みだれめも 第250回

水鏡子


○近況(11月・12月)

11月

 パソコンの前に座り続ける日々に、腰や肩に慢性的な痛みが続く。椅子の背に凭れたり、凭れたまま体をひねったりするせいで、ここ数年で背もたれをふたつばかり折ってしまったこともあり、まともな椅子がひとつしかない。これを壊すとあとがないと無理な姿勢を続けたことが大きな理由であるので、奮発して頑丈な椅子を買う。ビックカメラの優待券が今月末で切れるので、優待でもらったギフトカード類など総ざらいして2万円を捻出して、5万円のゲーミングチェアを購入する。ここ10年くらいで書庫を除くと最大の買い物。備品に該当するものはプリンター2台、掃除機2台、冷蔵庫1台などだが、現金使用は今回が初である。
 あと似たような事情でCMでお馴染みの巨大ビーズクッション「ヨギボーMAX」を注文する。こちらは優待クーポンのみ。普通の六畳間とかにおくと、かなりじゃまっけものだが、書庫の80センチ幅の通路にすっぽり入って読書空間としてはなかなかお買い得。

 梅田ロフトの駿河屋や近場のお宝一番館ガレージストアなどの処分セールやブラックフライデーで10円20円で37冊買う。漫画版『キュビズム・ラブ』、初野晴『ハルチカ』5冊、『妖埼庵夜話』5冊、半村良の単行本2冊など。
 11月の購入合計 214冊、24,841円。クーポン使用4,700円。なろう59冊。コミック12冊。買い直しとエラーのダブり本33冊。新刊本『ゆきあってしあさって』『このライトノベルがすごい2023年版』など5,566円。
 新刊を除いた300円以上で買った本:多岐川恭『変人島風物詩』、ジャン・ピエロ『デカダンスの想像力』、ドミトリー・S・リハチョフ『庭園の詩学』、バロックコレクション『①バロックの愉しみ』、高橋康也他『不思議な童話の世界』、阿部謹也『中世の星の下で』、ユルゲン・ハーバーマス『イデオロギーとしての技術と科学』、カント研究会編『自由と行為』、井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』など。大半は、出物が多いが300円以下が少ない「たにまち月いち古書即売会」での拾い物。
 その他町山智浩6冊、『双調平家物語』5冊、新潮社編『私の本棚』、ジョナサン・カーシュ『聖なる妄想の歴史』、鈴木光司『月のものがたり』、中村元『思想をどうとらえるか』、御手洗辰雄『新聞太平記』、ダーレンドルフ『産業社会学』、ソン・ホンギュ『イスラーム精肉店』、諸田玲子『尼子姫十勇士』など。

 中学生のころ、読んだSFのベストにあたるものを月ごとに順位付けしてグラフにしていた時期がある。その折、常に上位に位置していたのが『銀河帝国の崩壊』だった。機会を得て半世紀ぶりに読み返したのだが、ある意味愕然とし、ある意味感動をした。
 愕然としたのは、この作品がアマチュア作品の域を出ていないこと。投稿を受けたキャンベルが二度にわたって3か月を掛けて没にしたのもうべなるかなと納得できた。
 問題は、キャンベルが没にするのに3か月を掛けたこと。さらにおそらくキャンベルのサジェスチョンに基づいたと思われる第2稿について、同じく3か月を掛けて没にしたこと。シノプシスとしか読めない小説としての出来の悪さに辟易しつつ、そこに込められたSFの詩情とヴィジョンに没とするのを逡巡したためではなかったか。
 それくらい若きクラークが見たSFのヴィジョン、SFへの思いのたけは純粋で初心で美しく、厨二病の結晶を彷彿させるものを内包している。
 完成度の低さは、20歳のころに思いついたという構想を長年温めすぎていて壊せなくなったせいではないか。活字化して客観化出来て、やっとキャンベルが没にした理由が見えてきて、『都市と星』につながったように思える。
 しかし今の目線で見ると、所詮『都市と星』は初々しさを失った出来のいい五〇年代SFに過ぎない。ぼくにとっての心に故郷ともいえる五〇年代SFだが今回いくつか読み返して思ったことはアイデアやビジョンを詰め込むパッケージとしての小説のつくりの部分が単調に過ぎるということだった。特に長篇が問題で、アイデアストーリーとして開発された中短篇の造型を無理に引き伸ばしている印象がある。出来のいい『都市と星』より出来の悪い『銀河帝国の崩壊』を支持する理由である。ちなみに「太陽系最後の日」『銀河帝国の崩壊』『幼年期の終り』という初期作品を鑑みると、『火星の砂』や『海底牧場』などの近未来ものより、遠未来もののほうこそクラークの本当に憧れていたSFのビジョンであった気がする。

