内 輪   第392回

大野万紀


 4月のSFファン交流会はお休みでした。5月は6日(土)のSFセミナーの夜に、19時よりオンラインで開催。「読んで、集めて、書庫を建て 〜乱れ殺法SFファン控〜」と題し、水鏡子の他、北原尚彦さん、大森望さんが参加。レポートは来月のTHATTAに掲載予定です。


 それでは、この一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。
 なお、短篇集についても原則として全部の収録作について途中までのあら筋を記載しており、ネタバレには注意していますが、気になる方は作品を読み終わった後でご覧になるようお願いいたします。

イアン・マクドナルド『時ありて』 早川書房

 単行本として出ているが長編というより長めの中編である。訳者の下楠昌哉さんの後書きに、これは「20世紀後半のオカルト・UFOブーム、ミリタリー、ヨーロッパ古書店巡り、イングランドのひなびた田舎町、いつかどこかで耳にしたブリティッシュ・ロック、そしてほのかなアイルランド文学の薫り」とある。素晴らしい! そして実にその通りの内容で、つけ加えるとしたらはっきりとした時間SFであり、時の放浪者となった若い恋人たち(男性同士)のロマンチックなラブストーリーである。
 現代のロンドンで通信販売の古本屋をやっているエメットは、閉店する古書店から一冊の本を入手する。『時ありて』という古い詩集で、E.L.と略された著者名以外は出版社も何もわからない。だがそこに挟まれていた手紙が彼の運命を変える。それは第二次大戦中のエジプトで、トムという青年がベンという相手に宛てた謎めいた短いラブレターだった。
 物語は現代の、エメットの視点から描かれるメインストーリーに、トムの視点から描かれるベンへの愛情物語が挟み込まれる形で進行する。
 エメットがフェースブックに書いた記事に反響があり、トムとベンを知っているという女性、ソーンが現れる。彼女の曾祖父が戦時中に残した記録と写真に二人が出てくるというのだ。エメットはやがて彼女と過ごすようになり、協力者や様々な手がかりから二人の足取りを追っていく。
 本書の前半では、そんな第二次大戦の秘話を、名も無い二人のラブストーリーを拾い集めていくことになるのだが、同じ二人の写真が何十年も時代の離れた別の戦争でも撮られていることがわかり、話はがぜんSF的になってくる。ベンがどうやら量子力学に詳しい科学者で、イギリス軍の特殊兵器の開発に従事していたらしいということもわかって、ノスタルジックな歴史ミステリに時間SFの要素が濃くなっていく。
 その痕跡は現代でも意外なほどはっきりと残されていた。オカルト、UFO、超常現象の起こった記憶、都市伝説として。次第に明らかとなっていくそれらとの結びつきも面白い。そこには実際に、文学やロック、現代のネット伝説、アメコミや映画、ファクトとフェイク、虐殺や無謀な戦争の記憶がからまっていく。
 世界が変わるような大きな物語はなく、エメットたちの過去への関わりと時をさ迷う恋人たちの運命があるだけなのだが、最後にその二つは交わっていく。その感動が静かに読者の心に染み入るのだ。

