが、とっても淡々としている。描かれているエピソードもストーリーと直接関係ないものが多い。クラークはストーリーを語るよりも、未来の情景を描くことに遥かに力を注いでいるのだ。結局シリウスからの電波は何だったんだろう。ま、短編集みたいという印象もそんなところから来るのかも。でも好きだ。クラークには、こういうハードな科学から醸し出される詩情のようなものを、ビビッドに読者に伝える力がある。もっとこういうのを読みたくなった。

『鉄鼠の檻』 京極夏彦
 何よりもまず分厚い。とにかく物理的に読みにくい。本がきっちりと開かないし、持っていると腕が痛くなる。通勤中には無理だから、連休がなかったら読めなかっただろう。でも、(難しい漢字が多いのはともかく)話としてはむしろ読みやすく、一気に読めた。しかしまあ、これは……。ぼくには面白く読めたのだが、殺人事件の方は、ああそうですか、としかいいようのない解決だなあ。どう評価していいのかよくわからない。何だかもの悲しい、人を食ったような話だ。でも、表題の『檻』である謎の僧院のミステリーの方は、禅の難しい話などさっぱりわからないというのに、とても面白かった。唐突だけど、ホーガンにこういうとんでもないアイデアの話があったよね。世代宇宙船が実は……というやつ。これはどうもハードSFの面白さに通じるんじゃないだろうか。非日常的な謎が、リアルな(知識のないものには充分リアルに見える)ディテールの積み重ねで、理屈っぽく語られるといったところ。禅宗の歴史に関する蘊蓄も、わからないなりにぼくには興味深かった。いつもの登場人物たちの漫才も面白いのだが、今回はちょっと暗かったかな。


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