みだれめも 第282回

水鏡子


○近況(3月・4月)

 3月は特に大きなイベントもなく、だらだら過ごす予定だったが、大野万紀、岡本俊弥に誘われて、4月1日に名古屋渡辺兄弟のSF資料館に行くことになった。二人は日帰りだが、せわしないのでぼくは前日から一泊することにする。いろいろ楽しく過ごしたが細かい話は大野万紀にまかせる。ハヤカワJA文庫のダブり本を10冊弱頂く。こんなものを持ってないのかと驚かれたけど、当時は経済的にハヤカワSF文庫を買うのが精いっぱいで、SFシリーズやSFマガジンからの文庫落ちであるJA文庫には手が届かなかったのである。今も欠本がそれなりにある。あと、『宇宙船ビーグル号の冒険』の題字が、最初のころ「冒」の字が「冐」という文字であったことを教えられ、驚く。うん、うちにも両方の文字の『ビーグル号』がちゃんとあった。一応異体字として漢和辞典に掲載されている由緒正しい文字ではあるのだが、不思議なことに背表紙はどちらも「冒」の字で統一されていた。改定はどうやら創元推理文庫の通番の変更時になされたようである。「冐」の字は背表紙にある番号数字が332の時であり、「冒」に変わった時点の番号数字724となっている。

 一泊した理由のひとつは、名古屋まで行って、資料館に行くだけというのはコスパが悪すぎだろうという理由もあった。ただあいにくの小雨模様で、本を買って歩くのはつらい状態だったため、鶴舞駅のすぐそばにある2軒に寄ることしかできなかった。
 そのうちの1軒「大学堂書店」で500円均一で立派な本が大量に並んでいたのでひと箱買う。翻訳系文庫本定価2000円越えという時代に衝撃をうけ、古本買いのタガが外れてきている。
 500円購入の主な本:『岡本綺堂読物選集』(全8巻)、北方謙三『十字路が見える 完全版』(全4巻)、岩波書店『日本文化総合年表』、『ユートピア旅行記叢書⑮ポルノグラフィー』、原克『図説20世紀テクノロジーと大衆文化』、ジーナ・コラータ編『ニューヨークタイムズの数学』、H・G・ウエルズ『アン・ウェロニカの冒険』など。
 『岡本綺堂読物選集』は過去に「異妖編上下、翻訳編上下」と半分を100円で拾っているのだけれど、セットものをまあいいかと鷹揚に買ってしまった。北方謙三は「大水滸伝」を中心とした中国もの、時代歴史小説を中心に100冊ほど集まっている。本筋である現代ものに手を出すか思案中だが、取り合えずエッセイを拾い始めた。

 3月の購入冊数232冊。購入金額51,073円。クーポン使用12,100円。
 なろう本75冊。コミック20冊、だぶりエラーと買い直しは38冊。今年初の5万円越え。

 新刊は『冒険者カールの地球ダンジョン①②』、『ライトノベル大全』、『無常商店街』、『地球壮年期の終わり』で12,335円。頂き本にジョナサン・ストラーン編『星の海を駆ける』多謝。

 高額購入本が8冊。『復刻版「少年」 昭和37年4月号』(1,150円+クーポン6,000円)、野上曉『『小学一年生』100年の現代史』(205円+クーポン1,500円)、CD『懐かしのTV主題歌集』(1,430円)、学研『大正昭和少年少女雑誌の名場面集』、セシル・サカイ『日本の大衆文学』(各500円)など。金のある年寄り向けの懐古本に見事に引っかかっている。古本だから定価でないけど。ほかにも新刊で買ってもいいかなと思うところのなろう本を3冊ほど600~800円で拾った。

 西村寿行の単行本が220円で大量に見つかる。8冊まとめ買い。
 その他の主な単行本。
 海野弘『千のチャイナタウン』『都市の神話学』、「タイム誌」編集部編『「タイム誌」が見た新しい日本』、ルイジ・ルカ・キャヴァリ=スフォルツア『文化インフォマティクス』、ルカーチ著作集『②小説の理論』、ネットラウ『アナキズム小史』、内山節『時間についての十二章』、ルーシー・W・クラウセン『昆虫のフォークロア』、饗庭孝男『日本近代の世紀末』、日高昭二編『近代つくりかえ忠臣蔵』、R・L・スティーブン『虜囚の恋』、ジム・クレイス『食料棚』、ソーニャ・ハートネット『真夜中の動物園』など。