早瀬耕『十二月の辞書』 小学館

 著者8年ぶりの新作長編はSFマガジンの2018年6月号に掲載された同名の短編が元になっており、短篇集『プラネタリウムの外側』と同じ登場人物、同じ背景をもつ小説である。本来は『プラネタリウムの外側』に収録されていてもおかしくない話だが、長編化する意図があって外したのか、あるいはSF的要素が少ないということで外したのか、短篇集には収録されていない。
 本書は独立した恋愛小説であり、『グリフォンズ・ガーデン』や『プラネタリウムの外側』を読んでいなくても楽しめるが、本書もまたAIや仮想現実をテーマにした本格SFのシリーズに属している作品だといえるので、合わせて読めば壮大なSF世界における1つの変奏曲としてより深く楽しむことができるだろう。特に『プラネタリウムの外側』では南雲と佐伯の関係性が重要な要素となっているので、ぜひ読んでみて欲しい。傑作だし。
 札幌の大学の工学部でAIの研究をしている助教の南雲薫には、高校時代に将来を誓ったガールフレンドがいた。彼女、栗山さん(物語の現在ではリセというペンネームで、成功したイラストレーターとなっている)は、北海道の地方銀行の頭取である深島清史郎の私生児だった。その深島が亡くなった時、リセには函館にある1軒の家が残された。南雲はリセから、父が描いた彼女のポートレートがその家にあるはずなので見つけて欲しいと依頼される。だが実際に行ってみると、その小さな家はアトリエではなく、きれいに整理された書庫だった。肖像画などどこにも見つからない。そこへ、彼と同じ研究室にいる学生、佐伯衣理奈が現れる。二人とも驚くが、彼女は深島の遠い親戚で、小さいころから深島をおじいちゃんと呼んで親しみ、この書庫を自由に使ってもいいと言われていたのだという。かくて南雲は佐伯と共にリセのポートレートを探し始める。
 物語は高校生のころの南雲とリセのラブストーリーと、現在の南雲が佐伯をバディとして絵を探すミステリー風のパート(こちらにも恋愛ゲーム風な雰囲気がある)が交互に描かれる。そしてついに謎は解かれるのだが、それは思いもかけないようなものだった――。
 本書でも著者の他の作品と同様、登場人物たちの会話がすばらしく気持ちがいい。知的な好奇心をそそられる話題の数々には嬉しくなってしまう。理系の(とは限らないが)小ネタがとても楽しい。高校生の二人が話す内容からしてウィトゲンシュタインやアインシュタインからの引用なのだ。そんな高校生おらんやろ、と思うかも知れないが、いやいるんですよ。厳密な内容よりもコトバそのものに惹かれてカシコそうに戯れるのが(でも嫌みじゃないよ)。世間一般の「普通の」プロトコルじゃないけれど、そういう互いに通じ合う内輪のプロトコルに興じるのがいかにも楽しそうだ。
 そんな男女のうらやましい会話に溢れていて、確かに恋愛小説といえるのだが、理系的にいうと恋愛は二人の相互作用だから、そこには「強い恋愛」と「弱い恋愛」があるように思う。本書の恋愛は「弱い恋愛」であり、決して熱くならないほのぼのとしたものである。それはふんわりと気持ちよい反面、あいまいでハッキリせず、ちょっと物足りないと思うところでもある。
 もう一ついえば、本書に出てくる女性はみんな同じように頭が良く、自信があって積極性があり、ややこしい会話にもちゃんと突っ込み、そして謎めいたところのある存在である。それはもう高校生のリセから大学生の佐伯、藤野教授から深島の未亡人まで、年齢や境遇を問わずみんなが、いわば同じパラメータから生成されたように思えるほどだ。
 そして本書だけでは完結しない、他の作品を継承するオブジェクトがあちこちに漂っている。例えば「国家機密の森」「植物園の入場料」「出会いサイト」「バイオコンピュータ」「ナチュラル」……。
 最後に明かされる隠された絵の驚くべき秘密。しかし、こんなことが本当に深島に可能だったのだろうか。そういったことから考えると、もしかするとこの小説は全て、あの有機素子コンピュータのAIが紡ぎ出した仮想の物語だったのかも知れないとさえ思えてくる。

