みだれめも 第231回

水鏡子


○近況(1月)

 神大SF研OBの新年会が忘年会に繰り上がったので、1月の新年会は高校同窓会の一つだけ。平穏な月となった。
 株は堅調に始まったが、新コロナウィルス騒動で一気に悪化。昨年末の状況を割り込んでいる。
 古書購入価格の220円上限縛りは思いのほか厳しく、さんちか古書大即売会、たにまち月一古書即売会、ツイン21古本フェアと回ったものの全滅。ただ、その周回途中のブックオフ、古本市場でそれなりに買い込み、結果1月のトータルは328冊37,000円。なろう系92冊コミック50冊である。
 収穫と呼べるものはほとんどない。弓月光『どろん』、道満清明『ぱらいぞ①②』『ヴォイニッチホテル③』『オッドマン11』、荒川弘『鋼の錬金術師クロニクル』、風呂本惇子編『カリブの風』、小川侃『自由への構造』、門屋秀一『絵画で綴る哲学と倫理学』、中野渡淳一『漫画家誕生』など。

この月のお勧め5点

『異邦人、ダンジョンに潜る』は角川の屋上屋の新レーベル「ドラゴンノベルス」の第一弾。ドラゴンブック新世代ファンタジー小説コンテスト大賞受賞作である。
 1946年に異世界が発見されたもう一つの地球。異世界で暴虐の限りを尽くした地球人類部隊は10年を経て殲滅され、地球と異世界の間に不可侵条約が結ばれる。そんな異世界に送り込まれることになった就活青年が主人公。
 地球の状況も異世界の状況も疑問符だらけの導入部。パラレルワールドの歴史であるとか、地球に残してきた妹であるとか、目的である「一年以内に未踏査のダンジョンの56階にあるものを入手する」ということなのだが、そもそも入手すべきものがなぜ「未踏査のダンジョンの56階にあるのか」などなど。しかも就活フリーター青年が異様に有能だったりする。そもそもこの背景設定が物語の根幹に関わってくるのかどうか・・・。
 さらに世界がほとんど俯瞰されない。いびつな会話を重ねながら遠近感の狂った主人公の視野に限定された風景が少しずつ明らかになっていく。
 2016年に開始した作品だが、ストレスフリーが優先される最近の風潮とは真逆の、エンターブレイン初期作品群や90年代後半のラノベを彷彿させるシビアさがある。読書ハードルの高さは『薔薇のマリア』の最初のころの十文字青に匹敵する。第3巻が2月発売予定なので、今回のお勧めのなかで唯一WEBでの継続読書を保留している。久しぶりに新刊で購入予定。

『デッキひとつで異世界探訪』は棚架ユウの3作目の書籍化。
 3作ともWEB最新版まで読み継いでいるので、贔屓作家のひとりと言える。『転生したら剣でした』(GCノベルズ)は魔剣に転生した主人公が担い手となった黒猫少女を成り上がらせていく話で、既刊8冊累計50万部のヒットを飛ばした代表作だが、正直間延びしている。むしろVRMMOで不遇職のテイマーを選んだ主人公がスローライフを送るはずがどんどん強くなっていく定番通りの展開の『出遅れテイマーのその日暮らし』(レッドスターライジング→GCノベルス)の方が肩の力が抜けていて、それなりに知的な工夫もみられて楽しい。
 カードゲーム系の異世界異能チートはいくつか見かけているが、『デッキひとつで異世界探訪』はMTGで無双する著者の作品中、もっともハードモードな展開になる。混沌の王と戦うため、神々がそれぞれに異能を備えた勇者を召喚する中で、遊戯と悪戯の神だけがゲームデッキを具現化するふざけた異能を主人公に与えたというのが初期設定だったのだが、なぜかMTGバトルの連戦に変質していく。
 肩の力が抜けていて、それなりに知的な工夫もみられて楽しい、と評した『出遅れテイマーのその日暮らし』だが、じつはVRMMO系に共通する方向性である。初期には世界を救う方向に発展するものも多かったが、むしろVRMMO世界をまったり過ごす背伸びをしない作品が主流を占めてきている。ぼくも入手した本からもその系統を好んで読む傾向が強まって、そのまま続きをWEBで読むことが増えている。

