SFファン交流会レポート

2025年1月 『2024年SF回顧「国内編」&「コミック編」

大野万紀


 1月のSFファン交流会は1月25日(土)、「2024年SF回顧「国内編」&「コミック編」」と題してzoomにて開催されました。
 出演は、森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、香月祥宏さん(書評家)、岡野晋弥さん(「SFG」代表)、福井健太さん(書評家)、林哲矢さん(レビュアー)、日下三蔵さん(アンソロジスト)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、森下さん、林さん、日下さん、香月さん、岡野さんです。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

 今年はいつも時間が足らなくなるコミック編を前半にして、国内編は後半になりました。
 お勧め作品のリストはPDFで「SFファン交流会」の「赤い酒場」からダウンロードできます。
 今回は必ずしも発言順ではなく、このリストをもとにみなさんの発言をまとめています。

■コミック編

コミック編のお勧めリストはこちら

田村隆平『COSMOS』
 これは去年も紹介している作品だが、その後もすごく面白くなった。(福井)

坂木原レム『かゆうま』
 
街に襲ってくる怪獣をロボットで退治する話だが、とにかく変な話。怪獣の襲ってくる特異点の街があって、そこの女子中学生が戦う。途中から多元宇宙みたいな、設定が変わる話になる。4巻で終了が決まっている。(福井)
 あえてやってる受け狙いパロディが面白い。並行世界で色んなマンガのパロディをやっている。やたらと昔の2ちゃん用語とか出てくる。「かゆうま」というのはネットミーム。死体を見つけたら「かゆ…うま…」というネットミームがある。(林)

zunta, はらわたさいぞう 『転生コロシアム~最弱スキルで最強の女たちを攻略して奴隷ハーレム作ります~』
 ちょっとエロ系の異世界転生もの。競技場で殺し合いをさせられる。主人公はゲーマーで、強い敵の倒し方が裏技を駆使したりしていて面白い。(日下)

石山り〜ち『終末ロッキンガール』
 異星人に襲われた世界もの。主人公の雷蔵がもと軍人のごついお爺さんだが、俺は音楽をやるんだと言って飛び出して行った息子が亡くなったところから始まる。雷蔵は身寄りがなくなった小さな孫娘を引き取るのだが、彼女は生まれつき全盲だった。父親の意思をついでロックをやろうとする孫娘だが、異星人にボロボロにされた世界はとてもそんなことができる状況じゃない。雷蔵はシュルターの中で外の世界のことを彼女に知らせないようにしているという、そんな話。設定が変わっていて面白い。(福井)

空空北野田『深層のラプタ』
 対戦型FPSをやっていた小学生の少年と相棒のラプタが戦いに勝利し、神戸に住むというラプタに会おうとするが、ラプタは自分がAI少女であることを明かす。そこでボーイミーツガールが始まると思わせて実はこのAIが軍事兵器であることがわかる。今回紹介する中では1番SF味が高い。特に2巻に入ってからはちゃんとしたAIものになる。ほとんどSFホラーあるいはサスペンスものの展開となる。(林)

KAKERU 『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』
 これも異世界転生もの。異世界生物が好きな人外マニアな男がどんな身体構造の生物かをSF的に考察する。基本的にエロい。解説ページは活字でいっぱい。(日下)

倉薗紀彦『ムーンリバーを渡って』
 これはストレートな青春SF。息苦しい管理社会の中で写真部の部活をしている女子高生。撮影した写真の中に立入禁止地域にいる男を見つける。仲間とその男を捜しに行く中で、この町が実は月面にあって、そのシェルターで生活していることがわかる。ややディストピアな社会を描きつつ、学生たちの夏の冒険を描くベタな青春SFとなっている。(福井)

橋本ライドン『妹・サブスクリプション』
 あまり読んでいる人がいないようなマンガ。基本4コママンガで、お姉さんとちょっとしたことですぐ死んじゃう妹の話。この妹がサブスクリプションで、死んだらすぐ回収されて毎回交換されるレプリカントだということが明かされる。姉がなぜそんなサービスに加入したのか。そんなサービスが社会にどんなインパクトを与えるのか。なかなか思いつかない発想で、SF的でグロテスク。(林)
 1本のストーリーとしてきちんとできあがったシリアスな傑作。(福井)

