内輪 第91回 (95年12月)

大野万紀


 今年の京フェスは合宿のみの参加となりました。SFクイズは恒例のアナグラムの他、ジェスチャークイズが面白かった。山岸真の「さなぎ」は水玉さんにSFMでも紹介されてたけど、本当によかったよー。大広間の自己紹介で、NIFTYのFSFでホーカが好きと書いてあったのを読んでにやにやしてます、といったら、それを書いた本人の女の子が来ていて、びっくり。『ソリトンの悪魔』をけなす派と誉める派で論争しようという話もあったのだけど、みんなばらばらになってしまったので論争にならず。ぼくは志村の部屋でトラルファマドールの時間理論を聞いていたけど、さすがに眠くて1時ごろには寝てしまった。コンベンションモード全開せず、というところだな。 『ソリトンの悪魔』をめぐる議論については、またそのうちあらためて考えたいと思う。本格SFと新本格SFがどうだこうだ、というよりも、SFにおけるエーリアンの扱いということで、かなり根本的な議論になると思うのだ。エーリアンが簡単に口をきいてもいいのかい、という問題は、SFというものを作り上げているミームの起源にからむそれなりに重要な問題だと思う。ああ、でも何だか中途半端になりそうな 予感も……。

 それでは、最近読んだ本から。


『ブラック・ハート』 マイクル・コナリー
 ロサンジェルスが舞台のハードボイルド。古沢くんからの贈呈本。このシリーズもずっと読んでいるけど、ぼくみたいなあまりミステリを読まない者にも確かに面白い。純粋なミステリファンにとってはどうだかわからないけど、はやりの異常犯罪を扱いながら、法廷もののようでもあり、いろいろと映画的な情景が浮かんでくるような書き方で、クールです。続編が出たらやっぱり読みたいと思う。

『ウォッチャーズ』 ディーン・R・クーンツ
 今頃読んだ。知性ある犬の話。でもね、このワン公、可愛いことは可愛いんだけど、ちょっと生意気だと思いませんか。これが映画ならもっと素直に楽しめたかも知れない。後半が尻つぼみのような気がする。クーンツらしい、これでもかというサスペンスの盛り上がりが見られないで、何か中途半端な感じ。期待が大きかったせいか、不満な点が目立ってしまった。

『深夜の弁明』 清水義範
 古本で買った文庫本。このころの清水義範が一番面白いんじゃないだろうか。「喋るな」「乱心ディスプレイ」「百字の男」「コップの中の論争」などがとりあえずお勧め。

『シミュレーションズ』 ケアリー・ジェイコブソン
 ヴァーチャル・リアリティがテーマのアンソロジイ。ブラッドベリの「草原」から始まるというセンスが嬉しい。で、一通り読んでみると、どうも古い作品の方が面白かったりするんだなあ。ディックの「凍った旅」なんて、いいですね。新しいのではマッキンタイア「スチールカラー・ワーカー」やバールマン「サイカー昇天」なんかが面白かった。

『魂の駆動体』 神林長平
 面白かった。一言でいえば(近未来でも遠未来でも)クルマを作る話。いつもの、ヴァーチャル・リアリティをめぐる作者のおなじみのテーマも描かれているのだが、それよりも、手を動かしてモノを作り出す、創造の喜びといったところに話が集中していて、それがとても良かった。自動車に詳しいわけではないが、この面白さは良くわかる気がする。現在編も遠未来編も、とてもさわやかですがすがしい。気持ちのいい物語だった。

『ドゥームズデイ・ブック』 コニー・ウィリス
 分厚い本だが、これは傑作だった。特に後半がいい。中世へのタイムトラベルという単純な話だし、ストーリーそのものも、けして波瀾万丈というわけでもなく、とても狭い範囲で淡々と語られる、ごくストレートな物語だ。結末に向けての、悲劇を受けとめて力強くなったヒロインのけなげさは心を打つが、とりわけ強烈な人間ドラマがあるというわけでもない。でも良い話を読んだという感動が残る。結末は、まさにロバーツの「信号手」を思わせる。非情で、冷たく、美しい冬の情景。一方、未来編では、元気な脇役たちが光っている。ひょうきんな現代っ子(というのか?)コリンやウィリアムの活躍が、ヒーロー役のおっさんがもうひとつ盛り上がらず、うじうじと悩んでいるだけに、とても目立つのだ。黒死病でも疫病でもないけれど、ついこの前、身近に非日常的なカタストロフィを経験した身としては、そういう中での人間の変貌というのがすごく心に残る。軽薄そうな現代っ子がカタストロフィの中でたくましく異変と立ち向かう姿は、確かにこの目で見たのだ。タイムトラベルという単純な装置の導入によって、そういう現代とリアルな中世とが同じ物語で描けるという、ファンタジーで も歴史小説でもない、SFの特質を考えさせられる小説だった。中世の暗い森の中で、懐中電灯を照らすといったささいな描写に、わくわくするようなセンス・オブ・ワンダーを感じることができたのは、ウィリスの力量だといえるだろう。これでまた、今年のベストの順位が入れ替わってしまった……。

『遺伝子の川』 リチャード・ドーキンス
 ドーキンスの本はけっこう難しい。本書も短いし、一般向けに読みやすく書かれた解説書なのだが、どうも肝心なところでよくわからなくなるのだ。漸進的な進化があっと驚くような結果を導くというのは、繰り返しの説明で、まあわかった気になる(『ブラインド・ウォッチメーカー』の時よりも具体的な説明が多いからか)。でも〈神の効用関数〉の章は、いろんな例を上げて説明されているのだが、難しくてよくわからない。現在の姿を説明するのに〈神の効用関数〉が最大化されているという論法は、本当に説明になっているのだろうか。これって何でもありになっちゃうんじゃないだろうか。一つ一つの事例はなるほどそうですかという感じなのだが、太平洋の鮭も大西洋の鮭もおなじように説明できるのでは、何だかだまされたような気がしてしまうのです。

『寄り道だらけのオデッセイ/ギャラクシー・トリッパー美葉3』 山本弘
 宇宙の娯楽ステーションが出てきて、人生ゲームやって、宇宙海賊が現れて、となかなか波瀾万丈、派手派手で面白い。いろんな宇宙人が出てきて、いろんなトンデモな原理の小道具・大道具が出てくるのがとても楽しい。『泰平ヨン』ってこんな感じだったよなあ、と思ってしまう。これまでのシリーズで一番まとまっていたんじゃないだろうか。


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