みだれめも 第212回

水鏡子


 今回は林トモアキ

(1) 『ミスマルカ興国物語』(全10巻+外伝1巻、2008〜 未完)★★★★
(2) 『戦闘城塞マスラヲ』(全5巻、2006〜2009)★★★☆
(3) 『お・り・が・み』(全7巻、2004〜2006)★★★☆
(4) 『レイセン』(全5巻、2010〜 未完)★★
(5) 『ばいおれんす☆マジカル』(全3巻  )未読

 読んだのはこの順番だが、微妙に正解みたいな気がする。微妙というのがくせもので、じつは著者の作品は全部つながっている。(未読の『ばいおれんす・まじかる』についてはわからない。関連性がないのなら、読まない方がいいかもしれない。というのも、『お・り・が・み』の雑っぽさはあたまが痛くなる代物で、悪い意味での字で書いたアニメ。小説のていをなしているとは言い難い。(1)(2)を読んで、著者の作風、キャラ設定を刻み込んでとりかからないと、粗雑さに耐えられなかったような気がする。『戦闘城塞マスラヲ』も『お・り・が・み』よりは小説っぽいけど、まあ小説っぽい小説どまり。にもかかわらずの高評価は小説的な放埓さを補ってあまりある倫理命題へのこだわりとそこから展開される発想の自由闊達なのびやかさ。等身大の目線からの道徳小説というのがじつはラノベのひとつの核ではないかと思ったりもしているのだが、著者の作風ははちゃめちゃとモラルが同格の比重で前面に出る。

 とりあえず、昔の作品からとりあげる。

『お・り・が・み』(全7巻、2004〜2006)
 親に捨てられ親戚の家をたらい回しにされたあげく、かれらの借金20億円を背負わされた薄倖の女子高生鈴蘭は借金のカタとして悪の組織「伊織魔殺商会」で奉公させられることになる。
 この話には裏があり、彼女は神を降ろし神を殺すことができる異能の四家の本家筋、名古屋川家の正統後継者であり、そんな血筋のなかでも稀有な稀代の能力を顕現できる聖女にも魔王にもなれる可能性を秘めた存在だったのだ。その将来に危惧を抱いた母親により身分を伏せて捨てられたのだが、存在が明らかになったことで、裏の世界の諸勢力、「神殿協会」「魔人」「国家オカルト組織」などによる争奪戦が始められる。彼女が真の聖女か魔王になったとき、彼女を冠に据えた集団は世界を支配するどころか、自然律すら塗り替えたあらたな世界を作り出すことができるのだ。人智を越える力を備えた諸勢力を向こうに回し、悪の組織「伊織魔殺商会」の全面的な支援を受けて鈴蘭は敢然と立ち向かう。
 書いててかなり恥ずかしいが、まあこんな話である。キャラはエキセントリックで無駄に元気で、話の進め方もいいかげんだが、大造りの部分はしっかりしている。悪の結社が正義の味方の発想で、諸勢力ほとんどの登場人物が共感持って描かれて、物語は巻を追ってスケールアップし、ついには世界の命運を賭けた神との戦いにいたる。ひたすらバトルシーンの連続ながら、できれば戦わないこと、戦っても相手を殺さないことへのこだわりは他の作品も含めて著者の基本姿勢を成している。ただし敵方は、五体バラバラにされても死なない連中だらけだけれど。

『戦闘城塞マスラヲ』(全5巻、2006〜2009)
 目つきの悪いニートでひきこもりの少年川村ヒデオがゴミ捨て場で拾ったパソコンから少女のかたちをした電子ウィルスが具現化する。彼女に引きずられるまま、ヒデオは東京近郊奥多摩に出現した異空間で催される武闘大会「聖魔杯トーナメント」へ出場することになる。参加資格は、人間と、自立した意思をもつ人間以外の者とのペアであること。
 武器、防具、その他アイテムの持ち込みは自由。
 『闘神都市』かよ、と思いながら読んでいるとバトル中継放送の女の子コンビのセリフやテンションなんかモロ『闘神都市』。そうやって顧みると、『お・り・が・み』も含めて世界の存在仕様はアリスソフトと親和性が高い。ほとんど説明なしに出てくる「魔人」にしても、源流はなんか「ランス」っぽい。基本設定がこうだから、物語は全体にパソゲーから持ち込んだギミックが満載である。歴戦の勇者もビビる目つきの悪さとエリートたちに対するコンプレックスをバネにして、何の能力もないことを隠し、しのいで、はったりで、頂点目指すヒデオの先にあったものは・・・
 こちらを先に読んだので、トーナメント参加者を搾取しまくる悪徳組織「魔殺商会」でメイドをしている鈴蘭というキャラがなんなのか最初のうちはよくわからず妙に重要人物っぽいバランスの悪さにとまどったりもしたけれど、それでもこちらの和気あいあいの仲間関係を押さえたうえで前作を読んだ方が2度おいしかったと思う。