『隠れたがり希少種族(ニュンペー)は【調薬】スキルで絆を結ぶ』『スキルリッチ・ワールド・オンライン~レアというよりマイナーなスキルに振り回される僕~』はいずれもそんなVRMMOのんびりチート小説である。
 『希少種族』は下級女神に属する種族のため食事ができず他者の精気を吸わないと餓死する種族に、『スキルリッチ』はプレイヤーが選ばず破棄したスキルをフィールドでいくらでも拾える代わりに通常スキルを一切入手できない権能を手に入れるという、メリットよりもデメリットが目立つキャラメイクを強いられた主人公がどんどん斜め上に強くなっていく物語。どちらもVRMMO世界に厚みを持たせようと運営がトリックスターとして導入したキャラなのだが、結果的に運営は被害者として振り回される。
 読んだVRMMO系について次回かその次くらいに整理して一覧のかたちで紹介したい。

 最後の『悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む』は悪役令嬢もの。乙女ゲーの悪役令嬢に転生した主人公が、破滅の未来を抜け出すためにシナリオの知識を駆使して無双するのが定番の展開なのだが、本書は真逆。シナリオの強制力を理解して、きちんと悪役令嬢の役割を周回している主人公に対して、シナリオの理不尽に憤る神々が、悪役令嬢の軌道を転覆させようと画策する。神々の意向に対する最大の抵抗勢力が主人公という設定。

 昨年末に読んだ三浦展『団塊の世代の戦後史』(中公文庫)。特に巻末の「団塊世代年表」が面白く、退職からの10年近くを重ね合わせていろいろ読み散らかした。
 同じ著者のベストセラー『下流社会』、『下流社会 第2章』、『第4の消費』は予想以上に薄っぺらく、もしくは方向性の違いに失望した。その他藤田孝典『下流老人』、森永卓郎『年収崩壊』、『非婚のすすめ』、『新版年収300万円時代を生き抜く経済学』などなど。堺屋太一の『団塊の世代』は100円で見つけられなかった。
 で「団塊の世代」論とそこから導き出される将来展望を何回かに分けてじっくり書き込んでみようと思ったのだが、大野万紀につまらないからと拒否られたので、結論だけ書いて終わらせる。

 結論は、「日本という国は、あと20年は大丈夫である」ということ。

「団塊の世代」はその人口圧力によって良くも悪くもすべての制度を破壊してきた。
政治家・官僚は「団塊の世代」を敵に回すことを恐れている。日本という国は、社会制度的側面では、「団塊の世代」を敵に回さず、彼らによって壊されていくシステムをいかに延命させていくかに汲々としてきた。
制度変更の最終決定者と言える官僚トップは、定年後の自分たちに制度変更のデメリットが降りかかることを可能な限り避けようとする。
結果、制度変更は「団塊の世代」にほとんど影響を及ぼさず、その後の世代がその恩恵(?)を受けることになるのだが、変更された制度についてはとりあえず10年程度は安定して稼働するはずである。ただし、財政面では②及び③の事情により、更なる後世の世代へとつけ回されることになる。
「団塊の世代」は
学校等の社会資源の増・新設を必要とした「未成年時代」。
労働と文化消費の担い手となった「実務世代」。
実務の主体から外れて、管理職ポスト、出向、リストラ、医療費、退職金、年金等、社会制度的に負の側面が目立ち始めた「リタイア世代」。これが現在の状況。
巨大な人口圧のもとで、肉体的精神的金銭的に社会生活に支障をきたす可能性が見えてきた「劣化世代」。これがたぶん10年くらい先になり、国や地方自治体は対象者への支援を縮小しつつも、なお財政的支出を拡大せざるを得ない状況下にある。現在ワイドショーをにぎわしている認知症系交通事故や独居老人問題は、まだ「団塊の世代」の一つ上の世代であり、これらの問題に「団塊の世代」が突入する前に予防や制度改善をすることに国も地方自治体も必死になっているのだとぼくは希望的に観測している。最近目立つ国道県道の、車道ではなく歩道部分の拡張工事などもその一環でないかと思う。③の時代においては、できるかぎり自分に火の粉が飛ばないよう腐心していた政治家、官僚トップは、今度は逆に自分たちに被害が及ばないよう、前倒しで制度の拡充を目指す。財政支出は拡大する。
こうした事情が「日本という国は、あと20年は大丈夫である」という結論である。改正された制度というのは10年程度は円滑に機能するはずだから。「ポスト団塊の世代」である僕にとっては90歳の手前、そこまで一定の自己資金を蓄えることができれば100歳くらいまでなんとか生き延びることができるという目算だったりする。

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