みだれめも 第251回
水鏡子
「本の雑誌2月号」は中野善夫の檄文が圧巻。こんまり批判から清水幾太郎への言及の骨子はググると2020年になされており、掲載にあたって練り込まれたものである。というかそれを読んだ編集部が特集を組んだのではとも思われる。ぼくのもいくつか小ネタを挟んでみたつもりだが中野檄文のあとでは泣き言の羅列にしか見えない。
清水幾太郎はぼくらの一世代前の代表的知識人で、うちにも10冊、訳書編書を含めると20冊くらい集まっている。ひさしぶりに関連書でも読んでみようかと竹内洋『清水幾太郎の覇権と忘却 メディアと知識人』を探したのだが持っていたはずが見つからない。しかたがないので同じ著者の『革新幻想の戦後史』を読む。戦後の革新と保守の対立を「悔恨共同体」と「無念共同体」のせめぎあいと捉え、当初世論調査で劣勢だった憲法改正・再軍備反対派が逆転したのを、革新系が優勢になったとみなしたのは両者ともにの勘違いで、「花(理念)より団子(実益)」という革新の皮をかぶった生活保守のせりあがりによるものだったという分析など納得もいって面白い。清水幾太郎と福田恆存の確執などが書かれており、拾ってみたい著者がひとり増えた。
年末年始で食べ癖がついて、医者に行くとヘモグロビン値が過去最高の9.7を記録して慌てる。眼科に行くと、白内障が若干進行、右目に緑内障が発生していた。ただ糖尿病の影響については、両目ともヘモグロビン値9.7とは思えないほどきれいです、といわれて少しだけ安心する。とはいえ緑内障。貰っている目薬とかちゃんと挿すことにする。いろいろ大変です。
1月の購入合計 176冊、25,947円。クーポン使用0円。なろう46冊。コミック56冊。買い直しとエラーのダブり本12冊。新刊本『にゃんこ四字熟語辞典①②』『されど罪人は竜と踊る㉓』『現代社会で悪役令嬢をするのはちょっと大変④』5,357円の4冊のみ。
数年ぶりで漫画がなろう本の数より多くなった。
5点以上購入したのは『サイバラ茸①~⑤』、『応天の門①~⑤』、『ぎんぎつね①~⑬』。落合さより『ぎんぎつね』はアニメ化もされ累計百万部越えのハートウォーミング神社蘊蓄ファンタジー。どこでもみつかる100円本の常連組だが予想以上に読み応えがある。全18巻なのでいずれ残りも拾う予定。
300円越えの本。『笛吹童子 紅孔雀』(1500円)は「新諸国物語」の代表作を集めた大型本。作品社の上下本を持っているのだが挿絵入りであり美本であったので大枚叩く。しかしこれで『笛吹童子』に限ると、橋本治版を含めて四種類集まった。
『中国科学幻想小説事始』(600円)、石原藤夫『SF作家の近未来科学読本』(300円)、『季刊 月下の一群 第2号 特集=幻獣』(500円)、多岐川恭『姉小路卿暗殺』(300円)、+なろう本2冊。
その他の堅めの本。ブライアン・グリーン『隠れていた宇宙 上』、村上陽一郎『人間にとって科学とは何か』、渡辺直樹編『宗教と現代がわかる本2007年版、2010年版』、ベルナール・ヴェルベール『星々の蝶』、ベネディクト・アンダースン『想像の共同体』、大野忠男『かみ・ひと・かたち』、B・エヴァンズ『ナンセンスの博物誌』、真野隆也『タオの神々』、クリストフ・ランスマイアー『ラストワールド』、ミシェル・ウエルベック『服従』など。
さてひさしぶりに新刊で買うことになった単行本サイズのなろう本、二日市とふろう『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変④』である。
平成不況の中、ブラック企業で働いて過労死したOLが、やり込んでいた乙女げーの悪役令嬢に転生する話、というとまあまたか、現代日本というのがちょっとひねったところなのかな、と読む気にならず1巻目を拾ってしばらく放っていた。読んでみるとちょっと大変なのは著者にとってのことだったようで、現代日本に金髪碧眼の公爵令嬢を違和感なく配置するためとんでもなく凝ったバックストーリイを作成する。
