みだれめも・出納日記 14年8月

水鏡子


 健康面でいろいろ支障が出た。
 7月末の不摂生で惹起した夏風邪は意外と長引く。熱こそ出なかったが咳、鼻づまり、咽喉の痛みなど3週間近く引き摺った。老化に寄る体力の減衰で回復力が落ちているのだろう。
 そんな弱った状態で、8月中旬自転車での古本屋巡りの途中、普段通らないコースの十字路でよそ見しながら直進し、あるのに気付かなかった車歩分離ブロックに思いっきり乗り上げて、派手に転倒する。右膝、右肘を擦り?き、左手首と右肩をひねる。けっこう恥ずかしい事故で、苦笑いするしかなく、むしろ傷口を拭いたタオルの血が買った古本に少しついてしまったことのほうがショックだったのだが、翌日になってみると右腕が痛くて上にあがらない。左手首も結構痛い。きのうは傷口の痛みに麻痺して、ひねったほうの痛みには気が回らなかったようなのだ。おいおい軽くなっていくものと放置してたら1週間たっても症状が改善しない。しかたがないので整形にいくと、肩腱板不全断裂、要するに肩の腱が何本か切れているとのこと。鎮痛の注射を週1回、それにマイクロ波、低周波、牽引等のリハビリに余裕のある日はなるべく来院するように指示される。事故に限らず、老化によって発症する障害だそうである。
 4月から急降下を続けていた血糖値は、基準値を目前にしてブレーキがかかり、7月の検査値から横ばいになる。上向きにならないだけましではあるが、内服環境下の結果なのでまだ油断はならない。

○8月の結果
支出計:308,952円。前年8月174,601円。134,351円増。
入手書籍:(→本の雑誌)

 この月も生命保険関係で10万円の払込がある。この月も昨年パチで9万円勝っているので今年も勝てるにちがいないと意味もなく信じて行って一度も勝てず7万円負けている。上下16万円がそのまま去年との差になる。

8月1日(火)〜8月31日(日)
【トピック】

【読んだ本】本18冊、漫10冊 計28冊 累計414冊 本のみ275冊

(漫)
獣木野生『パーム (27)〜(36)』★★★

 西尾維新全冊読破になぜか戻れなくなった。かわりに同じく全冊読破を予定して頓挫していた浅井ラボを再開する。竜や異形の者が徘徊し、咒式と呼ばれる科学と魔法の混在系の技術が発達した世界で、戦闘系(前衛)ギギナと魔法系(後衛)ガユスの咒式士コンビが国家、人類規模で展開される指し手たちの暗闘に巻き込まれていく物語。汚物や脳漿が飛び散る文体は洗練とはほど遠く決して美しくはないが、その点を除くと風太郎忍法帖に意外に近い立ち位置にいる作家である。いくつかの技術作法では風太郎を凌駕している。長篇の骨格が堂々としている(1)〜(4)に比べると短篇連作であるこの2冊は、国家規模の暗闘が複雑に絡み合う味わいが薄くてやや物足りない。今読みかけている『6』も短篇連作だ。なお、『0.5』は若き日のガユスとギギナの物語。

 籐真千歳『θ−11番ホームの妖精』は電撃文庫版を含めて3読目。『スワロウテイル』と比較して、ヒロインと相棒の性格もあってか小説世界のできあがりにわりとすきまがある感じ。ハヤカワ版の加筆で印象が変化するかと思ったが、そんなこともなかった。この雰囲気もきらいではないのだが、同じ時間線の物語とするには今の段階では難しい。

