のへのへ読書日記 第3回    菊池鈴々


 最近は【推しの子】のアニメ版に心を奪われています。絵も音楽も声優さんもみんなみんな超絶私好みで素晴らしい。

◆こちらは小説

「平安姫君の随筆がかり 一 清少納言と今めかしき中宮 (講談社タイガ)  遠藤 遼」
「平安姫君の随筆がかり 二 清少納言と恋多き女房 (講談社タイガ)  遠藤 遼」

 清少納言が主人公の平安推理物。実在の人物多数で、紫式部と和泉式部の著者メンバーズと藤原道長と橘則光が出ずっぱり。中宮と女御も登場。この作品では帝は影が薄い。清少納言はチャキチャキ喋る行動的な女性の設定で、紫式部を「紫ちゃん」と呼ぶノリ。平安の季節行事を順次キラキラと散りばめた華やかな暮らしの中で、ドタバタと揉め事が起こる。清少納言は詩人の心と逞しさを兼ね備えたタフなキャラになっている。ただ「いとをかし」を多用しすぎなのが気になった。ここぞという決め台詞に付け加えるならいいけど、言い過ぎだと思う。

「レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)  似鳥 鶏」 

 大手じゃない町の本屋さんの物語。思うようにならない仕入れの苦労、お客さんにお店に来てもらうための工夫、手に取ってもらうためのポップ、様々なお仕事状況が描かれる。そんな本屋さんに謎が降ってくる。
 4話あって、始めの3つの初出は「小説宝石」で、4つ目が書下ろし。通常この順番で読むよね。だから作者の細工にまんまと引っかかった。「あれっ?」と気がついた時は騙された後だった。気持ちよく騙されるのもいいものだ。

「華は天命を診る 莉国後宮女医伝 (角川文庫)  小田 菜摘」

 架空中華風後宮もの。主人公はなりたての女医さん。この国では、女子太医学校で4年間学んだのち、2年間の医官局勤務が義務付けられているため、現在研修医。彼女は実家が医院なので研修後は後継コースだから、そういう意味では恵まれている。ある日、行きつけの薬舗で、御史台の官吏が出向いての薬品が絡むいざこざを見て、つい首を突っ込んでしまう。薬の解説をして薬舗の疑いが解けたのはいいが、その後、宮中の医官にスカウトされてしまう。本人にそんな気はなくても実質的に拒否権はない。後宮勤めでは、妃同志のトラブルがあれこれある。懐妊とか流産とか単に気が合わないとかを含めて。
 この作品では、かなり具体的な薬の処方が書かれている。架空国家であっても特定の時代を想定して医療レベルをきっちり決めていると思われる。病気を診断し、薬を処方しながら、人間関係の問題も多少は改善する。序盤に登場した御史台の青年がバディ的な役割で一緒の仕事をこなしていく。白黒はっきりさせずにうやむやにする事もあり、彼女は医者として秘密を守るのだが、御史台は警察と検察みたいなものだから、彼の方が立場的に灰色を呑み込むのは苦しいかもしれない。

「ひねもすなむなむ (幻冬舎文庫)  名取 佐和子」

 タイトルと表紙の感じから、お寺を舞台にしたハートフルな日常の謎系ミステリかなと思って買った本。
 人材募集をしていた岩手県のお寺に就職する25歳の独身僧侶視点で語られる。ハートフルは合ってなくもなかったが、思ったよりずっとシリアスな話だった。特筆すべきは「東日本大震災」が複数のエピソードに通底していること。この本は2021年発行で、作中でも震災の10年後と書かれている。
 若き僧侶は、高知の大きな観光寺院から、檀家を持ち冠婚葬祭を引き受け敷地に墓地もある地域密着型の田舎のお寺にやってきた。彼には彼の事情がある。登場人物みんなにそれぞれの事情がある。病気の人、若い頃決別した相手に死なれた人、自分の趣味を誰にも打ち明けられなかった人。
 新入り僧侶が、多くの人と触れ合いながら、散りばめられた複数の謎を読み解き、大きな嘘にたどり着く。そんな嘘が通るものなのか、私にはわからないが、ありえたかもしれないと思わせる状況だ。10年前の厳しい状況が檀家総代の口から迸る。10年は長いのか、あっという間なのか。その嘘をこれからもずっとごまかしきれるものなのか。でも「人は変わるんだよ」という先輩の言葉をかみしめて、相手を許すことができるようになった若き僧侶の佇まいが、このお寺に来てからの彼の成長の素晴らしさを表している。短い間に大きく成長した彼や周辺の人々の、決意や願いに彩られた未来への展望が眩しい。
 本のタイトルと表紙を見ただけでは、東日本大震災と関わりがある内容だと購買層にわからないのは勿体無い気がするが、あまりあからさまにするのを躊躇する姿勢もわかる気がする。

