みだれめも 第225回

水鏡子


なろうの整理5 メディアファクトリーとフロンティアワークス

 2013年8月に刊行が開始されたMFブックス
 なろう系の出版体制としてはいちばんきちんとしている印象がある。
 13年8月の刊行開始以来、毎月4~6冊をコンスタントに出版し続けている。
 角川系のメディアファクトリーとフロンティアワークスの共同企画であるのだが、主導しているのはフロンティアワークスのようだ。先立つ13年7月から女性向けレーベルアリアンローズが開始され、16年2月から男性向け18禁レーベルノクトノベルスが刊行されるが、いずれも出版元はKADOKAWAでなくフロンティアワークス本体となっている。アリアンローズとMFブックスは雰囲気にかなり共通したものがあり、メディアファクトリーはむしろ販路とブランド力として貢献しているように見える。
 共通した雰囲気というのは造本も含めてだが、ひどくマイルドなのである。エンターブレインのようにとんがったもの、マニアックなものがなく、良くて上の下、大半が中の中という安定性がある。作家的魅力よりジャンル的魅力が強く、なろう系に対するテンプレ批判(テンプレートに基づくオリジナル性の乏しい作品ばかり)を体現するような既視感の強い作品が多い。
 けれども同時に大半が、読んで安心できる出来栄えで、テンプレートに寄り掛かってよしとせず、きちんと消化が出来ている。編集サイドの選択眼もしくはブラッシング力の高さが垣間見られる。
 中途打切りは例によって少なくないが、著者と良く話し合い、書籍として物語を完結させる努力の跡が見受けられ、この部分が出版物への好感度を上げている。
人材開発は出版と同時に新人賞を創設し、MFブックス部門とアリアンローズ部門に分けて毎年選出している。

〇メディアファクトリーの文庫レーベルはMF文庫である。

 ここからは、死に戻りを繰り返しながら主人公を陥れる策謀を踏みつぶしていく、なろう系を代表する長月達平『RE:ゼロから始める異世界生活』(優)が出ているが、WEB小説は比率的に少ない。2chに掲載されていたからて『マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話』(可)他、カクヨムから結城ヒロ『巻き込まれ異世界召喚記』(良)、などが出ている。ただ近作には他レーベルから紹介されている十本スイぶんころり藍藤遊迷井豆腐などの新作があり、参入を模索している気配がある。海面上昇で日本や英国が水没した近未来で異能者が生物兵器を駆使する国家と対峙する海洋SF『絶深海のソラリス』(良)のらきるちは、E★エブリスタ出身だが、本書がWEB小説か書き下ろしなのか判然としない。2巻で打ち切りっぽいので評価(良)に留めたが、この密度で続編が出れば(優)の可能性高し。相対的にSFは読者のハードルが高いようで出版が続かないことが多い。
 MF文庫に関しては一般のラノベのなかに、なろう系が混ざるので取りこぼしもかなりあるはずである。なろう系の影響で、一般の作者による異世界転生ネタは激増しているのでますますわかりづらくなってきている。

 なお前回まで掲載していたリストだが、再構成も行いながら半年ほど掲載を中断する。代わりにレーベルごとに上位作を抽出して評価をつけて並べることにした。評価は秀・優・良・可・稚・拙・惨の7段階。世界設定や話作り、文章やキャラ設定が稚なくてもう少し精神的にしっかりしてほしいが割り切れば読めなくもないものを(稚)とする。稚拙ながらもバランスが取れていて心地よく読めるものは(可)に含め、小説技術が読むのに苦痛なレベルのものを(拙)に、耐え難いものに(惨)の評価を付することにした。なお、(秀)と(惨)はよほどのことがない限りつけない予定でいることと、今回からの上位作の抽出による取り上げ方だと(稚)(拙)(惨)に言及することはたぶんないと思う。ちなみに現在までのところ、かなり寛容な評価でも、読んだ本の3割が稚・拙・惨に分類される。こちらの要求水準が上がったのか、あるいは書籍化の乱獲結果か、ここしばらくの読後印象は稚・拙が5割を超えている。

