みだれめも・出納記録

17年秋・書庫の顛末2

水鏡子


〇8月の購入本

 さんちか古本市(神戸)、SF大会(静岡)、下賀茂神社古本市(京都)などで合計236冊。
 石森章太郎『漫画家入門 正・続』(各1,000円)、『竜神沼』『あかんべえ天使』(各800円)が今月の贅沢。初めて行った下賀茂古本市では文庫、新書10冊500円で『忍法相伝73』『紅毛傾城』『任侠二刀流 上下』『金星の海賊』(小冊子付)、『推理小説ノート』『ミステリー入門』『推理小説の整理学』などの大当り。エヴァ分冊百科『エヴァンゲリオン・クロニクル』コンプリート・セット1,000円などを入手する。

〇8月の下旬

 いっしょに仕事をしていた先輩から電話があった。
 離れの家を息子夫婦のためリフォームすることになって本を処分するのだが引き取らないかということで、二つ返事で引き受けた。家に行って見せてもらうと何か所にも分かたれた本箱に入っているのはかなりの量で、七、八百はありそうだ。書庫を建てる前であったらさすがに断っていたと思う。向こうもぼくが書庫を建てたことを知らなくて、ほんとの偶然だった。
 何度かに分けて運び込まれた本の総数は三千冊に近かった。家まで行って見せてもらったというのに、ここまで読みが狂うとは。引っ越し屋のことが笑えない。
 そして恐るべきことに、この冊数でダブった本が五十冊にも満たない。
 喜ばしいことであるのか悩ましいことであるのか、なかなか微妙なとこがある。
 筋が通った本なのである。
 おたく趣味とまったく無縁の健啖な読書家で、しかしぼくらみたいに本によりかかった人生を送ってなく、若いころには組合活動にも理解を示し、野外活動などに積極的に関わるアウトドアに比重のかかった生き方をしてきたおじさんである。
 小説についてはジャンル読みではなく、作家読みで、松本清張、井上ひさし、灰谷健次郎、宮本輝、富田常雄、津本陽などがそれなりの数。ぼくが買いそうなのは井上ひさしくらいかな。このセレクトだけでまっとうな人生と性格がみえてくるのが面白い。
 若いころは本格ミステリのファンだったようでクイーン、クロフツ、ヴァンダインなどの創元推理文庫が並んでいる。ハヤカワが非常に少ない。
 そのあたりを除くと基本的にはBPAL系のノンフィクションが中心で、旅の本、考古学、森と生きる木と生きるといった自然と生きるテーマの本がたくさん。そこから体を使う本につながり、モノづくりや武道の本、禅の本などに伸びていく。若干スピリチュアル系も混ざるが、インディアン、瀧村仁など許容の範囲。
 小説棚に関しては、数百程度飲み込んでも、らのべ主体の色調はびくともしないが、ノンフィクションは自分色に染めきれず、なんか図書館みたいな他人感が漂った。面白いのは動物関係の本棚で、それなりの数があったのに見事に重ならない。もらった本が動物と関わる人の物語が中心なのに、ぼくの拾っている動物の本は人の比重が薄くて、進化論を代表格に人より種としての人類といったマクロ視点が強い。そんなことに改めて気づかされた。
 ジャンルバランスが感心するくらいとれている。たとえば紀行本だと椎名誠や野田知祐から藤原新也、本田勝一などの固めなもの、さらに伊谷純一郎や河口慧海まで、そこから考古学系統へと伸びていく。開高健、沢木耕太郎、下川裕治なども二桁単位で揃っている。灰谷健次郎、宮本輝、富田常雄、津本陽など小説も、その流れから納得できる。椎名誠の本は『アド・バード』『武装島田倉庫』など数冊しかなかったのに突然軽く100冊を超えてしまった。
 ちょっと困ったのが、大量のマルクス、レーニン、エンゲルス、向坂逸郎などなどで、書架の奥まったところに押し込めたのだが、面白いのはそこからロシヤ語の実習本に向かい、さらに翻訳や語学の本に、そこからたくさんの米原万里にいく展開。
 ダブりが一番多かったのがブルーバックスの宇宙の話や数学の話。狭い範囲で20冊くらいダブった。
 ぼくがブックオフで買うことはたぶんない本ばかりだけれど、ジャンル整理が行き届いているのも含めて棚に並べることに抵抗のない本が9割を超えている。
 買うことのなかった本ではあるけど、並べるとなんとなくもう少し増やしたいかなと・・・アホですな。
 もらってよかったと結論づけていいのだが、本の雑誌で年に三千冊拾うのは大変だと力説したのに今年の増加数は七千冊に到達しそう。
 生涯安心構想は大丈夫か?