「おこぼれ姫と円卓の騎士 女神の警告 (ビーズログ文庫)  石田 リンネ」
「おこぼれ姫と円卓の騎士 再起の大地 (ビーズログ文庫)  石田 リンネ」
「おこぼれ姫と円卓の騎士 王女の休日 (ビーズログ文庫)  石田 リンネ」
「おこぼれ姫と円卓の騎士 白魔の逃亡 (ビーズログ文庫)  石田 リンネ」
「おこぼれ姫と円卓の騎士 反撃の号令 (ビーズログ文庫)  石田 リンネ」

 神の力により過去の王様達と会話でき、不思議な力を体内に宿した王女が王座を目指すシリーズの12~16冊目。
 複数の国の揉め事を仲裁する役目を見据えて、外交をうまくこなしていく時期女王と目される王女一行の活躍が描かれる。利害と秘密が絡み合ってうまく立ち回るのは難しい。王女の超常能力そのものは、そんなに万能じゃなくて「風を起こすことはできても止めることはできない」等の使い勝手の悪さの説明が随所に出る。
 そんな中、兄王子が曰く付き軍師と一緒に国王を監禁してクーデターを起こす。王女達は超常能力を使って命拾いする形で一旦他国に逃亡して態勢を整える。これまでの複数の他国との付き合いにより直接的または間接的な援助が得られる人間関係が心地よい。今までの伏線をバリバリ回収するよ、というノリで勢いがある。恋愛要素も多少はあるが、国際情勢優先で話が進む。

「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波 (河出文庫)  似鳥 鶏」

 桜田門にある警視庁本部庁舎で、設楽巡査は、女子高生くらいに見える小柄な少女が庁舎内で迷子になっているところを助ける。なんと彼女は「警部」と呼ばれるキャリアだったが、方向音痴て説明が下手すぎる。本人は真面目に説明しようとしているが、たとえ話がかなりズレていて警察内で思いっきり浮いてしまう。成り行きで設楽くんがフォローをする担当になるが、彼女が捜査本部の方針に意を唱えるため、一般の捜査から弾かれる。聞き込みローラーのような人海戦術はあちらに任せて「戦力外」として遊撃部隊扱い(おミソ扱い)ながら、二人で捜査に邁進する。海月警部の観察眼と推理力と行動力は実は大したものだった。警部のキャラクターがコミカルに誇張されていても、事件そのものはシリアスなので、警察小説として面白い。テレビドラマになったようだけど、そちらは未見なのでよくわからない。

◆こちらはコミックス

「カルバニア物語(20) (Charaコミックス)  TONO」

 メインの登場人物が王族や貴族だから、今回は出産・相続問題が大きな話題。20巻目にもなると主人公達もそういうことを考える年齢になっている。王家にも高位貴族にも子供が少ないから、いろんな思惑が入り乱れてバタバタしてるが、女王も公爵もどんどんタフになってきてるから、なんとかなるよ感があってそんなに不安定じゃない。

「怪獣8号 1 (ジャンプコミックス)  松本 直也」
「怪獣8号 2 (ジャンプコミックス)  松本 直也」

 Web版「ジャンププラス」で無料公開してたぶんを読んだ。アニメ化が決まったから宣伝だと思う。
 怪獣が多発する国、日本。そこで怪獣防衛隊を目指しながら怪獣専門清掃業者をしている主人公が、同じく防衛隊を目指す後輩と一緒に、怪獣事件に巻き込まれて命を助けたり助けられたりしながら、間一髪で防衛隊に救助されて病院送りに。そこで謎の怪獣に寄生されて怪獣になってしまう。その主人公の名前は「カフカ」。なるほどわかりやすい。怪獣に寄生された、または合体した状態でも精神は人間のまま。人間形態と怪獣形態を行ったり来たりで生き延びる。そんなデビルマン状態のままで、後輩と一緒に防衛隊員を目指すストーリー。絵は上手いし、ギャグ要素を盛り込みながら、ストーリーのテンポも良くて、好調な滑り出しだと思う。


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