舞台は少し歴史の異なった日本。第2次世界大戦で1944年ドイツに先駆けて降伏する。南樺太北海道は北日本民主主義人民共和国となって分断される。北海道にはロシア革命から逃げ出した難民たちがあふれ、多民族国家となっている。一方中国共産党に敗れた国民党は台湾ではなく満州国を掌握し、反共の盾として欧米の支援を受けている。
日本では無条件降伏でない只の降伏だったため、財閥は解体されず、不逮捕特権階級としての華族制も存続し、軍隊も保有する。
その後、アフガン戦争に疲弊し、ペレストロイカを断行したロシアにより、経済的に困窮した北日本政府は、東ドイツ同様日本帝国に統合される。統合によるきしみは政治経済生活様式様々な面で問題を生み出している。
そんな日本でロマノフ王家の血筋を受け継ぐ金髪碧眼の公爵令嬢桂華院瑠奈が幼稚園在園中、前世で良く知る金融恐慌が日本を襲う。
彼女は既に知る国内国際情勢と財政金融知識を武器に、ITバブルに全掛けし、資産を増やし、一山証券、北海道開拓銀行、長信銀行、債権銀行と金融恐慌の震源を救済し、日本の不良債権処理を推し進め、強大な企業組織に成り上がっていく。ゴールとなるのは、高校生活で始まる乙女ゲームの物語で悪役令嬢として破滅する卒業式。それは同時に欧米で、リーマンショックが襲う時でもあった。
「現代世界をモチーフにした乙女ゲームの悪役令嬢に転生。けど、現代世界だからこそ悪役令嬢のスローライフにはいろいろと苦労があって、NAISEIするにも日本近代史と現代経済史とグローバル経済が主人公に襲いかかる。
頑張れ悪役令嬢!負けるな悪役令嬢!!ちょっと太平洋戦争に負けたり、バブルが崩壊したり、フィナンシャルクライシスが襲いかかるけど、ちゃんとスローライフを送るために主人公とイケメンを放置して歴史改ざんとマネーウォーズに身を投じる悪役令嬢桂華院瑠奈の奮闘記。
なお、この物語はすべてフィクションであり、偶然の名前や事件の一致等がありましても実在の人物・団体等とは一切関係ありません。(著者による紹介)」
と、まあそんな筋書で、現在163万文字書き継がれているが、現在主人公は中学2年。たぶん来年にならないと乙女ゲームのスタートに辿り着けそうにない。金融資産の肥大化はまあぎりぎり許容の範囲内だが、10年弱のスパンでの鉄道を始めとしたインフラ整備の肥大化は物理的に無理じゃね、と思わなくもない。
1冊目を読んで、これはなかかかと続きをWEBに読みにいったら、なんか、ふらつき、とっちらかっていて完成度に欠ける。これは覚書的な記載であって、書籍化で完成稿というやりかたなのかと4冊目を買ったわけだが、前後を入れ替えたり、たぶん加筆もあってまとまりもあるのだろうけど、とっちらかったWEB版の方がいい。なにより、内輪受けの現実と異世界の裏事情が交差するマニアックなコメント類が、書籍版では無味乾燥な用語解説になってしまっているのが納得はできるけれどももったいない。
著者は、きちんと書いてないので誤読かもしれないが、旧社会党系の活動経験のある小泉内閣を信奉するオールラウンダーのガチおたく。鉄道、軍事、ネット、コミック、アニメ、らのべ、小説、TV、歌、ギャンブル、まあ幅の広さと内容の濃さに驚く。ボードゲーム「ディプロマシー」、競走馬「ツインターボ」とか、個人的にささってくるところにいろいろ言及している。高松のSF大会にも参加したと報告もしている。
書籍版でなくWEB版をお勧めする。
この月は、続篇類を含めて50冊近くなろうを読んだ。数をこなすと自然と評価が辛くなる。4割くらいが駄作認定。
そんな中でのお勧め作は、バッド『アースウィズダンジョン~世界を救うのは好景気だよね~』、海華『迷宮宿屋~空間魔法使い少女の細腕繁盛記~』、織部 ソマリ『見習い錬金術師はパンを焼く ~のんびり採取と森の工房生活~』など。