のへのへ読書日記 第2回    菊池鈴々


「読もうかな~」な本も「観よっかな~」なアニメも多すぎる。時間が足りないのに、ついつい「小説家になろう」を読んだりするのでさらに時間が消える。そんな日々です。

◆こちらは小説

「掌侍・大江荇子の宮中事件簿 (集英社オレンジ文庫)  小田 菜摘」
「掌侍・大江荇子の宮中事件簿 弍(集英社オレンジ文庫)  小田 菜摘」
「掌侍・大江荇子の宮中事件簿 参(集英社オレンジ文庫)  小田 菜摘」

タイトルで明確に示されている通り、平安時代の謎解き物の連作短編。類似の作品は多数あるけど、これは人物描写が目を惹く。主人公を生き生き描くのは多くの作者が頑張ってるので珍しくはない。その中で、このシリーズは帝のキャラのひねりが効いている。平安物の帝は一夫多妻になる都合上、キャラの立て方は色々あるし、必ずしも魅力的にする必要はないが、この帝は食わせ者でいい感じ。そして、主人公との恋愛感情を匂わせる相手は帝に信頼される側近だというのもミソ。また、生まれは申し分ないものの、不遇をかこつ有能な女性が、主人公の帝への口利きにより典侍という上﨟に任命される。主人公は中臈なのにね。この4人の距離感が絶妙で、作者のバランス感覚が冴えている。謎解き自体は表沙汰にしない方向が多い。それもまた良し。

「メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視 (角川文庫)  加藤 実秋」

主人公の新米女性刑事が、退職した元刑事のおじさんたちと一緒に事件に関わっていくシリーズ2冊目。主人公の失踪中の父親に関係する事件が、リタイヤ刑事の中の一人ともいわくがあった。過去の事件との繋がりを含めて、警察のダーク面がちくちく出てくる。

「メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト (角川文庫)  加藤 実秋」

3冊目にして初の長編。爆弾テロに立ち向かう。退職間際でベテランの頭の硬いおじさん刑事が登場。またおじさんが増えたけど、今更気にならない。
後書きによるとテレビドラマになっていたみたい。検索してキャストをチラリと見たら、割とハマる感じで雰囲気があってそう。

「獣の牢番 妖怪科學研究所 (小学館文庫キャラブン!)  久我 有加」

明治40年、大阪で失業者の青年が、お祓いを頼みにきた依頼人をすげなく断っている「妖怪科學研究所」を見つけ、そこに雇われるところからスタート。就職を決める面接で「妖怪を信じているか」と問われ、返事の前に妖怪の定義を問う。「幽霊や化け物、狐狸の類を仰っているのか、それらを含めた不可思議な現象全般のことを、妖怪と仰っているのか」。ここで、ここの所長も青年も前者の妖怪を信じていないという立ち位置がはっきり示される。迷信や未知の出来事に関わる中で、主人公達のスタイルがわかりやすい親切設計。所長の友人で妖怪ものを書く小説家が事件に一噛みしてくる。彼は明るいムードメーカーで、無愛想な所長に比べてよく喋る上に身分が高いのであちこちに融通がきく、なかなかお役立ちな人物だ。日露戦争帰りの兄の行方を探してほしいと頼まれ、因習が残る田舎に向かう。そこは主人公達が洋装なのが目立つくらいの田舎の村。他にも行方不明者がいるのに村人達の口は重い。
この作者のBL作品は何作か読んでるけど、これは一般向け。主要人物が男性ばかりなのはきっと個性。主人公の青年が割とハキハキしてるから京極夏彦のあの系列とは雰囲気が違う。

「月下氷人 金椛国春秋外伝 (角川文庫)  篠原 悠希

架空中華風国家の年代物が全10巻で完結した。これはその外伝。主要キャラの過去編や、完結後の後日譚など。本編ではほぼ主人公視点で話が動いていたから、他の人物に焦点を移して描く過去エピソードは読み応えあり。本編で想定していた通りのものを含めて、そうだったのか~という過去話がしみじみと描かれる。

「紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色 (角川文庫)  ほしお さなえ」

大手紙屋さんの記念館でアルバイトする女子大生のシリーズ。活版印刷が大きく取り上げられている。この作者が他社から出している「活版印刷 三日月堂シリーズ」とリンクしてそちらの人達も登場する。印刷技術やインク関連の仕事のほかに、記念館で定期的に一般向けワークショップをやろうと企画を立ち上げる。その中で、記念館館長の青年の孤独が大きく語られる。彼は親が光り輝きすぎて自己肯定感が低いまま育ってしまい、人付き合いに失敗してきたため、大人になっても苦手意識が拭えない。ワークショップで人に教えるための心のハードルを克服できそうな展開が、ゆっくりと綴られて胸を打つ。

「紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱 (角川文庫)  ほしお さなえ」

紙漉きをしたり、墨流しをしたり、新しいことにトライする姿が楽しそうに描かれる。以前作った小説の一部を活版印刷してロウ引きした「物語ペーパー」という商品について、アイデアを出した担当者として、主人公が雑誌のインタビューを受けるなど、多様な展開を見せる。記念館は本社の都合で閉館を余儀なくされるものの、仕事は社屋の一部を利用して続けられる予定になり、ワークショップも含めて記念館フィナーレに向けて準備している時、事態が急変する。新型コロナウィルスだ。館長も医療用不織布を作る部門を手伝わなければならなくなる。
フィクションの中では、曖昧な「現代っぽいもの」にしてコロナ禍とは別の世界線のように書くこともできる。今回作者は真っ向勝負に出た。この巻は令和4年3月発行。

「後宮の検屍女官 (角川文庫)  小野はるか」
「後宮の検屍女官2 (角川文庫)  小野はるか」

架空中華風国家の後宮推理もので連作短編。後宮が舞台の推理ものは沢山出てるけど、これは本当にちゃんと検死をしている。死人が出る作品は多数あれど、ここまで死体を触りまくる描写があるのはあまりない。髪の毛や口の中まで調べる。検死という職業に対する忌避感や差別感情にも触れていて、作者の誠実さを感じる。タイトルが「後宮検屍女官」なのは潔くて良い。「後宮の〇〇」で曖昧な言葉を入れてしまうと、ライトミステリー路線と思って具体的な死体描写を読みたくない読者に届くとミスマッチになる。また、特徴を出してアピールできないと、多くの後宮物の中で埋もれてしまう。検死を検屍にしたのは雰囲気作りとして合ってると思う。

「青の女公 (集英社オレンジ文庫)  喜咲 冬子」

架空国家の洋風ファンタジー。魔法や魔物なしのリアル路線。王政国家で馬車と剣の時代設定。北方領主の娘だった主人公が、父を殺され家族を人質に取られて、王宮で働いているところに厄介な依頼が舞い込む。それに関連して、第一王女との接触で事態は大きく動く。男を複数侍らせる高飛車王女に見えて、父王のやり方に不満を持ち、国家の行く末を考えているやり手の人物だった。誰がどっちの味方なのか混乱した状況の中、痛々しく立ち向かう主人公の目線で戦いが続く。そんな中で、女に暴力を振るうのにその相手に助けてもらえると思っているクズ男の描写が目立った。
この一冊できっちり完結している。後日譚を読みたい気がするが、なさそうな雰囲気で終わる。

「リーリエ国騎士団とシンデレラの弓音 ― 綺羅星の覚悟 ― (集英社オレンジ文庫)  瑚池 ことり」

架空国家ファンタジーのシリーズ2冊目。優秀な騎士の家系に生まれながら体格に恵まれず、短弓しか扱えない少女の物語。複数の国家が、戦争の抑止を兼ねて競技会で騎士団を戦わせる設定。前の巻で弓の実力を認められて騎士団に入った少女が競技会に出場する。狭いエリアで互いの兜の石を砕くルールでは弓は不利なので出てくるのは剣士ばかり。女性騎士は他にもいて、諸々の軋轢がある。主人公と恋愛関係を育む騎士が、競技中に彼女を守ろうとしすぎる問題が表に出て、その克服が大きなポイント。個人の秘めた願いと多国間の陰謀を匂わせる事件を横軸に置き、小さな射手の活躍が大きな話題となる。
戦争の代わりの競技会というと、オリンピックを思い描く人もいるかもしれないが、競技は一つだけなので、どちらかというとGガンダムのガンダムファイトに近い。

「筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫)  谷 春慶」

筆跡鑑定を頼みたい個人的な事情がある女子大生がいる。大学に心理学の准教授がいて筆跡心理学という研究をしており、筆跡鑑定もできるというので相談したら、書道部の東雲くんもできると教えられた。頼みにいくも、本人はけんもほろろで言葉もきつい。ストーカー扱いに負けずに粘って、頼みを聞いてもらうことになる。准教授がらみの依頼も含めて短編4つ。話が進むうちに、彼の筆跡鑑定は誰が書いたかの特定のみならず、書き手の感情まで読み解く特殊なものだとわかってくる。成り行きで女子大生が彼の助手的役割になっていく。鑑定に関するあれこれの蘊蓄は物珍しく割と面白いけど、彼女の防犯意識が甘すぎるのがありえないレベル。前半のエピソードのコンパの席で飲み物に一服盛られて、貞操の危機に陥るが間一髪で助かる。状況的に犯人がわかっているのに、表沙汰にしないだけでなく、その相手と普通に友達付き合いするなんて信じられない。こんなに警戒心がない女子ってリアリティに欠ける。鑑定ネタはいいので、こういう部分はもったいない。

「悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい! (ビーズログ文庫)  烏丸 紫明」

乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢モノ。人気設定なのでたくさん出ている。この話はゲームの主人公も転生者。コメディ寄りでテンポよく進む。主人公の「推し」である第一皇子の顔や声がいいのは設定上当然として、性格はもう一声練って欲しかった。もう一人の転生者を見つけて友達になり、互いの性格を探り合い、同人誌について熱く語り合うシーンは力が入ってる。この本のナイスなパートはここだね。

「化学探偵Mr.キュリー3 (中公文庫)  喜多 喜久」

大学の庶務課の職員が、探偵役の准教授に事件を相談するシリーズ3冊目。短編4つ。タイトル通り理系ネタで面白い。その中の「化学少年」の話は、そうはならんやろ感があったけどね。ただ、女性職員が自分の手に負えないことを安請け合いして、頼れる准教授に困難を押し付けてフォローしてもらうスタイルが続いているので、少々痛い感じがする。それは個別の事件の面白さとは違う方向性でマイナス印象。

◆こちらはコミックス

「デジタル原始人☆川原泉 (花とゆめコミックススペシャル)  川原 泉,福田 素子」

川原泉がデジタル作画を導入しようとするレポート漫画。河原泉と相談相手の福田素子の二人の漫画が載っている。わからないことの連続で、絵を描くどころか殆ど先に進まない。私はデジタル作画には全くの素人だけど、鹿児島にだってコンピューターのサポート会社はあるだろうから、その手の業者さんを探してサクッとサポート契約すればいいんじゃないのかという思いが拭えなかった。河原・福田間の電話はここで言及されているものの何万倍もあるはず。遠くから来てもらったデジタルに詳しい友達の漫画家さん達は親切なんだけど、いつも助けてもらえるわけじゃない。人には向き不向きがあるんだから、技術面ではプロに頼ってもいいんじゃないのか。困難に立ち向かう姿に感動するよりも、効率が悪すぎて読んでいてモヤっとした。知らない相手にものを頼むのが苦手な、人見知りタイプなんだろうな~って垣間見えるだけに辛い。

「葬送のフリーレン (10) (少年サンデーコミックス)  山田 鐘人 , アベ ツカサ」

あっという間に10巻目まできた。人類と魔族の能力の違いだけでなく、精神性の違いを丁寧に描いてる巻。人間たちが足掻いて抗う姿が、負け続けていても美しい。絵柄は以前より少し線が細くなっている。

「ダーリンは75歳  西原 理恵子」

生活レポート漫画路線。とはいえここまで誇張と露悪に溢れていると、読者は誰もリアルライフだとは思わないよね感が定着してるはず。写真付きもあるから、ある程度は事実なんだろうけど。サイバラのキャラがクマになったりキツネになったり、下品と自虐とリリカルが入り混じる自由自在の筆運びは誰にも真似できない。

「ダーリンは76歳  西原 理恵子」

この巻は、高須院長の闘病記が印象的。癌の闘病だから厳しい。お金の掛け方は段違いながら、患者とその周辺の人が辛いことには違いがない。全体にインパクト重視だけど、ラストの地元の漁師さんたちの会話なんかは、さらっと描かれてるように見せて手練れだ。こういうエピソードを入れられるところがあざと上手い。

「【推しの子】 11 (ヤングジャンプコミックス)  赤坂 アカ,横槍 メンゴ」

若くして殺された女性アイドルの遺児の双子が、両方とも前世記憶持ちで拗らせながら生きていく芸能界ストーリー。
Web版の「少年ジャンププラス」で読んでるものを紙版で再読。この11巻は殺人犯が現在進行形でヤバイ人間だとわかる衝撃の回。殺された母親関連の映画企画が監督やプロデューサーと共に動き出す。連載当初から小出しに挟み込んできた映画企画だから、キーになる内容のはず。TVアニメも楽しみ。


THATTA 419号へ戻る

トップページへ戻る