 森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』は今月一番の収穫。
 おたく文化を論じたものが100円であると必ず拾うようにしているのだが、これはすばらしい。序章をそのまま引用すると、「趣味が都市を変える力を持ち始めたのである。これは都市史において前代未聞の現象である。第1章では、秋葉原へのオタクの集中とオタク街への変貌がどのように起こったか。そのプロセスを。第2章ではなぜパソコンマニアはアニメのキャラクターを好む傾向があるのか。そのおたく趣味の構造を。続く第3、4章では、旧来からの都市景観を決定してきた力や諸権威がどのように失墜し、またそれに代わって趣味の構造がいかに台頭してきたか、その社会・文化的背景を、オタク文化との関係から俯瞰する」、そして都市工学とオタク文化についての半端でないデータと知見が連携し、たとえば「大手商業資本による開発が街を海外指向に染めるのに対し、オタク趣味はメイド・イン・ジャパン指向に染める」といった秀逸な指摘に結実する。著者は本職の建築学者で、単行本の数は意外に少なく、他には編者となった『エヴァンゲリオン・スタイル』くらいしかなく、調べて見ると持っていた。2冊で213円。
 同時にAKB以来急速に整備されてよそよそしくなり猥雑さを失くしてきているここ数年の秋葉原に、ああこれが著者の言う「大手商業資本による開発が街を海外指向に染める」という意味なのだなあ、と納得した。

 十文字青『大英雄が無職で何が悪い(1)』『灰と幻想のグリムガルド』と同じ世界に召喚された別グループの物語。次々犠牲を出しながら地道にレベルをあげていく前作と反対に能天気にどんどん課題をクリヤしていく陽気な話。これだけならバカファンタジイだけど『グリムガルド』と重ねるとそれなりに楽しめる。

 同じくゲーム世界を舞台にした田尾典丈『コンプリート・ノービス』は、レベル99に到達すると何かが待っていると噂されるネット系体感RPG世界で、ある理由からレベル1を頑なに保持し続ける主人公のクエスト物。それなりに楽しめる。

 渡瀬草一郎『ストレンジ・ムーン(1)(2)』『パラサイト・ムーン』の続篇という触れ込みで、たしかに前作の関係者とかも絡んでくるが、こんなにアクション過多だっけと風化しているとはいえ前作の記憶とかなり異なる。むしろ固有名詞や作劇はあきらかに『輪環の魔導師』と結んでいて、この三作を始めとした横断する壮大な世界構築を展開できるかどうかが読みどころになりそうだ。

 改名が気に入らなくて、新刊で買い続けながら開かず積んでいた、獣木野生『PALM』だが、最終章突入ということで、再開以降をまとめ読み。大作『愛でなく』に比べるとやや小粒な感は免れない。というより、『午前の光』はたぶん『愛でなく』と『TASK』とをつなぐための作品、『蜘蛛の文様』はカーターの人生を回顧しながらここまでの『PALM』を再整理したものなので、作品判断は『TASK』の出来で判断するしかない。
 

【買った本・拾った本】主な本20点内  

 ルー・バーニー『ガット・ショット』(細美瑤子様頂き本 多謝)
 ハイデッガー『形而上学とはなにか』
『カントと形而上学の問題』三宅剛一『学の形成と自然的世界』
  森口美都男『「世界」の意味を索めて』宮崎滔天『三十三年の夢』坂部恵『理性の不安』
  A・ラボポート『操作主義哲学』
メルロ・ポンティ『シーニュ(1)(2)(3)』フッサール『現象学の理念』
  バートランド・ラッセル『西欧哲学史』野田又夫『西洋近世の思想家たち』
 ※頂き本 今月の本の雑誌で紹介している知り合いから処分本を大量に頂く。8月はまだこの程度だけど9月は数十冊に及ぶ予定。
 ジョン・ウィンダム『チョッキー』
108円
 スコット・ウェスターフィールド『ミッドナイターズ(1)(2)』
各108円
 ローレン・ビュークス『シャイニング・ガール』
108円
 森川嘉一郎『趣都の誕生』
108円
 北方謙三『岳飛伝(10)』
1,728円 ※今月の最高値本
 『魔法の材料ございます(3)』
『夜明け前に闇深く』『ちょんまげちょうだい』『シロクロネクロ(1)』『プリンセスハーツ(11)』
 など各36円 ※今月の最安値本

【株式成績・等】8月31日まで

 コロプラが大復活。まだトータルは含み損状態だが売買益との合算は半年ぶりにプラスに転じる。大調整を期待して、少しでもプラスになった銘柄はせっせと売り払っているのだが、ぜんぜんそんな局面にならず、売り払った株価はどんどん上がっていって買い戻しはできそうにない。


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