みだれめも・出納日記 14年9月
水鏡子
本の雑誌10月号で紹介した本屋さん。記事にしたら出入り差し止めといわれていたので、これまで伏せていたのだけれど、無くなってしまえば差し止めもなにもないのでちょっと詳しく紹介しよう。
今やほとんど存在しないバックリスト(在庫本主体)の棚作りでほんとうの意味での新刊は十何冊かの雑誌と岩波文庫だけである。利益の基本は長年のつきあいのある顧客の注文に依っている(だろう)。
いかに新刊がないかというと、たとえば河出の本はほぼ1年ごとに商品を入れ替えていたのだが、去年の末くらいに入った最後の河出文庫には『NOVA』が6巻目までしか含まれていなかった。
本の入替は数カ月に一回でそれも大きいときでも全体の2割くらい。本の雑誌の紹介では、こわもてぶりを消すために昔から並べてある本として「本の雑誌」をとりあげたのだけど、初めて会った37年前から変わらず並んでいた本で目を惹いていたのは『中江兆民全集』『抱月全集』『野田又夫選集』それに東洋文庫が20冊ほど。閉める日まで並んでいた。ほかにも岩波の雑誌「へるめす」が創刊号から10冊ほど、ずっと表紙を見せて並べてあった。岩波文庫はしばらく前まで、パラフィン紙装の旧版がたくさんあった。煙草を吸っているので、取り換えのきくパラフィン装丁の方が都合いいのだと言っていた。ちなみに野田又夫はこの人の大学時代の先生のひとりである。
店の電話は黒電話。しばらく前まで両切の缶入りピースを愛用していた。
定時制高校や大学講師の経験があり、初夏の頃には毎年仲間と岩魚を釣りに遠出している。評判になっている釣り場は魚が警戒するとかで、常に違う行き先を地図で検討していた。丸谷才一、永井荷風、チェスタートン、E・S・ガードナーなどが好きで、ペリー・ローダンを百冊くらい読んでいる。ほかにも、カメラや競馬などいろいろ多趣味で、それぞれの趣味ごとの友人知人が入れ替わりコーヒーを飲んで雑談をしに訪れていた。いろいろと面白い人にも出会った。
勤め始めた年、労働組合の青年婦人部の職場委員を割り当てられ、行った先の集会場所で手にしていたSFマガジンに目を留め、話しかけてきた職場委員がいて、彼は現代詩をやっていて、何冊も詩集を出し、姫路を中心に音楽活動やイベント活動をやり、ぼくと同じ年に早期退職して古本屋を開業した人間なのだが、彼が面白い本屋さんがあるといって紹介されたのがこの本屋さんだった。
ひとりで店をやっていて、開店時間もわりと不規則。硬軟とりまぜての読書量は半端でなく、関係者以外で尋常でなくSFも読んでいたので、仕事の帰りに立ち寄って雑談するのが日課になっていた。
店を閉めるにあたって大量の本をもらった。合わせて200冊前後。詳しくは【買った本・拾った本】に。
○9月の結果
支出計:177,749円。前年9月137,016円。40,733円増。
入手書籍:(→本の雑誌)
医療費が伸びる。あと高校時代の同級生との飲み会などで金額が増える。
9月1日(月)〜9月30日(火)
【トピック】
【読んだ本】本13冊、漫12冊 計25冊 累計441冊 本のみ290冊
(漫)八木教広『クレイモア (27)〜(36)』★★★、大高忍『マギ(1)(2)』
今月はあんまり本を読んでない。
たくさんの本を貰い、目次とかをぱらぱらめくり、どうやって書架に収めようかと悩んでいるうちに1ヶ月が過ぎた。
『されど罪人は竜と踊る』は12冊目で第1部完結となっていて、しまったと反省する。まだ読み切れてないのだが、2013年のベストSFに十分選ぶ価値があったように思える。2014年のベスト選びにとりかかるはずが、これを読み終えないことには移れない。間違いなく傑作であると確信したのは7・8巻のアナピヤ篇であるのだが、これはスニーカー文庫既出の改訂版なので、そこまでの事件を重く引き摺って展開される9〜12(4冊でひとつの物語)のガガガ文庫版新作で判断していくのが正しいのだろう。そのことが第1部完結という意味でもまたあるのだろう。ついでにアナピヤ編については時間があればスニーカー版とガガガ版の読み比べをしてみたい。スミーカー発表時にぼくのアンテナにひっかかるほどの大絶賛はなかった気がしている。全体に『このライトノベルがすごい』とかでの評価もあまり高くないのはなぜだろう。まあ、正直ライトノベルではないけどね。
異世界ファンタジイとヴァイオレンスとエロス、それにモラルとアンモラル。『円環少女』『薔薇のマリア』『されど罪人は竜と踊る』『ミスマルカ物語』それに冲方丁も含めていい。全部スニーカー出自のメンバーで、どこか共通した印象を受け取っているのだけれど、『ラグナロク』と『トリニティ・ブラッド』を読んでないので、まだ俯瞰するには材料不足。ただ同じスニーカーでも『ハルヒ』は関係ないと思う。
七条剛『うちの居候が世界を掌握している!』は、起業した会社を世界規模の先端大企業に育て上げた天才中学生が、父親の旧友である町工場の社長宅に転がり込んで、三人姉妹の世話になるもしくは世話をする話。たわいのない学園ハーレム願望充足ものだけど、物語バランスがよくてなんとなく手が伸びている。
八木教広『クレイモア』は舞台背景が解き明かされて世界が一気に狭くなる。終りは遠くなさそうだ。
【買った本・拾った本】主な本20点内
キム・スタンリー・ロビンスン『2312 上下』(東京創元社様頂き本 多謝)
『カント全集』(内10冊)、『若きカントの思想形成』、『カントと物自体』、『イマヌエル・カント』、『カントの形而上学講義』、『ドイツ観念論における「自律思想」の展開』、『ヘーゲル現象学の研究』、『ヘーゲル哲学体系の生成と構造』、『ヘーゲル歴史哲学 上下』、『万物理論』、『三木清全集全19巻』、『中江兆民全集 別巻』、『鈴木三重吉全集 別巻』、『大西部物語』、『日本書籍総目録1982年版 全3巻』、その他東洋文庫20冊、岩波文庫80冊ほか ※頂き本
ハンフリー・カーペンター『インクリングス』1600円
ネイサン・ローウェル『大航宙時代』600円
アンディ・ウィアー『火星の人』600円
今月買った最高値本:『霧に橋を架ける』、『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』、『サムライポテト』各1836円
今月買った最安値本:『吸血鬼ハンターD (15)以降 11冊』、『ムーンチャイルド』、『夢迷宮への片道キップ』、『北方 史記 (2)』、『出戻り魔女の婚活(1)』、『魔女の絶対道徳』ほか多数 各36円
【株式成績・等】9月30日まで
大調整が来ないので、売り払った9月権利株の買い戻しが怖くてできない。数年ぶりで株主優待があまりない状態になって、生活設計をやり直す必要がある。11月12月に大幅な株価上昇があると信じているので、10月が勝負。ただ。ここ数カ月ずっと毎月勝負と言い続けながら舞台に上がれないでいる。