 そんな印象を再確認した直後、まるでクラークのSFへの思いやヴィジョンを受け継いで、はるかにうまい小説を書いている本に出遭う。劉慈欣の二分冊『流浪地球』『老神介護』である。どちらにもクラーク的なヴィジョンやユーモアが感じられる。『三体』も『銀河帝国の崩壊』『幼年期の終り』を踏まえて見直すのもよいかもしれない。

12月

 まんだらけの株を買ったのは6年位前だろうか。株主優待の拡充ということで、1000株で金券7000円、長期保有で20,000円と発表された。705円の株価で発作的に買ってしまったのだが優待発表による株価はしばらくすると下がるもの。ずっと含み損状態で推移する。5000株を持っていたら金券10,000万円、長期保有なら50,000円ということで権利確定後の値下がりを狙って4000株を買い増すものの株価は低迷を続け、最安値の時は441円に落ち込んだ。まあ、最近は600円前後までには復調し、含み損(小)の状態になっており、これで50,000円の金券と5000円の配当ならまあ悪くはないと放置状態だったが、11月の後半からリサイクル業+インバウンドブームで様相が一変した。ブックオフ、テイツー(古本市場)もそこそこに上がる。4,000株を980円で売り抜けたが結果的に1,078円まで上昇した。まさかまんだらけで130万円の益が出るとは思いもしなかった。残念なのは、年末の株価低迷のなかでの逆行高だったため、損切を狙っていたコロプラ、ブロッコリーなどの合計1000万強の含み損株が軒並み株価を下げていて売ることができなく、すべて税金のかかる売買益の上乗せになってしまったことだった。
 じつはまんだらけにはもうひとつの問題が生じている。大阪梅田、日本橋店、ともに時代の流れかラノベ・なろう系のスペースが縮小されて12月の半ばを過ぎても年末期限の金券が30,000円も残ってしまった。そんな事情で無理やりぼくからすると割高の値段のものを買い漁る。
 主なところで、諸星大二郎5冊、『春夏秋冬代行者』4冊、『乙女ゲー世界はモブに厳しい』5冊、『くまクマ熊ベアー』3冊、『まんだらけZENBU』8冊など。最後のものは一冊1500円の数合わせ。これで『まんだらけZENBU』のバックナンバーも残り37冊になった。

