みだれめも 第245回
水鏡子
ブックオフ1月1日から4日まで行なうウルトラセールに、開催されるようになって初めて棄権した。寒かったこと、JR回数券が無くなったことも大きな理由だが、なにより単行本サイズのダブり本が激増したことが古本購入意欲をじわじわボデイブローのように削っている。文庫本サイズの110円については、京都大阪まで出向いた時間と交通費、金額との兼ね合いで、持っているかどうか迷いが生じたものを拾うことにある意味やむを得な感があったのだが、220円の単行本サイズに関しては、迷えばそもそも買わない主義だ。にもかかわらず、買って帰って棚に並べてダブりに気づくことが本当に増えた。1冊程度なら納得の範囲だが、毎回数冊ともなると、千円規模の無駄遣いである。なろう本に関しては、タイトルも内容も表紙絵も似通ったものが多すぎて、しかも巻数とびとびに買っているため保有本の掌握がまことにもって覚束ない。中途半端に持っている本の数が多すぎて、リストを作って持ち歩くのさえ困難なのだ。今年の古本購入は、少し慎重になるかもしれない。
1月の入手量は133冊としばらく見なかった数に収まった。購入額は19,307円とクーポン使用2,500円。なろう48冊、コミック24冊。ダブり本は20冊だがそのうち半分は荒山徹の単行本の買い直し。文庫本で揃えていた作家だが、帯付き美本が10冊まとめて並んでいたので買い集めることにした。
硬めの雑本は1,000円近いものをいくつも買った。為永春水『八犬伝後日譚』、真鍋博『思考の覚え描き』、荒俣宏『図鑑の博物誌』、中野美代子『中国の青い鳥』、ジョスリン・ゴドウィン『キルヒャーの世界図鑑』、金山宣夫『日本アメリカメキシコ比較生活文化事典』、池田理代子監修『ベルサイユの薔薇かるた』など。最後の二つは110円。
ブックオフ巡りが減ったもうひとつの理由が、前回少し触れたネットゲームHERO WARSである。
ときどき気分転換がてらに数時間(!)スパイダー・ソリティアをやるのだが、そこにしつこく載るゲームの宣伝動画のひとつがHERO WARSだった。勇者が魔物を倒すコミカルなパズルゲームで、わりと好みの画像であるので、まあ、無料なら軽く遊んでみてもいいかなと生まれて初めてポチっとした。
これがパズルゲームでもなんでもなくて、王道のキャラ育成RPGだった。パズルゲームはその折々に挿入されたボーナストラックに過ぎず、しかも広告に載った半分以上のミニゲームは見当たらない。詐欺広告と憤慨するコメントが多く見られるのだが、まあよくできたゲームなので怒るほどのものではない。
Nextersというキプロスのゲーム会社の代表作品で、この会社はヨーロッパのモバイルゲームの上位5社に入る大手だそうだ。2016年に会社設立と同時にリリースされたもので、同社のゲームとして唯一WEBプラウザで遊べるものらしい。発売から5年近くたって、最近やたらと広告が出回るようになったのは日本語訳版が出たせいなのかもしれない。
さて、このゲーム、参加当初は1日2時間程度だったのが、今は毎日10時間以上費やすことになってしまった。そのせいで、遠出をしても回れるブックオフが1件程度と交通費のコストがめちゃくちゃ高くなって電車に乗らず近場の古本屋で用を足すことしかできなくなったのである。
傍から見ると思いっきり嵌っているように見えることは否定できないが、心理面ではじつはそれなりに醒めている。
よくできているゲームなのだが、シナリオやキャラクターに感情移入できる要素がほとんどないのだ。際立った魅力はないのだがなによりバランスがいい。ネットゲームという文化が培ってきた厚みというものを実感させられる。
昔、それなりに費用が掛かっているはずのゲームが無料でできるシステムに、あれは課金したプレイヤー(肉食獣)が食するための草食獣を配置するということなのだと説明されて納得したりしたのだけれど、どうやら違うらしい。
ゲームしている人間をいかに飽きさせず、納得の上、課金者へと導いていくことができるか、そのノウハウの積み重ねが、ゲームの過程で見えてくるのだ。
まずひとつ、一切の課金なしでも遊べるようにゲームのバランスは組まれている。ゴールドやエメラルド、闘技場報酬などさまざまな通貨が配備され、それらが毎日、様々なボーナス、クエストの成果、バトルの結果として獲得ができる。クエストには、デイリー、ウィークリー、マンスリー、シーズン、それにハロウィンやクリスマスといったイベント単位のものまで次々と行われ、それらをこなしていくだけで、チュートリアルとして機能し、10時間以上が消費され、キャラクターのレベルがあがっていく。
レベルアップにも様々な工夫が成されている。
キャンペーンモードではバトルによって経験値とゴールド、武器防具がドロップされる。経験値でプレイヤーはレベルアップし、それまで行くことができなかったエリアが解放される。武器防具はそれぞれ決められた6つを揃えることでキャラクターの格を上げ、新たなスキルが使えるようになる。
経験値を得てプレイヤーとキャラクターのレベルが上がっても、スキルを上昇させるにはゴールドを消費しなければならない。
