みだれめも 第236回
水鏡子
予定が大幅に遅れて、「web小説不完全リスト・カ行」がまだ仕上がりません。「読めるリスト」を目指して、少し改良を加えたことが一因ですが、もっと大きな理由は、スパイダー・ソリティアを復活させてしまったことです。昔と違ってCMであるとかゲーム画面に工夫をこなされていて、ちょっと100勝くらいは遊んでみようと思ったのが運の尽き、そのままずるずる続いています。昔の二色バージョンではなく、一色バージョンにとどめているのですがそれでも1ゲーム10分弱かかるので、所要時間はたぶん1000時間を超えたでしょう。他の作業の途中でもすぐうずうずしてくるので、二色バージョン一万勝越えの経験はだてじゃあない、ああ、これはいかん奴だ、軽度の依存症だと確信しました。以前のカウントはパソコン更新時にすっぱりやめることができたたので気にしてなかったわけですが、こんなものでも依存症は発生する。クスリとかがいかに怖いものかということです。うつつをぬかすなろう読みもそういうものかもしれない。
「新しい生活様式」とかは、実は日本中の人間に、ぼくのような生活をしなさいと言っているようにしか見えない。読んで食って寝る生活がここにきていっそう顕著になってきたのは、「web小説不完全リスト」の作成作業のせいである。
そろそろ年間ベストの投票に向けてSF読みに戻らなければならないのだが、「たらたら」に馴染むと立派な本への切り替えにはそれなりに覚悟を固める必要がある。なんとなく、ミステリや一般文芸、時代小説などにはそこまでの覚悟は要らない気がする。SFの持つ特殊性であるのか、ジャンルに対するこちらの思い入れであるのか。
購入冊数は久しぶりに200冊を割り込んで162冊。購入金額は18,000円で、うち新刊分は『WIRED37号』、『オクトローブ』、『チンギス紀⑧』など5,500円。クーポン使用15,000円分。ブックオフポイント5倍セールの日に優待券を大量使用したのだが、優待券使用分はポイントに反映されないことを忘れていて大失敗。なろう系84冊。SFシリーズが200円で大量に出ていたのでシェクリイ、クラーク、ステープルドンなど9冊購入。未所蔵本も『海竜目覚める』を1冊だけゲット。
その他各種雑学系では、初見健一『まだある百科』、田中優子『カムイ伝講義』、J・ダニエル『キリスト教史①』、海野弘『世紀末美術の世界』、南條竹則『怪奇三昧』、『七賢人物語』など。
松本保羽『銀河連合日本』(星海社 全13巻)がweb版も含めて一応の完結をした。そこそこ話題になっていて、SFなので、今年のベストに選べるかなあと期待もしながら読んでみた。
他銀河にある銀河連合の巨大宇宙船が地球に飛来し、日本とだけの国交を樹立する。当然のように国際情勢は緊迫する。
小松左京的な疑似イヴェントとスペースオペラをないまぜにした話で、面白い発想はいくつもあるしハードな部分はしっかりしている気はするけれど、味方となる人々は異星人も日本人も好ましい知性と心性の持ち主で、対するあの国とかあの国とかはといった、きれいな言い方をするなら尊王攘夷の文言が前面に出て全体を安っぽくしている。そういうところが好きな読者というのもいると思うし、そういうところを書きたかったんだろうなと思うのだけど、正直もったいないなという印象。最近ではあまり使われなくなったものに願望充足ファンタジイといった言い回しがあるけれど、則るなら願望駄々洩れファンタジイといったところか。異文化摩擦皆無の異星人との交渉やロマンス、あの種の文言に辟易しながらとりあえず、続編も含めて一通り読めた。評価としてはDどまり。
8月はブックオフの10%引きセールと18きっぷのからみもあって、313冊37,000円と再び300冊代に復帰する。クーポン使用は8,700円分。なろう114冊。
西谷祥子が100円でまとめてみつかったので、保存状態のいい文庫本を『ジェシカの世界』他5冊購入。各種雑学系は、岩波講座『文学』3冊、白水社『ショーペンハウアー全集』を6冊購入。その他、ハードカバー版梅原猛『地獄の思想』、古東哲明『現代思想としてのギリシア哲学』、志村有弘『源平時代人物関係写真集』、吉屋信子『花物語 上中下』、大谷晃一『上田秋成』、幻想文学編集部『血と薔薇のエクスタシー』など。最近は買って帰ってそのまま書庫に並べることが多い。せめて、目次くらいは目を通さないと。
7月8月でなろう系でweb最終更新まで読み進めたものは、赤城一広『誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は』、あきさけ『Unlimited World 生産職の戦いは9割が準備です』、石和¥『マグナム・ブラッドバス ―
