みだれめも 第232回

水鏡子


○近況(2月)

 パソコンの調子が悪く、なんだかすぐに遅くなる。リフレッシュとかで直してもしばらくするとまた遅くなる。壊れる前兆なのかもと不安になって、中古をひとつ購入し、データを移して、書庫の方に据え付けた。
 さて、うちの母屋の方だけど、築70年以上の古民家で、エアコンの効きがあまりよくない。2台稼働させるのも電気代がもったいないし、パソコン作業もできることになったことから、今年に入って、断熱の効いた書庫で過ごす時間が増えた。エアコンだけだとのどが渇くこともあってお茶や軽食を持ち込むことも増えて生活の本拠が書庫と母屋と半々くらいになってきた。あと暖房の効果は若干本には良くないようで、ここにきての本のカバーのパラフィン紙の劣化が激しい。粉々になって千切れて破片が散らばるのは良くないけどまあいいけど、破片の一部が本にとくに背表紙部分にこびりつくことがあるのが苦しい。逆にこの乾燥気味の状況はカビに対して有効だろう。
 データは共有したものの、そこからあとは更新を内容ごとにどちらのもので行うか、使い分けを考慮中。出納簿とか入手した本の記録とか、レシートを見ながら日々更新するものは母屋のパソコンで、原稿関係などは書庫のパソコンで行うことにしている。書庫にない重要機器は、TVと電話。TVがないのは功罪半ばであるのだが、電話がないのはちょっとまずい。つながらないことが多くなると思われるが、孤独死はしていないと思うのでご心配なく。…たぶん。一応週一くらいでしか覗いていないメールの方も毎日程度覗くようにしますので、場合によってはそちらのほうからご連絡を。
 あと呼び鈴がないのである。この前も宅配便に不在連絡票を入れられた。
 実質倉庫的な意味合いから生活空間に変わると行動パターンに変化も生じた。
 書棚の前に立って、ちょこっと本の並べ替えをする時間潰しが増えた。歩いて3歩で行けるというのはやっぱりちがう。これまでは買って帰ったコミックやライトノベルを置く場所を調整するくらいだったが、ノンフィクションの区分けの変更などもいろいろやったりしている。数学本とくっつけていたパズル本を遊戯本と一緒にしたり、神話伝説類、ファンタジー資料集、民話昔話、宗教、民俗学、人類学などをどう組み合わせるのが正しいか、まだ空間があるうちに自分にとって理想的なまとめ方を確立したいと思ったりしている。一年たつと、違う気がすると並べ直したりしているだろうけど。

VRMMORPG系列のなろう作品

 VRMMORPG系列のなろう作品をまとめてみようと前回書いたのだが、さてまとめようとしたところ現物を手に取ってみても話が全然思い出せない。ストレスフリーで心地よく気楽に読んだという印象は、そのまま読んだ中身も右から左に抜けてくことだと痛感する。
 とくに序盤のキャラメイクの話のあたり、どれもこれも似た展開でどの話だったか混乱し、仕方がないので異世界行ったりデスゲームしたりしないVRMMORPG通常系列の作品をとりあえず7、80冊ほど読み返している。さすがに3冊ほど読めばああこんな話だったと思い出したりできるのだが、なんとなくおさまりがつかず全冊読み返すことになる。

 『とあるおっさんのVRMMO活動記』とか『オンリ―センスオンライン』とか。この2作だけで40冊だよ。
 面白かった記憶のある初期に読んだ作品は、読み返すと後続の同工異曲の作品に比べ、文章面の至らなさが目立つものが多い反面、書きたいことを書くことに現在量産されてるものよりも傾注していたところもあって、正硬ときには稚拙ながらも噛み応えがあるものが目立つ。話の作りも文章のこなれ方もついでに話の発想や展開までも、WEBでは先行作を学び真似びることが許されている文化が醸成されてる感じがあって、先行作が考えて作ったものを、よりスムーズに読みやすく加工して提供してくるようなのだ。その過程で零していくものも少なからずあるのだが、そのぶんかえって気軽気安く気楽に読めるものに仕上がっていく。読んで三日も経つと記憶が抜けてしまうのは問題だが、同じ本を何度でも初見に近く読み返せるのは美点であると言えなくもない。言えるのか?