 『文化インフォマティクス』はそのタイトルからは想像しづらいが、進化論というか『イヴの7人の娘たち』と同じ、遺伝子伝播に関する本である。

 4月の購入冊数218冊。購入金額35,047円。クーポン使用4,600円。
 なろう本59冊。コミック19冊、だぶりエラーと買い直しは28冊。

 新刊は『この作家この10冊②③』、『恋愛少女漫画全史』、『されど罪人は竜と踊る0.6』、『汝、暗君を愛せよ③』、「創5月号」、「SFマガジン6月号」で12,848円。頂き本に前述渡辺資料館ハヤカワJA文庫、イアン・フレミング『007薔薇と拳銃』多謝。

 冊数は先月と変わらないが、クーポンと合わせた出費は三分の二になった。300円以上の本は、なろう本を除くと佐藤圭『100冊の徹夜本 海外ミステリーの掘り出し物』(92年300円)1冊のみ。高額本なしというのが理由だろう。

佐藤圭『100冊の徹夜本: 海外ミステリーの掘り出し物』 (カタログハウス) 〇

 「こんなに面白いのに、あんまり評判にならなかった40冊」「これは評判をよぶぞと思ったら、案の定、評判をよんだ38冊」「すでに名声を確立していたけど、ついとり上げてしまった22冊」と3つに分けてB級ベースのミステリ主体にSF、ホラーを交えた選択をしている。
 他作品への言及も多く、それなりに面白い。薄い本ながら言及されている作品数は200冊近くに及ぶ。読みたくなる本を広げていくガイドブックとしてこのやり方はありだと思う。300円をはたいた価値は十分ある。
 もっとも僕が購入した一番の理由は、「すでに名声を確立していたけど」の22冊に『73光年の妖怪』が取り上げられていて、???となったせいである。全体の半分以上をマッキャモン『スティンガー』けなしに費やし、『20億の針』のヴァリエーションとして本書をほめたたえているのだが、どこで名声を確立していたのだろうと首をかしげる。『南総里見八犬伝』そっくりという触れ込みで『アトムの子ら』を紹介してたり、まあ楽しく読める。

 4月末の時点で株資産は2月末から500万のマイナスとなる。すべてトランプのせいである。通算ではまだ若干の含み益状態なので(笑)で済ませているが、投資だなどと考えている人たちはたいへんだろうなあ。NISA貧乏などという言葉もあるらしいし。
 間違えてはいけないのは、株というのはただのバクチだということ。バクチであると割り切れば、負けても自業自得と納得できるし、そもそもバクチで一番の醍醐味である売り買い部分を投資信託などと他人にやらせて損させられたと怒る方がおかしいのである。競馬やパチンコといったギャンブルと比べると、非常に勝率が高い。ただし勝率をあげるためには投入資金を千万単位にしなければならない。ぼくが大損をくらったのは、書庫建設のため持ち株を売って小さくなった母集団を、戻そうと無理を重ねたせいである。
 あと、一口話として伝えておきたいこととして、株式上場に際して、社の気風にそぐわない無駄遣いと株主に批判されることを恐れて、高尚な活動を停止されることがあるということ。サンリオとかベネッセ(福武書店)とか。

 4月に入って梅田にまんだらけが書籍コミックを数千冊規模での55円均一での大処分を開始する。大半がコミックであることもあり、ほとんど買えるものがなかったがそれでも『艶漢⑬』『甘い生活Ⅱ⑬』などの欠本や『陰陽師玉手箱②④⑤』『マカロニほうれん荘①②』などを買う。購入量が少なすぎて優待の2000円クーポンが使用できなかった。

 四天王寺古本市がはじまる。初日29日に行くとものすごい人出である。百円均一コーナーや3冊500円でひと箱購入。帰途天神橋筋の天牛書店によると50円の文庫コーナーに手を出していなかった『魔界水滸伝』文庫版があったので25冊をまとめ買う。古本市があると立派そうな(たぶん読まない)本が一気に増える。

