SFファン交流会レポート

2026年6月 「『ライトノベル大全』刊行記念企画 ラノベ50年、好きが止まらない!」

大野万紀


 6月のSFファン交流会は6月27日(土)、『ライトノベル大全』刊行記念企画 ラノベ50年、好きが止まらない!と題してzoomにて開催されました。
 出演は、細谷正充さん(文芸評論家)、三村美衣さん(レビュアー)、タニグチリウイチさん(書評家)、中津宗一郎さん(発起人)、天野里美さん(時事通信出版局担当編集者)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、天野里美さん、中津宗一郎さん、タニグチリウイチさん、三村美衣さん、細谷正充さん、みいめさん(SFファン交流会)さんです。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。自分の書いた資料をベースにしていますが、チャットも含め当日のメモを元に簡略化し、一部補足して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。


根本(SFファン交流会):本日は、『ライトノベル大全』の刊行を記念して、ラノベの50年を語り尽くす3時間をお届けしたいと思っております。今回は発起人の中津宗一郎さん、編集者の天野里美さん、企画・編集をされた細谷正充さん、三村美衣さん、タニグチリウイチさんをゲストにお招きしています。なお、企画・編集者のお一人、太田祥暉さんは本日ご都合が悪く欠席なさっておられます。

みいめ(SFファン交流会):まず編者の方からライトノベルとの出会いについて。

細谷:読み始めたころはライトノベルなんて言葉はありませんでした。まあジュビナイルですね。そんな中で朝日ソノラマから高千穂遙さんの『クラッシャージョウ』が出たんです。『ライトノベル大全』では『クラッシャージョウ』をライトノベルの起点とする原稿を書いていますが、個人的には面白かったという以上の印象はなく、高千穂さんなら『ダーティペア』の方が衝撃的でした。ライトノベルで個人的に印象に残っているのは、笹本祐一さんの『妖精作戦』、とりわけ第二作の『ハレーション・ゴースト』にものすごい衝撃を受けました。イラストも第一作は当時のジュビナイルの絵だったのに、ここから平野俊弘さんになってアニメ調になった。自分たちの世代のものが出てきたという印象で、ライトノベルとの出会いといえばこれになります。

三村:今回、編者の4人のうち太田くんがいないので、実は3人とも同世代なんですよ。だからみんなほとんど言うことが同じになってしまう。若いのは太田くんだけ。わたしもライトノベルというもののない時代から読んでいたし、中学生のころにはもうSFファンになっていたんで、高千穂さんも新井素子さんもSFの文脈で読んでいた。だから特別新しいものという意識はなかったんです。
 逆に大人になってから読んだ『妖精作戦』にぶっ飛んだ。そこにはリアリティのジレンマというのがあります。ジュビナイル、ヤングアダルトの小説は子どもにとってリアリティの壁がある。自分のものとして読むにはリアリティが邪魔になるし、逆にリアリティがなければつまらない。ところが『妖精作戦』を読むと、高校生が高校生のまま宇宙に行って、高校生のまま帰って来る。これがすごいと思った。子どもが行って子どものまま帰って来るというのは、ぶつかるものが大きくて限度があるわけですね、でも『妖精作戦』ではその大きなものに自分たちで風穴を開け、大切なものを失って、変な言い方だけど喪失感を手に入れて帰って来る。この喪失感が重要で、それをジュビナイルという言葉では表現できないと思い、ヤングアダルトというのも変なのでYAとしてSFマガジンでレビューするようになりました。
 当時もう富士見ファンタジア文庫などがガンガン出ていて、これを無視したらいかんやろというのがわたしとライトノベルの出会いです。

タニグチ:もともとアニメ好きだったんで、じゃあ小説で読んだらどんな感じかなと『宇宙戦艦ヤマト』のノベライズあたりからソノラマ文庫やコバルト文庫などを読み始めたんだと思います。『機動戦士ガンダム』は安彦さんがキャラクターデザインをやっていたので、じゃあ安彦さんのキャラクターの小説が他にあるかなと探したら『ダーティペア』か『クラッシャージョウ』かどっちが先だったか忘れたけど、じゃあ読んでみようかと。そうやって高千穂さんを知り、新井素子さんや夢枕獏さんを知る。アニメ起点で読み始めてそんな風に広がっていく。伝奇ものとか、魔獣とか。そういうのがまず一つ。
 それからやっぱりSFというのがベースにあって、岩崎書店あたりから出ていたシリーズなどを読んでいたというのが一つ、それに79年から81年にかけて早川がSFコンテストを再開して、そこから火浦功さんや新しい世代の人たちが出てきた。その人たちが当初はSFマガジンに書いていて、それから文庫の方に出てきた。マンガの表紙がついていたり、これは追いかけなくてはいかんぞと。
 ライトノベルというジャンルも、アニメのノベライズと、SF作家がそっちに広がっていった流れを追いかけているうちにレーベルというものができ、その文化の中で、作家とジャンルで読んでいったという感じですね。

