みだれめも・出納日記 13年11月
水鏡子
お金がなくなった。
ここまでの日記を読んでいる方には、何を言っているのかと思われようが、普通預金がなくなった。退職後に得た現金は、原稿料20万円程度と株の配当金だけである。今年の4月から年金がもらえるようになったので、たぶん来年度はなんとかなると思うのだけど、ここしばらくは定期を解約するかどうかの綱渡りの生活がつづきそう。株で儲かった資金というのは証券会社の口座から出ていかないで、そのまま購入資金に再投資されてしまうのだ。
手元にある現金は5万円ほど。そのうち3万円は硬貨類で、昔の百円銀貨(記念硬貨含む)やなんかで、使用対象にならない。12月になると9月権利の配当金が届くので、ぎりぎりなんとか生き延びれるかと思ってるけど、かなり微妙。間に合うか。
ここ10年以上、いわゆる月給生活を送っていない。給料は口座振込されていたけれど、キャッシュカード(クレジットカード含)というものが嫌いで、今も引出しは通帳と印鑑である。100万円の束を引出してはちょびちょび使って、なくなったらまた下ろすという繰り返し。働いていたときは、だいたい4カ月単位で引出していたので、そこから退職後の年間の支出総額300万円を弾き出した。(ぜんぜん削ってないと言わないように。それまで別枠だった、会社任せの税や保険料、それに光熱水費の口座引落し分を圧縮したのだよ)
この前100万円下ろしたのは、今年の3月。配当金と合わせて概ね9カ月持ちこたえた計算になるのだが、とうとう下ろす金がなくなったのだ。まるっきりないわけではないけれど、その通帳は光熱水費や国民保険料、生命保険の引落し専用通帳だ。
まとめ下ろしというやり方は、金銭管理の面からは悪くないやりかただと思っている。銀行に何回行ったかで年間で使った額は概ね把握が可能になる。家にある現金は一番多いときで100万円。20万円単位で保管場所を分けておく。なくなると今のような状態になる。通帳は家に置き、印鑑は持ち歩く。最近の通帳は印影を記載していない。カードとちがって窓口処理になるので通帳を盗まれても泥棒も引出しに躊躇する。さらに徹底するとしたら、今は大手の銀行で下ろしているけど、もっと小さな銀行の小さな支店で、できれば行員と顔なじみになり、必ず100万円しか下ろさないというイメージづけをすれば、どろぼう強盗こわくない。
そもそも家にあるそれなりに金目のものは、平行移動書庫だけで、とられて困る値打ちものはほとんどない。そりゃあ本を盗られたら困るけど、他人から見ればゴミでしかない。ありうる被害は現金数十万円が上限となる。
とりあえず、あと半年。そこさえ乗り越えればなんとかできて今より余裕のある生活が送れるように現在密かに画策中。うまくいけばおなぐさみ。
〇10月の結果
支出計:292,194円。前年10月239,087円。52,880円増。
入手書籍:188冊 33,505円。累計2,087冊。前年累計1,893冊
5万円を越える増。どうしたのかと思ったら、去年はパチで10万円も勝っていた。あと、この月は国保料後期分11万円の支払い月。
購入冊数3年連続2,000冊突破。それでも6月末で1,500冊越えの惨事から急制動の効果は効いてきて、なんとか前年並みに抑え込めるか。無理か。
10月31日(火)〜11月30日(月)
【トピック】
10月第5週〜11月第5週。
イヴェントなし。年末に向けて株を眺めつつ、いろいろ話を読む日々。
【読んだ本】39冊(内、漫14冊) 累計418冊(内、漫200冊)
ピーター・ワッツ『ブラインドサイト 上下』★★★☆
クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』★★★
コニー・ウィリス『オールクリヤー (2)』★★☆
いとうせいこう『想像ラジオ』☆
菅浩江『誰に見しょとて』★★★☆
成田良悟『バッカーノ1935C』(−)
鎌池和馬『ヘヴィ・オブジェクト (7)』★★☆
三浦勇雄『聖剣の刀鍛冶 (11)〜(16)』★★★
十文字青『灰と幻想のグリムガルド (2)』★★☆
茅田砂胡『茅田砂胡全仕事』★★★
前田珠子『鬱金の暁闇18』(−)
鷹見一幸『召喚主は家出娘 (1)(2)』(−)
柳実冬樹『対魔導学園35試験小隊 (2)』(△)
空埜一樹『シンマと世界と嫁フラグ (2)(3)』(△)
