続・サンタロガ・バリア  (第114回)
津田文夫


 今年も終わり。とはいえ衝撃的な地震と原発崩壊が今年も終わったという感慨を妨げる。自分の日常は変わらないような気がしていてもいくつかのつながりが常に気がかりとしてぶら下がる。それは長く続くだろう。

 今年はホントにステレオを聴いていない。YouTubeでは1時間以上あるクラッシック曲も聴けるようになってるけれど、さすがに第9やマーラーを聴く気にはなれない。やはり弾いてみた系やボーカロイド、ダンスロイド系が愉しい。プロのPVにはあまり関心がないのだけれど、Avengers in Sci-Fiというバンドの「Sonic Fireworks」のPVには惹かれた。曲の出来も悪くないが、なんといってもメインは中学生カップルのダンスだ。正攻法の気恥ずかしさはあるものの見てて飽きない。あと、弾いてみた系で毎年クリスマスにサンタコスで魅せてくれるmakmakが今年もヴォリュームアップでエンターテインメントを繰り広げてくれていた。「男の娘」ギター&ベースは相変わらず愉しんでたけれど、ハマるほどの新鮮さがある新人が少ない。最初の衝撃は刷り込まれるのでついて行けるが、その刷り込みを凌駕してくれるヒトがなかなか出てこない。ヘヴィーなコードストロークを聴かせてくれたガチャ子は男の子宣言して消えちゃったし。
 ステレオで聴くといえば20年前に出た復活ELPの「ブラック・ムーン」を久しぶりに聴いたら、B面に当たる5曲の流れがグッと来た。そういや72年にプエルトリコで演ったMar Y SolのライヴCDが未だに来ない。

 堀井拓馬『なまづま』は久しぶりに読んだ日本ホラー大賞長編賞受賞作。大森望がけっこう評価しているので読んでみた。思ったよりずっとストレートな話づくりで、そのネトネトぶりが素晴らしいけど、世間体を無視した後半はちょっと説得力に欠ける。タイトルどおり妻づくりだけに視野をどんどん狭めていくから成立した作品なのかもしれないが、SFとしては別の視点での思い入れが必要かなあ。いまだに粘膜シリーズが読めてないのは我ながら情けない。

 小川一水『天冥の標X 羊と猿と百掬の銀河』はついに物語の大枠が明かされる一作。とはいえ大げさなスケール感よりはやや軽めの始まりの物語という感じ。それがいきなり太陽系人類と絡んじゃうんで大風呂敷のあちらこちらはどうなるんだろうとワクワク/心配する。火星の農家の話も中つなぎ的な性格の物語になっており、第5巻を迎えてもまだまだたたむ方向が見えなくて次巻への期待が盛り上がる。

 第1回創元SF短編賞受賞ということで表題作と「ぼくの手のなかでしずかに」がついこないだ読んだのに再読ということになった松崎有理『あがり』は、物語る手つきが上品なのにホンワカしてなくて不幸な話になっているものが多い。代書屋シリーズでもユーモラスな表情が時々描かれるけれど作品自体は明るい訳じゃない。この静かなタッチが、一番違和感なく生きているのが「へむ」ということになる。絵的には宮崎駿のアニメがイメージされてしまうけど、思い入れの方向は宮崎駿とは違うみたいだ。

 話はまったく忘れているけれど感触だけがボンヤリと残っているようで、気になって読んでしまったのが水見稜『マインド・イーター』。やあ、日本が舞台じゃない話だったんだねえ。最初に明かされる設定はバカSFがつくられそうなシロモノだけれど、前の宇宙から漏れ出た「怒りと憎悪」はバーサーカー・シリーズよりもすっとシリアスで、かなりホラー寄り(クトゥルーも入ってるか)。文系ハードSFは言い得て妙。個々の短編は意外と古びてなくて、創元SF短編賞に応募したら通りそうだ。文系神林長平だったんだなとも言えそうだ。でもこのタイトルは、後付だけれどホール&オーツの「マン・イーター」がすぐに連想されちゃうところが難ですね。

 好きな作家かといわれたら首をひねることもあって、文庫落ち(実際は新書1巻本)を待ってた貴志祐介『悪の教典』は、英語タイトルがELPの「karn evil 9」かと思っていたら、「Lesson of the evil」だった。話は超ストレートなので、この主人公の性格付け、前に読んだことなかったっけ、というよりえらいありがちなキャラだなあ、などと思いつつ、そのジェットコースターぶりに舌を巻きながら読んだ。この話を逃げをうつことなく書き切っていること自体がすごいし、面白く読めたのに文句を言うことはないんだけど、それでも何かものたりないんだよねえ。

 小松左京追悼本のうち河出書房新社『文芸別冊 追悼小松左京 日本・未来・文学、そしてSF』と徳間書店『完全読本 さよなら小松左京 追悼』を読んだ。きちんと通読した訳じゃないけど、思ったよりも編集に違いがあって楽しめた。年表を見て改めて驚くのは、あの数の傑作群が30歳から46歳になる15年間ほどのあいだに全て書かれていることだ。その後、作家業は小松左京のメインから外れたように見えるけれど、小松左京のイメージはいまだにその15年余りの活動の成果によって記憶されている。そのイメージを一新する小松左京の全体像を書く人はこれから出てくるんだろうか。

 大森望『21世紀SF1000』は、文庫なのが取り柄だ。中身は再読もしくは再々読の文章ばかりなんだから買わなくても良さそうだけれど、ま、すぐに忘れるので、何回でも読める。巻末の「21世紀SF推薦作 100」のうち未読(新訳増補版とか完読していないものも含めて)が13冊。内3冊はまだ読みたいと思っているので、読破率は9割になる予定。


THATTA 284号へ戻る

トップページへ戻る