みいめ:ありがとうございました。それでは、この『ライトノベル大全』という、500冊もの作品を一つの本にまとめるという想像もつかない本がどうやってできたのかというお話を伺いたいと思います。

中津:20年前に『ライトノベル完全読本』という本を出したんです。これは日本で最初に出た、ライトノベルの解説本だったんですけれども、非常に好評をいただきました。ただ、それから20年経って、ライトノベルが生まれてから50年という節目の時に何か決定的な本が欲しいね、みたいな話を細谷正充さんと天野さんの方に持ちかけまして、それがきっかけになったという感じです。

天野:わたしは昔のライトノベルのこととか良く知らないんですけど、『少女小説ガイド』という本を編集したのがきっかけで、何年前ですかね、中津さんから細谷さんにライトノベルのリスト150冊をまず選んでくださいと声をかけられて、その時にわたしも呼ばれたんです。時事通信社という会社は他社とのしがらみがなくてガイドブックが出しやすい環境にあるんです。

細谷:中津さんから150冊選んでよと言われて、いいよと答えたんですが、その時思ったのが2010年代以降は弱いなと。まあ自分の他にも何人か作ってもらった方がいいよと中津さんには言いました。前から50周年記念に何か出したいとは聞いていたんですが、天野さんが加わったことでこれは本当にやるんだと。そこで三村さんやタニグチさんも入るのなら何とかなるんじゃないかと思いました。
 その昔、『ライトノベル完全読本』が出た後、うちでもライトノベルのレーベルを作りたいと色んな会社から言われたんですが、あれは一過性のものだから止めた方がいい。むしろレーベルを立ち上げるよりネットでサイトを作った方がいいのではとアドバイスしたことがあります。

天野:リストが集まってきたとき、わたしはどうしたらいいかわからなくて三村さんに相談したんです。そこでアドバイスをしていただいたのを本当に感謝しています。

三村:互いに言葉が通じていないと思ったので、わたしは通訳に入るだけのつもりだったんです。でもできたらいいなとは思っていたんで、1年以内に出す方法を考えたんですよ。
 ライトノベルは物量の世界なのでとにかく物量で勝負するのがいいと思った。500か1000といったんだけど、500が現実的かねと。500冊のガイドを1年で出すにはやっぱりブックガイドに徹底して歴史という項目を立てないという方針がありました。通史を読んでライトノベルをわかったと思ってほしくない。一つの流れでできているわけじゃないから。作品主体で書けば、本数はともかく1つ1つを書く負担は小さくなるんです。自分でやるつもりはなかったのだけど、天野さんから入ってねと言われて断れなかった。

天野:中津さん細谷さん三村さんは初めからそのつもりだったし、他には誰に頼むか、そこも決めていただきたかったんです。

三村:そこで20代の一番若い太田くんに入ってもらった。本を作ると決めたとき、500冊をその時点で大トピック、中トピック、小トピックと分けて、それを誰に頼むかというのにも思うところはあった。4人で何度も会議をしながら誰に頼むかも決めていったんです。とりわけ大トピックについては説得力のある人に書いて欲しかったということがあった。大トピを何にするかは明白に決まっていたんで、あまり悩んではいないんです。
 ただ500冊を選ぶとき、候補からたくさん落としました。例外もあるけど同じ作家が偏らないようにとかいくつかルールを決めて、450本くらいに絞ったリストを作りました。本が出る前にまたもっと作品が出てくるだろうと予想してたんで。

タニグチ:『少女小説ガイド』を2本やっていてそこから『ライトノベル大全:』の会議に合流しました。大トピックはぼくらが選ぶと古い作品で固まってしまう。ラブコメ系、なろう系に弱いから。なろう系は細谷さんがめっちゃ強いし、太田さんが詳しかったので助かった。