Girls & Revolvers ―』、伊那遊『ソリオンのハガネ』、篠浦知螺『ハズレ判定から始まったチート魔術士生活』、玉兎『反逆のソウルイーター ~弱者は不要といわれて剣聖(父)に追放されました~』、月汰元『復讐は天罰を呼び、魔術士はぽやぽやを楽しみたい』、しゅうきち『役立たずスキルに人生を注ぎ込み25年、今さら最強の冒険譚』、師裏剣『転生したら兵士だった?!〜赤い死神と呼ばれた男』など。
基本的に書籍版1巻乃至は2巻目まで読んで印象の悪くなかったものの続きをWEBに読みに行ったものなの評価としてはDもしくはE。
石和¥の作品は『スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした』の後日譚。一応前作も完結まで読了。
唯一のC判定は赤城一広『誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は』で、『無双系女騎士なのでくっころは無い』を完結まで読んだ後取りかかったのだが、前の話よりさらにパワーアップしている。異世界に召喚された女子高生が人を斬りまくる話。
書籍版では、海道左近『インフィニット・デンドログラム』をまとめ読み。VRMMO系の評判作だが作風的にはなろう系よりいわゆるふつうのライトノベルに近い。質的に安定していて安心して読める。ヒット作だし文庫なので無理にWEBに読みにいく必要もない。評価D。
ちょっとおもしろかったのが枝豆ずんだ『野生の聖女は料理がしたい!』で、異世界に転生した料理人の女の子が、自分が料理場と認めた範囲に結界を張れる聖女の力を手に入れて、魔王その他と世界を守るお話で、なんかへん(褒め言葉)。1巻目でかなり高評価をしたはずなんだが、2巻目を読むと前の話がまったく思い出せない。記憶力の衰えに慄然とする。一応1巻目も含めて読み返したけど全体構想がかなりへん。ヒーロー文庫の女性作家には青生恵とか小東のらとか恋愛系でない読み応えのある作家が何人もいる気がしてこのあたりは拾い上げる編集の力なのだろうか。
ティプトリーが女性だったことにショックをうけたのは、同じ業の深さを感じる小説でも男性と女性ではまるで違う形で現れると信じていたせいである。若いころ必死で読んだ作家でいえば、男性の代表は開高健、女性の代表は倉橋由美子で、男性が倉橋由美子のような小説を書けたり、女性が開高健のような小説が書けるなどありえないと信じていたためである。
それがなろうを読んでいるうち、作者の性別がわからなくなった。というか、ペンネームをみても男だか女だかまるでわからない。テンプレート仕様の小説作法がそんな性別不要の傾向に拍車をかけているのかもしれない。
へんといえば、チャーリー・ジェーン・アンダーズ『空のあらゆる鳥を』。世界の行く末をめぐって魔法使いと科学者が争い、それぞれの最前線に立つことになった幼馴染の少女と少年がかって二人で育てたAIの助けを借りて世界の破滅に立ち向かう。
あれ?、なんかすごくまっとうな話のように整理されてしまうけど、幼年期に家族や社会からひたすら迫害される異常さとか、なんで世界が破滅したのかとか生々しいくせなにか因果不明で、だいたい科学者たちというのが科学と冠した魔法使いの一派にしか見えない。スタージョン賞とかとは関係なくスタージョンぽい粘着感もあって、くりかえし咀嚼できるおいしさはあるけど、作者のバランス感覚が狂っているのか、こちらが読み切れていないのか、判断留保の習作・秀作評価。
SFじゃあないかもしれない。
『絶景本棚2』が出まして、うちの本棚写真が12ページ。本の雑誌掲載時と写真が大幅に入れ替わって、実質1ページ分しか重なっていない。SF評論家とかいう肩書と裏腹にSFっぽくない本棚に終始しているが、牧眞司、渡辺英樹とかぶりを避けた結果だろうか。前作『絶景本棚』と見比べると、格段に背表紙が読みやすくなっている。うちのなろう本の写真をみると3年前はこんなに貧弱だったのかと愕然とする。取材時から4倍に膨れ上がっているものなあ。しかしこの人たちの書庫の余白はどれだけあるのか。整理の行き届いた書架の前に横積みされた大量の本。買った本は処分をしない、書庫は最低でも10年先を見据えてキャパを構想すべきというのが、作ってしまった人間による強気の意見であるので、東京組の、とくに魔窟系の本棚について、取材時と現在を照らし合わせた『その後の絶景本棚』という企画を実現していただけたらと思う。
※ 凡例、表の説明などはこちらにあります。