第55回日本SF大会 いせしまこん レポート

大野万紀


 今年の日本SF大会三重県鳥羽市で、7月9日(土)と10日(日)に開催された、「いせしまこん」である。
 朝からあいにくの雨だったが、近鉄特急で鳥羽についたころには小雨になっていた。
 今年はいわゆるリゾート型コンベンションで、当地の温泉旅館「戸田家」での、食事付き合宿形式のコンベンションである。この戸田家、駅から近い、大きな旅館だったが、中の構造が複雑怪奇で、入ってさっそく迷ってしまった。みんなそうだったようで、しっかり暗黒星雲賞に選ばれていました。
 SF大会といえば、まずはディーラーズ・ルーム。今年は和室の大広間に机を並べて、みんな座って和気あいあいとしている。しかも座っているのが、菅浩江さん、長谷敏司さん、森下一仁さんと、大物ばかり。伊勢の方で前泊して古本屋を回ってきたという水鏡子が、長谷さんと話し込んでいる。どうも段ボール箱いっぱいの古本を買ったみたいで、その話のようだ。長谷さんが売っている(というか値段はついていなかった)のは、外国で出た長谷さんの本で、読めないから欲しい人は持ち帰ってほしいということらしい。
 森下一仁さんは日本SFの神話時代からあるファンジン「宇宙気流」を売っていた。ぼくもはるか昔、高校生のころに一時期入会して郵送してもらっていたことがある。SFマガジンで見て、「宇宙塵」と同時に入会したんだっけ。このどちらも、ついこの前まで続いていたんだから、すごいもんだ。真面目にSFしている「宇宙塵」に対して、「宇宙気流」はファニッシュで、SFの話よりも鏡明さんや川又千秋さんらがさんざんバカ話を繰り広げており、何だこれはと思ったものだが、楽しかった。森下さんが、昔の名簿が載っているというので探してもらったが、ぼくの名前は見つからなかった。もう少し新しい名簿ならあったかも知れない。
 そのうち青木さんが到着したので、青心社のコーナーを開く。クトゥルーものと、ラファティやヤングのSF、それにフィンレイの画集や士郎正宗のクリアフォルダなどだ。ぼくも売り子としてそこに座る。しばらくすると、青心社から『幻想映画ヒロイン大図鑑』を出している浅尾典彦さんが顔を見せ、「耳で聴くクトゥルー」というDVDを置いていった。これはロフトプラスワンウエストであった、クトゥルー神話をプロのナレーターが朗読するという企画のDVDで、最後まで聴くと邪神に憑依される(かも知れない)というものだ。
 ディーラーズの楽しいところは、じっとしていても色んな人に会えること。不精者にはぴったり。ラファティの話やら、お客さんもみんなSFファンだから、その場で色んな話ができる。山本弘さんには「ヴァージル・フィンレイ幻想画集」をお買い上げいただきました。
 安田均さんもいらっしゃった。その場にいた大森望さんや水鏡子と、いきなり昔のKSFAの同窓会みたいに。記念写真も撮っていただきました。
 とういうわけで、日中はほとんど出歩かず、ディーラーズにこもっていました。まあこういう気楽なSF大会もいいもんです。

ディーラーズにて 水鏡子と長谷敏司さん 宇宙気流を売る森下一仁さん 青心社のコーナー 耳で聴くクトゥルー

 4時から星雲賞授与式が始まるというので、レセプションルームへ移動。
 第47回 星雲賞は以下の結果だった。

 自由部門の授賞理由が、「いつまでたっても候補にあげられないから」というのは何ともはや。まあ、「連続性のある作品群についてはその終了時においても一括して賞の対象となる」という規約があるんで、いつまでたっても終わらないシリーズは、特に目立つ回がない限りそういうのもありかも。
 授与式の司会は、声優で、TRPGのリプレイ本も書いている大竹みゆさん。オタクの扱いには慣れている様子。いつものようにアクシデントはあったが、スムーズな進行だった。何しろ連合会議議長が、長編部門受賞作を梶尾さんの目の前で「怨霊領域」と読み間違えても何とかかわしたくらい。代理受賞する人が、受賞者のメッセージを代読するのに、名札入れから手紙を取り出すというのが繰返しパターンになって、なぜか会場の笑いを誘っていた。
 海外長編部門のアン・レッキー『叛逆航路』は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞など7冠受賞ということだったが、東京創元社の石亀さんによれば、この前フランスでも賞を取ったそうで、これで9冠ということになるのか。すごいね。