林譲治『工作艦明石の孤独 3』 ハヤカワ文庫SF

 このシリーズも3巻目となって、そろそろ物語が大きく動き出す要素が可視化されてきたが、この巻ではまだその深掘りが続いている。1つはワープの問題、もう1つは異種族の問題である。重要なテーマの1つだった孤立した文明をどう持続可能に再編成するかという問題は、一通りの組織作りが終わったこともあり、本書ではあまり変化は見られない。
 アイレム星系でペンギンに似た異星人イビスに救助された工作艦明石の椎名ラパーナは、惑星バスラの地下都市にあり、乗ってきた宇宙機ギラン・ビーをイビスたちに修理してもらう。さらに友好的な(ように見える)イビスのエツ・ガロウたちとAIを通じて交流を深め、まだ彼らの社会組織がどのようなものかは良くわからないものの、その意思決定機関と思われる「委員会」に乞われて出席する。エツ・ガロウもそのメンバーだった。そこで議論された案件は、人類がバスラの軌道上に築いたアイレムステーションの存在である。イビスたちはそこへ通信を送るにあたって、その文面を彼女に考えて欲しいというのだ。
 本書の構成では時系列が前後することになるが、アイレムステーションに滞在していた輸送船津軽の艦長西園寺恭介とアクラ市職員アンナ・ブラトらは椎名からのこのメッセージを受け取り、それにどう対応するかを議論する。結論は最小限のデータのみを返信したうえ、いったんセラエノ星系へ帰還し、意味のあるメッセージは権限のあるメンバーでその対応を決めるというものだ。それは実行されたが、セラエノ星系への帰還時、また(重大ではないが)想定外のワープエラーが発生する……。
 一方、セラエノ星系では工作艦明石の工作部長・狼群妖虎と松下紗理奈がワープの異常の原因を探るため、様々な実験を繰り返していた。ワープエンジンを積んだ無人機E1を使い、実験番号のSR(Search Route)1から順次パラメータを変えつつ短距離のワープをさせてその結果を確認するのである。しかし入手されたデータは理解に苦しむものだった。E1はまだ実行されていないSR2の信号を受信していたのだ。これはSR1でE1がSR2より未来へワープしたのか、あるいはSR2がSR1より過去へワープしたのか、あるいは全く違う事象が発生したのかということになる。ワープがタイムトラベルを内包していることは想像がつくが、さらにSR3の結果が彼女たちを混乱させる。SR3では計画はしたが実行されなかったパラメータのデータまで受信されたのだ。多宇宙の存在? 本書ではまだその結論は出ない。正直なところ最初に読んだ時、このくだりは理解が追いつかなかった。時系列の混乱は言葉だけではイメージがわきにくい。グラフでもあればもっとわかりやすかったかも知れない。ともあれ、原理的にはまだ謎のままだが、アイレム星系からの西園寺らの帰還で発生した事象によって、どうやら今回のワープエラーは複数のワープエンジンが干渉する――ニアミスを起こす――時に発生するのではないかということがわかってくる……。
 そして西園寺らは改造されて特殊工作艦となった津軽で再びアイレム星系へと向かう。津軽はアイレムステーションにドッキングし、またイビス(そして椎名)との通信が再開される。意思疎通は進展し、椎名はギラン・ビーで惑星バスラの地下都市からワープすることになるのだが、そこでまた……。
 作者のシリーズではおなじみの、結末での思いがけない展開が本書でまた繰り返される。だがアイレム星系の椎名たちにではない。予想もしなかった新たな発見をするのはワープ実験を続けていた狼群妖虎と松下紗理奈の方だ。えーっ、また話が広がるの? とびっくりし、いったいどうなるのかとドキドキする。本当にこのシリーズは目が離せない。

ペ・ミョンフン『タワー』 河出書房新社

 韓国のSF作家、ペ・ミョンフンの2009年の作品。本書は2020年に出たその改訂版である。674階建てで50万人が住む巨大摩天楼、それ自身が独立国家でもある「ビーンスターク」を舞台にした連作短篇集で、6編と、付録となる3編と用語集(これも作品だ)がついている。訳者あとがきにあるように「面白すぎる仮想空間の中で、韓国社会の現実にきわめて近い人間模様が展開されている」短篇集だ。
 巨大摩天楼「ビーンスターク」は、世代宇宙船や植民惑星上の都市国家を思わせるSF的な舞台設定だが(ただ周囲の世界から孤立しているわけではなく人的な交流がある)、そこで描かれるカリカチュアライズされた現代の韓国社会(や日本も含む東アジア的な社会)は、かつての日本SFの疑似イベントものみたいにぶっ飛んでいると同時に、どこかペーソスがあり、さらに(これも訳者あとがきにあるが)実務的なリアリズムがあって、穏やかなヒューマニズムと共に、お仕事小説的な「実務家エンターテイメント」の味わいがある。ただ、やむにやまれぬ切実な社会批判の視点があるにもかかわらず、それは直裁には描かれず、ドタバタも穏やかで日本作家のような羽目を外した感じではない。バランスが良いとはいえるが、何かを抑えているような物足りなさを感じた。

