みだれめも・出納記録

15年夏 洋雑誌戦記

水鏡子


 2015年3度目の出納記録は4月から6月。

○4月10日〜12日までの神戸サンボーホールの古本市。

 上限300円で何冊か(東洋文庫版アラビアンナイト他)拾い集めながら、最終コーナーあたりまで見ていくと、おお、パルプマガジンがひと山積み上がっている。ひえー、こんなもの初めて見た。『10デテクティブなんたら』とか『ブラックマスク』とかを中心に3000円5000円の値がついている。どうやら50年代が3000円、40年代が5000円ということらしい。相場として高いのか安いのかさっぱりわからない。周囲を見るとミステリ・SF中心の品揃えの店らしいので、若干割高の可能性はあるが、とりあえず暴利ということはなさそうだ。1000円くらいだったら買っちゃうだろうなあと、山をぱらぱら掘っていて、ゲッと固まる。アメージング、プラネット、スリリングワンダーが混ざっていた。
 内容的には、ブラッドベリの『火星年代記』収録作品、ハーネス「現実創造」、アバーナシイ「地球を継ぐもの」、W・ミラーの未訳中編などなど。紙質の悪いパルプ誌にしては驚くくらい状態がいい。拾い集めていた300円本を棚に戻して、記念に2冊ほど買うことにする。40年代といっても49年とかだし、それで2000円の差額はでかい。3,000円のものを2冊選ぼうとかいろいろ吟味しているうちに、だんだん頭がわやわやしてきて、こんなものをまた目にする機会はないしなあと、6冊全部買い込んでしまう。ついでにとびぬけて、古い発行年、最初のヒーロー・パルプ雑誌といわれる『ザ・シャドウ 41年6月号』などまで買ってしまう。しめて27,000円。100円ゴミ本集めにはあるまじき狂態である。
 買って帰りながら、ふと思ったのは、この並びでなぜアスタウンディングがないんだろうという疑問。最終日だったので、すでに誰かが買っている可能性もあるが、もしかして他にも古本市に持ち込んでいないパルプが店にあるのでは。
 次の日、古書店の名前をたよりに検索し、電話を入れる。意外な答えが返ってくる。パルプ誌はあと何冊かあるかもしれないけど基本的に持っていったものでほぼ全部とのこと。倉庫の中で整理できていないのでよくわからないが、あとギャラクシーがたしか創刊号から100冊くらいあったと思う。揃っているのでバラ売りは避けたいとのこと。ほかにもイフとかF&SFもあるということで、そちらもたしか創刊号とかだったようなとか。なんだそれは。
 一度見にいきたいというと、今は四天王寺の古本市の準備でバタバタしているので、連休明けならいいと言われる。

 しかし、よりにもよってたくさんあるのがギャラクシーとは。うちにある50年代雑誌のなかで、ギャラクシーはとくにたくさんあるのだ。たぶん60冊くらい。若い頃、F&SF誌の広告欄でみつけたSF雑誌福袋(内容相手任せ雑誌20冊で8ドルとかいう安売りセール)の大量買いで集めたもので、コンディションの悪いものが少なくない。パルプ雑誌の状態が非常によかったので、放出したのが同じ人なら、奮発してまとめ買いをしてもいいかも。ああ、ますます書庫の必要性が増していく。
 (ちなみに、この福袋をぼくは10セットほど3回注文している。ところが2回注文したあと、うちのSF研の後輩だった故下浦泰邦がぼくの数倍量を注文したせいで、3回目の注文に対して在庫が無くなりましたと書店から謝罪の手紙が届き、かわりにペーパーバックの福袋になってしまった。おかげでうちにはなんだかよくわからない作家のペーパーバックがそこそこある)
 それにしても、電話で初めて話す人と、なんの前置き前説もなく、ギャラクシーだのイフだのという単語をやりとりしたのはけっこう新鮮。

 4月23日。四天王寺の古本市初日。ちょうど休みの日に重なったので、足を運ぶといつもながら東京から里帰りしている藤元くんと会う。300円レベルで買ってもいいけど買わなくてもいい本がそこそこあるが、結局1冊も買わない。書庫の満杯状況がそれなりに影を落としているようだ。特価セールの棚で、ハヤカワSFシリーズと日本SFシリーズが合わせて6冊、100円で置いてあったので、全部持っている本だけどしかたないので(なにがしかたないのか?)全部買う。電話をした古本屋さんも出店していたので挨拶する。

 5月4日。SFセミナーに向かう途中、京都に寄ってミヤコメッセの古本市を覗く。連休のど真ん中だけあって市バスは大渋滞に巻き込まれ、京都駅から四条河原町までだけで往復ともに30分以上かかる。このため続いて寄るつもりだった八王子の古本市は断念する。大阪と違って全体に高い。200円300円台がほとんどなく500円というのが安値均一本の基本額という感じ。博品社の博物系本、澁澤龍彦文学館など買い込んで少し重たいけれど東京まで持って行こうかと思っていたら『山川方夫全集』が揃いであったので、持ち帰りを断念。送ってもらう。
 東京初日は株主優待で入手した宿泊券を使った茅場町のビジネスホテル。ゴールデンウィークは出張名人などの格安ツアーが利用できないだけに、この優待券は貴重である。