鉄田猿児, ハム男『ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ はじまりの召喚士』
 主人公は異世界で色んな職業をやってレベルアップしていくのだが、ゲームマニアの主人公は転生するときに選ぶモードを「地獄モード」にしてしまった。このためレベルアップにとても時間がかかる。でもレベルアップするとすごく強い。これはエロじゃなくて王道の少年マンガ。コロコロに載っていてもいい話。(日下)

柳本光晴『龍と苺』
 これはずっと将棋マンガだったのに何巻目かで突然百年後の未来の話となった。今はAIとの対戦が始まっている。(日下)

 途中で早川書房編集部の小塚さんによる、WEBコミックのサイト「ハヤコミ(HAYAComic)」の紹介が入りました。スタニワフ•レム原作の森泉岳土『ソラリス』は描けないものを描くということに挑戦していただいたとか。
 林さんが、匙田洋平『夜のロボット』がもともとWEBでずっと連載されていたのが突然早川のサイトに掲載されて驚いたと言うと、小塚さんはあれは編集長の吉田がぜひやりたいと言っていたものですと答える。その吉田編集長はコミックへの情熱がすごく、本当は今日出演の予定だったのだが、マンションの管理人との打合せが入ったということで来れなく合ったとのことでした。
 福井さんからは、昔のSFマンガ、例えばとり・みき『石人伝説』のリブートをぜひお願いしたいと言う声がありました。

 ここでコミック編はいったん中断し、後半は国内SF編になるのですが、二次会でもコミック編の続きが語られたので、それを続けます。

有馬慎太郎『怪獣カムイ』
 怪獣を核兵器で殺したはずがその胎児がいた。それを怪獣に対する兵器として使おうとする。直系の骨太でストレートな怪獣もの。(福井)

浅白優作『スターウォーク』
 遠未来の宇宙ものから始まって地球に戻ってくるが地球がそこになく、太陽に対して固定されている。黄昏地帯にしか生命はない。最初は延々と歩いて行く話。2話になるとまた違った展開になる。(林)
 荒野を歩くSF的なエモさが別のエモさに変わり、さらに直球のSF感になっていく。色々と好きなSFを詰め込もうとしている。(福井)

秋本治『TimeTuberゆかり』
 昭和の日本に飛んだ女子高校生がその動画を配信する。ゲームやフィギュアや秋本治のセンスでベタに描かれる。すごく読みやすい。メチャメチャ濃いオタク知識ではなくもっとカジュアル。(福井)

凪水そう『イズミと竜の図鑑』
 これは異世界ファンタジーで竜の図鑑を改訂する話だが、クリシェではなく世界設定そのものを見せることに注力しており古典的なファンタジーの感触がある。基本的にきれいで楽しいファンタジー。(林)

磯本つよし『エルフとバイクと帝国地理調査員』
 文明崩壊後の異世界で改めて地図を作ろうとしている帝国の調査員の話。とりあえず娘さんがバイクに乗る話を書く作者がファンタジーバージョンを書いた。(林)

粟岳高弘『ガベージコレクション』
 中学のマイコン部でハードディスクを調べるとメッセージが現れベーシックでプログラムを作ると校庭に構造物が現れる。しかし話が進むとずいぶん違う世界に繋がっていく。昔のマイコンやベーシックなどのレトロ趣味が表に出ている。(福井)

窓口基『多良さんのウワサ』
 作者は現代の東京の裏に異星人の世界があるというマンガを描いている人だが、都市伝説が広まると実体化するのでそれを鎮める黒衣の少女がいるが、そのまえに多良さんという怪異オタクの少女が現れる。怪異を親しみやすいものにしてしまうことで怪異を無害化する。(林)