『レイセン』(全5巻、2010〜 未完)★★
 「聖魔杯トーナメント」から帰還した川村ヒデオは退魔を仕事とする宮内庁神霊班に就職する。彼の周りには、「聖魔杯トーナメント」や仕事柄で知り合った一癖も二癖もある女性たちが寄り集まってくる。そんな女性たちに振り回される日常のなかで、巨大企業を裏で操り「人工悪霊」を作り出す謎の組織が動き出す。
 5冊かかっていまのところまだ序盤。『お・り・が・み』のころならまだ2冊目くらいの展開で、フラグを立てた女の子の鉢合わせトラブルにかなり比重が高まって、小説的にはちゃんとしているのだけれど、まだなんともいえない。

『ミスマルカ興国物語』(全10巻+外伝1巻、2008〜 未完)
 異世界ファンタジイ。
 西域は魔物が徘徊し人の住めない荒れ野と化し、北に人魔平等のゼピルム共和国、南に魔人至上主義のグランマーセナル帝国。2つの超大国に挟まれた中原と呼ばれる緩衝地帯に位置する小国のひとつミスマルカの王子マヒロは勉強も剣の修練もいやがるぐうたら王子。
 だが、超大国グランマーセナル帝国のマジスティア魔人皇帝は、ミスマルカ王ラヒルU世を大陸制覇の最大の障害蛇の王と断じ、大軍を持って攻めよせる。
 今でこそ都市ひとつほどの土地しか持たないミスマルカ国だが、かっては大陸全体に覇を唱え、究極兵器たる「聖魔杯」を有していると噂される国だった。そしてラヒル王は王子マヒロに「聖魔杯」の発動の鍵となる5つの紋章の探索を命じる。紋章をめぐって争うは、帝国三皇女と天魔将、ゼピルム共和国諜報部隊、中原諸国、神殿教団などの諸勢力。複雑に絡み合った勢力関係の中で、マヒロは少数の仲間とともに紋章集めの旅を続ける。非暴力を貫きながら。
 完成度は頭抜けて高い。見覚えのあるタームやキャラがうろちょろするが、現在刊行中の11冊まで読む限り他の作品からの独立性は際立っている。謎めいた言葉は、語られない方が神秘めいて深みを生む。
 読むのであれば、ぜひ本書から開始することをお勧めする。順番に読んでいくとその謎めいた深みがファニッシュな安っぽさに見えかねない。
 やや間延びする巻もあるが、第7巻までが帝国との戦い。負けます。第8巻から敗戦国の将として帝国で過ごす日々となり、このあとゼピルム共和国との抗争があって、魔王との戦いが続くとなると20巻くらいになりそうだ。そのなかで、この世界の成り立ちと他の作品とのつながりも、もっとくわしく説明されるときがあるのだろう。
 特筆すべき特徴は大河小説でありながら個々の本が読み切り作品としての結構をきちんと維持しているところ。これは『ミスマルカ』に限らず、著者のすべての作品にいえる美点だったりする。
 こうやって書くとなんかすごく立派な作品みたいに見えるけど、実際にはおふざけ満載、コン・ゲームの楽しさに満ちたブレンド加減絶妙な肩のこらないお気楽小説。
 とりあえず新作はすべて本屋で買っている。

久しぶりに「ライトノベル好感作家作品東西番付表」を添付する。 (*SkyDriveへリンクしています)


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