ウィアード・インヴェンション〜戦前期海外SF流入小史〜036

フヂモト・ナオキ


フランス編(その十八) ロゼル・ブリツク[ロジェ・ラブリ]『仏蘇空中戦未来記』

 オペラ劇場では、今夜の催物トリスタンとイゾルデの終幕が今しも下りたばかりである。
 見物席は総立となり、騒めき渡る中にも、このワグネルの大オペラを済ませた役者や音楽家達を賞める言葉が聞える。
 多くの人々が美くしく磨きあげた大理石の階段を下りてシヤンデリヤが燦然と輝き亙る出口の広場に押し寄せた。恰度その瞬間、忽然として総ては暗黒と化したのである。

 と、謎の停電で物語りは幕を上げる。停電の原因はパニックを押さえるため敢えて伏せられる。蘇聯の高層圏飛行機200台がミンスクの秘密基地より巴里に向かっているというのである。ってな感じで盛り上げつつ、冒頭部分が<陸軍画報>1935年11月号に訳載されたっきりの本作、ロゼル・ブリツクって誰やねん。そんな作家おらんやろっ。

 はぁ〜、Roger Labricってのが、なんとなく語感が似てる、ってそんなまた夢みたいなことを。いや、お宅のお子さんが、そんなことを言い出したら、ちょっと脳の専門家に見せた方が。ええっ、本を発注したって、いやもうこれは、座敷牢に押し込めるしか。これ、よさぬか、爺、乱心などと、たわけたことを、や、放せ、放さぬかっ。

 幽閉されてしまったが、正義は勝つ。ほれ、これじゃ、これじゃ。

On se bat dans l'air(1933)

 それはさておきこのRoger Labric、調べると同名の人がいて、カー・レースの歴史に名前が出てくるのである。1930年代のル・マンにチームを率いて出場、ドライバーとしても搭乗していたこの人物が、どうも同一人物のようでもあるのだが、これといった決め手は見つけられず。
 これは、道で高斎正先生に出くわしたら、取っ捕まえて問い詰めるしか、と思ってから数年たつが、未だそこいらを歩いているのに行き当たったためしがない。どの辺を歩いてんのかなあ。見かけた人は、かわりに聞いといて下さい。

 成績その他の詳細については、ル・マンのデータを集めたサイトが幾つかあるようなので、そちらにあたっていただくとして…って、今みたら英語版のウィキペディアは同一人物と決め打ちしとるな。
 あと、1893年生れで1962年に没したRoger Labricさんが1920年にツール・ド・フランス出場ですかそうですか。

 どうも、自転車〜自動車〜未来戦と皆、同じ人みたいね。
 ちなみに同じ時期にル・マンに出てたJ.A.グレゴワールの桶谷繁雄訳『ル・マン自動車レース』集英社、1963年、という小説にロジェーという人物が出てくるみたいやが、なんかが投影されてそうやのお。


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