日日日『反抗期の妹を魔王の力で支配してみた (2)』(△)
みみとミミ『魔王な使い魔と魔法少女な』(△)
寺尾幸紘『オタクの心をつかめ』(△)
日経マネー科『桐谷広人さんが教える株主優待ガイド』★★
井の頭作文室『たとえば恋愛コミックはこう読む』★★
(漫)
よしながふみ『大奥 (10)』★★★、皆川亮二『ADAMAS (6)(7)(8)』、河合克敏『とめはね (7)〜(11)』 ほか14冊
疲れる本とかたくさん読んで、今月は星が全般に低めに終始。年初の目標だった500冊の達成は無理みたい。
ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』に難行苦行する。小説としてだめだろうと辟易しつつ読み終えたのだが、あとからじわじわじわじわ評価が上昇する。比較検討対象、補助線として『宇宙船ビーグル号』を見つけたことが助けになった。先に大野万紀に呟かれたが、全員が系統の異なるネクシャリストである5人がチームを組んでBEM(死語)と死闘を繰り広げる。BEMの個性は、解説で言及されているようにソラリスの海でもあるけれど、それにアナビスとイクストルを混ぜるといい。進化論が重要なテーマであることを考えれば、本家よりも『ビーグル号』。『宇宙船ビーグル号』は刈田の提唱する文明周期説が既装備として効果を発揮するのだが、本書の場合戦闘以上に超知性たちがディスカッションを交わしつつ文明周期説にあたるものを構築していくことが中心になる。読みにくさもしかたがないと説得させられる面がある。地球で起きている事象や、職業正体不明の父親からの通信や、なんとなく続篇を匂わすところもあるが、できることなら訳されないでほしいなあ。
ちなみに『ビーグル号』とかぶせていくなら、シリ・キートン=グローヴナーは当然として、ユッカ・サラスティ=ハル・モートン、アマンダ・ベイン=リース大佐、スピンデル/カニンガム=刈田、スーザン・ジェイムズ=マッカン他の連携した各部部長群といった役どころはいかがか。軽いお遊び。
予備知識をずいぶん仕入れてから読んだ『想像ラジオ』は、もっとだらーとした小説と思っていたら意外と造った小説だった。造った小説として見ると、正直造り込みが甘い。もっともっと造り込んで欲しかった。こっちが勝手に比較検討作品に『スローターハウス5』を想定していたのが悪いのだけど、期待はずれ。
「そういうものだ」のフレーズに封じ込めたヴォネガットの沈黙は、体験したものの力でもある。非体験の題材にこだわり調べ尽くした作家にとって、その題材を書き切るにはただひたすらに書き続けるしかないのかもしれない。当初の草稿はもっと大部だったという『ブラックアウト/オールクリア』3500枚はウィリスにとってもっともっといくらでも書き続けたい話だったことにまちがいない。いつものようにすれちがい右往左往をくりかえす長ったらしいドタバタ劇も、大空襲下のロンドン市民生活を描きあげるという目的がしっかりしたぶん、空回りとは感じられない。けれども主眼はそこにあるわけで、タイムパラドックスなど話をまとめる小道具に過ぎない。ついでにいえば謎解きとなる時空連続体仮説もかえって話を安っぽくしている。緊張感を高めつつ話を畳みこんでいく作者の技巧はいつもながら堪能できるが、小説としてはともかくSFとしての楽しさは前二長篇より数段落ちる。というか、ワッツと真逆でSFとしては駄目だろう。これがトリプル・クラウン受賞というのはまるで理解できない。
クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』は点在する島々に散らばる過去の出来事の錯綜したパーツを組み合わせていくなかで、アーキペラゴの風景と著名人たちの行跡の全体像が浮かびあがってくる高踏派ミステリ仕様が全体を統べる。SF的感興は乏しい。著名人たちの人生模様に、時間歪曲効果がからめてあるような気がしないでもないが、よくつきとめられなかった。超自然的な要素があるのは「シーヴル」だけ。この作品や「ミークァ/トレム」といった独立性の強い長めのパーツが、殺人事件やトンネル堀りに彩られた本筋から浮きあがり、本当に関連性がないのかよくわからなくていらだつ。ちなみにこの2篇、表題部分に同じ誤植あり。
