SFファン交流会レポート

2024年9月 『これまでの感謝をこめてーー翻訳家嶋田洋一さんに訊く』

大野万紀


 9月のSFファン交流会は9月14日(土)、アン・マキャフリイ『歌う船〔完全版〕』を最後に翻訳家を引退される嶋田洋一さんをゲストに迎え「これまでの感謝をこめて――翻訳家嶋田洋一さんに訊く」と題して開催されました。
 出演は、嶋田洋一さん(翻訳家)、中條裕之さん(夢枕獏事務所)、石亀航さん(東京創元社編集者)、東方綾さん(早川書房編集者)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、嶋田さん、東方さん、石亀さん、中條さんです。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

 まずは嶋田さんの翻訳家としてのこれまでと翻訳作品について。

 そもそもは実務翻訳からだったとのこと。大学を出て就職したがそこは3年で辞め、実務翻訳をしつつバベルの通信教育で勉強し、バイトで映画のノベライゼーションの翻訳(ジョン・ラッソ『バタリアン』など)をされていたそうです。通信教育の例会で今は亡くなられた奥さま(喜美子さん)と出会い、翻訳勉強会などSFファンの例会へも顔を出すようになった。そして東京創元社の小浜さんから声をかけられ、他の若手翻訳家とともにマリオン・ジマー・ブラッドリー〈ダーコーヴァー年代記〉シリーズの翻訳に参加することになった。

 ちなみに、この1986年からの〈ダーコーヴァー年代記〉の翻訳は日本で若手SF翻訳家が一斉に登用されるという極めて画期的な出来事でした。その一人でもある古沢嘉通さんによるエッセイがこちらで読めます。

 嶋田さんは〈ペリー・ローダン〉シリーズをドイツ語から翻訳されていますが、ドイツ語は中三の時からラジオ講座で勉強を始めたとのこと。英語は中学でもうマスターしたと自分では思っていたそうです。ローダンの翻訳は松谷健二さんが1998年に亡くなった後、集団翻訳体制に入りますが、嶋田さんが入ったのは2007年から。編集をされた東方さんによれば、原作は毎週出ておりそれを日本では2話で1冊としている。複数訳者による翻訳体制では訳文の統一に苦労したが、一番SFセンスがあるのが嶋田さんなのでどうしてもお願いするようになったとのこと。

 嶋田さんはダン・シモンズのホラー系の作品やギレルモ・デル・トロの吸血鬼ものなども訳していた。様々な作品を手がけていたが、一番苦労されたのはマーク・Z・ダニエレフスキー『紙葉の家』。読んでみてこれは面白そうと思って引き受けたのだけれど難しくて1年以上かかってしまったとのことでした。

 難しい翻訳といえばピーター・ワッツもそう。『ブラインドサイト』『エコープラクシア 反響動作』『巨星』。編集の石亀さんによると、とにかく文章が難しく、出てくる吸血鬼は現在形しか話さないし、慣用句の意味を変えてしまったり、専門用語を当たり前のように説明なしに使って会話していたり。そこでネタバレかまわずに解説をつけることになったとのこと。嶋田さんは、難しいというより、とにかく調べないとわからないことがたくさんあって、話の筋がハッキリしない。解説を読んでそうだったのかと思ったこともあったそうです。 

 ダン・シモンズとの出会いは角川の『愛死』から。面白くて翻訳もやりやすかったが、ダン・シモンズは時々ウソや間違いを書いていることがあって困る。でも勢いがあって良いと嶋田さん。ダン・シモンズのSF系は主に酒井さんが、ハードボイルド系は嶋田さんが訳されたとのこと。

 アン・マキャフリイ『歌う船〔完全版〕』について石亀さんはマキャフリイの一番新しい訳者として嶋田さんにお願いしたと言い、短編の版権も今回取り直されたとのことでした。嶋田さんは翻訳にあたり以前の訳は読まないようにしてあらためて全部訳し直し、訳し終わってから比較して見直されたそうです。古い訳に思い入れのある読者もいるがそこは何も言わずにおまかせしたと石亀さん。

 話が変わって、SFファン交流会参加者からの質問事項について。これから翻訳をしようという人にかける言葉は、まず定職につきなさい。翻訳をやめてこれからどうやって食べていくのですかという質問には、年金と投資との答え。就職先では財務会計をやっていて、その知識があり、ビットコインで儲けたりもしたとのことでした。

 SFファンになったきっかけとSFファンダムの話。子どものころは火星シリーズのジュヴィナイル版をボロボロになるまで読み、お父さんがわりとSFが好きでSFマガジンが創刊号からあったので高校生くらいからはそれを片っ端から読んでいたとのこと。まわりにSFファンはいなかったので、ファン活動を始めたのは会社を辞めてから。結婚前に喜美子さんに連れられてSFファンが集まる喫茶店へ行くようになり、そこで中條さんに出会ってガタコンへも行くようになったとの話で、そのころの写真が色々と表示されました。中にはずいぶん懐かしい写真も。

 本会の後も、趣味の吹き矢の話とか、色々と面白いお話があり、楽しい会となりました。

 10月のSFファン交流会は通常の例会をお休みにして、10月12日(土)の夜に、京都SFフェスティバル2024の合宿企画として開催されます。テーマは「いつかマンガミュージアムみたいに! 〈SFファン活動〉アーカイブ化計画」。出演は、大野万紀、岡本俊弥さん、渡辺英樹さん、山本浩之さん、七里寿子さんほかの予定です。


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