みだれめも 第230回
水鏡子
10月は消費税10%の月である。
ブックオフの値札は108円が110円、200円が210円になっていた。大阪で一番大きな心斎橋店は単行本の価格を200円から110円に落としたものが増えてきたがなろう系は210円のまま。
以前にも書いたが、100円と200円の差は大きいのだ。
大阪京都といった遠方地で、持っているか持っていないかわからなくなった本の場合、200円だと断念するが100円だととりあえず買ってしまう。まあいいかといった衝動買いに流れやすい。
四天王寺と天満宮の古本市には3回通って100円200円コーナーで大量の衝動買いをした。段ボール5箱。交通費と郵送料で一万円飛んだ。
こだわりの強い早川SFシリーズもずいぶん値崩れして200円300円がごろごろする時代になった。美本であれば持ってるものもついつい買う。今回は小松左京と筒井康隆の早川SFシリーズがまとまって100円コーナーに並んでいるのを見かけて、保存状態並レベルなのにすべて買ってしまった。200円なら美本限定なのに、100円だと歯止めがきかない。全部持っているのに。
美術本も100円だとけっこう買い込む。買ってもどうせ読まないのならぱらぱらめくって楽しめるだけヴィジュアル系はお得な気がする。今月買ったものには芸艸堂の『蒔絵 カザールコレクション』(6巻60葉)、京都書院『琳派絵画撰集』(20巻中9巻各12葉欠落多数)、E・フーバラー『バロック・ロココ美術』などがある。
ほかにも、小松左京の帯のついている単行本と、ばら売りされていたスターログをそれぞれ十数冊、だいぶんだぶりそうだなあと思いながら買い漁る。100円だもんなあ。その他『全集現代文学の発見・方法の実験』、荒俣宏『帯をとくフクスケ』、ジョージ・ウイリアムズ『生物はなぜ進化するか』、ポール・ジョンソン『ユダヤ人の歴史 上』、H・U・ヴェーラー『近代化理論と歴史学』、J・H・へクスター『モアの「ユートピア」』日本伝奇大ロマン・シリーズ『角田喜久雄』『長谷川伸』などを買う。
200円はさらにめちゃくちゃ。カッシーラー『理念と形姿』『アインシュタインの相対性理論』、リチャード・フィーティ『生命40億年全史』、L・M・モルフォー『人間と世界』、ブスケ『日本見聞記①②』、ヴィシェスラフツォフ『ロシア艦隊幕末来訪記』、ノーマン・コーン『千年王国の追求』、マイケル・w・フリードランダー『きわどい科学』、ニコライ・スミルノフ・ソコリスキイ『書物の話』、ロジャー・ペンローズ『ペンローズの量子脳理論』、ジャック・ザイプス『赤頭巾ちゃんは森を抜けて』、奥野健男『文学論集①②③』、ネコまる編集部『ニャンダフル日本の名作100選』、遠藤誉『中国動漫新人類』、加藤尚武『歴史哲学の地平』、田中優子『江戸の想像力』、マルフェイト『人間観の歴史』、石井晴一『バルザックの世界』、日浦勇『蝶 分布と系統』、海野弘『魅惑の世紀末』、アラン・ダンデス『鳥屋の梯子と人生は糞まみれ』、山口信夫『疎まれし者デカルト』、ボリス・ヴィアン『彼女たちには判らない』、荒井良雄『英米文学映画化作品論』、ボルヘス『オラル』、総解説『日本の艶本・珍書』、季刊子どもの本棚『㉙特集少女小説』、山辺規子『ノルマン騎士の地中海興亡史』、アトムを愛する会編『鉄腕アトムその夢と冒険』、日本総合研究所編『生命論パラダイムの時代』、田村紀雄『日本のリトルマガジン』などなど。
カスも含めて大量のラノベやなろうを100円200円で買っているのだ。同じ値段でカッシーラーやペンローズの単行本が買えるのなら買わない選択肢はありえない。読まないし読めないけれども、読みたい気持ちはなくはないのだ。100円ラノベの意外なリバウンド効果である。
1冊だけ定価以上1400円で買ったのが単行本版『X電車で行こう』。文庫版にない、著者あとがきがある。
なんとか目を通した軽めのところではネコまる編集部『ニャンダフル日本の名作100選』が楽しい。
古今の名作のあらすじ+一節とその小節シーンに似つかわしい猫の投稿写真を一ページづつにまとめた本である。なるほどこうきたかと感心できる部分が多数。
ジャック・ザイプス『赤頭巾ちゃんは森を抜けて 社会文化学からみた再話の変遷』もいい本。口承民話の赤頭巾がペロー、グリムから、どのように変遷していったかを解説し、実に31篇もの作品を集めている。ペロー、ティーク、グリムから始まって、デ・ラ・メア、ジェームズ・サーバー、アンジェラ・カーターなどがいる。ちなみに、訳者あとがきで『「赤頭巾ちゃん」資料集』(未訳)の著者として紹介されているアメリカの民俗学者アラン・ダンデスの『鳥屋の梯子と人生は糞まみれ』も今回入手しており、たぶん同一人の放出本なのだろう。