『誰に見しょとて』を読みながら『永遠の森』の整えられた佇まいに傑作であると同時に習作的な印象を後付けに受けた。化粧をベースに人類進化を展開していく物語は、企業の巨大化過程が説得力に欠けるものの、たしかに『永遠の森』の後でないと書けなかったような方向性がみてとれる。けれども同時に『永遠の森』では抑え込まれていたような趣味的個人性が良くも悪くも発散されて、前作が楷書体なら本書は草書体といったところか。化粧文化というぼくにとって縁遠い世界を全開されたことへの過大評価がある気もするけど予想以上の収穫。
『聖剣の刀鍛冶 (11)〜(16)』は印象は悪くないものの途中で止まっていたもの。気がつくと完結していたのでまとめ買いする。未入手巻を新刊書店で買う程度に気にいっている
(ネタバレ)ヴァルバニルという魔獣が封印されて長い年月が立ち、そのものの呪詛や洩れ出る霊力がそれとは知られず魔法として生活やいくさのなかに取り入れられている大陸。その魔獣の封印が解ける時期を目前に、様々な思惑を巡らす諸国の駆け引きの中、魔獣を封印する聖剣の鋳造技術を受け継ぐ少年、独立交易都市騎士団の少女、人型に変形できる魔剣、悪魔契約で生み出された少女らが繰り広げる恋と冒険の黙示録。練り込まれた設定をまっすぐバランスよく展開した王道ファンタジイである。中高生の情操教育にも適した素直な作品。泣けるラストが心地いい。お勧め。
それにしても『このライトノベルがすごい!2014』では、この作品が完結だというのに60位までにまるっきりあがってこない。これはちょっとかわいそう。
茅田砂胡『茅田砂胡全仕事』。買って帰ったその日に700頁全冊読み終える。あいかわらずのリーダビリティ。普段のノベルズ本より長い収録作品「紅蓮の夢」は海賊とデルフィニアの初の遭遇。〈太陽と闇と月の物語〉の戦いに両者が轡を並べるための準備篇とみるのはうがちすぎか。
【買った本・拾った本】主な本20点内
ヴィリエ・ド・リラダン『トリビュラ・ボノメ』1,000円 *初版本、箱少し壊。
アダム・ザミーンサイド『サイラス・サイラス 上下』各200円
アダム・カバット『江戸化物草紙』105円
ロジェ・アンリ・グラン『トイレの文化史』105円
大林信治・森田敏照編『科学思想の系譜学』800円
鶴見俊輔『戦後日本の大衆文化史』105円
永瀬唯『ターミナル・エヴァ』『ザ・デイ・アフター・エヴァ』各80円
ミステリー文学資料館『ぷろふいる』『別冊宝石』『宝石』『新趣味』『探偵』『猟奇』『探偵趣味』『X』『探偵倶楽部』各200円
十文字青『純潔ブルースプリング』400円 *やっと見つける。これで十文字青コンプリート達成。
「小説宝石 12月号」1,000円 *別冊付録『「少年」傑作集』が欲しかったので
「YOU 12月号」530円 *別冊付録『萩尾望都名作名言手帳』が欲しかったので
小野不由美「新潮文庫版十二国記」内4冊各80円
六冬和生『みずは無間』頂き本(編集部様 多謝)
六冬和生『みずは無間』1680円 *ダブっちゃった。
田中美穂編『胞子文学名作選』2,730円 *『本の雑誌12月号』64頁で紹介されていた本で思わず注文してしまう。作品ごとに組み方を変え、紙を変える凝り具合。これはたしかにすごい! 必携コレクターアイテム(なんの?)。
ジョージ・R・R・マーティン『竜との舞踏 (3)』3,255円 ※今月買った最高値本
松田志乃ぶ『悪魔のような花婿 (4)〜(7)』、今野緒雪『お釈迦様もみてる (5)』、森田季節『落涙戦争』他28冊 各2冊で105円 ※今月買った最安値本
【株式成績・等】11月29日まで
読みが外れる。株が下げない! 売買益を削って損切りした株がじわじわと売った値段から切り上がっていく。逆に勝負を賭けて高値で買い増ししたコロプラは大幅下落のあと下値で張り付いてヨコヨコしている。これまでなんども繰り返している愚痴だけど、30年近い取引を通じて負けた株というのは全部で6銘柄しかない。そのうち3つがここ3年の新規銘柄。倒産した日活(映)は別として、買値より安く処分をさせられた任天堂とコナミとスクエア、抱え込んでいる含み損回復のめどがたたないDENA、これにあらたに現在大きな含み損になっているコロプラと、とにかくゲーム株に手を出さなければ、全て負けなしという事実が数年前から明らかなのに、それでもあらたにゲームに手を出しひどい目にあう。年末まであと1ヶ月になって、結局年内には、5月当初のプラスまで戻せないことが確実になった。