 SFセミナーで牧眞司その他に洋雑誌の話をする。100冊揃いで8万円くらいというのは海外注文の相場からすれば若干割高だが、日本での希少性を加味すれば、まあ妥当なところだろうとのこと。昼や夜の食事の席は、最近恒例気味の、牧、彩古、日下、北原といった古本極道連に、星敬、良平先生、大森望といった面々もいて、1テーブルで蔵書総数50万冊超だよなあ、などと思う。うちの本など5%に過ぎない。
 合宿企画でも、「本棚事情を語る会」などがありスタッフ連が自分たちの本棚のスライドを紹介していた。
 デイーラーズで良平先生放出本のアルジス・バドリス『ギャラクシーブックレビュー集』を拾う。「若い人たちのために放出したのに君が拾ってどうする」と怒られる。
 ファンジンは、岡田正也氏追悼『ベムAGAIN』、司書つかさ編『SFマガジンカバーデータ・インデックス』、ハンス・ライアニエミ『テュケーと蟻』などを買う。
 ブックオフを何件か廻るが、目立った収穫はなし。

 連休明け。電話をして、神戸元町の古書店に行く。こんなところに古書店があることに全然気がついていなかったのだが、開業してもう何年にもなるのだという。考えて見たらもう20年近く高架下以外に元町を徘徊した記憶がない。
 電話のイメージでは200冊くらいあると思っていたけど、実際には125冊。ギャラクシー99冊が揃っているだけで、イフが10冊、のこりはばらばら。50年前後のものが多いものの、80年代もかなりあって、ちょっと肩透かし。一応全部まとめて送料込10万円で約定する。
 それでも三桁の雑誌である。あっちこっちにばらけて詰め込むわけにはいかない。書庫の大移動を行う。1週間かかる。
 本が到着する。ギャラクシー、イフはともかくとして、残りのこのばらけっぷり、中途半端さは何なんだろうと、ぼんやり眺めているうちに驚くべきことに気がつく。80年代のアナログ、そのうち3冊にチャールズ・L・ハーネスが載っている。そういえば最初に買ったパルプ6冊、やたらハーネスとウォルター・ミラー・ジュニアが ぼんやり眺めているうちに驚くべきことに気がつく。80年代のアナログ、そのうち3冊にチャールズ・L・ハーネスが載っている。ぽつんとあった66年のアナログ、ポウル・アッシュ「コウモリの翼」がウリの号も、なかにハーネスのショートノヴェルが入っている。そういえば最初に買ったパルプ6冊、やたらハーネスとウォルター・ミラー・ジュニアが目についた印象があったが、単なる印象ではなかったようだ。ちゃんとチェックして見ると、出るは出るは、中途半端に見えた本、パルプも含めて半分以上にこの二人のどちらかが名前を並べている。
 二人とも作品数はたしか50篇以下だったはず。いやあ、放出した人筋金入りのマニアじゃないですか。
 こういうところが、古本集めの醍醐味ですね。

○4―6月の支出額
 4月 191,702円 前年比108,309円増
 5月 376,501円 前年比207,996円増
 6月 148,576円 前年比 74,906円減

 第2四半期は前年より24万円の増。このうち13万円は前述の洋雑誌の出費による別枠だが、それをのけても大幅増。前半期だけで140万円の出費で、総支出250万円の目標はかなり厳しくなった。税金は払い切ったが生命保険・年金保険30万円が控えている。洋雑誌13万は備品・修理費用枠50万円に移そうか。
 当初目標は守れなくても生活設計に支障はない。けれどもゴールを目指して出費調整を頑張るのは娯楽として重要である。まあ年金と給料で300万くらい入ってくるので、トータル資産はむしろ前年より増えている。あとに残す必要がないので、手持ちの資産を最長でも40年くらいかけて使い果たす心積もりで、前半期20年は300万円、医療・介護費用が増大する後半期は500万+αというライフプランであるのだが、株の好調もあって退職からの4年間で資産は微妙に増えている。
 ただし今年の株は年頭からずっと低迷を続けている。含み損は大きく、それでも6月に入って徐々に徐々に回復基調に入っていたのだが、ギリシア危機でまた逆戻り。過去3年のプラスがあるから微苦笑ですんでいるけど、あれがなければ真っ青になってて不思議のない状態。

拾った本の数である。
 1月392冊、2月74冊、3月89冊、4月196冊、5月270冊、6月93冊、計1,114冊である。
 昨年までの4年間、3桁を割り込むことがなかったことを考えれば、ふた月に一度2桁の月があるわけで、基本の購入量は落ちている。1月のブックオフ閉店、5月の洋雑誌イベントがあって平均値は前年並みだが、たぶん年後半は2桁月が増えて1,800冊くらいに落ちつくにちがいない。洋雑誌収納もあって、ライトノベルを1,000冊ほど箱詰めしたので、書庫も若干余裕が生じた。なんとか年内持ちこたえたい。


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