 「東方の三博士――犬入りバージョン」では、ミクロ権力研究所のチョン教授が外部から来た若い三人の博士を使い、ビーンスターク内の権力構造を調査しようとする。教授は人々の間で「ほんの気持ち」として贈り贈られる贈答品の高価な酒に着目し、電子タグをつけてその移動経路を調べることにした。その結果、ビーンスタークの権力場が見える化され、それは重い恒星によって重力場が歪むように、いくつかのアトラクターをもつ構造となった。ところが、その一部にブラックホールのように入って行ったきり出て行かないところが見つかった。487階のA57。調べてみると、そこに住んでいるのは「映画俳優P」との表札を掲げた一匹の犬だった。三人の博士はなぜ犬に権力場が集中しているのか調べようとするが、突然話はクリスマスストーリーのようになり、さらに三博士は恐ろしい事態に直面する――。権力場の中心にいる犬という発想が面白く、この犬は他の作品でも重要な役割を果たす。付録にはそのインタビュー記事もある。

 「自然礼賛」の主人公はビーンスタークに住む作家Kで、社会批判的な作品を書いていた彼は、再選された市長による冬の時代の中、がらりと作風を変えて大自然の美しさを歌いあげるような作品を書くようになる。編集者は彼にまた社会派の作品を書くよう依頼するのだが――。Kは低所恐怖症でタワーの外に出たことはない。彼はスペイン南部の小さなリゾート村に別荘を持っていた。口に出せないある人に贈ってもらったものだ。そこにはロボットがいて、家の中を命令通りに動き回り、外の素晴らしい景色を眺めたりできる。Kはそのロボットの目を通して、雇われて月に2回別荘を訪れ掃除やロボットの整備をしてくれるロサという美少女を見るのが好きだった。熱心な編集者の粘り強い説得にKはついに作品を書くが、それはまた自然礼賛の話だった。だがタワーの再開発地区で人災といえる大きな事故があり、彼が書いた作品の後半は大きく変化する――。作家と編集者の関係性が面白く、また結末にはとても心を打つ情景が描かれている。なお彼が書いたという自然礼賛の作品、温暖化する北極での白クマの生活を描く「熊神の午後」が付録に抜粋されている。

 「タクラマカン配達事故」は韓国で大変人気の高い作品ということで、国語の授業でも使われたそうだ。ビーンスタークはずっと以前から旧ソ連系の武装組織コスモマフィアと、主要産業である衛星サービス事業を巡って戦争状態にある。その衛星サービス企業に就職した恋人のウンスを追って、市民になろうと民間防衛会社に入ったミンソは、作戦中に砂漠で撃墜され行方不明となる。行政官のビョンスはウンスにそのことを告げるが、その一方でこれが秘密の軍事作戦だったので、ただの傭兵であるミンソを救助する気が政府には全くないことも彼女に話す。だがビョンスは行政官としてかつてウンスとミンソの二人に関わっており、何とか助けてやりたいと思うのだった。そこに使われるのがビーンスタークの民間郵便システム〈青いポスト〉とインターネットである。ウンスは会社の衛星をレンタルして彼が墜落したと思われるあたりの砂漠の写真を撮り、ビョンスは周辺国のサーバにサイトを立ち上げて〈青いポスト〉にみんなで協力して写真を解析してほしいとメッセージを回す。かくして――。これはまさにインターネットに希望があった時代の、集合知の勝利を歌った物語である。良い話なのだが、今読むと(作者も言うように)こんなに楽観的になれないのが寂しいところだ。一公務員であるビョンスが職務を越えて自分の権限の範囲でがんばるお仕事小説の側面もある。