最初のうちはさくさく進む。レベルアップの経験値はそれほどでもなく、拾える武器防具も支給されるゴールドやエメラルドも余りまくり、最初期はひとつ、最終的には四つになるスキルを上げるには数千ゴールドしかかからない。しかしレベルアップに伴って、コストは幾何級数的に増加する。プレイヤーのレベルアップはされても、キャラクターのレベルは上がり方が小さい。現在98レベルに到達し、36人のキャラクターヒーローを擁しているのだが、バトルをしていないキャラクターはもちろんのこと、最前線で戦っているキャラクターですらレベルアップの経験値がたまらない。さらにスキルアップの費用が現段階で一人当たり40万ゴールド必要となる。
格上げに必要な武器防具が6つであるのは変わらないが、拾える武器防具が完成品からパーツへと変わっていく。5つのパーツを揃えてゴールドを使ってひとつの武器防具に錬成して装備する。武器のレベルが上がる以上はしかたがないとわりと納得できるのだが、それでも、上位武具になるに従い、パーツの数が10、20、50、80と増えていく。さらには複合武具となると、20のパーツのもの3種類とかになったりする。バトルしても必ずドロップするわけでもなく、ひとつの武具を入手するのに200バトル以上こなす必要が当たり前にでてくる。気のせいかレベルが上がるに従って、ドロップ率も落ちてきているような気がする。
さらに敵も味方も強くなって、最初期1分で済んでいたバトルが5分近くかかるようになってくる。
もちろん武具を販売する商人というのがいるのだが、当然ゴールドやエメラルドといった通貨が必要になってくる。
問題は前に進めないだけで、ゲームとしては支障なく遊べるということ。毎日発生するクエストをこなすことがもったいなくて止められない。
大変である。失敗部分を反省修正したくてアカウントを二つ使っているから毎日十数時間がつぶれ続ける。おまけにゲームが重すぎるのか、やたらと接続切れが起きる。
そこでふたつの近道というか、作成者からすれば本来の遊び方が示される。
ひとつは、ギルドの結成である。レベル30になると呼びかけて仲間を募り、ギルドを作ることができる。ギルドに加入すると攻略に仲間を呼んだり、ひとつのクエストの成果をギルドメンバー各々が獲得することができるらしい。また、不要なドロップ品を交換しあったりも可能で、そうした行為に報奨金も出るらしい。
でもぼっちプレイヤーなので、黙々とひとりで98レベルまで進めた。当面の目標はもちろん100レベルである。その段階で新展開があるのかどうか、なければきりよくやめるのもありかなと思っている。
もうひとつの近道は、もちろん、課金である。
課金することで、バトル時間が短縮されたり、もらえる報償が数倍十数倍になったり、別のエリアに行けたりといろんな特典が目白押しであるようだ。しかも最初の課金額は100円200円で済むらしい。
でも、やらない。蛇口は開けない。無課金、ソロプレイで、ゲームのシステムを堪能する。あくまでそれが大原則。いくつも心をそそられる課金があるが、足を踏み外せば、奈落が待っている。あれは違うゲームだ。
知り合いの皆様も、ギルドのお誘いなど、どうかなさらないでください。
やってみようと思われる皆様にいくつかのご忠告。初期に気づいていたらもう少しさくさく進めていた数々。
うーむ。これで嵌っていないと云ってもあまり信じてもらえないかなあ。
なろう本では、『このライトノベルがすごい』の単行本部門上位の常連であるナフセ『リビルド・ワールド』をやっと読む。
現在第4巻まで出ているが、各巻いずれも上下巻350頁2段組のヴォリュームのSFバトルアクション。「小説家になろう」では名前を「非公開」としているが、それをそのまま「名を伏せる」=ナフセと変えてきたようだ。電撃《新文芸》スタートアップコンテストの大賞受賞作である。優秀賞は『エッチな召喚士の変態的召喚論』『四畳半開拓日記』、特別賞が『英国幻想蒸気譚』で、一応全部拾えている。
超科学文明が滅び、その廃墟からみつかる遺物によって文明を維持している未来。廃墟には、機械と有機ナノマシンが融合し、魔獣と化した元ガーディアンが徘徊し、遺物を漁る人間たちを殺戮している。そんな世界でスラムから抜け出そうとした少年は、廃墟で古代文明のVR知性体と遭遇する。
練り上げられた設定に、いい意味で少年漫画のコンポジションを生かした物語。SF設定が読みづらさ、ストレスフリーでないことから嫌われがちななろう系にもかかわらず10万部台の売り上げを維持している。緊密に練られていても、ストレートな物語で変なセンスが見受けられないことも、個人的には不満もあるが、人気の一因なのだろう。『SFが読みたい』でベストに挙げた麻美ヒナギ『異邦人、ダンジョンに潜る。』の滅裂の方が好きなのだけど、SFファンの「なろう」入門には「なろう」らしくないところも含めて素直にお勧めしたい。
2月分は不完全リスト2巡目の改善に手間取って間に合いませんでした。大まかな目途は経ってきましたが、確定申告がまだ手つかずなので、来月回しとします。