〇9月の購入本

 とくにイベントもなかったので112冊。
 大当りもとくになし。なろうばかりが増えていく。
 3,000冊の本の整理に忙しかったこともある。

〇9月上旬

 その「本の雑誌」の浜本、杉江おじさん二人組による取材は9月の上旬にありました。あとでツイッターを見ると昼飯を食べずの取材だったそうで一言言ってくれれば軽いものを用意したのに。
 グラビアページにはまさかここが載るとはと思わなかった写真が多くて、風太郎の棚なんか、(たぶん)たくさんいる病気のコレクターから見ると鼻で笑われる貧相なもの。しかもよく見るときちんと並んでいない。あわてて整理し直す。
 日本作家は若い時分から文庫になるのを待つ派だったので、ノベルズ棚単行本棚の貧相さはまあこんなもの。グラビアになるとかなり恥ずかしい。星新一が1冊しかないなんて。
 とりあえず建てたもん勝ち言ったもん勝ちでいろいろアホをほざいておりますが、とくに主張したかったのは、「書庫というのは三次元展開されたビブリオリストの上位互換である」という部分。これを思いついた時には、おお、全行動が正当化できるではないかと膝を叩いた。
 書庫がビブリオリストであるなら本が何かといえば、もちろんリストの一行データである。一行データとしてはありえないほどの情報精度で、現物情報をほぼ網羅している。(・・・いやだから、実物だから)。時には古本で買った時の値札とか、再版三刷情報とか、同時期に刊行された同じ出版社の書籍案内とかまで収載されている。
 デメリットは一行データが巨大すぎて、データの並び替えが人力でしかできないこと。欠本データが一目でわかるほどあること。
 ビブリオリストと考えれば、買った本を読んでないことも(背表紙の作家・作品名・レーベルなどの基本情報を眺めて俯瞰すればいいではないか)、ゴミ本を買い揃えるのも(完璧なリストを目指すためにはいたしかたない)、並んでなければ意味がないのも(ランダムデータがリストといえるか)すべて説明できるのだ。やったね。

〇9月中旬

 2年ぶりくらいに、長らく療養施設に入所しているSF研の知り合いの見舞いに行く。昨年末に刊行されたうちのSF研の「44周年記念会誌」と、SF大会で拾った「石森章太郎ヒロイン画集」を土産にする。施設入所当時は体が動かしづらいなかでも酒好きが抜けてある意味健康的な気配があったが、久しぶりに会うと少し不健康な感じに。いくら規律正しい生活でも受け身の刺激のない生活を続けるのはよくないようだ。活字の本とかはかなりつらいとのこと。人間本にまみれた自堕落な生活を続けないと。後日、赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』というゲーム愛に満ちた身につまされるブログ未来史を読んでいて、友人の見舞いに行くエピソードにこの時の記憶が少しよぎった。
 帰り道。途中下車して県の中南部にある古本市場に寄る。なんと8月末で閉鎖されていて、ショックを受ける。

〇9月下旬

 パソコンが壊れる。ネット環境を新しいパソコンに移管できるか不安だったのでだましだまし使っていたVistaが、一万回を越えるスパイダーソリティアの最中に壊れた。
 慌てて、即日対応可能という会社を見つけて、デスクトップを抱えて大阪まで行く。データの吸い出しをしてもらうが、Vistaのウインドウズメールは特殊なソフトで同じメールアプリがないと読めないとのこと。翌日は近くの量販店でWindows10のノートパソコンを購入する。これまで使っていたパスワード類が安全性が低いといわれて許可してもらえない。慣れない仕様に、ネットの接続はなんとかできたが、最初段階で設定をミスったのかメールが接続できない。そんな日に、本の雑誌から電話が入る。インタビューの草稿を送ったが見てもらえたかとのこと。ばたばたしたあげく、最終的に閑古鳥の鳴いているTHATTAの掲示板に送ってもらう。今はなんとかつなぐことはできているが、2つ以上のファイル添付のしかたがよくわからない。現在はいろいろ不都合があるもののなんとか稼働はしている。

〇10月の購入本

 京フェス、四天王寺・天満宮の古本市、さらには古本市場が1冊30円のワゴンセールを始めたこともあって、この月は300冊。100円だと買えなくても30円なら買えるほんというのがあるのだ。
 秋の大阪青空古本市、四天王寺、天満宮はあいにくの雨。次の日が京フェスのため、有休を取ってしまったし、ホテルの予約も入れたので仕方がないから行くことにする。古本市がアウトならブックオフでもいいかと。どちらも一応開催していたが、テントの張ってある場所だけ。半分くらいがブルーシートで覆われていて不完全燃焼。それでも昨年より100円コーナー、1冊200円3冊500円コーナーが拡充されていて、それなりに段ボールひと箱分拾う。結局、京フェス後の月曜日に再度行くが、これが大当たり。天満宮の方の最終日に当たり、安売りしているものも多数。100円本も予想以上の収穫があった。

〇10月上旬

 京都SFフェスティバル。
 酒井昭伸先生がゲストで京フェス初登場。ひさしぶりなのでいっぱい話をする。四、五年ぶりと思ったら十年ぶりみたい。東京に行くたび葛西あたりのファミレスで屯って、だらだらしていた時代というのがあったけど、最近は当時の顔ぶれと集まることも少なくなったとのこと。けっこう意外。「三惑星の探索」て変ですよね、と意気投合したりした。
 帰途「本の雑誌社」でアルバイトをしていた二人(カヤノ、タカアキラ)が書庫を見に来る。書類をもらうために会社に行って、うちの書庫についていろいろ聞いたようである。
 家に着くととるものもとりあえず書庫に突入。飲まず食わずでほぼ5時間、あーだこーだと論評しながら甞めるように眺めてまわる。
 エアコンのない母屋の6畳よりエアコンのある書庫の方がいいだろうということで、書庫の方に。
 書庫泊第一号である。


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