星雲賞授与式会場 日本長編部門 梶尾真治さん ノンフィクション部門(代理) 大森望さん 海外短編部門(訳者) 古沢嘉通さん

 星雲賞の後は、安田均さん、水鏡子、大森望さん、友野詳さん、長谷敏司さんと食事。宴会場で和食かと思っていたら、ホテルの普通のバイキングだった。でもとても豪勢。水鏡子はちょっと食べ過ぎ。色々と、ちょっとここには書けないような、生々しい話題が飛び交っていた。ほえー。
 ゆっくり食事をした後、夜の企画を回る。
 まずは「クトゥルー再入門」。浅尾典彦さんが司会で、青木さんと増田まもるさんがラブクラフトやクトゥルー神話について語る企画だが、浅尾さんによる珍しいクトゥルー関連の映画紹介がメインだった。
 続いて、「翻訳酒場」へ。創元の小浜徹也さんを中心に、嶋田洋一さん、鍛治靖子さん、大森望さん、日暮雅通さん、大迫公成さん、他にもたくさんいらっしゃったと思うけど忘れました、ごめんなさい、といった人たちがお酒を飲みながら翻訳の話をするという企画。嶋田さんのローダン話(やっと1979年まで追いついた)や、「ファンタジー読み」の訳語の話など色々あったけど、これもすっかり内容を忘れている。ぼくは、ヴァーリイの訳文の変更ということで、コンピュータをコンピューターに変えた(これはマイクロソフトの方針に合わせただけ)ことや、科学技術的な面はもう少し今風にわかりやすくしたこと、それに「メイク・ラブ」をセックスとか普通のことばに変えた(だってあまりにも70年代っぽすぎるから)といったことを話したと思う。鍛冶さんが西宮出身だということも知った。ご近所だったのか。
 最後に行ったのは「架空地図のリアリティ」で、石堂藍さん、神北恵太さん、大野典宏さんが、様々な架空地図をプロジェクターで映しながら語るというもの。大ざっぱなものからとてもリアルなものまで、色々な地図があって面白かった。でももう夜中で頭は朦朧としており、内容はほとんど覚えていない。石堂さんがピーター・ジャクソンが大嫌いだということはわかった。
 そろそろ限界なので、途中で抜けて寝部屋へ。

クトゥルー再入門 翻訳酒場 架空地図のリアリティ

 翌日、雨は止んだ。SF大会2日目。とはいえ、バイキング形式の朝食をとったあとは、クロージングのみ。センス・オブ・ジェンダー賞やレトロ星雲賞、暗黒星雲賞など各賞の発表と授賞式があって、それでSF大会の企画はおしまいだ。

 センス・オブ・ジェンダー賞は「Ωバース現象」という何やらマニアックなものが賞をとって、みなさん、何だか怪しげなパフォーマンスを繰り広げていた。
 レトロ星雲賞は対象が1963年で、眉村卓『燃える傾斜』、平井和正「虎は目覚める」、ハインライン「夏への扉」と「時の門」が受賞。柴野拓美賞は、宇宙軍PXや小さなお茶会を主催している竹内伸介さん。
 暗黒星雲賞は、「消えたサイン会」(企画にあったのに実行されなかった)、「梶尾真治」(これはあの地震で被災されたにもかかわらず星雲賞の授与式のために熊本から参加されたことに対して)、そしてもちろん「戸田家」(本当に作りがダンジョンになっていて、迷うのだ)。

 いつものように、見たい企画が重なって見られなかったりしたけれど、素晴らしい大会でした。リゾートコンということで、のんびり過ごせたのは良かったです。スタッフのみなさん、お疲れ様でした。良い大会をありがとう。
 来年の第56回日本SF大会は静岡。たぶん参加することになるでしょう。それではまた。

江戸川乱歩館 黒猫(の人形)がお出迎え

 2日目は早めに終わったので、一人で歩いて江戸川乱歩館へ。
 見た目はいかにも昭和の民家だった。女の人が一人で受け付けから案内までしてくれる。入館料は300円。
 鳥羽出身の挿絵画家、岩田準一の旧居を資料館として公開した文学館で、江戸川乱歩をはじめ、竹久夢二とも親交があったとのこと。
 レトロな感じで色々な資料が展示してあるが、ギミックを動かしますかと聞かれる。土蔵が乱歩の世界を再現していて、それが動いたり光ったりするのだ。ちょっとしたお化け屋敷だが、雰囲気があるのでこれはぜひギミックありで見た方がいい。おばさんが色々と準備をしてくれて、さあどうぞというので入る。ギミックは安っぽい感じだが、それがまた風情があるというものだ。
 土蔵の外は、昭和の路地を再現していて、とても懐かしい雰囲気。時間があれば、1日中でも見ていたい。堪能した。

資料展示 竹久夢二関係 こんなのが動き出す そしてこんなのも 昭和の路地裏の雰囲気

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