 12月の購入合計 304冊、40,332円。クーポン使用41,200円。なろう146冊。コミック72冊。買い直しとエラーのダブり本12冊。新刊本『SFの気恥ずかしさ』『SFマガジン2月号』『チンギス紀⑮』『されど罪人は竜と踊る㉒』『ひとりぼっちの異世界攻略⑩』『りゅうおうのおしごと⑰』『ちはやぶる㊿』など14,637円、ほとんどラノベ、コミックの続篇ばかりですね。
 購入金額、クーポン使用の合計額は8万円の大台だが、先に述べたまんだらけクーポンの強制使用の事情が大きい。あと『SFの気恥ずかしさ』に一端の責任が。評論集というのは値段を見て躊躇するのがふつうなのだがこの表題作には一方ならぬこだわりがあり、レジに持っていって高値に驚く。
 コミック72冊は今年最高の購入量。山田ミネコ16冊、唐々煙8冊、『1、2の三四郎』4冊、『夢見る惑星』4冊、『夜桜四重奏』11冊、小島剛夕『西遊記』5冊などが主なところだが、新刊で買った『ちはやぶる㊿』を含めても、合計額は、まんだらけクーポンの諸星大二郎、山松ゆうきち6冊分とほぼ同じである。
 新刊を除いた300円以上で買った本は、クーポンを利用したものも含めると60冊を越えるが、なろう本とコミック、『まんだらけZENBU』を除くと4冊のみ。なろう本は持っていないものでWEBにも読みにいっていないものが400円以下であれば買うことにしている。
 テリー・イーグルトンの豪華本『美のイデオロギー』『表象のアイルランド』を各1000円、J・クラットン=ブロック『馬と人の文化史』500円、全集キリスト教文学の世界『⑱バレーラ ボルヘス』300円など。ボルヘスの収録は『伝奇集』だが解説田中小実昌に驚いて買う。
 その他の220円以下の硬めな本には、『西洋の没落②』、佐藤亜紀『黄金列車』、F・カウルバッハ『行為の哲学』、W・シュルフター『現世支配の合理主義』、雑誌・政治思想研究『⑭科学と政治思想』、川田忠明『名画の戦争論』、木村衣有子『猫の本棚』、江坂遊選『猫の扉』など。

 『西洋の没落②』シュペングラーの大著。第一部は林書店版で2,30年前に定価1,600円のものを1,000円という当時としては大枚を払って買っている。今回220円で購入したのは五月書房から出た2007年の普及版で、それでも定価は税抜き3,800円もしている。出版社は異なるが訳者が同じなので連続性は保たれえているはずである。いわずとしれた『宇宙船ビーグル号』の、シートンと並ぶ思想的背景本である。
 第一巻の訳者の序には内容の要約として次のような記述がある。

「西洋の没落は一つの運命である。文化は発展して文明となり、土、故郷はなくなってメガロポリスが発達する。誰も彼も文明人となるのである。それには大戦争が起こる。人類を絶滅させる武器が発明され、経済が思想を支配するというのである。」

 「大戦争が起こる。人類を絶滅させる武器が発明される」というのはキューバ危機を経た訳者の拡大解釈もあるのかもしれないが、人口の都市への集中、科学主導、経済偏重、グローバリズムなどへの文明の生態史観からの分析として読み解くことができるのかもしれない。
 いやちゃんと読めばいいのだけれど、なろうその他を読むのに忙しく1巻目から棚に放置のままである。

 ヴァン・ヴォークトといえば『非A』のベースのアルフレッド・コーブジスキーの一般意味論があるが、こちらは弟子のS・I・ハヤカワのものを2冊拾っているだけで本人のものは手にしていない。ただ調べていくと、影響を受けた作家としてヴァン・ヴォークト、ロン・ハバートと並んでフランク・ハーバート、ハインラインが挙げられていて驚いた。ヴァン・ヴォークトとハーバートの共通性については何度か言及してきたが、まさかこんなところに接点があるとは。ただ、熱心な読者でないせいかもしれないが、ハインラインというのは正直わからない。
 ちなみにマーチン・ガードナーのニセ科学総覧本『奇妙な論理』には同じくヴァン・ヴォークトがはまったベイツ視力矯正法と共に、一般意味論もそれぞれ一つの章立てで取り上げられている。

 1月に発売される「本の雑誌」の特集・本を買うに10月に買った本のリストを提供、こんな安値で拾われるなんてと著者や出版関係者の不快を誘いそうだなあとか、こんな本を今頃買っているなんてと馬鹿にされそうだなあとか、異世界やら悪役令嬢やらこの雑誌の読者がたぶんあまり見たことのないタイトルが並ぶこれはなんだというくらいたぶんカルチャーギャップを生むリストである。
 もともと、確定申告の二次資料として購入記録を残しているので作成は困難ではなかったものの、セル枠に収めるための省略した正確性に欠ける表題名であった。配置やら校正も含めて編集の松村様には多大な手間とご面倒をおかけした。なにぶんなろう本では表題30字越えがごろごろあるのだ。
 よろしければご笑覧を。


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