みだれめも 第270回

水鏡子


○近況(3月)

 3月1日2日の土日、岐阜と名古屋で古本市が開催された。サムティの株主無料宿泊券最後の1枚が残っていたので、何十年ぶりかで名古屋に行く。10,000円3日連続でしか使えなくなった18きっぷだが、名古屋まで片道5,000円なので一応帳尻は合う。残った1日分で3日は岡山に行くことにする。
 初日は岐阜の古本市を経由して、名古屋でブックオフ、まんだらけ、駿河屋、古本市場を回る。
 岐阜の古本市は、質はともかく値が高い。廉価本の大半が440円である。関西でもそうなのだがデパート等での古本市は、寺社境内での青空古本市と比較してショバ代の関係からか総じて高い。結局1冊も変えずに名古屋に。関西では書籍関連が壊滅的なまんだらけだが、名古屋はなろう本が充溢していた。5冊購入。
 二日目は渡辺兄弟の案内を得て、名古屋古書会館と地域の老舗古書店を回る。
 かなり早い段階で、箱買い(郵送)をあきらめたので、持ち帰りの重量を鑑みて購入を厳選することとする。
 名古屋古書会館では、、大判のコンビニ本風で見たこともない吾妻ひでおと和田慎二のコミックがある。値付けを見ると2000円と高額だったので即棚に戻すが、渡辺英樹氏の指摘で、きれいに製本された雑誌の切り抜き集であることがわかり、渡辺氏は「吾妻ひでお集」、ぼくは「和田慎二集」を購入する。
 その他乾直明『外国テレビフィルム盛衰史』(800円)、『金子光晴画帖』(300円)、ブルーム、セルズニック&ブルーム『社会学』、世界動物記シリーズ『②アナウサギの生活』、『④サケ』(各250円)など。
 岡山では日本一大きいと噂の万歩書店と古書隠書泊というところに行く。万歩書店では売り切れで買えなかった1昨年のSFマガジン10月号と増刊号を何冊か購入。ハヤカワハイ以外はほぼコンプリートになった。古書隠書泊は全体に比較的安めで、日影丈吉『幻想器械』、『幻想博物誌』、野坂昭如『あやふや』(各300円)、ジュリア・シートン『燃えさかる火のそばで』(500円)を買う。
 三日行脚で20冊少しと遠出のわりに収穫は少なかったが、都合10㎞ほど歩いているので健康によかったと考えておこう。いや名古屋で迷って逆方向に歩いたせいであるのだけれど。

 水回りのリフォームでいろいろ不用品が出てくる。
 二十年物のシャンプー、、リンスや洗剤、固形石鹸が二十数個。これは使えるのか使えないのか、燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか。悩んでとりあえず庭に置いていたところ、しばらくしてなにかゴトゴト音がする。なんと烏が食べ散らかしていた。えー、石鹸って食べられるんだと驚くが、更に続きがあった。庭に散らばった石鹸を今度は野良猫がやってきて包み紙だけ残してきれいに片づけてくれた。そんなにおいしいものなのだろうか。

 3月も200冊を割り込んだ。購入数192冊。購入金額22,783円。クーポン使用4,100円。
 なろう本47冊。コミック74冊、だぶりエラーと買い直し17冊。
 新刊が『昭和39年の俺たち5月号』、『SFマガジン4月号』の雑誌2冊1,375円ぽっきり。また、なろう本が50冊を切った。それなのに3冊だぶる。
 ちなみにその他のだぶり本は『ドローンランド』、『ドラゴンの塔 上』、『クトゥルフ神話への招待①』、『イワとニキの新婚旅行』など。買い直しは『日本の唱歌上中下』、『忍法八犬伝』、『われら顔を選ぶとき』、『学歴のない犬 上』など。
 激増中のコミックは何冊か拾っているものの補充本が中心。『キングダム』16冊、『ダン待ちコミカライズ関係』10冊、『終末のワルキューレ』10冊、あべ美幸『八犬伝』5冊など。初物としては福山庸治『うろしま物語』、板垣波留『BEASTARS』6冊、小林まこと『What’s Michael』5冊など。
 硬めの本は野家啓一『クーン』、スティーブン・j・グールド『がんばれカミナリ竜 上下』(各110円)、ちくま文学の森『⑥思いがけない話』、『新①恋は気まぐれ』、岩波現代思想『⑯権力と正統性』(各220円)、中村雄二郎『言葉・人間・ドラマ』(300円)など。

 最終更新まで読んだなろう本から

△ なるのるな『狂戦士なモブ、無自覚に本編を破壊する』(Mノベルス)
〇 なるのるな『プレイした覚えもないゲーム的な世界に迷い込んだら 』(Kラノベブックス)

 メタフィクションなどというと高尚難解な文学といった印象が昔は僕にもあった気がする。けれどもライトノベルの半分近く、なろう系の8割がメタフィクションであるといえる。転生した異世界でお約束の展開だとのたもうたり、自身の厨二病への言及などその最たるものであるわけで。とくにゲーム世界への転生などは枠組み自体がそのままメタフィクションであるわけだが、箱庭宇宙を楽しむことが主眼であるのでめんどくささはわりとスルーされているのが実情だ。
 それでも中には、かなり自覚的にメタフィクション的めんどくささを取り入れたり、傾斜したり主題とする作家もそれなりにいる。
 変な名前の作家の本が二つ、違う店でほぼ同時に手に入り、読んでみたらそんなタイプの作家だった。
 『狂戦士なモブ、無自覚に本編を破壊する』は勇者と魔王が戦う定番のゲーム世界に主人公が転生する。ただ彼の転生先はゲームにまるで登場しなかった魔境に接する辺境の領主の息子。日々魔獣と死闘を繰り広げた結果、めちゃくちゃ強くなっているのだがそんな自覚もなく物語の舞台である王立魔法学院に入学する。この物語の主要登場人物たちが、物語の駒として扱われることに抗うというのが大きな話の軸となり、逆に既得権益や宗教観から彼らの役割からの逸脱を妨げない集団が体制側として存在する。抗う側には勇者や魔王だけでなくなんとその上位である女神や邪神までが含まれる。そんな混沌とした集団対立に、役割を振られていないモブであり、とんでなく強いうえに転生前の知識をもつ主人公が本来の筋立てを壊していく物語である。キャラの視点からならともかく地の文で中二病的発言が頻発するのはどうなのかと思ったりしてやや評価は辛めである。ただどうも地の文での中二病的発言も手法のひとつであるようで、『プレイした覚えもないゲーム的な世界に迷い込んだら 』ではそんなへんな地の文遊びは見られない。
 こちらは現代ダンジョン系。主人公は前世の記憶を持つやはりモブ。ダンジョン学園入学直前に記憶を取り戻すが、その結果、その世界がゲーム的ルールの基づかれていることに思い至る。彼の異能は「プレイヤー」。『狂戦士なモブ』よりもメタフィクション的構造は更に重層複雑であり、最終更新では、どうやらふたつの話を結合させる気構えまで見せ始めている。


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