岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。


 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、
それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

 さて、今月のテーマはアンソロジスト、ロジャー・エルウッドです。エルウッドは1943年生まれで、主たる活躍期間は1970年代、生涯で80冊以上のオリジナル・アンソロジイを出版したとされています。ここでオリジナルという意味は、既存の短編を集めた再録アンソロジイではなく、書下ろしアンソロジイということ。大森望は本年10冊のアンソロジイを出すと聞いていますが、オリジナルは《NOVAシリーズ》のみなので3冊。たぶんもっとも多い、井上雅彦監修の《異形シリーズ》でも、13年間かけて47冊です。

アンソロジー出版数量(Wikipedia) The Wounded Planet
英語版Wikipediaからの引用(左)/最盛期のアンソロジイの一例(右)   

 さて、エルウッドのピークは1974年に来ます。年間23冊(別のところで15冊と書きましたが、23冊!でした)。しかし、72年に始まったブームは、75年以降急速に崩壊、他のアンソロジイまでを巻き込んで一気に終焉してしまいます。上記Wikipediaにも引用されている、オールディス&ウィングローヴの『一兆年の宴』(東京創元社)から一節、

 70年代にはもう一つの現象の発展が見られた――テーマ・アンソロジーである。厖大な数にのぼるこの種のオリジナル・アンソロジーが市場に氾濫したが、その大半は平凡な出来であったため、結局は作家、編集者、雑誌、出版社を傷つけた。その張本人は、それまでSF分野に関係なかった一編集者、ロジャー・エルウッドである。ひところは、市場に出ているアンソロジーの25パーセント――何百点ものそれ――が、エルウッドの単独または共同の編集になるものだった。
 このバブルは70年代の後半にはじけ、新しい作品のマーケットはみるみる劇的にすぼまった。(浅倉久志訳)

 ちなみに、1974年の新刊・再刊は合わせて722冊、そのうちアンソロジイは100冊なので、エルウッドがアンソロジイの25%を占めた(『SFエンサイクロペディア』では、短編市場の4分の1とある)というのは、瞬間最大風速ながら事実です。ちなみに、同じ基準で換算すると、アメリカでは2009年に2900冊(新刊は半分)が出ています。SFというより、異世界ファンタジイが多数を占めますが。

 ということで、エルウッドはバブル崩壊の犯人にされ、極めて低い評価が定着してしまいました。ただし、エルウッドは以前からサム・モスコウィッツ名義の再録アンソロジイなどの仕事をしてきたベテランで、この分野に疎い編集者ではありません。また、売れると思ったタイミングで、多数の出版社を動かすだけの行動力を持っていました。崩壊後も懲りずにSF版ハーレクイン出版(ハーレクイン式に、定型通りの筋書きで書かれたフォーミュラSF)を企画、売れる訳もなく1年で終わっています。バブルの夢が忘れられなかったのでしょうか。

 客観的に見ると、これだけ数を出した関係で、編集が粗雑/いい加減である一方、収められた作品は決して低レベルばかりではなく、読むに値するものも多かったと言われています。エルウッド=短編市場だったわけですね。とはいえ、バブルを崩壊させた影響は深刻でした。長らくアンソロジイが出版できない状況が続いたからです。ほどほどが肝要ながら、そこに留められないのが資本主義社会に生きる編集者の宿痾なのでしょう。

 この後、エルウッドはSFから離れ、スリラーやロマンスものなどの小説を多数書いて2007年に亡くなっています。ただし、80年代以降のことを記載した記事はほとんど見当たりません。


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