ちょめ『室外機室 ちょめ短編集』
 去年とても良かった短編集。異国からラジオに混線が入りどこかわからない戦争の状況を知らせてくるとか、静かな余韻が残る。地味な幻想譚だが距離感の取り方が良い。アフタヌーンの四季賞を取りそうな短編。(福井)

戸川四餡『黒巫鏡談』
 1937年の朝鮮が舞台の歴史伝奇物。(林)

速水螺旋人『主君と旅する幾つかの心得』
 レムのロボットものを思わせるような貴族とロボットの宇宙旅物語り。昔なつかしいSF冒険談。(林)

水上悟志:作、瀬戸一里『クライマックスネクロマンス』
 魔物に襲われて滅亡しようとしている異世界で召喚された女子高生が最強のネクロマンサーとなる。本人はネクロマンサーを嫌悪しており自分自身を滅ぼそうとしている。勢いのあるアクションもの。(林)

■国内SF編

 国内SF編のお勧めリストはこちら

飛浩隆『鹽津城(しおつき)』
 文章そのものを読む喜びと作り出される世界の素晴らしさ。人間がすごく生々しい。リアリティがある。その渾然一体として読み心地がすごい。「鎭子(しずこ)」という短編は表面的には鎭子という女性がレストランに行ってライターの人と食事をするというそれだけを描く話なのだが、鎭子の生い立ちと彼女の内面にある世界の対比が一体となって淡々とした話なのにものすごいドラマが組み立てられており舌を巻いた。小説としての冒険と完成度がすごくベスト1にした。(森下)
 これが今年と限らないベスト。ジャンルSFとは少し違うところが見えた。飛さんが初期からの書きたいといっていたことが含まれている。(香月)

藤井太洋『マン・カインド』
 近未来のアメリカが舞台。人類の進化にからむ。たくさんのアイデアが滑らかにいっぱい入っている。色んな問題を違和感なく溶かし込んでもう一つの近未来の世界を描いている。(森下)
 タイトルがあっさりしているが深い。(岡野)

宮内悠介『暗号の子』
 ネットがらみの技術が社会にどんな影響を与えるかを人間ドラマとして描き出している。ここでも人のモラルがネットによって変わっていく。(森下)
 ブロックチェーンの話が多くてそこが宮内さんらしいと思えた。技術とリアルの話。(岡野)
 『ラウリ・クースクを探して』あたりから人間の描き方が今の社会に近づいてきて変化した感じがする。(森下)

高野史緒『ビブリオフォリア・ラプソディ』
 短編集で、小説としての作り方が面白いものになっている。きちんと作っていながら伏線を全部回収せずに読者に任せるとか自由になっている。バベルの図書館のような古本屋に入っていった男が架空の本を見つけていくのだがそれがとんでもないところまで連れて行かれる。その一方で地方の本好きの女性のリアリティ溢れる話もある。(森下)
 明らかに日下さんがモデルと思わせる話もある。(香月)

円城塔『コード・ブッダ』と短編集『ムーンシャイン』
 SFとしては『ムーンシャイン』だろうがうまく紹介できない。『コード・ブッダ』はAIの世界に誕生したブッダがAIや機械に救いをもたらそうとする。独特のユーモアがあり、人間のブッダと機械のブッダをパラレルに語りながら、にやにやして読んだ。最後は宇宙へ行って宇宙が可哀想なことになる。びっくりしたのは韓松『無限病院』のプロローグ。火星で仏教遺跡を発見するところからはじまるので驚いた。(森下)

野﨑まど『小説』
 主人公が本好きの少年でその友人の本を読んだことのなかった少年に本を薦めたら友人も本好きになった。その街には変人の小説家がいてその家に行き、仲良くなるというところから始まる。主人公たちは文章を書くようになるが、友人に才能があることがわかって少し離れてしまう。中盤からSFになるがそこはネタバレになるので。野﨑作品で好きだったのはいつも天才が一人いてそれを見る主人公がいる。これも久々にそんな話だった。途中に謎めいた話があって最後にSFになる。(岡野)
 これは小説を書く方ではなく読む人の話。(香月)

