今月はブックレビューです。
古くからのファンライターで、SFマガジン(1984年11月号)にも作品が掲載されたことがあり、評価の高いゲームブックの作者でも知られていた著者の初の連作短編集である。
循環:路面電車が発着する桟橋の駅には、終夜営業の酒場がある
曇天:特定の日、海で見ることができる不思議な“天体現象”
雲海:雲海の上、地上では見られない夜空を見るためには
空洞:巨大な空洞の世界、壁を掘り進む男が見た向こうの世界
潮騒:酒場の地下深くにある、矩形で区切られた海
水槽:降り続く雨で、水没した街の光景
分銅:偶然入った酒場には奇妙な猿たちがいた
立春:一方通行でしか旅人が訪れない谷底の宿
公園:深夜の公園を横切ろうとした男は、不思議な老人と出会う
車軸:幼いころの思い出の地に、路面電車から降り立った主人公
緩やかな関連を持って、各作品は結びついている。それは1つの現象(流星)だったり、小道具(コインや置物)であったり、人物や建物(酒場)であったりする。規則性はなく、ただ、最初と最後だけは、明確な円環をなすように配置されている。この幻想は稲垣足穂の初期作品を思わせる(ノスタルジックと帯にあるには、そういう意味か)。しかし、著者の文章は妙に理詰めで、純粋なファンタジイとは異なる独特の雰囲気を感じさせる。その点はSFなのである。ただ、架空の町/架空の世界と、実在する東京が、エピソードによって混在する構成は、文章自体が同じトーンであるためか少し違和感がある。もしかすると、本書の世界そのものが、著者にとっての“東京”の一側面なのかもしれない。
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