〇アリアンローズ(13年7月~)

 アルファポリスのレジーナブックスと並ぶ女性向け異世界レーベルの老舗。
 さすがに未読率が高いのだが、読んだかぎりではこちらの方が出来がいい。

 レーベルの看板ともいえる広瀬煉『魔導師は平凡を望む』は1冊読んだところでは異世界生活に召喚された女の子がくせのある美形王族貴族を翻弄しながら国の内政外交を掻きまわしていく諧謔風味の骨太小説だけど、さすがに全22巻(未完)の作品を1冊読んだだけで評価してはいけない。もしかしたら(優)の可能性もあるが、とりあえず上記3作をお勧めする。
 悪役令嬢ものには2通りある。乙女ゲームの悪役令嬢に転生して、知っている破滅ゴールを回避するため必死の努力をする話と悪評まみれの規格外の主人公が後宮を制覇していくタイプ。『悪役令嬢後宮物語』は後者で王国の裏社会を牛耳る悪の元締めと噂される伯爵家の令嬢が陰謀渦巻く後宮を整理していく物語。KADOKAWAブックスは結構このタイプの硬派作品が多く、『武姫の後宮物語』、『公爵令嬢の嗜み』、『元令嬢様の華麗なる戦闘記』などがある。
 『シャルパンティエの雑貨屋さん』は偶然手に入れたシャルパンティエ領の営業許可証を頼りに赴いた先が貴族となった元冒険者の領主一人の未開地で・・・。
 派手派手しいファンタジイ要素を抑え気味に、知恵と無鉄砲を併せ持つ少女が人をつなぎ、輪をひろげていく様を地味にしっかりとつむいでいく。
 『無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記』はタイトル通り。現世で得た各種資格や美容術で貴族の間を渡っていく。スマホを使い、現世と宅配商取引ができたりする。良に近い可。
 『勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。』、『悪役転生だけどどうしてこうなった。』など気に入っているのだがどちらも1冊しか入手読破をしていないのでとりあえずこれらも評価保留。

〇ノクスノベルス(16年2月~)

 小説家になろうには18禁ノベルのサイトがある。男性向けはノクターン、女性向けはムーンライト。あと官能を目的としない18禁サイトとしてミッドナイトがある。
 エロ小説には大きく二通りあり、エロシーンの入った小説とエロシーンを書きたい小説。
 どっちが上位というわけではないが、少なくとも後者においてはシーンをきちんと書き込める表現力文章力が必至であると思うのに、なろう系にかぎらず悲惨なものが多々ある。
 僕の場合、完全に前者志向である。例えばエロゲー経験は人並み以上であるけれど、楽しみの核はゲーム性とシナリオ重視で、エロシーンというのにフラグ回収のおまけくらいの価値しかみないので、基本コントロール・キイで読み飛ばすことを繰り返していた。エロゲーが音声データと動画技術にメモリーを食われ、ゲーム性シナリオ性の比重が落ちたここ数年は「ランス」以外ほとんど買わなくなってしまっている。
 ノクターン系もそれなりに数社がレーベルを立ち上げているが目にした多くは後者のタイプで、かつ文章が魅力に欠ける。
 そうしたなかで、このノクトノベルスは前者寄りである。世界構築に工夫を加えたものが多く、概ね(可)以上の評価が可能である。なかから二つを取り上げると。

 『草原の掟』は『乙嫁物語』や『チンギス紀』のような遊牧民族に転生した元武道家の物語。強い者がすべてを手に入れる世界で力を蓄え、たくさんの妻を手に入れていく。ファンタジイ要素はない。
 『迷宮のアルカディア』は捻りのある設定。死に戻りの能力を得た男が転生した先は現代の日本。そこでは自分の生きていた世界はVRMMOの世界だった。攻略サイトを読み漁り、得た知識を駆使した再び生きていた世界にダイブする。
 あと『紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~』、『信長の妹が俺の嫁 ~戦国時代で新たな歴史を紡ぐために~』、『ダンジョンクリエイター ~異世界でニューゲーム~』、『NPCと暮らそう!』、『俺が淫魔術で奴隷ハーレムを作る話』、『クラス転移で俺だけハブられたので、同級生ハーレム作ることにした』などを読んでいる。