春暮康一『一億年のテレスコープ』
 ブラックホールを撮影したというニュースがあったときにVLBIという話を聞いた。久々にSFの原点を読んだような気がした。すごく前向きな作品。元々小松左京から入った人間なので、ハードSFというのは小松左京だと思っていた。(岡野)
 SFの原点というかそんな感じ。主人公はどんどん遠くを見たいという人間なのでそれが楽しい。(森下)

王城夕紀『ノマディアが残された』
 これはまた違うタイプ。レプリカントの話。シリアで死んだと思われた人物が生きていてノマディアという所を目指している。その人物を追っていく話。国というものが分断され小さなコミュニティになっている。現代小説よりの話。(岡野)

夏海公司『セピア×セパレート 復活停止』
 王道のラノベSF。人間の意識をクラウドにアップする世界の話だが、正統派のはっちゃけたSF。(岡野)
 これはめちゃくちゃ面白い。早川から出ていてもおかしくない。(香月)

零余子(れいよし)『夏目漱石ファンタジア』
 これは正統じゃなく無茶苦茶な話で夏目漱石が反逆者となり、暗殺されるが樋口一葉の体になって立ち向かう。設定が面白そうだったが本当に狂ったような話だった。漱石の脳みそは本当に保存されていて公開されたことがある。(岡野)

宮西建礼『銀河風帆走』
 前半3作は高校生たちの話で後半2作は宇宙の話。みんなそれぞれ知恵を絞って未知の事象に対峙する。(香月)
 宮西さんが大好きなので良かった。(森下)
 宮西さんは若い人が頑張る話で本当にいい。(岡野)

坂崎かおる『嘘つき姫』と『箱庭クロニクル』
 奇想と巧みな構成を平易な文章で端正の整える。SF的仕掛けがあまり表には出てこない点もある。うますぎてびっくりさせるようなあざとさは少ない。(香月)

奥泉光『虚史のリズム』
 戦後、探偵小説マニアの男がある殺人事件を調査しつつどんどん不可解な世界へ入って行く。(香月)

八潮久道『生命活動として極めて正常』
 個人的にとても好きな短編集。ネタとしては特に目新しいわけじゃないが書き方がすごくポップで、帯にあるように大森さんが絶賛するような話。(香月)

不破有紀『はじめてのゾンビ生活』
 ゾンビの登場からゾンビ滅亡後までの千年を短いエピソードを積み重ねて描く。ゾンビ版「火星年代記」かも。(香月)

 香月さんからリスト外の作品について。空木さん『感傷ファンタスマゴリイ』などたくさん注目作が出た。2024年はまた新人の単著デビューが豊作。マンガで先に出た田中空『未来経過観測員』などもある。アンソロジーもたくさん出ている。個人的には『サイボーグ009トリビュート』が良かった。ミステリとの交差も面白かった。阿津川辰海『バーニング・ダンサー』森見登美彦『シャーロックホームズ』も面白く、また西式豊『鬼神の檻』も言っちゃうと最後にSFになるとのこと。

 森下さんからは、安野さんの話も話題性があり、柞刈湯葉さんの『幽霊を信じない理系大学生』も作者らしい話。高山羽根子『パンダ・パシフィカ』は国際的陰謀論の話だけれど不思議な話で途中にラバーダックの話が突然出てきてどうしてそこにラバーダックが出てくるのかわからないが面白かった。小川哲『スメラミシング』は最後の「ちょっとした軌跡」が小川哲とは思えない青春SF(ハードSFとしては問題があるように思うが)で印象に残ったとのことでした。

 2月のSFファン交流会は、2月22日(土)14時からzoomにて「2024年SF回顧(海外、メディア編)」というテーマで開催されます。出演は、中村融さん(翻訳家)、冬木糸一さん(レビュアー)、柳下毅一郎さん(映画評論家)、縣丈弘さん(B級映画レビュアー)の予定とのことです。


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