あまりにも執筆者が多く(100名超)、希望作品に割り当ててもらえない人が続出したSFマガジン連載「ハヤカワ文庫SF総解説」ですが、今月出る2015年8月号で堂々完結します。編集長によれば「誰にどの作品を書いてもらうか=企画意図そのもの」なので、個人の思い入れとのミスマッチが生じるのはやむを得ないとか。
その最期の最後に、斯界(どこ?)騒然の「ソラリスコンペ事件」が起こりました。「コンペ」というのは、340字のレビュー完成原稿を複数の評者が競争入札(投稿)し、最優秀1人のみが本誌に掲載されるという、「ハンガー・ゲーム」ばりの過酷なバトル。少年少女ではなく、たぶん中高年バトルですがね。賞金=掲載料はあるものの、参加料はなし。事件の経過は、以下の通りになります。今流ならtogetterなどのツールで並べる方が正しいかもですが。
umeda @maniamariera 5月29日
【悲報】【拡散希望】ハヤカワ文庫SF総解説PART3、某海外作家に依頼していた2000番『ソラリス』解説文を断られる。というわけで、ネットの海にひろく書き手を募集したく存じます。
cakes(ケイクス)新着情報 @cakes_news 6月1日
一編集者の変わり映えのない日常の記録|唐突に『ソラリス』の解説を公募することにした5月第4週|帰ってきたアンシブル通信|塩澤快浩 @shiozaway |cakes(ケイクス)| http://cakes.mu/posts/9618
コンペ対象の最終2000番作品『ソラリス』は、国書刊行会から出ているレム選集の一環として2004年に出たものの初文庫化です。もともと海外の作家に依頼したものの、締め切り直前にキャンセル。普通なら、特定の誰かに再依頼すれば済むものを、コンペという奇策に持ち込んだところがポイントです。
塩澤快浩 @shiozaway 6月9日
『ソラリス』解説文コンペ、ぜんぶで20通のご応募をいただきました。本日、選考会の予定ですが、結果の発表方法については検討中です。
編集部も、面白いから話題になる=宣伝効果が得られると判断したと思います。短期間ながら、プロが応募していることを承知の上で、一般も含め20編も集まったということは、それなりの関心を引いたと言えます。その結果、
塩澤快浩 @shiozaway 6月9日
第1回『ソラリス』解説文コンテストの最終選考会ですが、評価の高かった上位6作品の甲乙つけがたく、読者の皆様による投票でグランプリを決定することにしました。詳細は後ほどお知らせしますが、お察しのとおり、SFマガジン今月号の校了が迫っていますので、ひじょうに短期間での投票となります。
塩澤快浩 @shiozaway 6月9日
『ソラリス』解説文コンテスト、上位6作の筆者のうち、最後のひとりである島村山寝さんからも掲載許可をいただきました。6名は以下の方々です。大森望、岡本俊弥、菊池誠、島村山寝、中野善夫、牧眞司(五十音順/敬称略)。もうまもなく、cakesにて公開します。
umeda @maniamariera 6月9日
【緊急アンケート】オールタイムベスト1位作品の総解説を、読者の皆様の投票で決定!|【校了直前】『ソラリス』解説文アンケートのお知らせ【決選投票】|SFマガジン|SF
MAGAZINE RADAR|cakes(ケイクス)
https://cakes.mu/s/uaXGJ
編集部だけで決めず、1日だけの公開一般投票にするとは予想外の展開。XXB総選挙の影響でしょうか。まあ、優勝者以外がすべて埋もれてしまうより、一部でも読んでもらった方が良いと言えば良い。
大森望 @nzm 6月9日
どう見ても、出来レースだ!と炎上するパターンw
出来レース(結果が分かっている仕組まれたレース)だ、とは一瞬私も思いました。最終候補6名を見れば、誰でもそう思うかも。ただ、無報酬の自主参加なので「出来ていた」わけではありません。無駄が許されない340字で書くには、テクニカルな技がどうしても必要なため、結果的にプロ・セミプロが残ってしまっただけでしょう。また、編集部選考のハードボイルドさを物語るかのように、プロでも最終候補から外れた人もいます。