 4月に買った主な本

 SF関連及び小説類:
 単行本『空から墜ちてきた歴史』、広瀬正『鏡の国のアリス』、『グリーンレクイエム』、田中芳樹『ブルースカイドリーム』、ケン・キージー『郭公の巣』、十二支の物語『④夢の蹄』、『EVA EXTRAEX』『エヴァンゲリオン、好き?』、佐野洋子『覚えていない』『問題があります』『役にたたない日々』、『吉行淳之介長編全集』など。

 美術・文芸評論系:
 『椛島勝一画集』、グラフ日本映画史戦後編『ああ銀幕の美女』、別冊一億人の昭和史『昭和の流行歌手』、那須頼雅『大愚の遍歴―マーク・トウェイン論究』、八木義徳『文学の鬼を志望す』など。

 自然科学系:
 デイヴィッド・ラック『進化』、ジュール・ミシュレ『博物誌 鳥』、H・W・ベイツ『アマゾン川の博物学者』、林晋編『パラドックス』など。

 人文・社会科学系:
 A・ラポポート『操作主義哲学』、W・スターク『知識社会学』、A・F・アグィーレ『フッサール現象学』、モーリス・パンゲ『自死の日本史』、バルザック『ジャーナリズム博物誌』、ブルトン『歴史と終末論』、ボルヘス『異端審問』、テレンス・マッケナ『神々の糧』、叢書知のパサージュ『①哲学のポストモダン』、佐和隆光『虚構と現実』、小泉袈裟勝『ものさし』、現代人の思想『⑥美の冒険』、哲学の森『別巻 定義集』など。

 漫画・おたく関連:
 弓月光『うっふんレポート』、『石渡治傑作集』『タケル』、村上知彦『黄昏通信』、『のだめカンタービレCDブック①~③』『ポストカード シドニアの騎士』など。

 『うっふんレポート』は弓月光の持ってなかった2つのうちのひとつ。残りは『まじだよ!!』だけになった。まさか宇宙人が中心のSFコメディーだとは思わなかった。『タケル』は石渡治の最初の本。これまた日本武尊を絡めたがちがちのSF。ちょっと驚く。石渡治には『白兵武者 戦国近接戦闘僧兵伝』という戦国物がある。但馬を舞台に武器を持たず素手で戦う僧兵である「白兵」たちが主人公の物語。昭和の実在した集団をモデルに戦国時代に違和感なく落とし込んだ手際は讃嘆に値する。
 A・ラポポート『操作主義哲学』は、アルフレッド・コージブスキーの流れを組む哲学書で、もうひとつ本書の前に訳されている『一般意味論』と対をなしているようだ。

マット・ディニマン 『冒険者カールの地球ダンジョン①②』 (ハヤカワ文庫SF) 〇

 アメリカのなろう本ということで比較検討も兼ねて購入した。宇宙人によって屋内にいたすべての人類はぺしゃんこに圧し潰され、たまたま屋外にいた人間だけ1300万人が突然発生したダンジョンに難を逃れることができたものの、そこからもモンスターによりどんどん殺されていく。2巻の最後では人類総数100万人を切っている。カールはしゃべることができるようになったペットの猫、ドーナッツとともにサバイバルを乗り越えていくが、そのなかで、このゲームを視聴している宇宙人たちの評価を高めていく。
 小ネタ満載で気楽に読めるが、なかなかに芯の強いお話で、なろう本というよりむしろダグラス・アダムスである。と書いてて愕然としたことにダグラス・アダムスの話がまるで思い出せない。まあ、記憶にある印象が似通っているということでご容赦を。著者はたぶんトランプが大嫌いに違いないし、トランプもきっとこの著者は大嫌いに違いない。一読の価値あり。