〇MFブックス

 本丸のMFブックスである。10点を選ぼう。

 最初に触れたようにコメデイ要素を含んだ異世界転生大河チーレム(チート&ハーレム)小説というなろうに対する評価・批判を体現する、カラーを最初にきちんと提示したレーベルという印象がある。元祖格のアルファポリスに関しては安定した完成度という点でゆらぎがある。
 見てわかるように個々の作品の巻数が多い。きちんと書籍化がなされている。あげた作品以外にも『八男って、それはないでしょう』16巻・未完・なろう累計ランキング10位、『ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』9巻・未完・なろう累計ランキング28位、『マギクラフト・マイスター』14巻・完結・なろう累計ランキング38位など巻数を数えるものは多い。そのぶん他社に比べて作品点数が少なめになり、この一、二年新作の比率が増えてきている。
 スピンオフを含め他作品を刊行されている作家がアネコユサギを始め、何人もいる。コミック版を含めると作品の安定度も含めて作家に対する手当てをきちんとしている印象が強い。
 『無職転生~異世界行ったら本気だす~』は小説家になろう累計ランキング1位を長く維持している良作。引きこもりの人生を激しく後悔した男が異世界に転生し、過去に引きずられた自己否定癖を垂れ流しながら小市民的生活を希求する。そんな想いを妨げるのは超自然的災害、国家単位の紛争、さらには人智を越える存在たちの世界をめぐる争い。
 面白く読める。ただ、まったりと読めるのだけれど、最新刊を即購入するところまでの執着は起きない。感触としてよくできたふつうの面白い小説で、ネットで続きを一気読むところにもいかない。まあ、人気的に最後まで書籍化される期待があることもあるのだが。
 個人的には『用務員さんは勇者じゃありませんので』の方が好ましい。学校単位で勇者として異世界に召喚される定番設定だが、その召喚に巻き込まれた用務員である主人公、狭間の世界で神から各自にひとつ賦与される異能を生徒の一人に強奪される。異能なしに転移させられた主人公だが、山の主である雪豹に子供とともに育てられサバイバル能力を鍛えていく。親豹の死に子豹とともに山を下りるが行く先々でかっての生徒たちの勇者集団と関わりあうことになる。異能奪取にうしろめたさを抱えるもの、悪しき行為の発覚による勇者の評価失墜を恐れるもの、逆に付け込みたいもの、様々な勢力の思いやたくらみを交わしながら、いくつもの地域を旅していく。
 WEB版はかなり長い。残念ながらの途中打ち切りであるのだが、かなり早い時期に最終巻だけでなく最後3冊を使って話を完結させていく。売れ行きの問題は仕方のないところであるので、この3冊使っての書籍版の終わらせ方に著者とMFブックス編集サイドの評価を上げた。
 『その無限の先へ』の(優)はWEB版での評価である。死んだ理由もわからず異世界に転移した主人公は同じ転移者を始めとした癖のあるメンバーと迷宮都市でパーティを組み、ダンジョンに潜る。成果を上げるなかで知名度が上がりつきあいも広がっていくが、話はどんどんインフレし、主人公が死んだ事情を含め多元宇宙にまたがるSFになっていく。書籍版は物語的に一応の区切りがついているがあくまで序盤のステージまで。ファンタジイ設定のまま終了している。
 残り7つに(良)をつけたけれども、その倍くらいつく。(稚)の評価の作品もいくつかあるけど、他レーベルに比べて数は少ない。単行本レーベル好感度としては、こことアース・スター・ノベルスが現時点での上位である。


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