年末閉店予定の安売りセール店、近くのブックオフでのコミック半額セール、駿河屋の5冊165円のアウトレットなどで、長尺コミックなんかもかなり揃える。
買いも買ったりの573冊。購入額も過去最高の7万円超。
なろう系117冊。コミック98冊。
『本の雑誌』で鏡さんがぼくのなろう系読書に言及している。意外性を強調されていたが、ラノベやなろうのようなタイプを侮らないとするスタンスを伝えてくれたのは、フォーミュラフィクションを評価する鏡さんの文脈にもあった。
それにしても凄いのは、家に籠ってひたすらなろうを読んでいるぼくと違って、あいかわらず世界中を動き回りつつジャンルを問わず乱読している鏡さんがきちんとなろうを読みこなしていること。それもどうやらWEB版まで完読している模様であること。『異世界料理道』、『転生したらスライムだった件』ときちんとピックアップできていること。すごいなあ。
前回誉めあげた二上たいら『レベル1の異世界転移者』だが、WEBで続きを読むと張った伏線をほとんど回収せずにどんどんダメになっていく。(良に近い可)とした評価を(拙)に落とす。メリハリのきいた作品になる可能性を残しているので書籍化を機会に思いっきり改稿していただきたい。
集中的に10作ほど読んだ講談社レジェンド・ノベルだが、いまのところひどいはずれは3つくらい。
いちばんのお勧めは止流うず『ソシャゲダンジョン レア度Rの反逆』。高校生が集団でダンジョン世界に連れてこられ、そのなかで侮蔑されるほど異能の低い主人公が成り上がっていくよくある話だが、ダンジョン世界の仕組みであるとか、なによりヤンデレヒロインたちのエグさが定番であるはずのチーレム展開を異色に仕立てあげている。
雪野宮竜胆『普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ』も初期設定が秀逸。良。中世魔法世界に突然人のいない魔獣が跋扈する東京が出現し、そこに転移させられた主人公たちが現地の人間たちと関わっていく話。東京の文物が中世風異世界を侵食していく様であるとか、東京の地理を知り尽くした主人公たちが圧倒的なアドバンテージで探索者として成り上がっていくところとか設定をうまく生かしている。
11月2日(土)姫路で高校の同窓会。還暦の年の大規模同窓会以降、毎年文化の日前後に同窓会を開くことになっている。一度行くのをやめると敷居が高くなってきづらくなるのか、年々人数がじり貧気味だがそれでも20人超の参加がある。姫路駅から南に2㎞下ったところのブックオフで20冊ほど買う。ところがそれを2次会のスナックに忘れる。とくに貴重な収穫もなく、3,000円で買ったものをJR往復1,000円使って取りに行くのもどうなのよと泣く泣く断念。
大阪でのホテル無料宿泊券というある意味使い道のない株主優待券があるので、11月3日に大阪御堂会館の古本市、大阪例会のあと、無理気味にホテルに泊まって翌日京都の知恩寺古本市に。10月の大阪と同じく値崩れが激しい。託送で家に送ったのだが、段ボールの大きさだけでなく、重量もひと箱20㎏の制限があり、ふた箱のみ送って十数㎏分持ち帰る。御堂会館の古本市は300円が最低価格で割高だったが買っても構わないと許容できるものがそれなりにあった。
陳舜臣中国文学ライブラリー『中国五千年』『紙の道』、ハガSFシリーズ『千億の世界』『華麗なる幻想』、日本SFシリーズ『百億の昼と千億の夜』、オルダス・ハクスリー『文学における卑俗性』、アンドリュー・ニコル『善良な町長の物語』、金子光晴『文学的断想』、H・フレデリック・ブラン『エレベーター』などが300円。
200円では、美術館カタログ『江戸東京博物館』、中村英樹『北斎万華鏡』、画集『イラストレーション:アメリカンショーケース』、原浩三編『愛の歴史』、日本戦史『大阪役』、ダンビア『最新世界周航記』、オドリゴ『東洋旅行記』、エレミール・ブールジェ『落花飛鳥』、青柳淳郎編『明治99年』、S・グリーンフィールド『脳が心を生み出すとき』、スタンダール全集『第③④⑤巻』、山田風太郎選集『①おぼろ忍法帖』、橋本治『恋の花詞集』、中村禎里『回転する円のヒストリア』、ヘンリー・クラブ・ロビンソン『イギリスロマン派詩人たちの素顔』、インタビュー集 アルク『素顔のアメリカ作家たち』、国文学解釈と鑑賞『歴史時代小説の現在』、現代日本思想体系『科学の思想②』、土屋榮夫『地球と人類の歩み ノアの洪水からキリスト生誕まで』、見田宗介『白いお城と花咲く野原』、総合講座日本の社会文化『③土着文化と外来文化』、権田萬治『宿命の美学』、ティボール・フィッシャー『コレクター蒐集』、G・R・デイクスン『ファー・コール』など。