細谷正充・他編『ライトノベル大全』 (時事通信社) 〇

 『このライトノベルがすごい!』を筆頭に、レファレンス本には事欠かないと思っていたラノベ関連本だが、総合的な俯瞰本となると、2005年に出た榎本秋編『ライトノベルデータブック』(雑草社)以来20年ぶりのものとなる。
 なんでこれが入っている(入ってない)とか、ページ割とかいろいろ文句もあるけれど、まあそれはそれで選択の9割がたは納得できる。
 なにをもってラノベとするかはまああいまいだが、とりあえずなろう系はすべて範疇にふくめることにしたようで、巻末のレーベル一覧ではアダルト系を除くなろう本のレーベルすべてが掲載されている。そういうわけで年代別の10年代20年代の作品には大量のなろう本が選ばれている。
 ただ目次や構成面でもっとメリハリをつけることはできたのではないかと思う。いろいろとばらつきが目立つ。
 年代順という配列は、俯瞰作業という点で、正しいありかたである。ただそれなら年代別の章立て巻頭に、その時期の時代背景出版状況についての一文を目次で見えるかたちで置くべきではなかったか。
 実はその手の言及は各執筆者によってかなり意欲的になされているのだが、作品紹介のなかに紛れ込まされていて、読んでいかないことには目次の上からは見えてこない。そういう部分をきちんと章立てしていた『ライトノベルデータブック』の構成と対照的である。その意味ではつまみ読むより通読する方が評価が上がる本である。
 また、同じ年代の中で作家によって2作3作取り上げられているかと思うと、逆に数頁に渡ってまとめて紹介されている作家がいたりといったばらつきもある。あるいは書影付半頁という限られたスペースの中でアニメ化やコミカライズといったメディアミックス関連の話に大きく行を裂かれたりするのも、活字主体の読者としてはかなり不満を残したりする。
 新発見というか実は再発見させられたのだが、編者筆頭に名が上がる細谷正充という人、僕の頭の中ではライトノベルに理解がある時代小説アンソロジストという分類だったのだけど、なんと前述『ライトノベルデータブック』の巻頭に「ライトノベル概論」6頁を載せている。むしろこちらが本元であるようであるのにいまさらながら気がついた。

○なろう本から

本条謙太郎『汝、暗君を愛せよ』  (DREノベルス) 〇 

「父の死により地方の造園会社を引き継いだ男は、お飾り社長の無力感に心底嫌気がさして自死を選んだ。
 そんな彼が何の因果か異世界に転生し、またお飾り社長(国王)をやるはめに。収支は真っ赤、国内は階級闘争寸前、周囲は敵国ばかり。独身の彼を取り巻く見目麗しの令嬢たちだけが彼の癒やし…のはずもなく。
 使える現代知識なし、じんわり近づく革命の気配と始終暗闘ギスギス私生活を乗り切るべく、彼は今日も玉座で物言わぬ置物になる。」(著者による要約)
 付け加えるなら元哲学青年で、社長就任当初は張り切って改革に邁進した過去がある。
 国内の懸案事項、外交案件に臣下からみれば卓抜な指導力を発揮していくものの、本人としては、皆が信じる王権神授説下の王としてある自らの存在に違和感を抱き、革命思想に心情的に共感を持ちつつ、4人の愛妃の愛情に疑心暗鬼にとらわれながら日常を過ごしていく物語。
 構成は見事で、現在刊行されている3巻目と、4巻目5巻目での完結まで、物語として納得のいく意外性で展開する。
 いろいろ高い評価が聞こえてきた作品で、ぼくとしても(◎)に近い(〇)評価。なろう王道設定を純文仕様に仕立てあげた鬱々とした作品で、キャラの造り込みは他のなろうと一線を隔し、ストレスフリーに縁遠く、なんでこんなものが、『このライトノベルがすごい2026年 新作単行本部門1位』に選ばれたのかと首を傾げる。並んでいる他の作品とのギャップがすごい。ちなみに前述『ライトノベル大全』においても最新作として滑り込まされていて、まあそちらでの評価はわからなくもない。

本条謙太郎『地に落ちて死なずば』 (WEB) 〇

 『地に落ちて死なずば』は男が死ななかった日本に、関係者が転生してくる物語。一応ハーレム系ドタバタなのだが、こちらも重苦しい展開に、さらに後半、なろうへの投稿がらみの文芸評論的要素が絡んでいく。お勧めなのだが、スピンオフであるので、まず『暗君』を読んでから。


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