三村:前半211編がひとつの折り返し点になっています。後半はなろう系が進出してくる。初め2分冊で出す話があったが、それだと全く違う傾向の2冊になってしまうので。

天野:1冊になったことで会社には怒られました。でも1冊にしないと読者は離れたと思えるので。

細谷:ネット小説は流行の移り変わりが激しくて定着したのは悪役令嬢ものくらいかな。

三村:ライトノベルも移り変わりは激しい。ライトノベルの特徴として書き手が若い、読者が若い。読者から書き手に移行する新陳代謝の回転が速い。投稿数が尋常ではない。そうなると毛色の違うものを意識的に狙う人と天然で書けちゃう人がいる。そういう違うものをぱっと出しちゃうというのがライトノベルの特徴。新井素子さんの例があってこれ自分でも書けると思うフォロワーを呼ぶ。新井素子さんが小説を書く敷居を下げたんです。

みいめ:50年史としての話にうつりましょう。2004年に『ライトノベル完全読本』や『このライトノベルがすごい』が出ます。このあたりの時代はどんな感じですか。

タニグチ:電撃文庫ではイラストも公募して作者も新人同士。ゲームから来た人たちをどんどん採用していったような気がします。ネットや、違う文脈から出てきた人も。印象に残っているのは『ブギーポップは笑わない』のイラストの緒方剛志さんですね。緒方さんは18禁ゲームでぼうのうとという名前で活躍されていた人です。それまでの美少女と違って目が大きくないとかシンプルなんだけど味があるイラストでした。

中津:大きかったのは電撃文庫の創刊ですね。日経から『ライトノベル完全読本』を出すとき電撃文庫にポイントを置いたんです。ライトノベルが売れていても出版業界ではそんなに話題にならなかったのを、日経BPが出したということで角川でもIP(知的財産)として位置づけられた。それが一つの功績だと思います。
 イラストレータも2000年ごろからはネットから探すことが大きくなりました。まだPixivが出来る前で、自分のホームページを作るようになっていて、コミケとかでは発見できないイラストレータをそこから発見していったんです。以前はイラストレータの賞とかもあったんですが、最近はなくなりましたからね。賞に応募するより、Pixivなどで自分で自由にアピールしています。

タニグチ:イラストレータさんにファンがついていて、そのイラストがついているからと本を買っていくようなことがありました。

中津:そうですね。いのまたむつみさんのイラストだから『風の大陸』を買うみたいな。ライトノベルではイラストが大きな要素の一つとなっています。

タニグチ:今回の『ライトノベル大全』で、イラストレータの系譜やそれとの関連について扱えなかったのが心残りです。でもぼくらでやろうとしても大変だから、誰かやれる人がいないと。何がすごいのか、どうして人気があるのか、具体的には説明できない。

みいめ:ゲームとの関係はどうですか。

三村:ゲームとの関係は昔からあって、『ロードス島戦記』もゲームから出てきた。ゲーム的異世界ファンタジーの原点です。でも最近は逆にゲームの方がマニアックになっているので、まあヒット作はあるけれど、今はちょっと違ってきているんじゃないかな。
 ライトノベルのレーベルがポコポコと立ち上がってきた当時、まだ新人賞とかやる前だったので、ほとんどの書き手は(SFとか)知っているところから探してきたという時代なんですけど、その時に関連はあってもそれとは違う文脈から出てきたのがゲームの世界から来た人たちなんですね。それが中村うさぎさんだったり 深沢美潮さんだったり、水野良さんだったり。それがライトノベルに本当に新しい流れ、ゲーム的異世界ファンタジーというものを作り出していったんです。

みいめ:アニメとの関連について。90年代になると表紙絵にしろタイトルにしろどんどん面白くアニメっぽくなってきます。あかほりさとるさんって一世風靡しませんでした? アニメ見てもあかほりさんだったような。

三村:あかほり時代っていうのが存在するんです。あかほりさんはシナリオの世界から出てきた人。

中津:アニメのシナリオライターをしていた方で、『天空戦記シュラト』のノベライズが小説の方では最初ですね。でもアニメでいえば美樹本さんや安彦さんがライトノベルのイラストに入っているし、ライトノベルって近接ジャンルをすごく取り込みやすいですよね。ゲームにしろアニメにしろ、あと美少女ゲームとかにしろ。

三村:新人賞が始まる前の書き手というのは、まず一つは既存の作家、もう一つは同人誌などで活動していたファンライター出身の人、それともう一つシナリオライターってのも一大派閥だったんですよ。

みいめ:なるほどね。もともと書ける人たちだし。あの『魔術士オーフェン』はどうやって出てきたんですか。

三村:秋田禎信さんは富士見の新人賞出身。でも『オーフェン』はもともと『ひとつ火の粉の雪の中』っていう、もっとずっと地味でめっちゃ意識の高いファンタジーだったんです。それで出てきて、その後『オーフェン』をいきなり書いて持って行ったっていう。