 VRMMORPG系列以外で2月に読んだところでは、麻美ヒナギ『異邦人、ダンジョンに潜る③』白鳥士郎『りゅうおうのおしごと⑫』が〇。

 壊れた十文字青とでもいうべき『異邦人、ダンジョンに潜る』はギャグと壊れっぷりに磨きがかかり、前号でひとつのピークを迎えた『りゅうおうのおしごと』は少し流した感があるが、AI将棋と現役棋士との思考法の相違などが重要なファクターとなるなか、最後の数ページでまさかのお馴染みSF的推測が出現する。今後はこの推測が事実として展開されそうだ。

 その他のお勧めは百門一新『最強の黒騎士♂、戦闘メイド♀に転職しました』(〇 幻冬舎コミックス)、甘岸久弥『魔導具師ダリヤはうつむかない』(〇 MFブックス)、悪一『魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません』(〇 TOブックス)『大陸英雄戦記』(〇 アーススターノベルス)など。

 題名で損をしている『最強の黒騎士♂、戦闘メイド♀に転職しました』は殺伐とほのぼのと変態が跋扈する骨太コメディ。王国きっての猛将と恐れられた主人公が毒殺されて16年、なぜかかっての記憶と技術を受け継いだまま少女に生まれ変わって戦闘メイドとして第二の人生を歩んでいたが主家の公女と第四王子の婚約で王城に赴くことになり、かっての盟友たちと再会し、自分の死とも関連する暗躍する組織と対決する。これだけ書くとよくある王道物語だが、盟友たちをはじめとする登場人物たちが常軌を逸した面々だらけで、かれらとからむドタバタで話がほとんど進まない。いやそれなりにさくさく進むのだけど、物語の8割はドタバタ騒動の描写に費やされている。
 この作者、一迅社文庫アイリスでの出版があったり、ムーンライトでの掲載もあったり、どうやら女性のようである。まあ、少女の体はしていても中身は完全に男性であるので、アッチ系小説の変則球にあたるということかもしれない。

 『魔導具師ダリヤはうつむかない』は婚約を解消された主人公が王宮の魔獣狩り部隊の騎士と知り合い、彼らの業務を劇的に改善する魔導具を(簡単に)開発する中で、人の縁を結び、成長していく話。日常的作業をじっくり書き込み人脈を広げていくお仕事小説として『異世界料理道』が好きな人には文句なくお勧めできる作品である。
 とりあえずこの二点についてはWEB版最終話まで読んでいる。

 『魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません』は脳筋だらけで滅亡寸前まで追い込まれていた魔王に召喚されたSLG系ゲームフリークが魔王軍を立て直していく話。『大陸英雄戦記』は銀英伝に憧れた同じ作者の戦記小説で初期のなろうの話題作のひとつだったようだ。書籍版は三巻で途絶。WEB版は去年の11月まで更新されている。

 先月も書いたが購入価格の220円上限縛りの反動か、ブックオフ・古本市場の買い出し時はラノベのシリーズ欠本を中心に平均40冊を手に下げる。駅との距離はそれなりなのでそれなりの運動である。いろいろ回った中で評価の高いのが京都三条と高槻と心斎橋のブックオフ。古本市場では吹田かなあ。関大近辺が僕好みの出物が多い気がする。JR高槻からのブックオフへの経路には駿河屋があってここの1冊100円10冊300円コーナーはだぶつき気味の新作もあったりしてかなりのお買い得。神戸三宮の駿河屋は5冊150円で買えるのだけど5冊集めるのがつらい日が多い。行く頻度の差かもしれない。この前は『狼と香辛料』の英訳版を6冊拾った。読めないけれど日本語だって読まないのだからおんなじだあってね。6冊合わせて198円だし。

 題名が気に入って、ずうっと気になっていた紫野一歩『あのねこのまち あのねこのまち』(講談社ラノベ文庫)をやっと入手。第2巻はわりと早く110円で拾えたのにけっこうかかった。どうやら猫又系ののようだ。
 猫がらみの探偵ものとかファンタジーは枚挙にいとまがないのだが、筆名に猫を入れている作家もいろいろいる。「猫又ぬこ」というのはラノベの人だがなろう系では「どらねこ」「猫子」「まぐろ猫」「ネコ光一」「にゃお」なんて名前がみつかる。この中では「猫子」がおすすめ。ネズミなのか猫なのか判断の難しい難読著者名に「子子子子 子子子」という人がいる。なんと読むかHJ文庫にいるので調べてみよう。

 そんなこんなで2月も307冊。31,482円。うち、なろう系が117冊。おかしい。去年より増えている。


THATTA 382号へ戻る

トップページへ戻る