内 輪   第230回

大野万紀


 DSを買って、ドラクエ9を始めてしまいました。ストーリーの方は結構あっさりとクリアしてしまいましたが、これって、クリア後こそが本番のゲームなんですね。これまでクリア後のお楽しみというのは、おまけみたいなものと思っていましたが、ドラクエ9についてはこちらがメインのようです(最近のポケモンなんかもそうなのかな)。「すれ違い通信」というのは、やってみるとはまります(でも、これってもはや別のゲーム――不思議のダンジョンみたいな――になってませんか?)。とはいえ、ファミコンのドラクエで、みんなに電話しまくりながらわいわいやっていたことを思えば、これもひとつの進化形なのかも知れませんね。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『洋梨形の男』 ジョージ・R・R・マーティン 河出書房新社
 奇想コレクションの最新刊は、マーティンのホラー短編集。初訳4編を含む6編が収録されている。普通に怖い幽霊話や〈イヤな隣人〉ものが多いが、スプラッターなホラーよりは心理的なホラーが中心。「成立しないヴァリエーション」のようにホラーじゃないSFもある。何と言っても圧巻は「子供たちの肖像」で、心の狭い作家が自作の登場人物たちに復讐(ともいえないが)される話だが、超自然的な要素よりも、虚構と現実、その折り合いの付け方についての、ぞっとさせられる話である(ホラーには違いない)。表題作は気持ちの悪い隣人〈洋梨形の男〉に精神的に捕らわれてしまい、最後は……という怖い話だが、主人公の狂気の物語としても読める。おバカなホラ話「終業時間」も面白い。「思い出のメロディー」は迷惑な困りものとなった昔の友人に関わるホラーだが、「成立しないヴァリエーション」も偏執的な昔の友人に関わる話である。これは時間旅行で過去のいじめに復讐するというSFなのだが、並行世界を前提としたこの方法ではちっとも復讐にならないんじゃないかと思った。しかし、偏執的な狂気と、チェス試合の迫力ある描写には圧倒的な読み応えがある。

『霊峰の門』 谷甲州 早川書房
 谷甲州のデビュー30周年記念作品は、SFというより歴史伝奇小説である(少なくとも前半は)。テーマとしてあるのは、人間の輪廻転生。とはいえ、はっきりとした生まれ変わりではなく、過去に生きた人の意識や記憶が別人格として蘇り、自分の中で再生されるという感覚である。それも一人ではなく、何人もの人格が。その繋がりを意識させるのは愛や憎しみといった強い人間的な感情である。壬申の乱の時代から物語は始まり、帝の「影」として生きる一族の物語として、葛城、吉野の山中で、南北朝、戦国時代と、パターンが繰り返されていく。輪廻転生の話でもあるが、別人格の憑依と意識の奪い合いといった多重人格の話でもある。また、彼らを操る権力者と、操られながらも過去から続く絆を愛おしく守ろうとする意志の戦いの物語でもある。そして、本書の後半、というより本書の三分の二近くを占めているのは、幕末の天誅組の乱に巻き込まれた楓という娘の物語だ。楓も「影」の一族の血を引くものであり、やはり過去から続く隠された戦いが蘇って、その運命に翻弄される。ところが、ここではその戦いは背景にとどまり、天誅組の乱というタイミングを逸した絶望的な戦いの詳細な戦術的検討が、観察者の視点で描かれていく。本来のドラマより歴史ドキュメンタリー的な側面が強く、敵と味方の区別すらあいまいとなった、空しい内戦の悲劇が描かれていく。その描写には圧倒されるのだが、主人公である楓の行動の意味や動機がわかりにくく、いわば作者の視点としてのみ動かされている存在のように思えるのが、少し残念なところだ。前半の皐月女や比丘尼のように、ヒロインとしての明確な意志をもって活躍してほしかったと思う。

『天冥の標1 メニー・メニー・シープ』 小川一水 ハヤカワ文庫
 大長編となる予定の作品の、その第一部である。人類が惑星メニー・メニー・シープへ植民して300年。しかし彼らは惑星連合から孤立し、過去の遺産に依存しながらかろうじて技術文明を維持しているような状態だった。植民地を支配するのは臨時総督ユレイン三世という少年で、危険な独裁者である。これまでは比較的平和な統治が続いていたが、ここに来て強圧的な事件が続発し、民衆の間に不満が高まっていた。そしてついに流血の惨事が起き、やがて革命勢力との戦いが始まる……。といったよくあるストーリーをベースに、地中に埋まった恒星間植民船の復活、人間とは違う、謎の異種族の存在、そしてこの世界の背後には人々が信じている真実とは別の真実があるらしい、といった謎が語られる。いや、面白いことは面白いのだが、SFファンにとってはとても既視感のある展開だ。だが本書の最後で、それまでのストーリー展開とはがらりと変わる方向性が出てくる。一体どうなるのだろうか、とにかく続編を読まないことには、何ともいえないだろう。まだまだ話は始まったばかりだ。


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