 「エレベーター機動演習」にもやはりお仕事小説の側面がある。ビーンスタークの垂直方向の移動手段はほぼエレベーターのみであり、それを制御する交通公務員の責任は大きい。主人公は緊急時のエレベーターの運行制御を計画する戦略計画課に属し、短時間で軍隊を目的地点に移送するにはどうすれば良いか、様々なパターンを想定した機動演習で優れた成績を残していた。ところでエレベーターというインフラでの上下輸送に対し、各階での(とても広いのだ)水平方向の輸送はより人力に依存しており、それがビーンスターク内での「垂直派」と「水平派」のイデオロギー対立にまで発展している。主人公はその対立にあまり興味はないが、かつて彼を助けてくれた女性が水平派の理論家の一人だった。あるとき、爆弾テロが発生。主人公はその対策に奔走する。エリートではない健全な常識人で責任感の強い職業人である主人公の姿勢には共感できるところが多いだろう。

 「広場の阿弥陀仏」は周辺国出身の義兄と義妹の往復書簡の形式で描かれたコミカルな作品である。借金取りから逃れるように妻から離れて一人ビーンスタークの防衛会社に雇われた義兄は、デモ鎮圧の騎兵隊に入って犬や馬のいる厩舎の掃除をしていたが、新たに象が一頭加わり、彼はその担当にされる。アミダブと名付けられたその象に乗り、市庁舎前広場に出た彼は(というかアミダブは)人々の視線を釘付けにする。アミダブは人々に阿弥陀仏と呼ばれ、南無阿弥陀仏と唱える人もいる。何ごとも適当な義兄に対し、賢い義妹は色々と異を唱えるが、見物に来いというので姉と共にビーンスタークへ観光に行く。そこへ大規模なデモが起こり、義兄はアミダブに乗って鎮圧に出るのだが――。悟りを開いたかのようなアミダブが可愛く、そして哀しい。賢い義妹と、いいかげんだがアミダブへの愛は本物の義兄との関係性が楽しくて面白かった。

 「シャリーアにかなうもの」はコスモマフィアとビーンスタークの決定的な戦いが描かれるのだが、それは時間をかけた潜入者によるものである。コスモマフィアがICBMを使ってタワーを攻撃するという情報を察知し、情報局のチェ・シンハクは国防委員会の議員たちに説明するが、彼らの反応は無責任なものだった。そもそもコスモマフィアの駐屯地へ先制攻撃の空爆を行い、2万人以上の民間人を死傷させたのはビーンスタークの側なのである。だがだれもその責任を取ろうとしない。それどころか市民には何も知らせないまま上層階を売りに出し、逃げだそうとするのだ。このため不動産相場に大きな変動が生じている。一方、何年も前からビーンスタークに潜入し、通訳の仕事をしながら時を待っていたムスリム女性のシェフリバンについにコスモマフィアからの指令が届いた。イスラム金融の仕組みを用い、必要な地所を買い占めようと始める。チェ・シンハクの側も、タワーの上階をミサイル防衛可能なようにし、政府の中枢をタワー中階へ移転する計画を進めるが、なぜか民間の個人投資家がそこへ資金を注入している。その謎を調査する彼が、中階の図面を調べてみると――。この作品ではイスラム金融が大きな役割を果たすが、「タクラマカン配達事故」の舞台がタクラマカン砂漠であり、コスモマフィアが旧ソ連系の武装組織であることを考えると、その寓意は明らかなように思える。深刻な物語だが、コミカルな要素もあり、そして例の犬も登場する。

 付録については省略するが、口コミによる選挙対策を描く「カフェ・ビーンス・トーキング」と、例の犬へのインタビュー「内面表出演技にたけた俳優Pのいかれたインタビュー」が面白かった。わん。


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