ここで、50代からのアイドル入門・大森望、教皇ヒュアキントス・中野善夫、今週はこれを読め!SF編・牧眞司、andmoプログレ大学教授・菊池誠は、そういう人たちです。島村山寝は、SFマガジン2011年5月号にレム論を書いた気鋭。皆『ソラリス』には一家言がある人ばかりです。私も過去には、レムの解説などを書いていました。その割に、今回の総解説ではレムを一つも引当てられず……。
各人の評にはそれぞれ特徴があります。先にも書いたとおり、340字で全ては書けません。ポイントを絞らないと、結論にたどり着けず散漫になってしまいます。絞り方にはいくつかあって、
1)象徴的な言葉・フレーズに絞る
2)世評/歴史的評価に絞る
3)作品のテーマに絞る
4)作家の中の位置づけに絞る
5)書誌的な位置に絞る、などです。
『ソラリス』なら、以上のどれでも書けます。詳細はcakes掲載のレビューを見てもらうとして、
(注意:cakesの記事は公開後1週間程度まで無料、以降は自動的に有料になります)。
《ソラリスA》=菊池誠
冒頭の「ソラリス以前」と「ソラリス以後」というキャッチーなフレーズがポイント。1)と3)を組み合わせ、5)の情報で締めています。構造的には後の《ソラリスC》とよく似ています。
《ソラリスB》=牧眞司
2)で始め、1)に相当する「圧倒的な未知」「愛の根源的な不可能性/不可避性」で掴み「残酷な奇蹟」で締めています。
《ソラリスC》=中野善夫
これも冒頭の「皆ソラリス学者のような顔になっている」がポイントで、間に3)5)をさらりと挟んで、締めに効果的に「ソラリス学者になるしかない」を置く構造です。
《ソラリスD》=島村山寝
2)3)5)の要素を必要十分にまとめています。特に際立ったフレーズがない分、この6つの中でもっとも落ち着いた雰囲気。
《ソラリスE》=岡本俊弥
2)3)を軸に、特に映画に対する位置づけで論じています。その分、書誌的な情報などを削ぎ落としているのが、結果的に弱点となりましたね。
《ソラリスF》=大森望
2)3)4)5)と最多の要素を凝集した内容。一冊の本のレビューとしては、情報的に何の過不足もないのが、最大のポイントになっています。
twitter投票だけで見た、集計結果は以下の通りです(他にメール投票分もある関係上、あくまで出口調査/予測レベル)。DMではなくハッシュタグ形式なので、twitterで誰でも投票状況を見ることができます。ランダムというより、トレンドが生まれているのが分かります。未読や、存在も知らなかった人まで投票しているのが面白い。確かに読書ガイド的『総解説』ならそんな読み方もありでしょう。ここで、編集部意向もあるので、具体的な数字は記載しません(総数300弱)。
さて、上記得票数では、F=大森望が当選確実。それをC=中野善夫、A=菊池誠が追う展開。B=牧眞司と、D=島村山寝、E=岡本は独自の戦い。まあ、全員少なくとも1割くらいの得票率はあるので、そこそこばらけているとは言えます。
投票者のコメントを見ると、プロフェッショナルも初心者も、書誌的な情報を重視していたことが分かります。情報が多いほど、読書ガイド的な価値も高まるからでしょう。読み物として面白い締まったレビューがそれに続き、個性あふれる中野善夫、菊池誠が人気を得ています。牧眞司は、この2人と似通った構造のため、埋もれてしまった印象。私の場合、タルコフスキー『ソラリス』の存在が大きいので、映画から入ったレビューでしたが、今ではもう小説より少数派なのですね。映画好きの人からは支持されたものの、そういう見方は少ない感じです。
まあしかし、思いつきとはいえ、後出し不意打ち企画はいけません(面白いけど)。こういう形式と分かっていたら、別の書き方もあったように思います。第2回を目指して精進させていただきます。
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