今月はブックレビューです。
森岡浩之の単行本としては、《優しい煉獄シリーズ》以来3年ぶりになる。「夢のまた夢」という言葉は、豊臣秀吉の辞世の句として知られるものだ。しかし、本書は秀吉について書かれたお話ではない。関ヶ原後、いわゆる「大坂の陣」を舞台とした、一見SFとは思えない時代ものである。
慶長十九年七月、主人公は豊臣秀頼の奥小姓を勤めていた。折しも徳川と豊臣の関係が悪化すると、元服を経て武士となる。和議か戦かの論議は、大坂城内の勢力を二分する対立を生むが、和睦派追放で決着する。大坂側は豊富な豊臣家の資産を武器に、大量の武具、米などの食糧買い入れ、諸国の牢人たちに仕官を促すなど、戦争の準備を着々と進める。秀頼はさまざまなルールを編み出すことで、烏合の衆である配下を束ねていく。
歴史に詳しくない大半の読者からすると、どこで史実を外れるのかが、そもそも分からないだろう。実は、冒頭の秀吉臨終場面から異なっているのである。また、大坂の陣で秀頼が活躍したという事実はないし、関ヶ原で亡くなったはずの武将が健在であったりする。ただし、本書はシミュレーションノベルとは異なる。強引な歴史改変がテーマではない。幼くして父を亡くした十代の主人公を、中世の大坂という特殊な環境に置き、その成長を描いているのだ。最終章だけが、純然たるSFとなっている(逆に歴史ファンには分からない部分)。副題に「決戦!
大坂の陣」とあるものの、結末段階でもまだ緒戦(史実より1カ月早く、場所も異なる)で、大坂城攻防は描かれない。続編が書かれても不思議のない終わり方だ。
本書が作者にとって、新境地となる画期的作品であることは間違いないだろう。ところが、《星界シリーズ》のファンからは、あまり色良い反応がない。従来のイメージと違いすぎて、受け入れがたいということか。
|