みだれめも 第223回

水鏡子


なろうの整理3 オーバーラップの人たち

○近況(10月)

 タガがはずれたかな。10月の書籍代6万6千円越え。冊数402冊。ちょっと反省。
 年末が近づき、ベスト投票のため新刊購入に2万5千円使っているのはまあよしとして、400冊はいかんだろう。
 今年は天満宮と四天王寺の古本市で結構収穫があった。
 珍しいところでは科学哲学協会『宇宙と哲学』9号、10号各百円。1947年、新聞タイプの会報で、「星雲」に先立つ科学小説運動誌である。長山靖生『日本SF精神史』でも詳しく紹介されていて、WEBでも紹介の一部が読める。
 SFアドベンチャーが全冊100円で並んでいた。途中で購入を止めて、つまみ買いをしていたので、今回まとめて50冊拾う。ダブリが6冊、残り8冊。
 コミックを56冊。先月に続き、古めのもののうち見送っていた少し値の張るものを拾う。300円で『アンドロイド・ピニ』道満清明4冊。『性本能と水爆戦』がすべて揃った。200円で石川賢『まみむめ悶々荘』真崎守『せくさんぶる』山上たつひこ『さるとび佐助』白土三平『シートン動物記①②』など。また竹書房のオマージュ本『ゲッターロボ牌』『鉄牌のジャン』などを拾う。
 なろう本は103冊。久々の大台到達。

 その他の立派そうな本。
 100円本。

 200-300円本。

など。

○なろうの整理3 オーバーラップ文庫とノベルスの人たち

 ※「オーバーラップ文庫リスト」および「ヒーロー文庫リスト」「モンスター文庫リスト」を参照してください。(リンク先はExcel Onlineです)  

 なろうの整理第3弾はオーバーラップ文庫のまとめである。
 創刊は2013年4月。ヒーロー文庫2012年10月とモンスター文庫2014年7月のちょうど間に入る。2社と異なるのは、当初なろうには一切眼を向けていなかったところ。
 MF文庫で中断していた弓弦イズル『IS〈インフィニット・ストラトス〉』のメディアミックスによる移籍・再開を柱に既存のラノベ作家で脇を固める布陣で毎月6、7冊をコンスタントに刊行する。初期の評判作は十文字青『灰と幻想のグリムガル』。刊行と同時に募集したオーバーラップ文庫キックオフ賞もふつうの新人賞だった。森田季節あまうい白一などなろう系の作家も入っているけれど、これもたまたま。じつはこの時点ではまだどちらもなろうにも書いていないし、なろう掲載作品はすべて他社から刊行されている。一部を除いて作家の切り捨ては前2社よりもきつそうにみえる。
 それでもなろうへの接触は早い。2013年10月にはなろう主催者であるヒナプロジェクトとの共催で「オーバーラップ文庫WEB小説大賞」を立ち上げ、2014年の4月『異世界魔法は遅れてる!』、『フレイム王国興亡記』の2作を刊行する。モンスター文庫創刊の3か月前である。
 14年4月から12月までの8か月に刊行された新作は12点だが、その中の7点がなろう系。じつはその大半がぼくのお勧めに名を連ねる。

 文庫のなろう系最初の数点というのは、出版サイドの意気込みと方針が見える気がして、実際力作が多い。3社の初頭刊行作を並べてみよう。

 ヒーロー文庫

 モンスター文庫

 オーバーラップ文庫

 と、初期6点を比較すると、圧倒的にオーバーラップ文庫が趣味に合う。ヒーロー文庫より性別は男性向け、年齢層は高めである。モンスター文庫よりスケールが大きくバトルシーンが派手派手しい。内政チートが弱いのが玉に瑕だが、メリハリの利いたバトル主体で世界設定、小説構成がしっかりしている。ハーレム要素は強いけど物語性を崩す部分は比較的少ない。単行本版との両立は他の2社と同じだが、2社がだんだんと女性向け主体にシフトしていくのと対照的に一貫して男性向け路線を維持している(Mノベルスの場合、男性向けの作品の多くは一定期間後モンスター文庫に再収録されていく)。

 この3社各6点計18点に、個々15点計45点の僕のお勧め作品が12点も入ってくる。しかも◎15点の4割が集中している。始動にあたっての出版社の総力結集、評判作の拾いやすさという一面があるのはまちがいないが、それ以上に重要なのはこの時期まだ市場揺籃期において、自己満足感こそ書くことへの傾注に力を与えていたように思えるのだ。3社の戦略が成功し、確固とした出版市場を見えるものにしていくなかで、作品を作ることから作家になることへ意識が変わっていったような気がする。同じネタを使いまわすのはジャンル文化として許容されている気がするが、使用する目的が、同じような話を自分が書きたいところから、受ける話を書いて書籍化されるためへと微妙に変質していったように思える。その過程で、読者を選ぶ尖った作品より、見覚えのある設定の気楽に読める平易な話の方がランキング上位の人気を得る風潮が高まる。その辺の事情をネタに使ったメタ小説に名倉編『異セカイ系』がある。

 オーバーラップ文庫◎5点のうち4点『異世界魔法は遅れてる!』、『フレイム王国興亡記』、『銀河戦記の実弾兵器(アンティーク)』、『ひとりぼっちの異世界攻略』には過去に言及しているのでその他のおススメを5つほど。

◎『最果てのパラディン』
異世界転生した赤ん坊は、死者の街で、スケルトンの戦士、魔法使いの幽霊、ミイラの神官、卓越した技能を持つ3人の不死者に育てられ、彼らに代わる封印の役割を担うため、聖騎士の道を歩み始める。神の顕在する世界での重厚な成長譚で表紙カバーの紙質を変えるなど出版サイドも力を入れている。
〇『異世界混浴物語』
主人公は魔王を倒すため召喚された勇者の一人。彼の得た異能は「風呂を作り出す」能力。役立たずのはずの異能に意外な使い道と風呂好き仲間や女神の守護を増やしていく。
〇『異世界迷宮の最深部を目指そう』
突然異世界の迷宮に飛ばされた主人公。諸勢力と抗争協同を繰り返し仲間を増やしながら、帰還するため「どんな望みもかなう」迷宮最深部を目指し活動していく。 
〇『リーングラードの学び舎より』
定番魔法学園ものからひとつ。生徒となって常識外れの才能を発揮する話が多いが、教師となって個性的な生徒に苦労させられる話も『ワールドティーチャー』などそれなりにある。英雄王肝入りの「義務教育推進計画」の実験校の教師として抜擢された主人公が計画潰しの勢力と闘いながら生徒たちを育てていく。
〇『現実主義勇者の王国再建記』
この文庫では数少ない内政チート系異世界召喚物語。ワイドショーやげてもの系娯楽メディアの発想で富国強兵を成し遂げていく。

 なろう中心の文庫本には、あと、ぽにきゃん、フェザー、マイナビなどがあるのだけれど、そろそろ主要単行本シリーズに移ろうと思う。本当はアルファポリスなのだけど、以前に述べたように「小説家になろう」との齟齬で、出版作のWEB開始時期がわからない。そんな事情で、次はエンターブレイン(+ファミ通文庫)を予定している。


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