110円以下では、中村雄二郎『考える愉しみ』、貝塚茂樹『中国古代の伝承』、饗庭孝男『反歴史主義の文学』、羽山真一『野生動物問題』、エルミロ・アブレウ・ゴメス『カネック』、季刊仏教『特集ニューサイエンス』、下村悦夫『人語鳥大秘記』、竹内勇太郎『魔界の忍者』、彩図社文芸部編『猫の名作短編集』、姫野カオルコ『ああ懐かしの少女漫画』、佐藤大輔『レッドサンブラッククロス①~⑦外伝①~③』(1冊50円)、C・Ⅴ・ダレル『四次元の国のアリス』、河邑厚徳編『昭和20年8月15日夏の日記』、林美一『艶色江戸の瓦版』、アミの会編『怪を編む』、マイケル・シェイポン『カヴェリエ&クレイの驚くべき冒険』、三枝和子『思いがけず風の蝶』、北岡明佳『だまされる視覚』、田辺剛『ラブクラフト傑作集②③』、木下古栗『生成不純文学』、藤田和日郎『双亡亭壊すべし①③』、石川賢『海皇伝』、高橋しん『あの商店街の、本屋の、小さな奥さんの話』など。なかには33円のものもある。
藤田和日郎は『からくりサーカス』の後半あたりから興味が薄れ、『月光条例』は1冊も買ってなかったけど、『双亡亭壊すべし』はなかなかのもの。これを買い集めることになると、たぶんコンプリート癖が出て『月光条例』も集めることになるのだろうな。
高橋しんはハートウォーミングで安定しており、今年は『花と奥たん』の続編③④が久しぶりに出た。
合計370冊。購入金額5万円。なろう系88冊、コミック45冊。
目次を開いて驚いたのが現代日本思想体系『科学の思想②』。
最近は見なくなったが、60年代70年代はいろんなタイプの思想全集がいくつも刊行されていた。中公の「世界の名著」「日本の名著」や河出の「世界の大思想」などが有名だが、平凡社「現代人の思想」、河出「世界思想教養全集」「世界の思想」、潮出版社「人間の世紀」などいろんなものをピックアップして拾っている。筑摩の「現代日本思想体系」という叢書を入手したのはこれが初めてだが、「科学の思想」ということで、総花的に科学論技術論の論考を揃えたものを予想していたところ、絞り込み方が半端でない。本全体を「生物系科学者の思想」で統一、さらに「進化と生態」「医学の思想」に大別している。「進化と生態」は『進化論講話』の丘浅次郎の小論6篇にマルクス系生物学者山本寛治「生物学と産児制限」を挟んで今西錦司「生物の世界」で締める。「医学の思想」は後藤新平「国家衛生原理」を皮切りに「女工と結核」「医療の社会化」「乳児予防の実態」といった小論が並ぶ。いい目次だなあと思う。こんな目次が並ぶなら他の巻も集めたくなった。200円までで。
土屋榮夫『地球と人類の歩み ノアの洪水からキリスト生誕まで』も変な本。幼いころに居住地域の地層の歴史変動に興味を持っていた著者が、ヴェリコフスキーの『衝突する宇宙』に触発されて、彗星の接近による周期的な地球規模の地殻変動が人類文明の成立に関与したのではないかと、イザナギイザナミの国生み神話や4大文明の成立過程、旧約聖書のノアの洪水や出エジプト記などを地質学的に検証していく本である。なんというか実証部分はすごく真摯で立派なのだけど前提にしている部分がねえ。いやでもだから買ったのだけど、そもそもきちんと読んでいないこともあり評価する気はないけれど、ぱらぱらめくって読むのは楽しい。帯付き美本で200円ならぜひ買って、可能であれば読んでほしい。定価は3200円だけど。
なろう系の読書記憶がかなり悲惨なことになっている。似たような話をWEB版を含めると平均一日5冊前後のペースで読んでいるので、やむをえないのかもしれないが、読んでいないつもりで書棚から取り出したら読み覚えがあることが多々ある。持っていなかった続編で、WEBで既読であったりすることも拍車をかけたりするのだが、書籍既読の部分の記憶が弱っていたり、ほかの話と混同したりしていることも少なくない。仕方がないから、一巻目から読み返す効率の悪い読書になっているのだが、なかには絶対読んだはずなのに、まるっきり記憶が欠落しているケースもある。それにこの前面白い経験をした。
既読部分を読みながら寝落ちして、夢の中で読み続けているのだけれど、読みながら「おかしい、こんなあらすじではなかったはずだ、どうやら寝落ちし夢の中で読んでるらしい」と判断、批評を加えていた。細部が飛んでしまったので、どんなあらすじだったか思い出せないのが残念だ。
11月9日の発売日の昼過ぎ、『白銀の墟、玄の月③④』を書店のレジに持っていったらバーコードを通す前に「1562円です」と言われた。売れているんだなあと実感した瞬間である。
10月11月は例年の「SFが読みたい」ベスト投票に向けた追込みの時期。今年も日本作家は充実の極みで、なろう系を含める余地はまるでなかった。というか自分の中で、SFと、なろう・らのべの評価には明らかなダブルスタンダードがある。