みいめ:わたしは草河さん(イラスト)の大ファンだったんで気になっていたんです。

三村:ファンタジーが売れなくなって、オワコンだと思われていたんですよ。そこに現れた。

タニグチ:電撃文庫の創刊というのもあったでしょうね。ファンタジーをガンガン出してたファンタジアやスニーカーが若干出し過ぎで飽きられていく。そこで電撃が新しいレーベルを立ち上げるに際して新人賞を作り新しい人を募集した。そこに古橋秀之さんとか上遠野浩平さんとかが入ってきた。
 上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない』も他のレーベルではなく電撃から出てきたことが大きかったと思う。それが時代が求めていたものだった。ヒーローやヒロインがバトルしながら成長していくといった話ではなく、断片的なエピソードを重ねつつ何が起こったかを浮き上がらせる。そこにブギーポップというトリックスターがからんで広がりを見せる。緒方さんのイラストもピッタリ重なって奇跡のような作品でした。作品のクールさと世紀末の気分。世界の裏に思いを馳せる中でヒットしたんだと思います。ネットの掲示板で若い人たちが騒いでいました。

三村:物語自体は閉じているんですね。『ブギーポップ』あたりから物語世界が閉じているっていうのがどんどん出てきてゼロ年代へつながっていく。

細谷:そこら辺からなんだろうな。ライトノベルが自分の求めるものから少しずれてきたという印象がある。閉じた世界の話っていうのは自分には合わなかった。

三村:でもある意味この時代が一番面白かったという気がする。出るもの出るものみんな異世界ファンタジーというのが終わって、中心が見つけられないまま、すごくいろんなものが出てくる。

みいめ:閉じた世界ってセカイ系というのと近いのでは。

三村:セカイ系も当然そう。ミステリーなんて完全に閉じた世界。それはもう物理的に世界を閉じるために学校という閉じた枠がずっと使われていたりするわけですから。ミステリーではある種の安全地帯を設定しないと個人の力がどこまでも及んでしまうので、物語を閉じる方策というか、何らかのものが必要になるんですよね。

タニグチ:『フルメタル・パニック!』のようにバリエーションとしてのセカイ系みたいなものもあれば、『ゼロの使い魔』のようなファンタジーもあったし、『涼宮ハルヒの憂鬱』のような、一人の個人的な思いが世界を変容させるというものもあるので、そういう幅が出てきた時代だと思う。

三村:幅はそう。ファンタジー一色だったのが終わって、本当に幅が出てきた。

みいめ:その幅の一つにセカイ系もあると。

三村:名づけただけで、別に目新しいものじゃない。青春小説にジャンル的な仕掛けを持ち込むとセカイ系になるんですよ。

みいめ:残り時間で3人のお勧めを紹介してください。

細谷:『ハレーション・ゴースト』はさっき話したので、
 川上稔『エアリアルシティ』。都市シリーズ。1作ごとに舞台が変わり、現実ベースだが現実とは違う世界。「機甲都市 伯林」が好き。
 出海まこと『鬼神新選』。ライトノベルの時代物で魔界転生な話。新撰組同士が明治に戦う。

タニグチ:滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』。ネットから出てきた学園小説大賞の応募作。鬱屈した青春。ひきこもり気味の主人公。
 橋本紡『半分の月がのぼる空』ファンタスティックだが日常的な世界を舞台。青春ライトノベルというカテゴリーができた。ライト文芸。
 白鳥士郎『りゅうおうのおしごと』。出た当時はロリものと思ったが将棋の世界をしっかり描ききっている。とりわけ女性棋士の問題をライトノベルという枠組みを超えて描いている。

三村:古橋秀之『ブラックロッド』。完全にSFだがかっこよさが爆裂。でもライトノベルでないと出せなかった。
 甲田学人『Missing』。神のような男の子と同級生たち5人が学園の怪異を追っていく。ホラーというより幻想味が強い。
 あざの耕平『BLACK BLOOD BROTHERS』。10代のセンチメンタリズムを備えている。

 本会はここで終了。二次会ではzoomに参加されていた執筆者の方も顔出ししてそれぞれの担当された本などの紹介をされました。


 7月のSFファン交流会はお休みとなり、8月のSFファン交流会は、8月1日(土)14:00より、zoomにてオンライン開催されます。テーマは「「SF資料館」探訪:SFアーカイブの守り人に訊く」。出演者は渡辺英樹さん(SF書評家)、渡辺睦夫さん(SFファン)。今回は現地での開催とのことです。


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